放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2019年10月30日

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」に関する委員会決定の通知・公表

[通知]
放送人権委員会は、2019年10月30日午後1時30分からBPO会議室において、奥武則委員長、起草を担当した紙谷雅子委員と二関辰郎委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人の大学教員、被申立人のNHKから秋田放送局長ら2人が出席した。
奥委員長が冒頭「名誉毀損はない。放送倫理上の問題もない」と結論を告げ、その後決定文に沿って説明した。「申立人は大学当局のハラスメント認定について不当性を強く主張していたが、委員会は、放送がある人の人権を侵害したかどうか、それに関わって放送倫理上の問題があるかどうかを検討する場である。大学当局のハラスメント認定が事実に基づいていたか否かを判断する立場にはない。本件放送には男性教員であるということ以外、個人情報は含まれていない。申立人の所属する学部学科にも言及していない。総合的に考えると本件放送によって、広く不特定多数の一般視聴者が男性教員を申立人であると特定する可能性はない。ただし本件放送の中に新しい情報が含まれていて、それに申立人の特定に繋がる情報が含まれていたとすると、問題は違ってくる。具体的には『小中学生でもできる』という表現が放送の中にある。しかし、すでにわかっていた威圧的な言動という情報は、何らかの具体的な言葉か行動を必然的に伴う。この点、『小中学生でもできる』という表現は社会的に是認できる表現ではないものの、そのような言動の具体例として、とりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。よって、本件放送は申立人に対する名誉毀損にはあたらない。
次に放送倫理上の問題だが、訓告措置に変更がないかなどメールや電話で大学当局に数回にわたって追加取材を行っている。放送倫理に求められる事実の正確性、真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題はないという判断に至った」と述べた。
続いて紙谷委員が、「申立人は、大学の決定について非常に力を入れて説明していたが、この委員会のできることの範囲の外であるということは、重要なことだ。委員会は、この放送によって、あなたが実際に名誉毀損されたのかどうか、をポイントに判断した」と述べた。
二関委員は「今回名誉毀損について特定するものではないと判断し、その後の公共性などに入ることなく、この結論に至っている。さらに不特定多数の一般視聴者が特定できないだろうと言った上で、もともと知っていた人たちがどう受け止めるのかということも判断して、社会的評価が低下することはないという結論に至った」と述べた。
決定を受けた申立人は「大学の措置が正しい情報によって判定されているのであれば何も申し上げることはないが、そうではない。その辺の問題を踏まえた上で決定を出すことが、非常に難しいとはわかるが、幾分そこは考慮していただきたかった。残念だ」と述べた。
一方、NHKからは「私どもの説明をご理解いただいたものだと受け止めている。ご指摘のように、情報公開請求は、私どもにとって大変大事な取材手法の1つであるが、それが右から左へということではなく、きちんと追加取材をして、裏取りすることは大前提だと思っている。今後もそうした取材を行い、人権に配慮した公益性の高い報道を続けて行きたい」と述べた。

[公表]
午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、委員会決定を公表した。
18社32人が取材した。テレビカメラの取材は日本テレビが代表して行った。
まず、奥委員長が「問題なし」とする決定内容を説明し、紙谷委員と二関委員が補足的な説明をした。

その後の質疑応答の概要は以下の通り。

(質問)
今年、人権委員会も含めてBPOに持ち込まれるケースが、昨年よりも増えているようだ。その背景の1つとして、一般の方の誤解のような部分もあるのか。
(奥委員長)
誤解と言っていいのかどうかはわからないが、放送人権委員会という存在が、かなり認知度が高まっている状況が背景にある。一方で、放送人権委員会は一体何をしてくれるのか必ずしも正確な知識を持っていない。そういう部分も確かにあるだろうと思っている。

(質問)
今回の放送は匿名報道であった。だから、本人が特定されるかどうかというのが論点の1つになっていたかと思う。ただ名誉毀損については、違法性阻却事由としては、公共性、公益性、真実相当性だ。このあたりはどのように判断したのか。また、今後、匿名報道ではなく実名報道する場合もあり得ると思うが、どのように判断していくのか。
(二関委員)
名誉毀損の成否が争いになったら、その人の社会的評価を低下するか否かを考える。そして低下するとなったら、その先に阻却事由がないかどうかという判断に進んで行く。今回は、特定されていない。一部の人について特定はあるけれど、社会的評価の低下はないというところで、もう判断は終わっている。一応今回の決定の論点というのを、公共性、公益目的があるか、真実性、真実相当性は認められるかと、5ページで項目として挙げているが、そこの判断に入るまでもなく、名誉毀損はないという結論に至ったので、それ以上には踏み込んでいない。だから、実名で、かつ社会的評価を低下するのであれば、当然その先のほうに判断は入って行くことになる。

以上