第276回 – 2019年12月
「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案のヒアリングと審理…など
議事の詳細
- 日時
- 2019年12月17日(火)午後3時~8時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」ヒアリングと審理
2.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理
3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理
4. 審理要請案件
5. その他 - 出席者
- 奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員
1.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案のヒアリングと審理
本件は、テレビ埼玉が2019年4月11日に放送した『News545』の中で伝えた損害賠償訴訟のニュースを巡り、元市議から申立てがあったもの。その中で元市議は、「自分が起こした裁判であるのに、自分がセクハラで訴えられたかのようなニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」であると伝えたことは選挙妨害であると主張している。これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題となるものではないと反論している。またテレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実であるとして、当該放送日の夜のニュースで言葉を修正した放送を行い、また市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会では、申立人と被申立人双方に個別にヒアリングを行った。申立人は、当該ニュース番組の放送中に3回テレビ埼玉に電話し、「議員辞職は第三者委員会の認定の前である」と間違いを正すように求めたにもかわわらず訂正されなかった。「違う時間で訂正しても同じ人が見ているとは限らない」と訴えた。一方、被申立人であるテレビ埼玉は、ニュース全体を見れば誤解を与えるようなものでないことは明らかであると説明した。
ヒアリングに続いて本件の審理を行い、担当委員が論点を踏まえて決定文の起草に入ることを決めた。
2.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理
テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」とした上で、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」としている。
今委員会では、前回委員会の議論を反映した委員会決定文の修正案が担当委員から提出され、意見交換を行った。今回の議論を基にさらに決定文の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することになった。
3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理
フジテレビが去年7月、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行を報じた特別番組について、松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱った放送であり、父親の死が利用され遺族として名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の制約の中で、複数の死刑囚の執行情報を分かりやすく伝えたもので、放送内容には必要性、相当性があるなどと反論している。
今委員会までに双方から必要な書面が提出され、それぞれの主張をもとに検討すべきポイントについて意見交換を行った。担当委員が次回委員会までに論点等を整理することになった。
4. 審理要請案件
・「覚せい剤押収報道に対する申立て」審理入りせず
X放送局は、今年6月、ローカルニュースの中で、覚せい剤押収事件について押収現場での記者リポートや付近住民のインタビューなどをニュースとして放送した。インタビューは、人物が分からないようにカーテン越しに撮影された映像で音声だけが伝えられた。この放送に対して、その家族から、放送は現場と自宅の場所を「特定するに十分な情報であり、家族の肉声は、現場を監視し警察に通報した者のように聞こえた」と訴えるとともに、「インタビューは、麻薬の運び出しと関係のない会話を一部切り取って放送した」と指摘した。そのうえで、「麻薬関連の報道は、暴力団も絡み、住民の安全に配慮するべきところを、私たち家族を危険にさらし、地域社会に誠実に暮らす家族の名誉を傷つけた」として、放送した経緯の説明と謝罪を求めて8月4日付で委員会に対して申立書を提出した。
この申立てについて委員会は、まず、人権侵害の有無及びそれに係る放送倫理上の問題を検討する必要がある事案と判断した。しかし、審理にはインタビューの経緯や内容を家族に直接聞くことが不可欠であるところ、申立人は家族の病気を理由にそれが困難であるとして、その了承を得ることができなかった。このため委員会は、十分な判断材料が得られないことがあらかじめ明らかな以上、本申立てを審理対象にすることはできないと判断した。ただし、この決定に至った委員会の判断と議論について、申立人だけでなく被申立人に対して詳しく説明することにした。
・「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」審理入りを決定
札幌テレビ(STV)は、今年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、北海道における初めての申請であるとして、男性が家で申請書類を記入する様子やインタビューのほか、北海道庁での申請手続きなどについて放送した。
これに対して、この男性は、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「明日、申請に行きましょう」などと説明し、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、申立書を提出した。記者の働きかけにより「不本意な申請をすることになり、これを広く報道され、申立人の名誉を毀損された」などとして、放送内容の訂正と謝罪を求めた。
一方、札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ取材が可能となったとして、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。
5. その他
- 運営規則に関する議論
社会におけるBPOの認知度が上がっている。ことし6月にBPOが行った調査でも70%となった。そうした中で、委員会に対する申立ての提出件数も増えている。しかし、その内容が複雑になり委員会本来の目的とずれたものも散見されるようになっている。こうした状況を受け、委員会では、運営規則にある「苦情の取り扱い基準」の整備の必要性が指摘され、委員の間で意見が交わされた。
以上