放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2020年3月30日

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表の概要

[通知]
2021年3月30日(火)午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と代理人弁護士、被申立人のフジテレビからは編成制作局コンテンツ事業センター局長補佐ら3人が出席した。
はじめに奥委員長が、放送人権委員会の判断の対象はあくまで「放送」であり、Netflixでの先行配信などは関連して取り上げることになると説明した上で、委員会の決定を伝えた。「人権侵害については3点の判断を行った」として、「①本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」については、人権侵害があったとまでは断定できないと述べた。「②自己決定権及び人格権の侵害」については、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような場合には当たらず、自己決定権等の侵害は認められないとした。また、申立人が主張する「③プライバシー侵害」も、木村氏は撮影されることを認識し認容していたことなどから、違法なプライバシー侵害であるとは言えないと説明した。一方、放送倫理上の問題については、「Netflixでの配信を契機に木村氏に対する誹謗中傷が起こり、自傷行為に至るという深刻な事態が生じていたところ、本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、本件放送には放送倫理上の問題があった」とした。これに関連してドラマなどのフィクションとは違い、視聴者の共感や反発が生身の出演者自身に向かうことになるというリアリティ番組の特殊性についても言及した。決定文の最後に「放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する」と記したことは、放送人権委員会としては異例のことであり、ぜひその真意をくみ取ってほしいと締めくくった。
続いて、曽我部委員長代行が補足説明し、「人権侵害と放送倫理上の問題では、判断の基準が違う。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と発言した。
続いて、水野委員が補足意見の意図について述べ、少数意見を書いた國森委員、二関委員が自身の意見の要点を説明した。
決定を受け、申立人は「娘本人がこの場に不在のため、事実を証明することが難しく悲しい」と発言。フジテレビは「今回の委員会決定を真摯に受け止め、今後の放送と番組作りに生かしていきたい」と述べた。

[公表]
午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで記者会見を行い、委員会決定を公表した。29社50人が取材した。テレビカメラの取材は、在京局を代表して当該局のフジテレビ、そのほかTOKYO MXが行った。出席委員は奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、決定を説明した。続いて、曽我部委員長代行が、「決定文の最後に、放送界全体へのメッセージを織り込んだ。通常は対象となった放送局に向けて要望を述べるのだが、この案件は放送界全体で考えてもらいたいという気持ちが込められている。また、木村氏の自傷行為後のケアについて、フジテレビの責任ある役職者と現場の間で情報共有や協議がなされていなかったという問題はあるが、制作スタッフは現場としてできることを懸命にやっていたと思う。さらに判断の内容の補足となるが、いずれも花さんへのケアの問題に焦点を当てながら、人権侵害と放送倫理上の問題で異なる見解を出した理由は、判断の基準が違うということ。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と説明した。廣田委員は本事案の審理の難しさについて「委員会で議論を重ね、悩んで、考えて、今回の結論に至った」と述べた。
続いて、水野委員が補足意見を書いた意図について話し、さらに、少数意見を書いた國森委員、二関委員が、委員会決定との差異を中心に自身の意見の要点を説明した。
その後行われた質疑応答の主な内容は以下のとおり。

(質問)
番組と木村花氏の死の因果関係をどう考えているのか。また、木村氏のケアに関連してコロナ禍について触れているが、コロナだったら自傷行為をした後、放っておいてよいというのか。また、この案件について放送倫理検証委員会と合同で議論する余地はなかったのか?
(奥委員長)
番組と木村花氏の自死との因果関係はわからない。テレビ局も自死を予見することはできなかったと思う。番組スタッフも木村氏を放っておいてよいとは思っていなかったはずだ。決定文ではコロナ禍との関連について、緊急事態宣言が発出されていたため木村氏のケアに物理的な制約があったことを指摘している。
BPOの3委員会はそれぞれ独立して活動しており、委員会に付与されている役割も違う。放送倫理検証委員会は、申立て制を取っている放送人権委員会とはまったく違う角度から放送番組を検証する役割だと理解している。簡単に合同委員会を開いて、ということにはならない。
(曽我部委員長代行)
番組と木村花氏の自死との因果関係については、委員会は判断していない。ただ、ケアをする責任はあるということで、それが十分だったかどうかに焦点を当てて議論した。コロナに関しては二つ影響があったと考える。一つはケアに関し制約があったということ。精神科医の受診ができなかったことや、テラスハウスに同居していれば日常的なサポートができたはずがコロナの関係で収録が中断しており出演者は自宅へ帰っていた。もう一つ、本業であるプロレスの興行ができなかったことが木村氏に与えた影響は無視できないと思う。

