放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第22回

第22回 – 2009年2月

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案

ブログを捏造して放送したクイズバラエティー番組 …など

第22回放送倫理検証委員会は2月13日に開催された。まず「ETV2001」事案で、当委員会が出した質問書に対するNHKからの回答が間に合わなかったと事務局から報告があり、その後、若干の意見交換を行った。
続いて新しく報告された3件の事案を検討した。 (1)最初はブログのウソを暴くというコンセプトのクイズバラエティー番組内のコーナー企画で、制作スタッフがブログを捏造して放送した事案、(2)次に金融ジャーナリストが特定の金融機関が破綻しかねないと解説し、誤解を与えたとしてお詫び放送したニュース情報番組、(3)最後に街頭インタビューで番組制作スタッフを出演させたことが発覚したバラエティー番組についてそれぞれ討議した。各番組とも個別の事案としては取り上げないことにしたが、2つのバラエティー番組は、バラエティー番組全般に見られる問題点についての意見をバラエティー論として取りまとめる際に改めて議論の対象とすることにした。

議事の詳細

日時
2009(平成21)年 2月13日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案

8年前に放送されたノンフィクション番組『ETV2001「シリーズ戦争をどう裁くか 第2回問われる戦時性暴力」』の制作過程において、政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案について、2回目の審議(討議を含めると6回目)を行った。 今回は、当委員会がNHKに出した質問書に対する回答をもとに審議する予定であったが、NHKからの回答が当委員会が指定した期限に間に合わなかったので次回に持ち越すことになった。事務局からはその間の経過報告と次回の委員会までに間に合わせるようNHKに要請した旨の報告があった。 引き続き、若干の意見交換を行った。

ブログを捏造して放送したクイズバラエティー番組

インターネットで閲覧できる情報のウソを検証しようとするクイズ形式のバラエティー番組で紹介されたブログが、実は、番組の素材として使用するために制作スタッフが作ったものであったという問題。当該局からは、参考にした実在のブログのコピーが提出された。各ブログの放送使用許可が得られなかったので、制作スタッフが6つのブログをネット上に捏造して放送した制作・演出手法の適否を中心に討議された。

<主な委員の意見>

  • ネットもメディアである。テレビというメディアが他のメディアを扱うときの常識の欠如。なぜこういう企画が通るのか
  • 何で大騒ぎするのか。被害は何なのか、何もないではないか。どこかで歯車が狂ってきている。
  • しかし、捏造といえば捏造というカテゴリーだ。
  • 大した問題じゃないしレベルが低いから放っておけばいいというのとはちょっと違う。番組制作の安易さに対して苦言を呈したい。制作費がないのならば知恵を働かせるのがプロだ。ブログ上のウソを責めるような企画ではなく、他に目を向けて頑張ってほしい。
  • あちこちから捏造と言われると制作者が萎縮し、あれもこれもやめようとなって良い番組が消えてしまう。制作者が萎縮する傾向になるほうが恐い。
  • ネットは個人の書き手に全責任が委ねられ、読む方もそれを前提にするメディアだから、ウソがあるからテレビがそれを叩くという企画自体がおかしいのではないか。
  • 背後にウェブ世界の信頼性という大きな問題を抱えている。放送と通信の一律管理のような、テレビ番組だけで云々できない局面に本質があるのではないか。

以上のような意見交換の結果、ブログの捏造が否定されるべき手法であることは間違いなく、その限りにおいては当該局に反省を求めたいが、細かい部分の見せ方の問題であり、それによって誰かが被害を被ったわけではない。必要以上に捏造と騒ぐと制作者が萎縮するという意見もあり、個別の事案としては取り上げないが、バラエティー論の一環として他の事案と共に改めて検討することにした。

