第152回 放送倫理検証委員会

第152回–2020年9月

解答権のないエキストラで欠員補充していたフジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

第152回放送倫理検証委員会は、8月末に退任した鈴木嘉一委員長代行に替わり新任の米倉律委員が出席して9月11日に開催された。冒頭、神田安積委員長が岸本葉子委員を委員長代行に指名した。
委員会が9月2日に行ったテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の原案が示され意見交換を行った。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にした放送が合計18回にわたり行われたフジテレビのニュース番組は、前回の委員会で審議入りし、今回の委員会では当該局に対するヒアリングの準備状況が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、これまでの議論を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

1. テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表について報告

テレビ朝日が2019年3月15日に放送したニュース番組『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画について、委員会は主要なエピソードを構成する登場人物のすべてがディレクターの生徒や知人だったうえ、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いており、放送倫理違反があったと判断し、9月2日に当該局に対し、意見書の通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、委員会決定を伝えたテレビ朝日のニュースを視聴し、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などについて報告した。
通知と公表の概要は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、前回の委員会で議論された骨子案を踏まえて担当委員が作成した意見書の原案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は修正案が示される予定である。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの追加報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成し、誤った世論調査結果のデータを作成していたとしている。
前回の委員会では、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、当該局が架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対して行うヒアリングの準備状況などが報告された。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとし、7月及び8月開催の委員会では、その経過報告を踏まえ、討議を継続していた。
今回の委員会では、これまでの議論を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

以上

2020年9月2日

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、9月2日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、高田昌幸委員の3人が出席し、テレビ朝日からは常務取締役(報道局担当)ら4人が出席した。
まず、神田委員長から、委員会決定について、本件特集には放送倫理違反があると判断したことを伝えた。その理由として、本件特集の主要なエピソードを構成する登場人物のすべてが、担当ディレクターの知人らだったうえ、ロケがあることを事前に知って取材の舞台となったスーパーに来店していたのであり、偶然に出会った利用客ではなかった。このことからすれば、本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていたと説明した。
続いて升味委員長代行は、「本件特集の制作会社はテレビ朝日と密接な関係があり、その報道部門を支えてきたともいえるところから、仲間意識もあってできた番組を受け取るときの考査、検収の意識が薄くなっていたのかとも思われる。対応策に示されているように今後は十分注意してほしい」「今後の対策として、本来なら準備に手間も時間もかかる人間ドキュメントを報道番組内で毎週のように定期的に放送していくことの難しさを認めて、このような番組制作を再検討するという点は、他局を含め多くの関係者に参考になるだろう」と述べた。また高田委員は、「今回ほど引き返すチャンスがたくさんあった事案は滅多にないが、それを生かせなかったのは残念」「番組に関わった多くの人が疑問を感じていたことが判明しており、仮にそれらの疑問が全体で共有されていればブレーキがかかったのではないか」「同僚や上下関係の中では仲間を疑うことに躊躇しがちだが、疑うことは確認することと裏表なので怠ってはいけない」とコメントした。最後に神田委員長から、偶然を装って故意に登場させたという点において、過去の類似の事案と比較して重い点があるとの補足説明がなされた。
これに対してテレビ朝日は、「今回の決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります」「視聴者の皆様の信頼を回復すべく、引き続き再発防止に努めてまいります」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には21社31人が出席した。
はじめに神田委員長が委員会の判断について、「本件特集は、偶然に街で出会った人から話を聞き、その暮らしや人生模様を描き出し、ごく平凡に見える人の思いがけないドラマやエピソードを視聴者に伝える報道番組内の特集である。しかし、主要なエピソードを構成する登場人物のすべてが、担当した契約ディレクターの生徒や知人だったうえ、本件特集のロケがあることを事前に知って舞台となったスーパーに来店していたのであり、いずれも偶然に出会った利用客ではなく、本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない『客』を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていた」と評価をして、放送倫理違反があったと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて升味委員長代行が、「視聴者にとっては面白かったり楽しかったりした前提が全部崩れてしまうということにもなるし、報道番組としての事実を伝えるという点でも非常に問題があった番組だったと思っている」と述べた。高田委員は、「制作の各段階で疑問を持ったスタッフはいたが、それが共有されなかった点がポイント。取材において疑うことは確認作業と同じであり、それをしていれば本件は起きなかったのではないか」と述べた。
記者からの質問は、事実関係の確認に関するもの以外、特になかった。

以上

第38号

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見

2020年9月2日 放送局:テレビ朝日

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する特集を放送したが、この特集に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。委員会は、同年11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯などを詳しく検証する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
日本民間放送連盟とNHKが1996年に定めた放送倫理基本綱領は「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とし、「取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」と定めている。また、民放連の放送基準では、前文で「正確で迅速な報道」を求め、第32条では報道の責任として「事実に基づいて報道し、公正でなければならない」と掲げている。本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていた。
したがって、委員会は、本件特集には放送倫理違反があったと判断した。

2020年9月2日 第38号委員会決定

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目 次

2020年9月2日 決定の通知と公表

通知は、2020年9月2日午後1時30分から千代田放送会館7階会館会議室で行われ、午後2時30分から同2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、21社31人が出席した。
詳細はこちら。

2020年12月11日【委員会決定に対するテレビ朝日の対応と取り組み】

委員会決定 第38号に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月27日付で提出され、委員会はこれを了承した。

テレビ朝日の対応

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目 次

  • 1.委員会決定前の対応
  • 2.委員会決定時の放送対応
  • 3.委員会決定内容の周知徹底
  • 4.放送番組審議会への報告
  • 5.委員会決定後の取り組み
  • 6.再発防止に向けて
  • 7.おわりに

第151回 放送倫理検証委員会

第151回–2020年8月

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

第151回放送倫理検証委員会は8月7日に開催された。
委員会が8月4日に通知・公表したTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして、5月の委員会で審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、前回の委員会後の経過報告を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。
フジテレビと産経新聞が合同で行った世論調査のデータの一部に架空入力があり、それを基にしたニュースが合計18回放送されたことについて、当該放送局から提出された追加報告書に基づいて前回の委員会に引き続き討議を行い、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり報道されたこと、再委託の経緯自体を把握していなかったチェック体制の不備などを踏まえ、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
抗議デモの解説に使用したアニメ動画の描写が人種差別的であり、偏見があると批判されたNHKの報道番組『これでわかった!世界のいま』について、当該放送局から提供された報告書、追加報告書及び同録DVDを基に討議した。
その結果、当該アニメ動画部分は放送倫理に照らして問題があるが、番組全体としては抗議デモの問題を適時適切に取り上げた番組であると評価しうること、当該局の別の番組が、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できる、当該局による迅速なお詫びや自主的・自律的な再発防止策が取られ、今後その徹底を図るとされていること等を踏まえ、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

1. TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見の通知・公表について報告

TBSテレビが2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画について、委員会はハンターが自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るもので放送倫理違反があったと判断し、8月4日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などを報告した。
通知と公表の概要は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では6月末から7月上旬にかけて当該放送局の関係者に対して実施したヒアリング等に基づき担当委員が作成した意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2500サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。
7月の委員会では、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行ったが、委員からは厳しい意見が相次ぎ、局からの再発防止策等についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてもさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。
今回の委員会では、7月委員会で出された意見に加え、新たに提出された追加報告書を基に討議した。その結果、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとし、7月開催の委員会では、その経過報告を踏まえ、討議を継続していた。
今回の委員会では、その後の経過報告を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

5. 抗議デモの解説に使用したアニメ動画の描写が人種差別的であり、偏見があると批判されたNHKの報道番組『これでわかった!世界のいま』を討議

NHKは6月7日、報道番組『これでわかった! 世界のいま~拡大する抗議デモ アメリカでいま何が~』で、米国の人種差別抗議デモを取り上げ、その解説に使用したアニメーション動画を放送した。
番組は黒人の男性が警察官に押さえつけられて死亡した事件を紹介し、それをきっかけに人種差別に抗議するデモが全米に拡大していることを伝え、また、アニメ動画において、黒人がおかれた経済的な格差を描き、この格差が黒人の「怒り」の背景であると解説した。しかし、アニメ動画は、屈強な黒人の男性キャラクターなどが経済への不満から暴れているかのように描かれるなど、黒人に対する差別と偏見を助長するもので、実際に行われた人種を越えた平和的なデモとはかけ離れた表現だとして内外から批判が寄せられた。これを受けて当該局は、速やかにホームページやニュースなどで謝罪するとともに、翌週の同番組の冒頭で、番組責任者が経緯を説明するとともに、お詫びと再発防止に向けた取り組みを伝えた。
委員会は、当該局から提出された報告書と同録DVD及び追加報告書を基に討議した。その結果、当該アニメ動画部分は放送倫理に照らして問題があり、そのような放送がなされるに至ったことは残念であるなどの厳しい意見が出された一方で、番組全体としては抗議デモの問題を適時適切に取り上げた番組であると評価しうること、当該局の他の番組において、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できること、当該局による迅速なお詫びがなされ、また、人種問題等を取り扱う際の配慮や認識、動画をツイッターに掲載する際の注意点などについて局内で検討が行われ、国際的に扱いが難しい問題については外国籍や専門家などを活用した多様な視点でのチェックの実施、人種差別やアメリカの法律・メディア、SNSに詳しい専門家を招いた研修の実施などの自主的・自律的な再発防止策が取られ、今後その徹底を図るとされていること等を踏まえ、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

  • アニメ動画の内容については、放送倫理に照らして問題があるといわざるを得ず、また、表情の描き方、口調、声色などいずれにおいてもステレオタイプの表現であって、仮に差別意識や悪意はなかったとしても、そのこと自体、人種差別への問題意識が鈍感になっていることを物語るものであり、むしろ深刻に受け止めざるを得ない。

  • この番組で従前から使い続けている動画キャラクターを今回もそのまま使ったため、そこに慣れや油断があったのではないか。

  • 国際的な人権感覚やアメリカにおける人種差別の実態を知っているはずの国際部担当者が制作の過程を見ていたのに、放送が承認されてしまったことはとても残念である。

  • 約1分20秒のアニメ動画部分に問題があるとしても、約26分にわたる番組全体としては抗議デモの問題やトランプ政権の対応やそれに対する批判を適時適切に取り上げた番組であり、その点ではとても評価できる内容であった。

