放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第153回

第153回–2020年10月

番組内容が広告放送と誤解される問題について委員長談話を公表

第153回放送倫理検証委員会は10月9日に開催された。
委員会が6月30日に通知・公表した「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」への対応報告が当該放送局である琉球朝日放送から書面で提出され、その内容を検討した結果、委員会との意見交換が適切な時期に開催されることを期待して、報告を了承し公表することにした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の修正案が示され意見交換を行った。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にして、合計18回にわたりフジテレビで放送されたニュース番組について、当該局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人1社提供のローカル単発番組に関し、委員会はこれまで番組内容が広告と誤解されることに関する問題について合計6回にわたり討議を重ねてきたが、今回の委員会で討議を終了し、審議入りしないこととした。また、民放連加盟各社および民放連に対する要望を含めて、本問題に関する委員の総意を改めて共有することが適切であるとして、「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題された委員長談話をBPOのウェブサイトで明らかにすることにした。

1.「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」への琉球朝日放送の対応報告を了承

6月30日に通知・公表した「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」(委員会決定第36号)への対応報告が当該放送局である琉球朝日放送から書面で提出された。
報告書には、委員会決定を受けて、全職員に決定内容を周知し、全社員・スタッフによる番組再検証を実施したこと、再発防止への取り組みとして、「番組制作にあたっては企画提案書を提出して、それを基に様々な人が意見を出し合い、スポンサーとも交渉をして、最終的にスポンサーが納得できないということであれば、見送りもある。売り上げが厳しいから放送倫理違反をしてもいいということはありえない」「放送倫理違反の意見書を受けた意味合いは大きい。今後も定期的に勉強会を開き社員教育を図っていく」などを確認したことが記されている。委員からは「全般的に意見書の主旨は理解されていると感じた」という意見が出され、また、「営業主導が途中から徐々に報道主導になったその境目を整理して書いていただけるとよかった」という意見も出されたが、意見書で指摘した課題に対しては概ね適切な対応がなされており、またコロナ禍で、委員会と当該局との意見交換は行われていないが、今後適切な時期に開催されることを期待することとして、当該対応報告を了承し公表することにした。
琉球朝日放送の対応報告書は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、前回の委員会で議論された原案を踏まえて担当委員が作成した意見書の修正案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は再度修正案が示される予定である。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの追加報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成し、誤った世論調査結果のデータを作成していたとしている。
8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、当該局が架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、9月末から10月初旬にかけて当該局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告された。次回委員会では意見書の原案が提出される予定である。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した(以下「本件番組①」という。2018年2月17日初回放送・同年10月13日再放送)。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』(以下「本件番組②」という)を番組販売で購入し放送していた。また、山口放送は、本件番組②を2019年5月25日、同月29日に制作放送していた。
なお、山口放送は、本件番組②とは別に、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』(以下「本件番組③」という)を制作し、2018年6月2日以降合計4回放送している。本件番組③については、本件番組②との関連性から、念のため一体のものとして検討することが適切であると考え、討議の対象としたが、放送内容が類似していることを踏まえ、討議における議論の対象は本件番組①及び本件番組②のみ(以下「本件番組」と総称する)とした。

本件番組は、その共通点として、弁護士法人X法律事務所(以下「X法律事務所」という)の1社提供の単発番組であり、X法律事務所の提供表示がなされ、番組名の前にも「弁護士法人X法律事務所presents」というタイトルが付けられている。また、番組の内容は、X法律事務所の代表弁護士(当時)が自ら出演し、クイズ形式か再現ドラマ形式かの違いはあるものの、X法律事務所における高額の過払金の回収事例を複数紹介して解説を加えている。そして、X法律事務所の相談料が原則無料であることを含む基本的な料金体系を説明し、さらに放送日時と近接した時期に開催されるX法律事務所の無料相談会を案内して勧めている。本編の中には中CMがあり、いずれも代表弁護士が登場するX法律事務所のCMである。以上のとおり、本件番組の内容や構成はほぼ共通している。
なお、討議中において、X法律事務所が、2020年6月に破産開始決定を受け、その後、X法律事務所の所属弁護士会が、X法律事務所が回収した過払い金を依頼者の意思に反して流用した疑い等があるとして、同弁護士会の綱紀委員会に対して懲戒処分に向けた調査をするよう求めるという報道に接した。

