放送倫理検証委員会

2008年6月15日

2008年6月15日

シンポジウム「事件報道と開かれた司法」を5月30日に開催

BPOと東京大学大学院情報学環との共催によるシンポジウム「事件報道と開かれた司法」が5月30日(金)午後2時から東京大学構内にある情報学環・福武ホールで開催された。参加者は全国の放送局や新聞・雑誌などのマスコミ関係者、最高裁・日弁連など法曹関係者、東京大学をはじめとした研究者や各大学の学生など263人に上った。会場の福武ホールに加え、別に用意したモニター室も満席となり、熱心な議論は4時間に及んだ。(新聞、放送各社からの取材は16社24名)

このシンポジウムは、放送倫理検証委員会が光市事件の裁判報道や香川県坂出市の殺害事件報道、そしてこれらの報道のあり方と裁判員制度を討議する中で企画され、委員会が発足して1年が経過したタイミングを捉えて開催されたもの。パネリストは東京大学理事・副学長の濱田純一氏、評論家で放送倫理検証委員の立花隆氏、NHK解説委員の友井秀和氏、テレビ朝日報道担当取締役の渡辺興二郎氏、毎日新聞論説委員の三木賢治氏の5人で、コーディネーターは作家で放送倫理検証委員の吉岡忍氏が務めた。まず、川端和治委員長から「それぞれの立場の方から率直な意見交換をしていただき、今後の委員会の議論に役立てたい」とあいさつがあった。

シンポジウムは、過去に報道のあり方が問われた「松本サリン事件」「和歌山カレー事件」などの映像上映から始まった。

マスコミ側のパネリストからは、メディア・スクラムについて、「VTRカメラの小型軽量化により、番組毎に取材班が組めるようになった技術的・経済的側面が原因のひとつ」としてあげられ、「最近の取材においては携帯電話が大きな役割を果たす」(渡辺氏)現状も示された。「最近の事件報道は秘密保持を理由に取材が難しくなり、警察側の記者会見が主な取材源になるので画一化し、記者の独自性が失われてしまう」(三木氏)傾向が指摘された。更に、「表現の自由を危うくしているのは、むしろテーマによって自己規制したり徹底的な取材を行おうとしないマスコミ自身の姿勢に原因があるのではないか」(立花氏)との指摘がなされた。

また、事件報道が裁判員制度下の裁判員に予断を与える問題について議論が及び、特別参加した最高裁事務総局総括参事官の平木正洋氏が意見を述べた。

平木氏からは、同氏が昨年のマスコミ倫理懇談会全国大会で行った講演において、事件報道が与える予断について「捜査機関が取得した情報をあたかも真実であるかのように報道することには問題がある」など7項目の懸念を示したことについて、「一切報道してはいけないということではなく、公正な裁判の確保に配慮が必要だというのが趣旨である」との説明がなされた。

公正な裁判の確保と報道の自由とのバランスについては、「ポイントを絞って報道すると全体が見え難くなる。縮小均衡ではなく拡大均衡が正しい方向」(友井氏)、「メディアは、できるだけ多くの判断材料になる情報を提供するしかない」(三木氏)、「情報量の不足こそが予断や偏見を生む」(渡辺氏)といった発言があり、更に「べからず集を作ったりマニュアル化すべき問題ではない。報道全体として捉えるべきで、広く深い議論が大切」(濱田氏)、「これまでの裁判、法曹界にも問題がある中で報道のあり方だけを問うのはどうか」(立花氏)との意見が出された。

後半は、光市母子殺害事件の裁判報道に関する放送倫理検証委員会の「意見」をもとに小町谷育子委員長代行よる「視聴した放送が一様に被害者対弁護団の図式に見えてしまうことの不可解さ」「訴訟指揮が裁判所にあることを忘れたようなコメント、弁護士の役割に関する法律的基礎知識の欠如」などの問題提起から始まった。

報道する側からは、「事件発生後は捜査側の情報が多くなることはやむを得ないが、新たな制度下では、公判前整理、弁護側冒頭陳述などもあるので被告・弁護側情報を厚くしバランスをとることで公正性確保をめざす」(友井氏)、「裁判員の取材まで含め、徹底的に調べるという取材のやり方は変えてはいけない」(渡辺氏)といった発言があったが、「報道の自由は、法廷侮辱罪があっても挑戦する英国のメディア界のように、時には法に背いてでも報道するという緊張関係の中で確保できるもの」(濱田氏)という指摘や「『民の声は天の声』というのが裁判員制度だが、今は法曹界もメディア界もその認識があるのか疑問。かつてロッキード裁判で元首相が涙を流した姿をどこのメディアもちゃんと伝えなかった。司法はもちろんだが、報道する側も、社会的にプロフェッショナルに徹することが今こそ求められている」(立花氏)との提言がなされた。

最後にコーディネーターの吉岡氏が「今日のテーマは答えのない問題であるが、今後は司法に関する情報公開のルール作りが必要になるだろう。メディアと法曹三者が共同でそのルールをどう作っていくかが課題である」とシンポジウムを締め括った。

閉会にあたって、東京大学の吉見情報学環長が挨拶に立ち、「このシンポジウムは大学とメディア(BPO)との新しい連携の第一歩、キックオフである」と述べた。