  • 番組の中で、デモに参加している黒人の女性を丁寧に取材している点が良かった。

  • 7月23日放送のEテレ「バリバラ」が抗議デモと人種差別の問題を取り上げ、その中で、日本にも人種差別の実態があるにもかかわらず、日本のメディアが人種差別の問題に向き合わず、むしろ助長してきた例があること、そして本番組について言及し、その問題点として、アニメ動画の内容が黒人のステレオタイプな暴力的描写であったこと、本番組の解説者が白人警察の立場に立って解説をしたことなどを取り上げていたが、当該局の他の番組において、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できる。

  • 再発防止策の徹底を図るという局の自主的・自律的な対応を評価し、今後の取り組みを期待して見守りたい。

以上

2020年8月4日

TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、8月4日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、長嶋甲兵委員、中野剛委員の3人が出席し、TBSテレビからは4人が出席した。
委員会決定について神田委員長はまず、本件番組について放送倫理違反があったと判断したと述べた。NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、局自身が認めるように、X氏が「希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹」であった。本件放送が、その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであり、また、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るものであったというほかない。これらのことを踏まえて、放送倫理違反があったという評価をしたと説明した。
続いて長嶋委員は、ヒアリングの際にベテラン関係者が口にした「作り方改革」「話し合い不足」という言葉を意見書に引用した。これから頑張ってやっていただきたいとコメントした。また中野委員は、委員会決定第24号TBSテレビ『ピラミッド・ダービー』を担当した立場からすると既視感のある事案で、今回もプロデューサーの番組管理という観点から考えた。全体会議もない中で、身軽な、機動的な番組作りだったのかもしれない。それが面白さの源泉だった面はあるだろうが、それがアクセルだとするとブレーキ役は存在したのか、改めて考えていただきたいとコメントした。
これに対してTBSテレビは、「約束を自ら破った。信頼を失ったと認識して番組を終了した。大きく反省している」「今後も、番組制作についての改革を進め、視聴者の皆様の信頼回復に努めていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には24社37人が出席した。
はじめに神田委員長が、「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、X氏が「希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹」であった。本件放送が、その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと評価した。併せて、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るものであったという評価もした。その上で、「NHK・民放 番組倫理委員会」が1993年に出した「放送番組の倫理の向上について」と題する提言をも踏まえて、委員会としては、本件放送には放送倫理違反があったという結論に至ったと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて長嶋委員は、この番組のある種の試み、実験精神というものを放送全体が失わないで前に進んでほしいという思いを込めて意見書を書いた。それを読み取っていただきたいと述べた。また中野委員は、視聴者の普通の見方からすれば、真剣に探して捕まえているとみるだろう。局自身も捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が企画の根幹であると言っているので、視聴者との約束を裏切るものであったという認定になったと述べた。
その後、神田委員長が2点、補足説明した。まず、「本件放送のロケは、わずか現地滞在4泊5日という短期間で行われた」との指摘をしているが、これだけの希少動物を何種類も見つけ捕獲するシーンの撮影を4泊5日という短い日程の中で行うこと自体に限界、無理があるのではないか。これができなければ番組が成り立たないとすれば、逆にどこかで無理を強いることにならないか。そして、このような懸念を組織の中の誰かが感じなかったのか。そのような思いを、「番組の『作り方』そのものに内在していたと言えよう」という指摘に込めている。もう1つは、バラエティー番組を扱う際の演出論について、意見書に引用している『ほこ×たて』事案の意見書には、「どこまでが演出として可能なのか、許容されるのか、という個別事例における境界線の設定は、局の自主的・自律的な判断に委ねてきたのである」と書いている。この問題意識を共有し、また前提としながら意見書を作ったつもりであり、その中で、最大限、皆さんの制作の自由を確保しながら、それでも許されない演出があるとすれば、どういうことなのだろうかと考えるときに、これまで委員会が考えてきた1つの基準がそれぞれの番組における「視聴者との約束」ということになる。本件放送では、「視聴者との約束」をどこに見て取るか、この点については、「『爬虫類ハンター』は、局自身が認めるように、X氏が『希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹』であった」ということであり、本件放送が、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を、撮影直前に撮影現場に移したことは「本企画の根幹」、ないしは「視聴者との約束」を裏切るものであり、その点で放送倫理違反があったということになる。その点は、あくまで本件放送限りの評価であり、直ちにこの手法をあらゆる番組において否定することを意味するものではない。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: ADはロケに同行したのか。ADやコーディネーターが、動物が逃げないように体を弱らせるようなことをしていたのか。
A: 現場にADは同行していないし、私たちが調べた限りでは動かないようにしたということはない。(長嶋委員)
A: 現地にはディレクター、コーディネーター、更には現地の協力者がいた。(中野委員)
   
Q: Bディレクターも手法としてはCディレクターと似たようなことをしていたということか。
A: 本件放送では、動物をあらかじめ協力者から借り受け、または別の場所で捕獲して、撮影直前に現場に置いている。過去10回の放送では、現地の協力者に対して、事前に目的の動物を発見したらその場所を連絡するよう要請し、また、その際に目的の動物を捕獲してしまった場合は、捕獲したのと同じ場所に、前日か当日に放ってもらったものであり、他の場所から持ってくることはしていない点という点で異なっている。過去10回の放送については審議の対象としておらず、また、演出論には踏み込むことを控えるという姿勢を踏まえて、「自主自律的にその限界を議論することが求められよう」という問題提起にとどめたものである。(神田委員長)
   
Q: 判断の1つの基準として、「視聴者との約束」を裏切るものは放送倫理違反ということか。
A: その番組が視聴者とどういう「約束」をしているのかという認定は非常にセンシティブであり、制作、編集の自由を不当に制限しないように、映像の視聴やヒアリングなどを経て、慎重に検討する必要がある。また、仮に「約束」を裏切ったとしても、その程度や自主的自律的な事後対応次第にて、討議入りしない、又は討議にて終了するものもあれば、仮に審議入りしてもその評価が分かれることもあり得る。したがって、個々の番組を離れて、「約束」違反をもって、直ちに一律に放送倫理違反になるとまでは言えない。(神田委員長)
   

以上

2020年8月7日

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議入り

放送倫理検証委員会は8月7日、データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について、審議入りすることを決めた。

フジテレビと産経新聞は、6月19日、2019年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。

フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2,500サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。

7月の委員会では、「社会の意見分布を知る一番の手掛かりは世論調査だ。不正な世論調査結果に基づいて18回ものニュースが放送されたことは、その時々の世論に影響を及ぼした可能性を否定できない」「世論調査は国民にとって重要な判断材料であり、不正の有無についてチェックされることなく放送されていたことは深刻な問題だ」「放送、新聞が行うすべての世論調査の信頼性を揺るがす由々しき事態だ」などの厳しい意見が相次ぎ、「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがあるのではないか」との意見も出された。

委員会は、フジテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、局からの再発防止策についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続。フジテレビから追加報告書が提出されたため、その報告書について意見交換した結果、放送倫理違反の疑いがあり、報道内容からして放送倫理違反の程度は軽いとは言えないとして審議入りを決めた。

委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第37号

TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見

2020年8月4日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』における企画「爬虫類ハンター」を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
委員会は、日本民間放送連盟の放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、X氏が特異な能力を発揮し次々と希少動物を発見し捕獲するシーンを核とする企画であった。その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであり、また、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との了解や約束を裏切るものであったというほかない。
よって、委員会は、本件放送には放送倫理違反があったと判断した。

2020年8月4日 第37号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2020年8月4日 決定の通知と公表

通知は、2020年8月4日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見が行われた。記者会見には24社37人が出席した。
詳細はこちら。

2020年11月13日【委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第37号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月5日付で提出され、委員会はこれを了承した。

TBSテレビの対応

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目 次

  • 1. 委員会決定に伴う放送対応
  • 2. コンテンツ制作局内での取り組み
  • 3.「放送倫理委員会」での取り組み
  • 4. BPO放送倫理検証委員会の委員を招いて意見交換会を実施
  • 5. 番組審議会への報告
  • 6.「放送と人権」特別委員会での議論
  • 7. 再発防止への取り組み
  • 8. 総括

第150回 放送倫理検証委員会

第150回–2020年7月

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』を審議
8月下旬以降に委員会決定を通知・公表へ

第150回放送倫理検証委員会は7月10日に開催された。
委員会が6月30日に通知・公表した琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
2月13日に通知・公表したTBSテレビの『消えた天才』映像早回しに関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含む取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
委員会が3月31日に通知・公表したNHK国際放送の『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見への対応報告が当該放送局から書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承し公表することにした。
スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人という不適切な演出をしたとして審議中のテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』について、担当委員から意見書の再修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、8月下旬以降に当該放送局への通知と公表を行うことになった。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして、5月の委員会で審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、同番組を購入して放送した複数の局から提出された報告書及び当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも順次報告を求めることとしたが、その経過報告を踏まえて議論を行い、討議を継続することとした。
フジテレビと産経新聞が合同で行った世論調査のデータの一部に架空入力があり、それを基にしたニュースが合計18回放送されたことについて、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議を行った。委員からは厳しい意見が相次ぎ、再発防止策についての追加報告を待ち、併せてチェック体制などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。

議事の詳細

日時
2020年7月10日(金)午後2時30分~午後6時40分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
 
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、大石委員、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員

1. 「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」の通知・公表について報告

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやって来た〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』の2つのローカル単発番組について、委員会はいずれの番組も視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められ放送倫理違反があったと判断し、6月30日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などを報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. TBSテレビ『消えた天才』映像早回しに関する意見への対応報告を了承

2月13日に通知・公表した、TBSテレビの『消えた天才』映像早回し加工に関する意見への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の社内周知や6月にBPO委員を招いてリモート形式で実施された研修会の状況等に加え、再発防止への取り組みとして、「放送倫理の向上を図るため、定期的に社内勉強会を行う」「素材段階でのチェックを強化する」「“密室”でのVTRチェックを禁止する」「スタッフを孤立させない組織作りを行う」などが記されている。
担当委員からは、上記研修会の様子や、研修の内容が受け止められて再発防止への取り組みが行われていることなどが報告され、適切な対応が行われているとして、当該報告を了承して公表することにした。
TBSテレビの対応報告書は、こちら(PDFファイル)

3. NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見への対応報告を了承

3月31日に通知・公表した、NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見(委員会決定第34号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、今回の問題を受けて2019年6月6日に公表した再発防止策の徹底を、放送に関わる全職員およびNHKの放送系の関連団体に改めて求め、経営委員会・国際放送番組審議会に報告したことが記されている。また、委員会決定を受けた新たな再発防止策として、取材した内容の真実性や利害関係者かどうかの確認などについて、出演者側の承認を取る内容になっている「出演等承諾書」を導入したことなどが記されている。
委員からは、「委員会決定を受けた後の局としての方策についての記載が乏しく、局として意見書を具体的にどう生かそうとしているのか分からなかった」という意見が出された一方、「番組制作に直接関わった人たちが、委員会決定をどう受け止めたのかについて、とても詳しく書かれていることは評価できる」「放送現場では意識や対応の変化が出てきていると書かれている。意見書の内容が伝わり、現場が受け止めているのであれば評価できる」「新型コロナウイルスの流行が本当に落ち着いた時点で、意見交換の機会が持てることを望みたい」などの意見が出され、概ね適切な対応がなされているとして、報告を了承して公表することにした。
NHKの対応報告書は、こちら(PDFファイル)

4. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、前回までの議論を受けて担当委員から示された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、8月下旬以降に当該放送局へ通知して公表することになった。

5. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今回の委員会では6月末から7月上旬にかけて当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告された。次回委員会では意見書の骨子案が提出される見込みである。

6. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとして、討議を継続していた。
今回の委員会では、その経過報告を踏まえ、さらに討議を継続することとした。

7. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について討議

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2500サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。
委員会では、「社会の意見分布を知る一番の手掛かりは世論調査だ。不正な世論調査結果に基づいて18回ものニュースが放送されたことは、その時々の世論に影響を及ぼした可能性を否定できない」「世論調査は国民にとって重要な判断材料であり、不正の有無についてチェックされることなく放送されていたことは深刻な問題だ」「放送、新聞が行うすべての世論調査の信頼性を揺るがす由々しき事態だ」などの厳しい意見が相次ぎ、「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがあるのではないか」との意見も出された。そのうえで、局からの再発防止策についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。

以上

2020年6月30日

琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、6月30日午後2時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、西土彰一郎委員の3人が出席し、琉球朝日放送と北日本放送からは7人が出席した。
委員会決定について神田委員長はまず、両局の番組についていずれも放送倫理違反があったと判断したと述べた。琉球朝日放送の番組は、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるので、放送倫理違反があったと判断したと説明した。また、北日本放送の番組は、民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるので、放送倫理違反があったと判断したと説明した。
続いて鈴木委員長代行は「当該局による自主的・自律的な事後対応とその成果を期待している。正直、厳しい表現の下りもあるが、『自主・自律』を促すための苦言だと受け取っていただければありがたい」とコメントした。また西土委員は、番組と広告の境目を常に意識して番組を制作してほしい。そうした実践の積み重ねにより、自分のものにした留意事項、各局の実践的なルールこそが重要であると考えるとコメントした。
これに対して琉球朝日放送は、「放送倫理違反があったと判断されたことを何よりも重く受け止めている。今回の意見を踏まえて今後の番組作りに生かしていきたい」と述べた。北日本放送は、「委員会決定を本当に深く受け止めている。これからは考査体制を強化して、本当に視聴者から信頼される番組作りを、改めてどんな番組が信頼されるのかということを全社員で考えて、真摯に取り組んでいきたい」と述べた。
続いて、午後3時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には50社67人が出席した。
はじめに神田委員長が、琉球朝日放送の番組は、番組の中身や表示の問題点から、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連の「留意事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるという判断をした。北日本放送の番組は、北日本放送が自ら「中途半端なPR色」を認めるように、特に番組の後半部分は視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連放送基準の92や民放連の「留意事項」に盛り込まれた特に留意すべき事項に照らして総合的に判断すれば、この番組も視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるという判断をしたと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて鈴木委員長代行は「広告をめぐる意見書は2件目だ。意見書は通常、当該局に向けてものを言うものだが、今回は『民放連や民放各局の自主的・自律的な精神と姿勢で検討されるよう望みたい』と民放連を名指しして対応を促している。我々のメッセージがそこに込められていることを読みとっていただけるとありがたい」と述べた。また西土委員は、営業、編成、様々な職責の方がコミュニケーションをとって実践していく中でルールが具体的に決まってくるものだと思う。そういう観点から意見書を執筆したと述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 意見書には放送法第12条が出てこない。民放連放送基準で言及できるので、12条を持ち出すまでもないということか。
A: 当委員会は放送倫理に照らして倫理違反があるのかを判断する機関であることを踏まえ、放送倫理違反に関する判断をすることをもって必要十分であると考えている。(神田委員長)
   
Q: 琉球朝日放送の番組がセブンの提供でないことは、いつ分かったのか。また、番組は局の自主制作か。
A: 1月のヒアリング時に分かった。ビックリした。番組は琉球朝日放送の自主制作だ。
(鈴木委員長代行)
   
Q: セブン出店で沖縄ではお祭り騒ぎになったことは1つの情報であり、ニュースだと思う。PR色と情報性は表裏一体だと思うが。
A: 民放連の「留意事項」において、番組で特定の商品・サービスを取り扱うことは、視聴者に対して具体的で有益な情報提供となることが指摘されている。当委員会においても、その意義を損なうことのないよう十分に意識して議論、判断をしている。同時に、番組で取り上げた情報が広告放送であるとの誤解や疑念を持たれることは、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わることとなるとの指摘もされているところであり、その「境目」の判断については、「留意事項」に書かれているとおり、3つの視点はあくまで例示であり、総合的に判断する必要があると考えている。ご質問の点については、本件においてその点だけを踏まえて判断したものではなく、番組全体について総合的に判断したものであるが、その判断に関しては詳細な記載は控えている。詳細に記載するときは、個別事案を離れて基準であるかのような誤解を与え、かえってその意義を損なう可能性があると考えている。民放連放送基準審議会においても、「演出や構成などには大いに工夫の余地があるのではないでしょうか」と呼びかけている。私たちも各局に「大いに工夫の余地がある」ことを狭めることがないようにしたいと考えており、意見書にも記載したとおり、各局に自主的・自律的に検討していただきたい。(神田委員長)
   
Q: 広告会社の方がプロデューサーとして表示されていたことについて、委員会はどんな議論をしたのか。
A: その部分は倫理違反の判断とは直接関係ないが、表示は正確であってほしい。(鈴木委員長代行)

以上

第36号

琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見

2020年6月30日 放送局:琉球朝日放送・北日本放送

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやって来た〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとして審議入りを決め、議論を続けてきた。

琉球朝日放送の番組には広告取引の実態がなかったにせよ、番組の中身や表示の問題点から、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連の「留意事項」は、広告取引という対価性の有無にかかわらず番組全般に適用される。それに盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。
また、北日本放送の番組は特に後半部分は提供スポンサーの意向や事業などから独立した内容なのか見分けがつきにくく、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。

2020年6月30日 第36号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2020年6月30日 決定の通知と公表

通知は、2020年6月30日午後2時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われ、午後3時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見が行われた。記者会見には50社67人が出席した。
詳細はこちら。

2020年10月9日【委員会決定に対する琉球朝日放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、琉球朝日放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年9月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

琉球朝日放送の対応

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目 次

  • 1.委員会決定についての放送対応
  • 2.ホームページへの掲出
  • 3.委員会決定の社内周知
  • 4.社員・スタッフによる番組再検証
  • 5.社内連絡会議
  • 6.番組審議会への報告
  • 7.再発防止への取り組み
  • 8.総括

2020年12月11日【委員会決定に対する北日本放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、北日本放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

北日本放送の対応

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目 次

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理違反があったと判断された番組
  • 3.番組放送から現在に至るまで
  • 4.主な取り組み
  • 5.おわりに

第149回 放送倫理検証委員会

第149回–2020年6月

生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』を審議

第149回放送倫理検証委員会は6月12日にオンライン会議システムを使用して開催された。
バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意する不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、7月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人という不適切な演出をしたとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させ、前回審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組を購入して放送した複数の局から提出された報告書を踏まえて引き続き討議を行ったが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

1. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、7月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

2. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書のさらなる修正案が示されて意見交換が行われたが、次回も引き続き審議することになった。

3. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
前回の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めたが、今回の委員会では当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送は同年10月19日には、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとして、討議を継続していた。
今回の委員会では、上記の番組のいずれかを購入して放送した他の放送局から提出された報告書も踏まえて引き続き討議したが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

以上

2020年2月26日

在阪テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と在阪のテレビ・ラジオ10局との意見交換会が、2020年2月26日大阪市内で開催された。放送局の参加者は10局74人、委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、長嶋甲兵委員、中野剛委員、西土彰一郎委員、巻美矢紀委員の6人が出席した。放送倫理検証委員会が大阪で意見交換会を開くのは2014年11月以来である。

開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「BPOの役割は、放送の自由、放送の責任を担っている現場の皆さんを後押しすることである。決定を出す背景にある委員会の議論や思い入れを知ってもらい、また局側からも言いたいことをフィードバックして、双方向の流れを作る意見交換会にしたい」と挨拶した。

意見交換会の前半は、2019年度の委員会決定から、「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」(委員会決定 第31号)、「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」(委員会決定 第32号)、「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」(委員会決定 第30号)の3事案を取り上げ、担当委員からの説明と質疑応答を行った。

「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」について、まず、審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の升味委員長代行が意見書の要点を説明したうえで、「街ブラ企画では事前に取材対象が決まっているわけではないので、現場にアンテナの立っている人がいないと問題のある個所がそのまま通ってしまうことになる。編集の段階で複数の目でチェックする体制が維持できなかったことも問題があった。社会ではLGBTなど性的個性に触れることに敏感になっているのに、どうしてピンとこなかったのか、ヒアリングでも決定的な要因は見つからなかった。日々番組を作る人たちがアンテナを張っていないと問題点を指摘するのは難しい。アンテナが立つようにするには研修なども必要だが、現場で意見交換や違った価値観のスタッフの話を聞くことが必要だと思う。現場ではそうした余裕がないようだ」と述べた。続いて同じく意見書を担当した長嶋委員が「情報バラエティー番組と報道番組の境界線があいまいになってきていて、それぞれの番組作りのやり方が混ざり合うところで問題が起こっていると感じる。それをマイナスに捉えず、お互いの専門分野の知見と経験を生かし合ってよい番組を作る方向があるのではないか。今年度は意見書の数が増えたが、放送界にとってはむしろよいことだと捉え、これまでの番組の作り方や中身を検討し直す機会にしてほしい」と述べた。参加局からは「取材対象者は特に不愉快と感じていなかったそうだが、それでも問題なのか」と質問があり、升味委員長代行が「取材対象者がどう思っても、テレビが他人のセクシュアリティを詳しくしつこく聞くのは社会に対する影響から考えてまずいと思う」と答えた。