委員会は2020年5月、両局から提出された報告書及び同録DVDを基に討議し、本件番組はいずれも、総合的に判断すれば、番組内容が広告放送と誤解されることに関する問題(以下「本問題」という)の観点から、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。その後の委員会においては、本件番組を両局から購入して放送した局があり、また、本件番組を1社提供したX法律事務所が提供する類似した番組を制作放送した局またはその番組を購入して放送した局がいずれも相当数存在することが報告された。上記の各局に対しては、本件の討議の参考のために、任意の報告を依頼し、報告書と同録DVDの提供を受けた。しかし、各局が番組を制作した時期に幅があり、一部の局においては日本民間放送連盟(民放連)が「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」(以下「留意事項」という)を策定した2017年以前に制作・放送された番組もあるなど、番組の制作や考査の在り方について公平に比較検討することが困難であることを踏まえ、両局以外の番組は討議の対象としないこととした。

10月の委員会においても、本件番組について、民放連の放送基準第92条や留意事項に照らし、X法律事務所の取り上げ方や演出方法は、仮に広告の意図や目的がなかったとしても、また、必要とされる考査をした旨の両局の主張を踏まえても、総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であるとの誤解を招きかねず、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとの意見が多数出された。
そして、審議に入るか否かの基準については、委員長談話「TBSテレビ『情報7daysニュースキャスター「二重行政の現場」』について」(2009年7月17日)において、①対象となる問題が小さく、かつ、②放送局の自主的・自律的な是正措置が適切に行われている場合には、原則として審議の対象としないとされており、本件番組の問題は小さいとは言い難いから、審議入りの基準を満たしているともいえ、実際、審議入りをすべきであるとの意見もあった。
しかしながら、10月の委員会までの、計6回にわたる討議を踏まえ、本件番組が内包する本問題が全国的な広がりを有し、民放連加盟各社が直面している共通の課題であることを改めて認識するに至った。そこで、民放連加盟各社及び民放連に対する要望を含めて、本問題に関する委員の総意を改めて示すことが適切であると考え、委員長談話として明らかにすることとし、また、上記のとおり、同様の番組を制作放送した各局の番組について公平に比較検討することが困難であり、結論として討議の対象としないこととしたこととの均衡も考慮し、本件番組について放送倫理違反の疑いがあるとしても、委員から厳しい意見が出たことを議事概要に掲載して注意を喚起した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないとの結論に至った。
委員長談話は、こちら。

【委員の主な意見】

  • 本件番組はいずれも、X法律事務所における高額の過払金の回収事例を複数並べたうえで、X法律事務所の相談料が原則無料であることが説明され、本編の最後ではX法律事務所の基本的な料金体系と併せて、放送日時と近接した時期に開催されるX法律事務所の無料相談会を案内して勧める内容になっていること等からすると、過払金返還請求についての法的知識や手続きに関し、具体的で有益な情報提供をしていると認められる部分があるとしても、全体を通じて視聴すれば、X法律事務所のサービス内容を一方的にPRしているとの印象を否定できないのではないか。また、X法律事務所のサービス内容のみを取り扱う理由は明確とは言えないのではないか。

  • 本編の中にある中CMでは、いずれも代表弁護士が本編と関連するフレーズを語り、無料相談会を告知している。また、本編と中CMが連続して放送されるため、これを連続して視聴することによって、全体としてX法律事務所のサービスの広告効果がさらにもたらされているのではないか(2001年3月14日付にて民放連が作成し、2009年3月18日付にて改訂した「持ち込み番組と関連するCMの取り扱いについて」の第3文参照)。

  • 本件番組②については、本編におけるいずれの相談再現ドラマの中にもX法律事務所の情報が盛り込まれており、また、番組の最後の場面で男性タレントがX法律事務所の名前を挙げて番組が終了していること等も、視聴者に広告放送との誤解を招く事情となっているのではないか。

  • 総合的に判断すれば、本件番組におけるX法律事務所の取り上げ方や演出方法は、仮に広告の意図や目的がなかったとしても、視聴者に広告放送であるとの誤解を招きかねず、放送倫理違反の疑いがあるのではないか。

  • 本件番組に関し、秋田放送は「社員や代理店の勉強会などにより、いま一度、持ち込み番組を含めた社内外の認識確認を行いたい。『視聴者の誤解を招かない内容・演出』のため、今後はもっと全社的な考査機能を高めていかなければならない」との見解を、また、山口放送は「今回いただいた指摘を真摯に受け止め、民放連放送基準第92条及び留意事項、また2019年10月の委員会意見の内容について、改めて社内各所での徹底を図り、『広告放送』との誤解を招かない番組制作・放送に取り組んでいきたい」との見解をそれぞれの報告書において明らかにしている。両局が当該各見解を実質的かつ有効的に深化させる方策を講じることを期待したい。

以上