放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2009年度 第43号

「拉致被害者家族からの訴え」事案

委員会決定 第43号 – 2010年3月10日 放送局:テレビ朝日

見解:放送倫理上問題あり(補足意見付記)
2009年4月放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ!』において拉致問題に触れた番組司会者の発言をめぐって、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」が「人の生死に関する安易な発言は名誉毀損やプライバシーの侵害以上に最も重大な人権侵害である」として申し立てた事案。

2010年3月10日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第44号

申立人
北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(代表 飯塚繁雄)
被申立人
株式会社テレビ朝日
苦情の対象となった番組
『朝まで生テレビ!』
(毎月最終金曜日25時25分~28時25分)
放送日時
(1)2009年4月24日27時15分頃から約5分間
(2)2009年5月29日25時29分頃から約2分間

本決定の概要

テレビ朝日(以下「局」または「被申立人」という)の制作によるニュース討論番組『朝まで生テレビ!』は、2009年4月24日深夜、「激論 日本の安全保障と外交」とのテーマで、北朝鮮ミサイル問題を入り口に日本の安全保障や外交について各界専門家による約3時間にわたる議論を放送した。この中で司会者のジャーナリスト田原総一朗氏は拉致問題に触れ、横田めぐみさんと有本恵子さんの名前を挙げて「外務省も生きていないことは分かっている」と発言するとともに、拉致問題に関する言論が拉致被害者の生死に触れることをタブー視する閉塞状態に陥っていることを指摘し、そのような見方にとらわれた政府の方針を批判する趣旨の意見を展開した。「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(以下、「家族会」という)は、田原氏のこのような発言は人の生死にかかわる安易な発言であって、家族の心情を傷つけ、名誉毀損やプライバシー侵害以上の最も重大な人権侵害であるとともに、政府の基本方針を批判し、誤まったメッセージを発したことによって救出運動を妨害し、ひいては拉致被害者の人命にもかかわる最も重大な人権侵害である等として、局に対し、田原氏の発言の撤回と謝罪、田原氏の司会者としての起用の見直しなどを求め、放送と人権等権利に関する委員会(以下「委員会」という)に救済を申し立てた。
委員会は、田原氏の発言について以下の通り判断した。番組中で田原氏が、生死の確証のない2人の拉致被害者について、実体的根拠を示すことなく「生きていない」と断定的に述べたことは、家族にとって耐え難い苦痛である。田原氏の発言が家族の心情を深く害し、強い不快の念を抱かせたものであることは疑いがない。拉致被害者の救出に全力で取り組んでいる家族の心情に対しあまりに配慮に欠ける表現であった点において不適切であった。
しかし、田原氏の発言全体について見れば、拉致問題についての言論が閉塞状況にあり、そのことが拉致問題の解決を妨げているとの認識のもとに、そのような状況を打開するためあえて批判と苦言を呈したという発言意図に照らせば、その発言が家族の心情を深く害し、強い不快の念を抱かせたものであったとしても、論評全体としては、言論の自由の範囲内にあるものとして許容されるべきである。異論が提起されることによって自らの立場が否定されたとの不快の念を抱く場合があったとしても、メディアの世界における自由な言論は保障されなければならない。田原氏の発言に関する局の責任としては、名前を特定した2人の拉致被害者について、根拠を示すことなく「生きていない」と断定し、被害者家族の心情を無視した不適切な発言に対する対応のあり方の問題に限られる。
局は番組終了後、田原氏からの事情聴取や局としての独自の取材によって上記のような事実が確認できなかったことを認め、二度にわたって謝罪しているから一応必要な措置を講じていると認められる。しかし、問題の深刻さを考えれば謝罪に関してはより迅速かつ適切な方法をとるべきであった。この点において放送倫理上の問題があったと判断し、報道に対する信頼が確保されるよう一層の努力を求めることとした。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

Ⅰ.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人の答弁の要旨

Ⅱ.委員会の判断

  • 1.田原発言に対する評価
  • 2.田原発言に対する局の対応と責任

Ⅲ 結論と措置

Ⅳ.審理経過

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2010年6月9日【委員会決定を受けてのテレビ朝日の取組み】

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