「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」については、冒頭で審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の中野委員が意見書の要点を説明したうえで、「『韓国ってね、手首切るブスみたいなもんなんですよ』という発言を放送に残すことになった局内でのやり取りを意見書にしっかり書いた。また、放送後、局が自律的に『様々な感じ方をされる視聴者の皆様への配慮が足りず、心情を傷つけてしまう可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだった』とする見解に至った経緯にも詳しく触れた。意見書の内容がもし制作現場に十分に受け止められていないとすれば、それを埋めるのは局の仕事で、放送倫理規範を現場に浸透させていく活動をこれからも行っていただきたい」と述べた。また同じく意見書を担当した巻委員は「社会の多数派にとっては何気ないような表現であったとしても、当事者、特にマイノリティにとってはそれが自尊を傷つけるようなことがあるということを、改めて当事者の立場に立って、想像力を駆使して今後の番組作りに生かしてもらいたい」と述べた。参加局からは「特定個人の発言が良くなくても、別の出演者が『そういうレッテル貼りはいけない』と発言すれば番組は成立するのではないか」と質問があり、中野委員は「この番組に関しては、ほかの出演者から『それは違うんじゃないか』といった発言はなかった。私たちは個別番組ごとに判断する」と答え、神田委員長は「番組の流れの中で放送倫理違反と判断した。『手首切る』『ブス』という2つの言葉自体が問題であると判断したものではなく、あくまでも発言全体の文脈の中で広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現だという結論に至ったものだ」と述べた。

「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」については、まず、神田委員長が、民放連が2017年に策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の概要を含めて意見書の要点を説明したうえで、直前に開かれたBPOの事例研究会でも多くの質問が出たことを紹介した。参加局からは「テレビでは商品の露出に協力スーパーを入れたり、あるいは番組のバックボーンとしてそれを基に番組ができていたりなど、『タイアップ』と呼ばれる手法があるが、このタイアップについてはどういうところに留意すればよいか」と質問があり、神田委員長は、「個々の映像を前提としないで、タイアップという類型について一概に回答することは難しい。あくまで一般論としていえば、まず民放連の『留意事項』に照らし、『広告放送』であると視聴者に誤解されないように自主的・自律的に留意をしてもらうことが大切である。『留意事項』2の3つの要素はもちろんのこと、これらはあくまで例示であるので総合的に判断いただく必要がある。そして、結果として、放送倫理違反になる事例があるとしても、制作の過程で、『留意事項』に照らした議論をきちんとしていただければ、自ずと視聴者に『広告放送』と誤解されるような番組は減っていくのではないかと思っている。また、議論の経過をきちんと残しておくことにより、局が自主的・自律的な判断をしたことがきちんと説明できるのではないかと考える」と述べた。また別の参加局からの「どの部分がどういう違反になっているのか、どうあるべきだったか明快にされるべきではないか」という質問に対して、神田委員長は「長野放送の事案では、『留意事項』に照らし、最後の部分についてはかなり宣伝や広告に近いように映ったと指摘したうえで、放送全体として視聴者に『広告放送』と誤解されると判断したが、事案によっては、どの部分が放送倫理違反といえるのか特定できるものもありうる」と答えた。

意見交換会の後半は、「実名・匿名報道などについて」をテーマに取り上げた。
はじめに、2019年7月に発生した京都アニメーション放火事件の遺族への取材をめぐる放送界全体の動きや自社の被害者氏名の報道について、毎日放送報道局の澤田隆三主幹が報告した。この中では、事件発生の3日後に在阪民放4社でメディアスクラム回避策を協議し、「警察発表の居住地への取材は代表1社のみとし、映像素材や情報を共有する」などと取り決めたこと、8月には、NHKと民放局が「取材交渉は代表1社の記者が行い、カメラは同行しない」「取材交渉では必ず、民放とNHKの 6社を代表していますと伝えること」といった「京都方式」と呼ばれる枠組みに合意したことなどが紹介された。また、毎日放送では、遺族の精神的ダメージが大きいことから、被害者の実名発表から24時間を過ぎれば、遺族が実名報道を拒否している場合は匿名にする方針を決めたこと、2回目に発表された25人の犠牲者のうち遺族が氏名の公表を拒否している20人について、全国ニュースと重ねて実名が放送されないようにローカルニュースでは匿名としたことが報告された。澤田主幹は「この事件は特定の会社で起こったことであり、公共の場で起きたテロなどとは報道の目的も変わってくる。この事件をきっかけに実名と匿名のあり方の議論を深めていくべきではないか。また、被害者とメディアの間に立って取材を受ける意向を確認できるような第三者機関ができないか議論を始めていければよいと思っている」と述べた。続いてNHKの担当者が「メディアスクラムは防ぎたいと、民放4社の動きの情報を得ながら、常に考えてきた。NHKは一貫して実名報道を行ったが、必要以上に長く実名を出さないように配慮した。実名報道が絶対的に正しいとは思っておらずその意義について、今後も議論を続けていきたい」と説明した。また朝日放送テレビの担当者は「この事件は実名報道が原則であることをゆるがしたのではないか。議論のうえで、実名報道は各番組で1回にとどめ、ネット配信では実名公表が可能とされている被害者も名前は出さなかった。今後このような事件が起きた場合にしっかりと実名報道する理由を放送の中で説明する必要があるのではないか」と述べた。これらの発言に対し、西土委員は「各局の発言を重く受け止めた。実名報道については、被害者本人がどう思うのか、想像力をたくましくして日々考えるしかないのではないか。現場で厳しい対応を迫られているジャーナリスト、とりわけ若い人々の実践を我々がどう厳粛に受け止めるかも大事だ。倫理は現場のジャーナリストが苦悩しているところからでき上ってくるものであり、BPOの委員が勝手に決めるものではないと思う」と感想を話した。
続いて、阪神・淡路大震災から25年を機に朝日放送テレビの映像アーカイブをウェブサイトで公開した取り組みについて、朝日放送テレビの木戸崇之報道課長が、実際のウェブサイトの映像を紹介しながら、公開したのは約38時間分・約2000クリップで、肖像権については、受忍限度と社会的意義のバランスについて議論のうえ公開することにしたと報告した。

意見交換会の終了にあたり、神田委員長が「私たちは、問題となった放送があった場合、『放送局の放送後の自主的・自律的な対応』と『放送倫理違反の程度の重さ』という2つの要素を考慮して審議に入るかどうかを決める。自主的・自律的な対応が採られていても、放送倫理違反の程度が重ければ審議入りをすることになるが、多くの事案では当該放送局自身も放送倫理違反であることを認識し、自主的・自律的であり、かつ適切な事後対応がされていれば、その点を適切に評価して審議入りしないとの判断に至っていると説明し、「今日は参加された放送局から多くの意見をいただき心強かった。皆さんとのやり取りを通じて放送業界の自主・自律を守っていかなければならないと感じている」と結んだ。
最後に参加局を代表して、NHK大阪放送局の有吉伸人局長が「メディアをめぐる状況が大きく変化していく中で、今日は意見書の背景や議論のプロセスなど我々にとって意味のある話が聞けた。それぞれの現場でよりよい放送を出していくために議論し続けていく」と挨拶した。
当日は意見交換会に続いて懇親会を予定していたが、新型コロナウイルスの感染が懸念される状況を考慮し中止することとした。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 委員長はじめ各委員の説明や見解を直接聞くことができ、普段書面等で読むことしかできないBPOの“生”の考えの一端を知ることができた。

  • 委員の方々の見解、審議や考察のポイント、放送局側出席者の声など、このような意見交換会でしか知ることのできない視点や意見などに触れることができ、非常に参考になった。

  • 委員の発言を聞いて、制作側の視点と第三者の視点の両方から見ようとされていること、結果の「○」「×」より過程の問題点を明らかにすることに力点があること、そして「今議論しておかなければ」という覚悟を持って取り組んでおられることが感じ取れた。

  • 読売テレビと関西テレビの問題は、映像もあり、実際の雰囲気がわかりやすかった。

  • 実名報道の件は特に勉強になった。

  • 番組についての意見を局同士で忌憚なくやり取りできる機会は、こうしたBPOと局との意見交換会しかないと思われるので、そういう意味でも時間をかけて議論する場をさらに広げていただきたい。

以上

第148回 放送倫理検証委員会

第148回–2020年5月

琉球朝日放送と北日本放送のローカル2番組を審議
6月にも委員会決定を通知・公表へ

第148回放送倫理検証委員会は5月15日にオンライン会議システムを使用して開催された。
委員会が1月24日に通知・公表した関西テレビの『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告が、当該放送局から書面で提出され、その内容を検討した結果、委員会との意見交換が適切な時期に開催されることを期待し、報告を了承し公表することにした。
3月31日に通知・公表を行ったNHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。また4月8日にメールにて通知し、委員会決定をBPOウェブサイトに掲載して公表した北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見について、委員長から経過の報告がされた。
番組で取り上げている特定企業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、6月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
① 秋田放送が制作放送した『そこが知りたい!過払い金Q&A』、②山口放送が制作放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』、③山口放送が制作放送し、また秋田放送が放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座! PART2』というローカル単発番組について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書と同録DVDの提出を求め、継続して討議することとした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させていたことが判明したフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われることなどについて意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2020年5月15日(金)午後1時~午後4時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)他オンライン
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、大石委員、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員

1. 関西テレビ『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告を了承

1月24日に通知・公表した、関西テレビの『胸いっぱいサミット!収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見(委員会決定第32号)への対応報告が、当該放送局から委員会に対し書面で提出された。また、同局の番組審議会およびオンブズ・カンテレ委員会の議事内容をまとめた「番組審議会議事録」、「オンブズ・カンテレ委員会の見解」もあわせて提出された。
報告書には、再発防止、放送倫理意識向上に向けた「制作局における取り組み」が制作部会で共有され、自社検証番組「カンテレ通信」で審議に至る経緯、決定内容、改善に向けた取り組み等について放送したほか、専門家を招いた「全社的研修会」を3回開催したことなどが記されている。
委員からは、「意見書やオンブズ・カンテレ委員会が指摘しているにもかかわらず、制作現場と局の間にある意見の分断の解消についての言及がないのは残念である」「意見書を受け、制作現場の意識に変化はあったのかについて書いていただけるとよかった」といった意見が出されたが、意見書で指摘した課題に対し概ね適切な対応が行われており、また、新型コロナウイルスの拡大に伴う緊急事態宣言のため、委員会と当該局との意見交換は行われていないが、今後、適切な時期での開催を期待することとして、当該対応報告を了承し、公表することにした。
 関西テレビの対応報告書はこちら(PDFファイル)

2. NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見および北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見の通知・公表について報告

NHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、委員会は放送の内容は正確ではなく、適正な考査も行われなかったとして放送倫理違反があったと判断し、3月31日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長や担当委員が当日の様子を報告した。
また、北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、委員会は有権者に誤解を与え、比例区の投票行動をゆがめた可能性があるなど選挙報道に求められる公正・公平性を害し放送倫理に違反していると判断し、4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下であることを踏まえ、通知はメールで、公表は委員会決定をBPOウェブサイトに掲載する形で行った。この日の委員会では、その経緯について委員長が報告した。

3. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議、6月にも通知・公表へ

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやってきた〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、昨年12月の委員会で審議入りした。この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、6月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

4. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が示されて意見交換が行われた。

6. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。
この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。
秋田放送では、上記番組を2018年2月17日に初回放送し、その後、同年10月13日に2回目の放送をし、今回は3回目の放送であった。また、上記番組とは別に、2019年10月19日に山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を放送していた。
そして、山口放送では、2018年6月2日、同月15日、2019年5月11日及び同月18日に、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を、また、2019年5月25日および同月29日に、上記の『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』をいずれも制作放送していた。
そこで、委員会は秋田放送と山口放送から提出された報告書を基に討議した結果、いずれの番組も日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも、上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求め、継続して討議を行うこととした。

7. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、4月3日、フジテレビは、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ウェブサイト上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
委員会は、当該放送局から提供された報告書と同録DVDを基に討議した結果、委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、これまで2017年12月31日から2020年3月7日にかけて放送された番組のうち、レギュラー番組として放送された1回目(2018年10月20日)から25回目(2019年10月26日)までの回について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

以上

2020年3月31日

NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、3月31日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行の2人が出席し、NHKからは国際放送局長ら2人が出席した。
委員会決定について神田委員長は、「NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた放送倫理基本綱領、また、NHKの『放送ガイドライン』に照らした適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べた。続いて升味委員長代行が、「NEP(NHKエンタープライズ)による試写はプロデューサー1人だけ。できれば、NHK本体としても考査の役割を果たすために最終的に番組内容を検討する機会を意識してもつことが、今後、このようなつまずきにつながらない方法かと思う」とコメントした。これに対してNHKは、「再発防止はもとより、国際放送はこれからも放送法、放送番組基準、NHKの『放送ガイドライン』にきちんと従っていく形で、ますます視聴者のみなさまに資するチャンネルとして力を入れていきたい。今回のことを糧にして、これからも頑張っていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から都市センターホテル会議室で記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には19社30人が出席した。
はじめに神田委員長が、「自主制作か外部への委託制作か、持ち込み番組かを問わず、放送局は全ての番組について放送責任を負い、その内容は放送倫理にかなったものでなければならない。NHKが適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って説明を加えた。続いて升味委員長代行が、「テレビ局についての信頼は、事実が正しいことが大前提だ。事実の正しさを確認することは、地味で単純な作業だと思うが、それが大切である。それから、試写や考査で疑問が生じた時には、中途でうやむやにせず、結末まで原因を追究する必要性を再確認する機会にしていただければありがたい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 「事実確認の基本的作業なし、誤認の連続」とのこと。ディレクター、カメラマン、音声マンの3人とも本当に誤認だったのか。つまり、どこかで気付いていたのではないかという議論、3委員の間であったのか。
A: カメラマン、音声マンは日本人ではない。不信は感じなかったと言っている。ディレクターは、その場で全く疑問を感じなかったと答えている。1点あるとすれば、「彼女をレンタルする20代男性」の取材している場面。彼女をレンタルする動機が、女性と話すのが苦手だからという割に、非常にこなれた感じで最初から彼女に接していることについて、「あれっ」と思ったことはあったようだ。しかし、自ら納得してしまったところがある。若い人はこんなものなのかということと、前に同じ女性をレンタルしたことがあったので、2度目ならこういうものなのかなと納得してしまった。ディレクターの説明によると、1つずつ多少の疑問はあったけれども、自分の中で納得してしまっているうちに終わってしまったようだ。(升味委員長代行)
   
Q: 音声マンとカメラマンが日本人ではないとことだが、日本語はよく理解できないような方だったのか。
A: 完ぺきではないと思うが、外国から呼んだわけではないようだ。日本にいるスタッフ。(升味委員長代行)
   
Q: この審議が行われている途中で、NHKの朝の番組でシューズレンタルの話があった。事後のブリーフィングで、その件は取り上げないということだったので、今日の意見書の中に取り上げているのかなと注目していた。記載すべきだという議論はなかったのか。
A: NHKの『おはよう日本』についての質問かと思う。『おはよう日本』については、審議に至らずという結論となった。ただし、討議に付し、その中での委員の議論状況は委員会のHPで開示した。委員会の問題意識を必要十分に開示したということを踏まえて、本意見書に重ねて指摘することは結論として控えた。(神田委員長)

以上

2020年5月15日

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』審議入り

放送倫理検証委員会は5月15日、フジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、フジテレビが2017年12月31日から2020年3月7日にかけて放送したクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』。フジテレビは4月3日、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともにお詫びを行った。
番組は、1人の「チャレンジャー」が、99人の壁の解答者に阻まれながら全問正解を目指すクイズ番組で、合計5問に正解すると賞金100万円を獲得できるというもの。「チャレンジャー」はあらかじめ自分の得意なジャンルのクイズを指定できる特権を与えられる。
出場者全員が専門ジャンルの知識を持っているというのがこのクイズ番組の見どころだが、逆にそうした専門性の高い100人もの出場者をオーディションで選ぶことや、番組で使用するクイズの作成、解答の裏どり作業は、当初から相当の労力を要したという。
委員会は、フジテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議した。委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(検証委員会決定20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2020年4月8日

北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見の通知・公表

北海道放送に対する上記委員会決定の通知は、新型コロナウイルスに関連する緊急事態宣言の発令を踏まえ、4月8日午後1時30分に、電子メールにて実施した。

これに対して北海道放送は、「当社が2019年7月3日(水)に放送した『今日ドキッ!』内のニュースについて、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会から放送倫理違反の指摘を受けたことを重く受け止めています。意見書では、参議院比例代表選挙の公示前日に、特定の候補のみを取り上げて放送したことは、『選挙報道に求められる公平・公正性を損なっており、放送倫理に違反する』と指摘しています。当社は意見書に真摯に向き合い、再発防止に取り組み、より良い選挙報道の実現に向けて一層の努力をしてまいります。」とのコメントを、自社のホームページに掲載した。

また公表については、同日午後2時30分にBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載することにて実施し、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたが、4月15日時点で質問は寄せられていない。

以上

第35号

北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見

2020年4月8日 放送局:北海道放送

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、放送の内容が他の立候補予定者との公平・公正性を害し放送倫理違反となる可能性があり、制作に当たってこれまで委員会が指摘してきた諸問題が検討された形跡がないなどとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りした。
審議の結果、委員会は、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本件放送は公示日の前日に約5分間にわたって特定の立候補予定者のみを取り上げて視聴者に強く印象づけるような編集をし、有権者に誤解を与え比例区の投票行動を歪めた可能性があるとして、選挙報道に求められる公平・公正性を害したことが、放送倫理に違反していると判断した。

2020年4月8日 第35号委員会決定

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目 次

2020年4月8日 決定の通知と公表

通知は、2020年4月8日午後1時30分に電子メールにて行われ、午後2時30分からBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載して公表された。なお記者会見の開催は見合わせた。
詳細はこちら。

2020年12月11日【委員会決定に対する北海道放送の対応と取り組み】

委員会決定 第35号に対して、北海道放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年12月7日付で提出され、委員会はこれを了承した。

北海道放送の対応

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目 次

  • 1.委員会決定の報道と社内周知について
  • 2.問題の確認と対応について
  • 3.委員会決定と社内アンケートの実施
  • 4.番組審議会への報告と審議
  • 5.再発防止に向けて
  • 6.BPO放送倫理検証委員会との勉強会
  • 7.おわりに

第34号

NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見

2020年3月31日 放送局:NHK

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは2019年5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。委員会は9月、利用客が会社関係者でないこと等の確認が適切に行われるべきであったところ、十分な確認をしなかった可能性がうかがわれるため、放送に至るまでの経緯や原因を検証する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
委員会は、放送倫理基本綱領の「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」、NHK「放送ガイドライン」の「NHKのニュースや番組は正確でなければならない」との規定に照らすと、出演者が本物の利用客ではなかった点、また、出演者が会社関係者だったのにその関係を明らかにしていなかった点において、放送の内容は正確ではなく、したがって、NHKが適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。

2020年3月31日 第34号委員会決定

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目 次

2020年3月31日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年3月31日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から都市センターホテル会議室で公表の記者会見が行われた。記者会見には、19社30人が出席した。
詳細はこちら。

2020年7月10日【委員会決定に対するNHKの対応と取り組み】

委員会決定 第34号に対して、当該のNHKから対応と取り組み状況をまとめた報告書が2020年7月1日付で提出され、委員会はこれを了承した。

NHKの対応

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目 次

  • 1. 委員会決定についての放送対応
  • 2. 委員会決定の放送現場への周知
  • 3. 経営委員会・国際放送番組審議会への報告
  • 4.「Inside Lens」制作関係者などの受け止めや意識の変化
  • 5. 再発防止の取り組み
  • 6. おわりに

第147回 放送倫理検証委員会

第147回–2020年3月

北海道放送『今日ドキッ!』について審議 4月に委員会決定を通知・公表へ

第147回放送倫理検証委員会は3月13日に開催された。
委員会が昨年12月10日に通知・公表した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、再発防止に向けての取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、意見書で指摘した課題に対し適切な対応が行われているとして、了承し公表することにした。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の再々修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、4月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
番組で取り上げている特定企業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員から意見書の原案が示された。

