放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2020年度 第72号

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定

2020年6月12日 放送局:テレビ埼玉

見解:問題なし
テレビ埼玉は2019年4月11日の『NEWS545』で、埼玉県内の元市議が提起した損害賠償訴訟のニュースを放送した。その中で、元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であるとして、BPO放送人権員会に申し立てを行った。
委員会は、審理の結果、そのいずれについても、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

テレビ埼玉は、2019年4月11日(木)の夕方のニュース番組『NEWS545』(以下、「本件番組」という)のトップ項目で、さいたま地裁Z支部(Zは放送では実名)で、埼玉県内のX元Y市議会議員(氏名X、市名Yともに放送では実名。以下同様)が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論のニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
元Y市議は、本件放送について以下の3つの点を問題として本件申立てを行ったが、委員会は、審理のうえ、そのいずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
(1) 申立人は、本件放送のタイトルが「元Y市議セクハラ訴訟」となっていること自体が問題であるとし、申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え、申立人の名誉を損なうと主張している。
しかし、本件放送において、一般視聴者が新聞の見出しのように「元Y市議セクハラ訴訟」の部分だけを拾い出して見る事情はないから、本件放送が何を伝えたかは、本件放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する。本件放送は、冒頭で「元Y市議が被害を訴えた女性職員を相手取った裁判」と明確に伝え、裁判では、申立人が女性職員から請求された慰謝料を支払う義務がないことの確認と女性職員に対する損害賠償を求めていること、申立人が女性職員の言うセクハラ被害は事実ではないと意見陳述したことなどを報じている。本件放送から一般視聴者が、この裁判について申立人がセクハラを訴えられたような印象を受けるとは認められず、名誉毀損は問題とならない。
また、「元Y市議セクハラ訴訟」との表示には、正確性と公正性の観点を配慮して工夫の余地があったとは言えるが、同表示は本件放送の一部であり、本件放送では、裁判における申立人の主張である請求の内容や意見陳述の内容が伝えられており、同表示に放送倫理上問題があるとはいえないと判断する。 
(2) 申立人は、実際には第三者委員会のハラスメント認定前に議員辞職しているのに、経緯の説明において「認定され、辞職しました」というナレーションがなされたことで、一般視聴者は、第三者委員会にハラスメントを認定されたのを受けて議員を辞職したと受け止め、議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等を与え名誉が損なわれたと主張している。
このナレーションによって、一般視聴者が、申立人はハラスメントを認定され、辞職したと、ナレーションの順番どおりの時系列で受け止める可能性はある。しかし、そのことを前提としても、本件放送は、申立人がハラスメントの事実を否定し、辞職理由について騒ぎに市議会を巻き込みたくなかったためであり断じてハラスメントの行為を認めたわけではないと意見陳述したことを報じており、本件放送によって一般視聴者が、申立人が議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等をするとは認められず、名誉毀損は問題とならない。同様の理由で、放送倫理上の問題もない。
この時系列の点について、申立人は代理人弁護士を介して本件放送直後に訂正の申入れをしたが、お詫びと訂正の放送は選挙投開票翌日となった。時間的制約などから当日の本件番組内で訂正しなかったことは一定程度理解できる。翌日、告示前に同じ時間帯の番組内でお詫びと訂正の放送をする選択があってしかるべきだったとは言えるが、本件放送当日夜のニュースでハラスメント認定と辞職の時系列がはっきりとわかるように修正して放送していること、本件放送は申立人の社会的評価を低下させるものとは認められないことから、それをしなかったことをもって放送倫理上問題があるとまではいえないと判断する。
(3) 申立人は、本件放送で次の市議会議員選挙への出馬に言及したことは、いくつものハラスメントを認定されて議員を辞職したばかりの元市議が性懲りもなく立候補するという印象を視聴者に与える選挙妨害であると主張している。
しかし、市議選への出馬は申立人自身が述べ、すでに周知されていたことであるし、本件放送では、申立人の提起した裁判の内容や意見陳述の内容を報じたうえで伝えており、申立人の市議選出馬に言及しても、申立人の社会的評価が低下することはないし、性懲りもなく立候補するという印象を一般視聴者に与えてもいない。市議選への出馬に言及したことは名誉毀損として問題にならないし、選挙を妨害するとは認められない。

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2020年6月12日 第72号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第72号

申立人
埼玉県在住 元市議会議員
被申立人
株式会社 テレビ埼玉
苦情の対象となった番組
『NEWS545』
放送日
2019年4月11日(木)
放送時間
午後5時45分~6時15分のうち午後5時45分~5時47分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
      • ア 「本件放送は何を伝えたか」をどう判断するか
      • イ 本件放送は何を伝えたか、申立人の社会的評価を低下させたか
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 市議選出馬への言及に問題はなかったか
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 本件番組中の訂正要求への対応とその後の措置について問題はなかったか
      • ア 事実経過
      • イ 委員会の判断

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月12日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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