(質問)
今回はNetflixでの先行配信がきっかけで木村氏への誹謗中傷が起こったわけだが、番組以外の理由で木村氏への誹謗中傷が起きていた場合も、フジテレビは放送倫理上の問題を問われるのか?
(曽我部委員長代行)
今回については、先行配信があって自傷行為があり、そのケアの問題に焦点を当てたのだから、先行配信が無ければ責任は生じないというのが基本だと考える。前提として、BPOは、適法な内容の番組放送に関する第三者の誹謗中傷への責任をテレビ局が負うことについて否定的な立場を取っている。ただ、特殊な事情があれば、またその時に判断することになると思う。

(質問)
現在BPOは、放送されていない番組は扱わないという規則で運営されているが、最近は、スピンオフ作品を配信のみで流すという形が浸透している。放送局の自主自律を守っていく上で、今後、“放送はされていないが局が制作したコンテンツ”にどう対応していくか、見解をうかがいたい。
(奥委員長)
委員会は、現行の運営規則に則って審理しているが、BPOという組織そのものが新しい状況にどう対応するかという課題はあると思う。
(曽我部委員長代行)
運営規則にある委員会のミッションは、われわれ委員が決めているわけではない。BPO全体、ひいてはNHKと民放連で考えていくべき問題だと思う。

(質問)
木村氏の自死について、フジテレビから親子関係が要因の一つであったような発言があったとのことだが、具体的に教えてもらいたい。
(廣田委員)
ヒアリングではなく委員会への提出書類の中で、いろいろな背景事情の一つとして親子関係が挙げられていただけで、フジテレビが親子関係を自死の原因として主張しているわけではない。

(質問)
今回の審理を振り返って、難しさを感じた点があればうかがいたい。また、ヒアリングの規模感や難航した点があれば教えてほしい。
(奥委員長)
本来の当事者とも言うべき木村花氏が亡くなっていることに一番の難しさを感じた。
当委員会は、基本的に書面を提出してもらい、それに基づいて当事者にヒアリングするというやり方を採っている。調査対象を広げて大勢に話を聞くという仕組みにはなっていない。しかし今回は、フジテレビの社員だけでなく制作会社のスタッフにもヒアリングし、申立人側では木村氏のケアに当たったプロレス仲間の方二人にも協力していただき話を聞いた。
(曽我部委員長代行)
放送人権委員会は、普段は名誉毀損やプライバシー侵害を審理していて、申立人と放送局側の当事者の意見を聞くという意図で手続き等が定められている。そこが放送倫理検証委員会と違う点で、放送局のさまざまな立場の方に多数ヒアリングすることは想定していない。

(質問)
決定は、放送局の対応について、例えば放送を見送ることや内容を差し替えるなどの編成上の問題には踏み込んでいないが、そのような視点での議論はされなかったのか。
(奥委員長)
放送することを前提に、こうすべきだったと指摘しているわけではない。自傷行為以降、地上波放送にいたるまでの間に、ケアが十分であればもっと違う対応もあったのではないかということだ。放送するか否かは放送局が決めることであって、われわれ委員会は「放送を中止すべきだった」「内容を差し替えるべきだった」というようなことを言う立場にはない。

(質問)
制作の現場と制作責任者との間の意思疎通のあり方に問題があったと指摘しているが、制作会社とフジテレビの間で意識の違いはあったと思うか。また、放送決定にいたる過程で、現場と責任者の間に温度差があったのか知りたい。
(奥委員長)
意思疎通のあり方の問題点とは、自傷行為があった時点で、フジテレビ本体に情報を伝えて、どう対応するかを議論・検討すべきだったのではないかということを指している。また、放送決定に至る過程でどのような議論がされたか不明だ。ヒアリングで、放送するか否かの判断について温度差があったか等については浮かび上がってこなかった。

以上