1. 読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見への対応報告を了承

昨年12月10日に通知・公表した、読売テレビのローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見(委員会決定第31号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。報告書には、再発防止に向けて「人権研修会」を新設したことやBPO委員を招いて実施した勉強会の様子、その後の全社的な意識の変化についてなどが詳細に記されている。委員からは「番組のコンテンツ力やテレビのブランド価値を高める『攻めのコンプライアンス』ができればと思うというアンケートの感想に、前向きな姿勢であるとの印象を受けた」「良い番組づくりにはお金と人が必要だなどとする勉強会での社長の決意表明に感銘を受けた」「再発防止を図る取り組みや今後の改革に期待する」といった感想が述べられ、意見書で指摘した課題に対し適切な対応が行われているとして、当該報告を了承し公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)

2. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について審議、4月に通知・公表へ

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカル情報番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本来の選挙区の区切りとは異なった報道を行うことで有権者の投票行動をゆがめたのではないか、また特定候補者だけを取り上げ他の比例代表候補者や政党を報道しなかったことは選挙の公平・公正性を害しており放送倫理違反となる可能性があるとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りし、議論を重ねてきた。今回の委員会では、担当委員から示された意見書の再々修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、4月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. スーパーの買い物客密着企画で不適切な演出を行った『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、意見交換が行われた。

4. 海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組企画で不適切な演出を行ったTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、昨年12月の委員会で審議入りした。この日の委員会では、意見書の原案が示された。次回委員会には、意見書の修正案が提出される予定である。

以上

2020年2月13日

TBSテレビ『消えた天才』映像早回しに関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、2月13日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員の3人が出席し、TBSテレビからはスポーツ局担当の取締役ら4人が出席した。
神田委員長は委員会決定について、「今回の放送は、1993年に出されている『放送番組の倫理の向上について』と題する提言と民放連の放送基準(32)に抵触し、過剰な演出であるとして放送倫理違反があったと判断した」と説明した。続いて、岸本委員が「意見書の立場は、個人に責めを帰するのではなくその人がどうしてそうするに至ったか背景や構造的な問題がないかを探り学ぼうというものである。現在の技術環境に合わせたチェックの仕組みを構築するのはすぐにできることではなく、そうした状況にあっては個々人のモラルによるところが大きい」と述べた。続いて、鈴木委員長代行が「今回のように当該局が自ら問題のありかを探って公表するケースはそう多くはない。あるスタッフがプロデューサーに問題を報告してから公表まで1週間であり、ものすごいスピード感である。報告しなければいけないと思ったスタッフの感覚は健全であり、こうした感覚は今後いろいろなことに生きる」と述べた。これに対して、TBSテレビは「番組作りというのは、小さいかもしれないけれど、一個一個の判断の連続で最後に番組になっていくものなので、その判断が技術革新の便利さゆえに、安易になってはいけないということを教えていただいた。技術は進歩するが、立ち止まって番組作りのプロセスの中で、作り手が何を大事に、何を伝えるかということをきちんと踏まえて作れるような制作者のリテラシーアップと、番組を通じての視聴者への還元にこれから努めていきたいと思う」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社39人が出席した。
はじめに神田委員長が意見書に沿って、委員会の判断、番組の詳細、背景と問題点等を説明した後、「意見書の最後の段落に『技術革新が下げた心理的なハードルは、個々人のモラルによって押し上げ、保たなければならない状況にある』と書いている。『モラル』は『放送倫理』に置き換えることが可能であり、あらゆる放送局で妥当する普遍的な課題をつきつけている。各局各人に放送倫理に基づく対応を自主自律の下で検討してもらい、再発がないようにと強く願っている」と述べた。続いて岸本委員が「意見書に四つの背景と問題点を書いた。特に後の二つ(「技術革新と心理的ハードルの低下」「チェックの仕組みの限界」)は局や部署を問わず放送に携わる人が共有する課題だと思っている。今回の特徴は、問題が内部での気付きによって発覚し、すみやかに調査を開始したことである。違和感を感じたことを上司に上げる勇気が今回の特筆すべき自主自律的な対応につながった。こうした気づきとそれを口にして、問題の共有・解決につなげていく力学が働いたことをとても頼もしく思っている」と述べた。鈴木委員長代行は「ヒアリングで、早回しにかかわった人たちに悪意はまったくなく、むしろ"消えた天才"に対して、こんなにすごかったんだとつい強調したいためにこういう行為に走ったと改めて確認できた。組織的に確立された手法が継承されているわけではないということがわかった。スポーツ局内では、スピードを変える加工は悪い意味ではなく日常的に行われていた。スポーツ中継のリプレイでの早送りやスローモーションなどは、視聴者も了解しているから手法として認められているが、今回はまさかここで速めているとは思わないところで行われた。視聴者との約束を超えた映像加工であり、過剰な演出であると言わざるを得なかった。技術的に可能になればなんでもやっていいわけではなく、やっていいことと悪いことを当該局だけでなく広く放送の現場の人に考え”てほしい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: (意見)当該局の自主自律的な対応を今回のような形で意見書で評価して盛り込んでもらえると、委員会がこういう対応を自主自律的なこととして受け止めていることがよくわかる。
A: 意見書の中でも常に当該局の自主自律的な姿勢は適切に評価するように努めている。審議入りした案件だけではなく、討議入りするかどうか、また、討議から審議入りするかどうかのステージにおいても自主自律的な取り組みをしているかどうかを重視している。討議入りした案件について審議入りするか否かの基準については、2009年7月に川端前委員長が委員長コメントを出している。ひとつは放送倫理違反の程度の大小、もうひとつは自主自律的な取り組みをしているかを勘案して審議入りするかどうかを判断するとしている。審議入りした案件において、放送倫理違反があるとしても、局の事後的対応の評価を明らかにして、すべての局に自主自律的な姿勢の重要性と大切さを伝えていきたいと思っている。(神田委員長)
   
Q: 審議入りの経緯を改めて聞きたい。どういうきっかけでBPOに伝わったのか。元々野球の投手の件を調べた結果、ほかの3件が明らかになったのか。
A: 元々当該局が4件を公表した。それを基にBPOに報告書を提出してもらった。その時点で局の一連の対応はわかっていたが、もうひとつの審議入りの条件である、放送倫理違反の程度が重いか軽いかについて、委員会としては、初めてのケースであるし、こういう手法で早回しが行われたことに驚きがあり、事後対応はよいけれども審議入りせざるを得ないと判断した。技術革新の問題には、当該局だけではなく広く放送界に警鐘を鳴らすテーマがあるのではないかと考えて審議入りした。(鈴木委員長代行)

以上

第146回 放送倫理検証委員会

第146回–2020年2月

NHK国際放送『Inside Lens』委員会決定を通知・公表へ

第146回送倫理検証委員会は2月14日に開催された。
1月24日と2月13日にそれぞれ通知と公表の記者会見をした関西テレビ「『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」とTBSテレビ「『消えた天才』映像早回しに関する意見」について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、3月にも当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の原案が提出され、意見交換が行われた。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の修正案が提出され、これに基づいて意見交換が行われた。
参議院比例代表選挙に立候補予定の特定候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換を行った。
番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員からヒアリングの結果が報告され、意見書の構成案が示された。
宿泊施設を時々利用する客として登場した男性が、実際には一度も利用したことがなく、また、当該男性がその施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員であることが判明したNHK総合テレビ『おはよう日本』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、放送倫理に照らして問題がある放送であるが、比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないこと、不十分であると言わざるを得ないものの事前に一定の確認作業が行われていたこと等の事情を総合的に考慮して、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

議事の詳細

日時
2020年2月14日(金)午後3時~午後9時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 関西テレビ「『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」とTBSテレビ「『消えた天才』映像早回しに関する意見」の通知・公表について報告

関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』は、2019年4月6日など2回の放送の中で、韓国人の気質について、コメンテーターである作家の「手首切るブスみたいなもんなんですよ」という発言をそのまま放送した。また、TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』は、2019年8月11日など3回の放送の際、野球のリトルリーグなど4件の映像で早回し加工を行った。委員会はいずれも放送倫理に違反するものと判断し、『胸いっぱいサミット!』については1月24日、『消えた天才』については2月13日に、それぞれ当該放送局への通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長や担当委員が、通知の際のやりとりや会見での質疑応答などの模様を報告したあと、委員会決定を伝えた双方の放送局のニュースを視聴した。

2. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議、3月にも通知・公表へ

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。この日の委員会では、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、3月にも当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. スーパーの買い物客密着企画で不適切な演出を行ったテレビ朝日『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りし、当該放送局の番組制作担当者らに対するヒアリングが行われた。今回の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換が行われた。

4. 海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組企画で不適切な演出を行ったTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送の『今日ドキッ!』について審議

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカル情報番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本来の選挙区の区切りとは異なった報道を行うことで有権者の投票行動をゆがめたのではないか、また特定候補者だけを取り上げ他の比例代表候補者や政党を報道しなかったことは選挙の公平・公正性を害しており放送倫理違反となる可能性があるとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りを決めた。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が提出され意見交換が行われ、次回も引き続き審議することになった。

6. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっていて、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、委員会は12月から審議を続けている。この日の委員会では、担当委員から1月以降に行われたヒアリングの結果が報告されるとともに、意見書の構成案が示された。次回委員会には、意見書の原案が提出される予定である。

7. 番組で紹介した宿泊施設の利用客が関係者だったNHK総合テレビの『おはよう日本』を討議

NHK総合テレビが2019年12月9日に放送した『おはよう日本』における午前6時台のコーナー「おはBiz」で、約4分間にわたり、"キャビン型ホテル"と呼ばれる宿泊施設が紹介された。その中で、施設を時々利用する客として登場した男性が、実際には一度も利用したことがない上に、施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員だったことが視聴者の指摘で明らかになった。NHKは、同月26日に当該番組およびホームページで説明を行うとともにお詫びした。取材・制作担当者は、複数回メーカー社員本人の確認作業を行ったが、勤務先や宿泊施設に対するチェックが十分ではなかったと説明している。このため、委員会では、当該放送局から提出された報告書と番組の同録DVDをもとに討議した。
委員会は、同局において、同種の事案が審議中であるにもかかわらず、看板番組の一つであるニュース番組において、過去に利用したことがないのに時々利用している客として紹介し、また、当該男性がその施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員だったことを見抜けなかったことは、事実と異なる内容の放送であり、放送倫理に照らして問題があるとの厳しい意見が出された。他方で、比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないこと、不十分ながらも事前に一定の確認作業が行われていたこと、再発防止策が導入され、今後徹底を図ることとされていること等の事情を踏まえ、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

