放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第25回

第25回 – 2009年5月

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『バンキシャ』

戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』 …など

第25回放送倫理検証委員会は5月15日に開催され、まず、日本テレビ『バンキシャ』について3回目の審理を行った。最初に特別調査チームから裏金作り報道に関する調査結果の中間報告があり、その上で議論がなされた。
NHK『ETV2001』については、委員会が公表した「意見」に対して新聞報道などさまざまな反応があったので、それについて意見交換を行った。
荒川区議会に対する報道は過剰だったと当該局にクレームがあった事案については、通常の範囲内の取材であると判断し、取り扱わないことにした。
次に、二重行政をテーマに、大阪府の道路清掃を取り上げた事案は、当該局に質問書を出し、回答を待って改めて検討することにした。
バラエティー番組の問題点については、委員会として蓄積してきた具体的な事例をどういう方法で取り上げるかについて話し合った。
最後に、委員会で討議した事案が既にマスメディアにより周知されている場合には、原則として「BPO報告」等では実名を公表することを決めた。

議事の詳細

日時
2009年 5月15日(金) 午後5時~8時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『バンキシャ』

岐阜県が発注した土木工事で、裏金作りが行われているという建設会社役員の証言を報じた日本テレビの報道番組『バンキシャ』(2008年11月23日放送)について、委員会は特別調査チームを編成し、事実関係の調査を行った。調査は当該番組のスタッフおよび取材先の関係者に対するヒアリングを中心に行われ、調査担当責任者である調査顧問から委員会に対してその結果が中間報告された。

<主な委員の意見>

  • 全ての元凶は制作時間の短さだ。真相を究明するということよりも、放送日に間に合わせるようにしようとすることが、曖昧で中途半端な取材になる原因だ。可哀想なくらい現場のディレクターが駆け回っているという状況を作ってしまっている。
  • 画が取れれば何でもいいという、映像至上主義的な感じがする。組織としてチームでやっているはずだが、実態はチームになっていない。お互いの連絡は不十分で、てんでばらばら、チェック機能が働いていない。
  • 正確な意味で誰も価値判断していない。裏付けを取ろうと提言してみたところで、この構造である限りまた起きる。そこが一番問題。
  • こういうことがおきないためには(1)責任体制の確立(2)責任者の資質をたかめること(3)告発を疑うスタンスをもつこと、が大事だ。
  • 制作者は、こうすれば視聴者が “怒り”を抱くだろうと安易に演出しているようにみえる。その手法は報道番組ではなく「水戸黄門」を見ているようだ。「俺たちが正義だ」というような感じがする。

特別調査チームの報告や、こういった意見を受けて、次回の委員会で委員会としての対応を検討することにした。

戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』

この事案は前回の委員会で審議を終了し、4月28日にNHKに対して委員会の「意見」を通知した後、記者発表を行った。新聞等でさまざまな報道がなされたので、それらについて意見交換を行った。

東京・荒川区議会報道は過剰取材だとクレームがあったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』

3月24日の『スーパーJチャンネル』において、荒川区議会の予算案に盛り込まれた区議会議員の人間ドック費用を全額公費負担にする件と、議長室の応接セットを高価なものに買い替える件はお手盛りではないか、という放送を行った。その取材方法が強引で、伝え方にも問題があるなどと数人の荒川区議からクレームがあった事案。
当該番組を視聴し、テレビ朝日の説明文書を検討した結果、委員会は通常の取材の範囲内であると判断した。また、議員は公人なのだから、その意見を公にできる場は他にもあるのではないか、という意見が述べられた。以上の観点から、この事案は取り上げないこととした。

道路清掃をめぐる二重行政問題を取り上げたTBS『情報7daysニュースキャスター』

大阪府の府道と国道との交差点で、大阪府の清掃車が国道を横切るときに、清掃用のブラシを上げて国道は清掃しないようにして通行する映像が二重行政の象徴的なシーンとして放送された(4月11日)。しかし、通常はこのような方法は行わず、TBSの依頼による動作だったことが分かった。TBSも行き過ぎた取材であったことを認め、2週間後にお詫び放送を行った(4月25日)。
委員会はTBSが作成した報告書を検討した結果、改めて同局へ質問書を出し、その回答を受けて引き続き検討することにした。

バラエティー番組の問題点について

バラエティー番組全体に見られる放送倫理上の問題点を委員会としてどう扱うのかという問題については、個別の番組としてではなく、いくつかの番組を複合的な視点から扱う方法など、時代と共に変化しているバラエティー番組に対応できるような新しい切り口を見つける必要があるとの議論がなされた。

<主な委員の意見>

  • 報道系の問題は事実をきちんと伝える義務があるから、その判断基準に従って議論できる。しかし、バラエティーは、視聴者を楽しませたかどうか、視聴者と良好な関係が作られているかどうかといった別の軸が必要ではないか。
  • バラエティー番組のアウトソーシング先は、制作プロダクション、芸能プロダクション、スポンサーないしは営業(代理店)の3つ。放送局の制作者がこの外部3組織との間で、主体性を持てなくなったことが、放送倫理と深い関係があるのではないか。
  • 最近のバラエティー番組の傾向は、視聴者が生身のタレントの姿を求めるようになってきたので、台本が邪魔になってきた。この変化が、バラエティー制作者の横着さを生んだのではないか。

「こういうバラエティーが良いバラエティー番組だからこのように作りなさい」という結論は、この委員会としては言うべきではないという点では一致し、引き続き議論を継続することにした。

「BPO報告」等における局名・番組名の公表ルールについて

従来、委員会の「討議」事案をBPO報告に記載するときは、放送局名や番組名は公表しないことを原則としてきた。しかし、新聞や週刊誌などのメディアで既に周知されている事案については匿名にする必然性がないので、今後は原則として公表することとした。
なお、「審議」「審理」事案については従来どおり公表する。

以上