「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」に関する
委員会決定の通知・公表の概要
[通知]
2020年6月30日午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と、担当した曽我部真裕委員長代行、松田美佐委員が委員会決定を通知した。
申立人本人と代理人弁護士、フジテレビから本件番組の責任者らが出席した。
はじめに奥委員長が「ヒアリングなどを通じて申立人の心情は理解したが、委員会は、あくまで放送番組によって人権が侵害されたのか、それに関連して放送倫理上の問題があったのかどうかを判断する立場であることを理解して欲しい」と述べた。
そして結論として「本件番組に人権侵害の問題や放送倫理上の問題は認められない」と述べ、委員会の判断を説明した。
まず、本件番組の意義として、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者らの死刑が執行されるという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであると、判断の前提となる考え方を示した。
そして、シール貼付などの手法については、迅速・正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められることや、出演した弁護士の発言は、表現として不相当とは言えないこと。また事実関係の間違いのほとんどは実質的に修正されていて、いずれも人権侵害は認められないと説明した。
さらに、極めて公共性の高い出来事を公益目的で放送したものであり、死刑執行をショーのように扱っているとは言えず、放送倫理上の問題もないと判断した、と説明した。
そのうえで3人の委員が補足意見を述べており、死刑執行をリアルタイムで報じる状況において配慮すべき点について付言していることを紹介した。
曽我部代行は、名誉感情の侵害という主張については、裁判と同じように、故人に対する申立人の敬愛追慕の情が許容限度を超えて侵害されたかどうかで判断した、と補足した。
松田委員は「申立人がどのような気持ちでこの番組を見たかを想像して判断した」と述べた。
[公表]
午後2時から千代田放送会館ホールで、奥委員長、曽我部代行、松田委員が記者会見を行った。取材したのは29社36人。
(奥委員長)
結論として人権侵害も放送倫理上の問題も認められない。
(曽我部代行)
名誉感情の侵害という主張については、故人に対する申立人の敬愛追慕の情が許容限度を超えて侵害されたかどうかで判断した。
(松田委員)
例のない犯罪に関した例を見ない報道番組であり、議論も難しいものがあった。補足意見にあるように、番組はさまざまな立場の人に色々なことを想起させたと思われ、こうした状況での報道の在り方を考えていく必要を感じた。
質疑応答の概要は以下のとおり。
(質問)
シール貼付という手法の必要性・相当性を判断するうえで、ネット上で意見があった視聴者の違和感などについてどのような議論があったか。
(奥委員長)
そうした意見が多数意見だったのかどうかは分からないが、申立人からも関連する資料が提出されたので検討した。
シールを貼る場面については、放送ではそれ自体を強調してはおらず、色々な配慮もしていたことから問題は認められないとの結論になった。
(質問)
ほかの放送局も特番を放送していたが、申立人はこの番組だけを見たということか。
(奥委員長)
申立人はヒアリングでは、ほかの番組にも問題はあると述べていた。
(質問)
「生きているだけで悪影響」という弁護士の発言は強いことばだと思うが、
問題ないとの結論に至った経緯は。
(奥委員長、曽我部代行)
被害対策弁護団の一員、被害者・遺族との関係といった弁護士の立場から述べた発言であり、度を超えたものとまでは言えないと判断した。敬愛追慕の情は、生きている人に対する批判より許容範囲は広いであろうということ、この事件の特異さもある中で、表現として不相当とは言えないという結論になった。
以上