  • 過去に利用したことがないにもかかわらず、時々利用している客として紹介し、結果的に利害関係者を取り上げるなど事実に反する内容の放送になっている。現在審議中の当該局の他番組と同様の事態が、看板番組の一つであるニュース番組において再発したことは極めて遺憾である。

  • 当該客の属性等について事前に一定の確認作業は行われている。嘘をついている本人に何度確認したところで見破ることは難しい。もっとも、紹介された利用客をインターネットで検索した際、同姓同名のSNSアカウントを発見するなどシューズメーカーの社員である可能性が出てきた時点で、より慎重に確認すべきだった。

  • 比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないことなどからすれば、対象となる問題が必ずしも大きいわけではなく、審議入りするまでには至らないのではないか。

  • 当該局の他番組で起きた問題を受けて作成された「取材・制作の確認シート」をこのコーナーでも導入の検討をしている段階だったというが、導入されていたら今回のことは起こらなかっただろうか。企業のサービスを紹介する際に利害関係者から利用者の紹介を受けることを当面禁止したり、取材協力者に対して利害関係者ではないかを確認するための「出演承諾書」を交わす措置を取るなど、一定の自主的・自律的な事後対応がなされ、今後徹底が図られることに期待したいが、利害関係の有無の確認の難しさが問われている。

  • 「取材・制作の確認シート」を導入して安心するのではなく、記者のスキルや見極める目を高めていくことが重要なのではないか。それは一朝一夕には難しいけれども、より本質的なところから対処してほしい。

以上

第33号

TBSテレビ 『消えた天才』映像早回しに関する意見

2020年2月13日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、2019年8月11日の放送で、野球のリトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回(2018年1月3日および11月4日)でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたと報告があった。2019年9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りし、議論を重ねてきた。
委員会は、「実際の映像」と言いながら、またはそう受け取れる状況で、映像の加工が繰り返された本件放送について、1993年に「NHK・民放 番組倫理委員会」が出した提言「放送番組の倫理の向上について」の「1 放送人としての心構え (2)事実に基づいた取材・制作を行う」や、日本民間放送連盟の放送基準「(32)ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づいて報道し、公正でなければならない」に抵触するため放送倫理違反があったと判断した。

2020年2月13日 第33号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

    • 1 卓球コーナー
    • 2 フィギュアスケート・コーナー
    • 3 サッカー・コーナー
    • 4 リトルリーグ・コーナー
  • III 委員会の調査pdf

    • 1 異例の“昇格”をした番組
    • 2 一連の早回し加工
      • (1) 卓球のラリー
      • (2) フィギュアスケートのスピン
      • (3) サッカーのドリブル
    • 3 新しい体制へ移行
    • 4 新体制下でも行われた早回し
    • 5 発覚の経緯と公表
  • IV 本件放送の背景と問題点pdf

    • 1 整っていなかった制作体制
    • 2 スピードを変える加工
    • 3 技術革新と心理的ハードルの低下
    • 4 チェックの仕組みの限界
  • V 委員会の判断pdf

  • VI おわりにpdf

2020年2月13日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年2月13日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、25社39人が出席した。
詳細はこちら。

2020年7月10日【委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第33号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年7月2日付で提出され、委員会はこれを了承した。

TBSテレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定についての報道
  • 2.委員会決定の社内周知
  • 3.BPO委員を招いて研修会を実施
  • 4.番組審議会への報告
  • 5.「放送と人権」特別委員会での議論
  • 6.再発防止への取り組み
  • 7.総括

2020年1月24日

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、1月24日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、中野剛委員、巻美矢紀委員の3人が出席し、関西テレビからは編成局担当の取締役ら3人が出席した。
まず神田委員長が、審議の対象とした番組には放送倫理違反があったという委員会の判断を説明したうえで、「現場の制作者の中に局の見解や本決定に納得できない人がいれば、局はそのような意見を受け止めながら、現場での理解を深めていっていただきたい」と、経営側として今後の適切な対応を求めた。中野委員も「経営陣によく読んでもらいたいというメッセージを込めて、局の事後対応の検証にも重点を置いた意見書にした。辛辣なトークを楽しみにしている視聴者もいるので、この意見書をいい番組作りにいかしてほしい」と、また巻委員は「一部の制作者の問題ではなく、会社全体のシステムを見直す好機ととらえて現場との対話を続けていってほしい」と述べた。
これに対して関西テレビは「問題が起きてから勉強会を積み重ねてきたが、現場には新しい人も入ってきているので、この意見書をしっかり読んで、視聴者の信頼を得られるようにしていきたい」と答えた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には、22社43人が出席した。
はじめに神田委員長が意見書のポイントを解説して、放送倫理違反があったという判断にいたった経緯を説明した。続けて「関西テレビの当初の見解とその後の見解との間には相違があり、局内に見解の変遷があったことを示している。だからこそ最終的に『放送倫理上の問題があった』という結論には重みがあり、その結論を社内で深めてほしい」とコメントした。中野委員は「ヒアリングをした複数の制作者が『ギリギリのラインを攻めることが視聴者から求められている』と話していたが、そうであれば、自分たちが自主自律的に作ったガイドラインを十分に理解している必要がある。2007年に発覚した『あるある大事典II』の問題を受けて関西テレビが自主的に作った『番組制作ガイドライン』や『倫理・行動憲章』の内容を、経営陣は改めて現場に指導してほしい」と経営に呼びかけた。その一方で「考査は最後の砦なので、各社の考査のあり方を今一度考えてほしい。さらに、疑問に思ったことを伝えあえる環境かどうか、各社の制作現場も考えてほしい」と、現場にも意見書の趣旨を踏まえるよう促した。また巻委員は「今回の問題については、関西テレビの中だけでなく放送界全体でもさまざまな意見があると思う」とヒアリングなどで受けた印象を受けて、「だからこそ今回の問題をきっかけに、公共性が高いと位置付けられているテレビの役割や使命、また各社が自主的に作っている放送基準の意義や具体化について、放送界全体で考えるきっかけにしてほしい」と、放送業界へのメッセージを述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 韓国の人を「手首切るブスみたいなもの」と揶揄的に言っていることが放送倫理違反なのか?
A: 一つ一つの表現がダメだというのではなく、発言全体の文脈の中で、国の外交姿勢の擬人化にとどまらず、広く韓国籍を有している人を侮辱していて、それが民放連の放送基準などに抵触していると判断した。(神田委員長)
   
Q: どういう表現をすればよかったのか?
A: ヒアリングの際に「カットすべきだった」と話す制作者はいたが、委員会として具体的にどうすべきであったとは言っていない。その方法にはいろいろな選択肢があったはずであり、局が自主自律的に考えるべきことであると考える。(神田委員長)
   
Q: 意見書を読むと、現場の制作者の中には局の見解に納得していない人がいるようだ。そういう人たちには、自己批評番組でコメンテーターが指摘した「作り手のエゴ」だという認識がないのではないか?
A: ヒアリングをした委員の実感としては、現場の制作者は悩んでいた。だから制作会社のスタッフは局のプロデューサーに「この表現が放送で使えるかどうか」を聞き、プロデューサーはさらに放送倫理担当者に聞いている。最終的には問題の表現を使うということになったが、使っていいのかどうか悩んでいたことがうかがえる。最終的なジャッジに問題があったと考える。(中野委員)
A: 局の見解と自分の考えの間に「溝」がある制作者がいることは事実だが、その「溝」を埋めるために、一人ひとりが考え続けてほしいという期待を込めている。(神田委員長)

以上

第32号

関西テレビ 『胸いっぱいサミット!』
収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見

2020年1月24日 放送局:関西テレビ

関西テレビが2019年4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について委員会は、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている日本民間放送連盟(民放連)放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議を続けてきた。
委員会が行ったヒアリングの中で、制作陣からは 刺激的な表現で「ギリギリのラインを攻める」ことが視聴者から期待されているという趣旨の声が複数聞かれた。これについて委員会は、「ギリギリのラインを攻める」ことの意味とその危うさに対して制作陣の意識は不十分であったと言わざるを得ず、「ギリギリのラインを攻める」番組を放送倫理の観点から客観的にジャッジすることができる体制とはいえなかったのでないかと分析した。そのうえで、民放連放送基準「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」や、当該放送局の放送倫理規範である「番組制作ガイドライン」の中の「すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗教、などによって差別を受けることは許されることではありません」という規定などに照らして、審議の対象とした2回の放送はいずれも放送倫理に違反するものだったと判断した。

2020年1月24日 第32号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

    • 1 4月6日放送回~戦犯ステッカー条例案をめぐる発言
    • 2 5月18日放送回~韓国国会議長の祝電問題をめぐる発言
  • III 本件各放送の制作過程pdf

    • 1 『胸いっぱいサミット!』の制作体制
    • 2 4月6日放送回の企画、収録に至るまで
    • 3 編集過程で何があったか
    • 4 5月18日放送回の制作・編集過程
  • IV 局の事後対応の経過pdf

    • 1 2回目の放送後からお詫びに至るまでの経緯
    • 2 番組審議会、オンブズ・カンテレ委員会の対応
      • (1)番組審議会の意見の内容と推移
      • (2)オンブズ・カンテレ委員会の提言
  • V 委員会の検証と分析pdf

    • 1 X氏の発言が編集でカットされなかった原因、背景
      • (1)「ギリギリのラインを攻める」ことの危うさが露呈した
      • (2)考査担当者の意見が尊重される制作環境だったか
  • VI 委員会の判断pdf

  • VII おわりにpdf

2020年1月24日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年1月24日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、22社43人が出席した。
詳細はこちら。

2020年5月15日【委員会決定に対する関西テレビの対応と取り組み】

委員会決定 第32号に対して、関西テレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年4月24日付で提出され、委員会はこれを了承した。

関西テレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定についての放送と社外通知
  • 2.委員会決定の社内通知について
  • 3.オンブズ・カンテレ委員会への報告について
  • 4.番組審議会への報告について
  • 5.再発防止、放送倫理意識向上への取り組みについて
  • 6.終わりに

