放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2008年度 第36号

高裁判決報道の公平・公正問題

委員会決定 第36号 – 2008年6月10日 放送局:NHK

見解:放送倫理違反
「戦争と女性への暴力」日本ネットワークが申し立てた事案。NHKは2007年1月の『ニュースウオッチ9』において、申立人らとNHKが争ったETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』に関する高裁判決を伝えたが、申立人は「当事者としてのNHKの言い分」と「報道機関としての報道」を峻別せずに報道したことは公平原則に照らして到底許されるものではない、また公平原則を逸脱した部分は正確な報道を行うという放送倫理に違反すると申し立てた。

2008年6月10日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第36号

申立人
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
被申立人
 NHK
対象番組
NHK制作の報道番組「ニュースウオッチ9」
放送日時
2007年1月29日
NHK総合テレビ 午後9時00分~

申立てに至る経緯

2001年にNHKが、教育テレビで放送した「戦争をどう裁くか」というシリーズの番組をめぐって、取材を受けた民間の団体「戦争と女性への暴力」日本ネットワークが「事前の説明と異なる不本意な番組を放送された」として訴えていた裁判で、NHKは、2007年1月29日、東京高等裁判所でなされた判決について、その概要やこれに関連する事項について、次のとおり放送した。
「東京高等裁判所の南敏文裁判長は『番組編集の自由は、憲法上、尊重すべき権利で、不当に制限されてはならないが、今回の番組は、取材を受けた団体への事前の説明とかけ離れたものになって、期待と信頼に反した。放送前に十分な説明もしていなかった』と指摘しました。そして『NHKの当時の幹部が、国会議員から一般論として公正・中立にと言われたことなどを、必要以上に重く受け止め、その考えを推し量って、番組を編集し直すよう指示したもので、編集権を乱用した責任は重い』と判断し、NHKに200万円の賠償を命じました。」と判決内容を紹介したあと、「判決についてNHKは『不当な判決であり、直ちに上告した。判決は、番組編集の自由を極度に制約するもので、到底受け入れられない』としています。」と被申立人自身の見解を紹介し、「今日の判決の中で、東京高等裁判所は、この番組をめぐって、朝日新聞が政治家の圧力で改変されたと報道したことについて、『国会議員が具体的に番組に介入したとは認められない』と述べました。」とのコメントの後に、朝日新聞で被申立人に圧力をかけたと指摘された本人である安倍晋三内閣総理大臣と中川昭一政務調査会長(いずれも本件放送当時。以下同じ。)の、政治的圧力をかけた事実はなかったことがはっきりした旨のコメントを放送した。
この放送に対して、申立人らは、「上記ニュース内容は『当事者としてのNHKの言い分』と『報道機関としての報道』を峻別せずに報道している。このことは、公平原則に照らして到底許されるものではない。また、公平原則を逸脱した部分は、正確な報道を行うという放送倫理にも違反している」として2007年4月、被申立人に対して抗議・要求書を送付し訂正放送と謝罪を求めた。
これに対し被申立人は、「この報道は、前半部分で、当日の判決の内容とNHKのコメントを伝えた上で、後半部分で、この判決に関連して一昨年1月の朝日新聞の記事をめぐる朝日新聞社と自民党との問題について、安倍氏と中川氏のコメントを交えて伝えたもので、何ら問題はないと考える」と反論し、訂正放送・謝罪には応じられない旨回答した。
その後、双方の直接の交渉はなされないまま、2008年1月、申立人らから本委員会に対して「申立書」が提出され、本委員会は、2月の委員会で審理入りを決定した。
なお、政治家の介入があったか否かの点に関する高裁判決の内容は、次のとおりである。
「一審原告らは、政治家等が本件番組に対して直接指示をし介入したと主張するが、上記面談の際、政治家が一般論として述べた以上に本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、証人松尾及び証人野島の各証言によってもこれを認めるに足りず、他に認めるに足りる証拠はない。」
(注:証人松尾・・・NHK 放送総局長     松尾 武 氏)
(注:証人野島・・・NHK 総合企画室担当局長 野島直樹 氏)

(いずれも2001年当時)

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人らの申立ての要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁の要旨
  • IV. 委員会の判断

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2008年9月3日【委員会決定を受けてのNHKの対応】

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