特定の金融機関が破綻しかねないと誤解を与えたニュース情報番組

この事案の経緯は次の通りである。 ローカル局の夕方に放送されているニュース情報番組内の、金融ジャーナリストが担当しているコーナーで、ある金融機関の経営状況について解説をした。その際、断定はしていないものの、当該金融機関が「このままでは債務超過に陥り破綻しかねない」という趣旨のコメントがあり、関係者から抗議が寄せられた。コメンテーターがリードするコーナーであるが、当該局の裏打ち取材がされないまま金融機関の破綻の恐れという重大なコメントが放送された制作のあり方に問題がある。ただ、当該局は、視聴者に不安を与え、取り付け騒ぎが起きるおそれなどを考慮して、速やかにその金融機関と対応を協議した。翌朝、当該局は金融機関が開店する以前に3回、さらに当該番組内でもお詫び放送を行った。

<主な委員の意見>

  • 丁寧にお詫びしたのは良いが、金融が国際化している視点に立てば翌朝ではなく、その日のうちにお詫びすべきではなかったのか。
  • 著名人やタレント依存という制作者の姿勢がまん延している。
  • 言論表現の自由があっても、出演者は例えば誹謗中傷やわいせつコメントはしないという倫理観をある程度もっているが、それ以外のところになるとかなりタガが外れている。
  • コメンテーターは誤解のないように言葉には気をつけるべきだが、この件で内容的に全く根拠のないことを言ったわけではないと思う。そのことを考慮しないとおかしなことになる。
  • デリケートな問題を乱暴に扱ってしまったということだが、番組としてはコメンテーターに丸投げしているような作り方をしているので、問題が起こる可能性は常に持っているのではないか。
  • コメンテーターが複数いると、会話のなかでまぎれたり修正されることもあるが、ひとりの場合はミスに気がつきにくいし、局の意見だと思われてしまうなど全然違う意味合いを持ってしまうおそれがある。

生放送におけるコメンテーター発言と放送責任についてはどの放送局でも起こりうる問題で、特にこの事案は対応を間違えると社会問題化する危険をはらんでいたが、視聴者に対して速やかに対応し、再発防止に向けて業務改善策を講じ、既に番組審議会への詳細な報告も行われているので、当委員会としては取り上げないこととした。

制作スタッフにやらせのインタビューをしたバラエティー番組

ローカル局のバラエティー番組で、出演タレントが街頭ロケで女性の通行人の年齢当てをする。その通行人にはスポンサーが提供する景品が贈られるコーナー企画。ところがインタビューされたのは制作スタッフの女性であった。再放送時に、インタビューされた人の名前と制作スタッフの名前が同じであることに視聴者が気づき、やらせが発覚した。当該局は記者発表をし、社内に調査委員会を立ち上げ、番組を打ち切るなどの処置を取った。

<主な委員の意見>

  • 当該局の対応は過剰反応ではないか。調査委員会を立ち上げてどのようなことが報告されるのだろうか。
  • ローカル局にとって1社提供スポンサーが大切なのはわかるが、視聴者対策よりもスポンサー対策が優先しているのではないか。それに倫理問題が利用されているようにもみえる。
  • インタビュー相手がいないならば、「今日はスタッフに聞きました」で済む話ではないのか。
  • 欧米ではやらせにならなくても日本はちょっと神経質なぐらい厳格にやらせにしてしまう。そこまで目くじら立てて取り上げる気はない。
  • やらせとか捏造という倫理を問うキーワードが便利なものとして流通していて、テレビたたきの便利な道具に使われている。
  • 放送局の営業や代理店は、その番組が買い切りのスポンサーになった瞬間に番組全体がCMであるかのような錯覚を持つようになることがある。その錯覚が問題だ。
  • 通行人にインタビューするくらいのことに手抜きをするべきでない。現場の一人一人が横着であり、その横着さと安直さがまん延しているのが許せない。
  • このようなリアクションでは、局は何も良くならない。視聴者のほうを向いていないし、これでは自らの制作活動への自省がないから、今後、も起きてくるのではないか。

以上のような意見交換の結果、単純なヤラセではあるが、ロケ現場の選び方から人名スーパーの出し方まであまりにも稚拙であり、悪意すら感じられない。当該局は過剰とも思われる対応をしているが、番組制作の基礎を踏まえて、横着せずに制作してほしいというのが委員会の希望である。単体の番組としては取り上げないが、バラエティー論を議論するときの材料に加えることにした。

最後に、事務局から、最近の視聴者意見の概要報告、3月26日に開催されるBPO年次報告会の案内があった。

以上