フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表
上記委員会決定の通知は、コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発出されていることから、2021年2月10日午後1時30分からオンライン会議システムで行われた。委員会から神田安積委員長、高田昌幸委員、巻美矢紀委員の3人が出席し、フジテレビからは5人が出席した。
まず神田委員長から、委員会決定について、「架空データが含まれた一連の世論調査報道」には重大な放送倫理違反があったと判断したことを通知した。その理由として、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えた点を挙げた上で、当該局は架空データ作成に関与しておらず、本件放送において意図的な作為もなかったものの、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査のニュースを1年余りにわたって合計18本放送し、市民の信頼を大きく裏切り、また、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない、と指摘した。
続いて高田委員は、民主主義の根幹である世論調査の信頼性に大きな影響を与えたことに言及した上で、「委託先の調査会社が全面的に信用できると考え、立ち会いで防げたかもしれないのに立ち会わなかった」といった、過去の審議事案と同様の思い込みや判断ミスが認められるとし、「ニュース番組で報じる以上、世論調査もジャーナリストの取材活動の一環であるとの認識があれば、委託先の作業であっても、より目配りがきいて今回の事態を防止できた可能性がある」と述べた。巻委員からは、「民主主義における世論調査の重要性を強く認識している以上、委託先に任せたままにせず、何らかの対応を取るべきだった。再発防止策をつくり、世論調査を開始しているが、二度とこうした事態を招かないようジャーナリストとしての目線を欠かさないでいただきたい」との意見が示された。最後に神田委員長から「結論として重大な倫理違反と評価しており、再発することがないように自主的、自律的な努力を続けていただきたい。」と要望が伝えられた。
これに対してフジテレビは、「本日の決定をきわめて重く受け止めている。ご意見を真摯に受け止め、今後の世論調査の報道に生かしていきたい」「世論調査は先月再開したが、不正防止策を徹底していくことで、視聴者の信頼回復に努めていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から同じくオンライン会議システムによる記者会見を行い、委員会決定を公表した。記者会見には42のアカウントから参加があった。
はじめに神田委員長が「本件放送は、フジテレビが、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えたものであり、放送倫理基本綱領、民放連放送基準の前文、さらには、放送基準の第32条に反しているものと評価される。フジテレビは、架空データ作成に関与しておらず、また意図的な作為もなかったが、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、意見書の別表に記載したテーマに関し、架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり、合計18回放送したものであり、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない。これらの点を踏まえ本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って概要を説明した。
続いて高田委員は「専門の業者に調査そのものを任せたとは言え、世論調査に関する作業はすべて取材活動の一環であり、集めた材料が正しいかどうか、記者として仔細に検討し、裏付けを取り確認に確認を重ねるという、ジャーナリストとしての初歩の行いを貫徹することができていれば、また違った結果になったと思う」と審議を振り返った。
巻委員は「ヒアリングを通じ、当該局の皆さんが民主主義における世論調査の重要性を認識していることがわかったが、そうであれば、委託先の調査会社に任せたままにせず、ジャーナリストとして適切な対応を取るべきだったのではないか」と述べた。
記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。
Q: | この調査は産経新聞社と合同だが、主体はフジテレビだったという認識か。 |
A: | BPOは放送のみを対象としている。新聞社は検証の対象にしておらず、フジテレビのみを対象として調査をした。(高田委員) |
Q: | 本件において、委員会は委託先、再委託先をヒアリングの対象としていないが、不正に実効的な役割を果たしていた再委託先、ないしは委託先にヒアリングしなかったのはなぜか? |
A: | フジテレビが委託先、再委託先にヒアリングを実施しており、フジテレビに対する委員会の調査で委託先、再委託先のシステムの実態について必要な情報が得られた。フジテレビに対するヒアリングの内容に特段の疑義があれば委託先、再委託先にヒアリングを求めることもあり得たが、今回の事案では、フジテレビからの聞き取りで事実認定が可能と判断した。(神田委員長) |
Q: | 他の新聞やテレビ各社に比べフジテレビのチェック体制はどうだったと評価しているか? |
A: | 委託先への立ち会いに入るか、入らないかなどは、他メディアと比べての判断ではない。今回はヒアリングでも、当のフジテレビ自身に、委託先を訪問していれば防ぐことができたかもしれないとの認識があり、我々もヒアリングを重ねる中、訪問していれば、防ぐことが出来た可能性があった、という判断をしている。他局と比べての判断ではない。(高田委員) |
Q: | フジテレビは取り消した放送18本の世論調査の結果と、それを修正した結果を、現在に至るまで公表していない。不正の内容を公表するべきと考えるが、委員会では明らかになっていない状態をどう考えるか? |
A: | 訂正をどのように行うかは、それぞれの当事者が自主的に判断することだと思う。取り消した場合はこのような内容で放送しなさいと言うことは、もとよりBPOの役割ではない。(高田委員) 放送の取り消しの方法には、各局の自主的・自律的な判断がある。取り消した放送の内容を紹介・周知することもひとつの考え方であり、それを明らかにしないということも、その是非は別として、当該局の判断だと考える。そこで、どのような内容の放送の取り消しだったのかということを事実として別表に客観的に記載するにとどめ、当該局のかかる自主的・自律的な判断については委員会が評価を控え、意見書の読み手がそれをどう評価するかに委ねることとした。(神田委員長) |
Q: | 重大な放送倫理違反があったという結論だが、重大がついた理由は? |
A: | 報道番組における重要な情報である世論調査であることを前提とし、フジテレビがその世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにしていたこと、その時々に世論形成に大きな影響を与える重要なテーマに関して架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり合計18本放送したということを踏まえ、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことを総合的に考慮し、委員会で議論の結果、重大な放送倫理違反があったとの判断に至った。(神田委員長) |
Q: | 1人に任せきりだったということだが、政治部長や、報道局長、あるいは解説委員室もあると思うが、一緒に作業をしていなかったということか? |
A: | トピック的にその時々の政治情勢、社会情勢に関する質問をつくる場合、報道局内で声をかけ質問を集め検討はしていた。ただ、委託先の世論調査会社から(調査の)答えが返ってくると、そのデータは共有するが、分析・解析、ニュース原稿の作成といったプロセスは担当者に任されていた。政治部長や報道局長は、職制上は当然関わっているが、事実上任されていた。(高田委員) |
以上