放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第185回

第185回 – 2012年7月

「ストローアート作家からの申立て」事案のヒアリングと審理

「南三陸町津波被災遺族からの申立て」事案~申立て取り下げ

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」~審理入り決定

「無許可スナック摘発報道への申立て」~審理入り決定

「ストローアート作家からの申立て」事案のヒアリングと審理が行われ、委員会からの和解による解決の打診について、双方とも受け入れる意向を示した。2件の審理要請案件について審議し、いずれも審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2012年7月17日(火) 午後3時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「ストローアート作家からの申立て」事案のヒアリングと審理

本事案はフジテレビが1月9日(月・祝)の『情報プレゼンター とくダネ!』で放送した企画『ブーム発掘!エピソード・ゼロ(2)身近なモノが…知られざる街の芸術家編』について、番組に登場したストローアートの作家が「過剰で誤った演出とキャスターコメントにより、独自の工夫と創作で育ててきたストローアートと私に対する間違ったイメージを視聴者に与え、私の活動と人権を侵害した」として謝罪などを求めているもの。フジテレビは「演出方法を明確に説明せず、申立人に不快な思いをさせたことは真摯に反省し申し訳ないと考えている」として、放送でのお詫び案を示しメールで交渉を重ねてきたが、決着しなかった。
今月の委員会では、申立人、フジテレビ双方に個別にヒアリングを行った。
申立人は「スタッフにストローアートの作品を預けたら、放送では、生け花のように数本でひとつの作品として見せるヤシの木がバラバラにされ飲み物に挿して出されていた。作品を勝手に崩すのは人権侵害と思う。趣味の域というスタジオでのキャスター発言は、趣味を芸術より下のものと軽視するような発言だ。私にとってストローアートは芸術でもあり趣味でもあり、作りやすくする工夫とオリジナルな作品に一生懸命取り組んできた。情報番組として残念で、もっと入念に取材、調査をして番組作りをしてほしい」などと述べた。
フジテレビからは情報制作局の担当者ら5人が出席し、「企画には申立人からの要望も盛り込んでいるが、ヤシの木に関する演出については申立人の了解を得ておらず不適切だったと考える。不快な思いをさせたことは反省しており、お詫びしたい。スタジオで気に入った作品を選んでもらった演出は、作品についての様々な評価や価値観を提供し視聴者と共有できる有効な手法で、キャスター発言を含め申立人やストローアートを軽んじたり、評価を下げる不適切なものとは考えていない。企画全体から受ける印象としては、ストローアート本来の魅力を十分伝えていると考える」などと述べた。
ヒアリングを受けて委員会は、フジテレビがお詫びの意思を表明し、これまで数度にわたり謝罪案を提示してきた経緯等を踏まえ、双方に対し和解による解決を打診した。これに対し申立人は、委員会が仲介してくれるなら、と提案を受け入れ、フジテレビも和解に応じる意向を示した。
これにより委員会は今後、和解による解決に向け具体的な作業を進めることになった。

「南三陸町津波被災遺族からの申立て」事案~申立て取り下げ

本事案は、NHKが本年3月10日に放送した『NHKスペシャル「もっと高いところへ~高台移転南三陸町の苦闘~」』に対し、津波の犠牲となった町職員の遺族から「番組で肉親の最期の姿を見て大きな衝撃と苦痛を受けた。亡くなる直前の写真であれば全遺族の了解を得るか、得られなければモザイクをかける等の配慮が当然ではないか」として、NHKに謝罪等を求め申立てがあったもの。6月の委員会で審理入りが決まった。
その後、申立人とNHKとの間で話し合いが行われ、その結果、申立人より申立てを取り下げたいとする書面が、実質審理前の7月5日付で委員会宛て提出された。
この日の委員会で申立ての取り下げを了承し、本事案の実質審理を行わないことを決めた。

審理要請案件2件~審理入り決定

1.「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」

上記申立てについて審理入りが決まった。
対象となった番組は、フジテレビの『ニュースJAPAN』。昨年10月5日と6日の2回にわたって「イレッサの真実」と題し、肺がん治療薬イレッサをめぐる問題について報道した。
この報道に対し、番組で長期取材を受けその発言も紹介されている男性から、人権を侵害されたとの申立書が本年5月に提出された。申立書の中で申立人は、「放送はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠け、放送倫理基本綱領に抵触している。こうした放送や、申立人の主義主張とは反する発言の使われ方、取材休憩中の撮影とその映像の放送などによって名誉とプライバシー等を侵害された」として、フジテレビに対し謝罪と放送内容の訂正を求めている。
これに対しフジテレビは、「番組は肺がん治療に関し、様々な立場から多様な意見が存在することを、新薬イレッサを例に報道したもので、客観性、正確性、公正さに欠けるところはない。放送倫理に抵触する部分もなく、申立人に対する名誉、プライバシーの侵害もない」との見解を示し、全面的に反論している。
委員会では、双方から出された書面、番組同録DVD及び関連資料をもとに審議した結果、本件申立ては委員会運営規則第5条に照らし、要件を満たしているとして審理に入ることを決めた。
次回委員会より実質審理を行う。

2.「無許可スナック摘発報道への申立て」

上記申立てについて審理入りが決まった。
対象となった番組は、テレビ神奈川が本年4月11日夜放送した『tvkNEWS930』。番組では、神奈川県警が無許可営業のスナックを風営法違反容疑で摘発する現場を取材し、1分強のニュースとして放送した。
この報道に対し女性経営者と家族から人権侵害を訴える申立書が提出された。申立人は「略式命令の軽微な罰金刑にもかかわらず、映像では顔のアップ、実名と年齢、店と自宅の住所まで放送したのはプライバシーをあまりにも公開し過ぎ」と主張している。また放送から1か月以上もの間、ネット上でこのニュースの動画が再生できる環境にあったとし、この点でもプライバシーや肖像権の侵害、名誉毀損にもなるとしており、テレビ神奈川に対して謝罪放送とそのホームページへの掲載を求めている。
これに対しテレビ神奈川は、局の見解で「通常の実名報道原則に基づき放送した」としたうえ、「報道される側の基本的人権についても十分慎重に検討した。無届け営業を現場で否定しなかったため、当人の顔のボカシは入れずに放送した」と主張している。また動画の取扱いについては、5月18日の申立人からの電話により、Facebook動画及びtwitterテキストが削除されていないことに気付き、動画ファイル自体及び元データを削除したとしている。
委員会では、双方から出された書面、番組同録DVD及び関連資料をもとに審議した結果、本件申立ては委員会運営規則第5条に照らし、要件を満たしているとして審理に入ることを決めた。
次回委員会から実質審理に入る。

6月の苦情概要

6月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・6件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・14件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

次回委員会は8月21日(火)に開かれることになった。

以上