第145回 放送倫理検証委員会

第145回–2020年1月

スポーツの映像を早回し加工したTBSテレビの『消えた天才』委員会決定を通知・公表へ

第145回放送倫理検証委員会は1月10日に開催された。 委員会が昨年10月7日に通知・公表した長野放送の『働き方改革から始まる未来』に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応を了承して公表することにした。 少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、担当委員から意見書の修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、2月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。 仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の修正案が示された。 海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議しているTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』とついて、意見書の原案が提出された。 スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人だったという不適切な演出で審議入りしているテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、意見書の骨子案が示された。 番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、日本民間放送連盟(民放連)の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議入りしている琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、ヒアリングの途中経過や今後の予定が報告された。

議事の詳細

日時
2020年1月10日(金)午後2時~午後7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見への対応報告を了承

委員会が10月7日に通知公表した、長野放送の『働き方改革から始まる未来』に関する意見(委員会決定第30号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。 報告書には、「『役員・社員に対する放送倫理・番組基準の徹底と意識改革』に関する取り組み」として、社内で意見書勉強会とアンケートを実施するとともに、民放連事務局から講師を招いて「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の理解を深めるために勉強会を開いたことなどが詳細に記されている。委員からは「社員のアンケート結果からは、一人一人がしっかりと事例を受け止めていることがわかる」「社員に加え、制作会社の関係者まで広く対象とし、また、社員等の主体性を生かす研修を実施するなど、自主・自律的な観点から望ましい事後対応を行っている」といった感想が述べられ、適切な対応が行われているとして、当該報告を了承して公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)

2. スポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議 2月に通知・公表へ

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、昨年8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたと報告があった。9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議することになり、議論を重ねてきた。 今回は、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、2月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

参議院選挙公示前日の昨年7月3日、北海道放送は夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した企画を放送した。企画の中ではその他の比例代表の候補者や政党にまったく言及しておらず、制度上、参議院比例代表選挙には北海道という区切りがないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できず、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして、委員会は9月から審議を続けている。 今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。 

4."レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは昨年5月、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと明らかにした。番組の制作担当者は、利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。 委員会は、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞いて放送に至った経緯を検証する必要があるとして、昨年9月に審議入りを決めた。 この日の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、それをもとに議論した。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。 

5. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは、昨年8月14日放送のバラエティー番組『クレイジージャーニー』の中で海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議することを決めた。 この日の委員会では、12月に行われた制作担当者らに対するヒアリングを踏まえて担当委員から意見書の原案が示され、意見交換が行われた。次回委員会には、この日の議論を受けた意見書の修正案が提出される予定である。

6. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は昨年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」でスーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったことがわかったとして、10月に謝罪した。 11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議することになり、12月に当該放送局の番組制作担当者らに対するヒアリングを行った。 これを踏まえて今回の委員会には意見書の骨子案が提出され、意見交換が行われた。次回委員会には議論を受けた原案が示される予定である。

7. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が昨年9月21日に放送した『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっていて、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかという意見が相次ぎ、12月から審議を続けている。委員会は、昨年10月に別の放送局の番組に対して出した意見書の審議の過程や結果が、それぞれの番組の制作過程にどのように反映されたのについても詳しく聞く必要があるとしてヒアリングを始めていて、この日の委員会ではその途中経過が報告されるとともに、今後の予定が説明された。 次回委員会には、意見書の構成案が提出される予定である。

以上

2019年12月10日

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、12月10日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、長嶋甲兵委員の4人が出席し、読売テレビからは常務取締役(コンプライアンス、技術担当、社長担当補佐)ら3人が出席した。
委員会決定について升味委員長代行は、「プライバシーの観点から、取材でここまで踏み込まずにどこかで止まって欲しかった」と述べた。岸本委員は、「本件は多くの放送局にとって共通の課題だと思うが、放送後の対応には目を見張るものがあった」と述べ、また長嶋委員は、「報道と情報バラエティの境がなくなりつつある中で、良識のようなものが混乱している」と発言した。最後に神田委員長から、「意見書の冒頭に番組内で叱責した出演者の発言をあげたが、その内容には大変重いものがあり、その後の自主・自律的な対応につながったと言えよう。意見書だけではなく、その言葉を、今後の教訓として自局内で問い続けていってほしい」とコメントした。これに対して読売テレビは、「意見を真摯に受け止め、今後の番組作りに生かしていく。放送後、番組制作体制の強化とともに全社的な研修会を開催して人権意識の向上に取り組んでおり、今後も再発防止と信頼回復に努めていく」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社44人が出席した。
はじめに神田委員長が、「問題の放送は、特に性的少数者の人権や当事者の社会的困難への配慮が課題として議論されている時代に、もっとも感性が鋭敏であるべき放送が、著しく配慮を欠くやり取りを放送した点で看過できない問題があり、民放連の放送基準(3)に反し、放送倫理基本綱領や民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って説明を加えた。続いて升味委員長代行が、「報道番組で培ってきた人権意識や裏取りの意識を貫いて、情報バラエティの番組作りにも生かしてもらいたい。また研修や日々の現場でお互いに意見を言い合うことなどを積み重ねて、人権への関心を高めてほしい」と感想を述べた。岸本委員は、「企画を成立させる、誰かがチェックしている、といった基準ではなく、多様性の時代の社会生活における普通の感性で取材や制作をすることが課題である」と述べ、長嶋委員は、「街ブラ企画には問題を生む土壌があるなと気になった。違和感を共有する場がなかった点も踏まえて、新たなワークフローの形を考える必要があるのではないか」と述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 特に性的少数者の人権などが議論されている時代、と委員会の判断にあるが、放送倫理違反があったとする今回の意見に時代背景が影響したとの認識でよいか。
A: プライバシーに関しては、性的少数者の当事者だけではなく、その背後にいて告白できない人たちも含めて守っていかねばならない時代であり、それを前提にして放送基準を理解しないといけなく、その解釈の中に時代は影響してくる。(升味委員長代行)
   
Q: この放送に関わってヒアリングの対象となった13人のうちで、女性は何人いたのか。
A: 2人。役職者ではない。(升味委員長代行)
   
Q: 感度の高いアンテナを張るよう期待するとあるが、その反面で気にし過ぎて萎縮して自由な表現ができなくならないか。そのバランスに関してはどう考えるか。
A: 出演者に言われてその重大性に気付いたが、出演者に言われるまで気が付かなかった、そのギャップの大きさの理由を知りたかったが、必ずしも明らかにならなかった。そこで、今後、感度の高いアンテナを張る必要性に触れたが、今回の事案や意見書の内容が今後の番組制作を萎縮させるようなものだとは考えていない。むしろ、放送に至るまでの間に、放送倫理に照らして議論をすることが必要であったと思う。(神田委員長)
  萎縮というのは、どこに触れたらいけないのかがわからない時に起こるものであり、研修などで知見を広めることによって、伸び伸びと制作することができるのだと思う。(岸本委員)
  気付いている人もいたが共有する場がなかったり、判断するのが1人の統括プロデューサーに任されていたりした点は、違和感や問題意識を丁寧に拾い上げるようなシステムではなかったということで問題である。(長嶋委員)
  自分が知るということがまずは大事だが、自分の関心事だけではなく現場の色んな人と意見交換をする場を持ち、別の見方があることを指摘され、それで知識が広がっていくと思う。(升味委員長代行)
   
Q: 意見書を読むと違和感を持った人もいたようだが、声を上げられなかったのは、仕事に追われていたとか放送時間が迫っていたとか、気持ちの面での弱さのようなものがあったのかどうか、ヒアリングで聞く機会はあったのか。
A: 元々ダブルチェック体制だったが1人の統括プロデューサーに任され、彼がコンプライアンス意識も高く上司や部下からの信頼も厚くて、何となくスルーしてしまった感じである。(長嶋委員)
  時間に追われているというようなことはなかった。前提として2部は問題が起こるようなことはないという油断があった。そして制作の過程で違和感を感じたスタッフもそれを共有し反映する場がなかったことがあげられる。(升味委員長代行)
   
Q: チーフプロデューサー(CP)と統括プロデューサー(統括P)について、CPは役職名で何人かいるプロデューサーの中から任命されていると思うが、統括Pもそのような認識でいいのか、それとも何人かを束ねる立場なのか。また、生放送時に対応すべきは統括Pであると定められているのか。
A: 番組には統括Pが2人いて、1部と2部それぞれを統括している。放送中に対応するのは統括Pである。(升味委員長代行)
   
Q: 放送を見ていないので教えてもらいたい。性別を表明していない客にどう接したらいいか悩むご主人というテーマで、興味本位だけの企画ではないと思っていたのだが、現実的にはどんな内容・コンセプトだったのか。
A: お好み焼き屋の店前をよく通る犬を連れた人が、男か女かわからないというお店の女性の悩みに対してお笑い芸人が応えるという内容。(長嶋委員)
(*回答を聞いて、質問者が勘違いしていたとの返事あり)
   
Q: もし同じ内容の企画がバラエティ番組で深夜の放送だとして審議されたら、同じ見解になるのか。
A: 私たちが解答を述べることは控えるべきであり、まさに放送局がその番組がどのような内容であるかを踏まえて自主的・自律的に判断してほしい。(神田委員長)

以上

第144回 放送倫理検証委員会

第144回–2019年12月

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』委員会決定を通知公表へ

第144回放送倫理検証委員会は12月13日に開催され、12月10日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、1月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換を行った。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の原案が示された。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議入りしたTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
スーパーの買い物客に密着する企画で、登場した主要な客4人がディレクターの知人だったことが明らかとなり放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議中のテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
琉球朝日放送が9月に放送した『島に"セブン-イレブン"がやって来た』と北日本放送が10月に放送した『人生100年時代を楽しもう!』という2つのローカル単発番組について討議を行い、日本民間放送連盟放送基準(以下「民放連放送基準」という)等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかといった意見が多く、また、同じテーマで意見書を公表した委員会決定第30号の審議の経過や結果を両放送局がどのように受け止めていたのかなどについて検証が必要であるとして、テーマが共通していることに鑑み2番組を1件としたうえで、審議入りすることを決めた。
トランスジェンダーの方について不適切な放送を行ったという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、委員の中から厳しい意見が出されるなど、放送倫理に照らして問題がある放送であるところ、当該放送局の報告書に記載されている取材対象者本人の心情などへの配慮等も含め、総合的に判断して、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載することとした上で、今回で討議を終え、審議の対象とはしないこととした。

議事の詳細

日時
2019年12月13日(金)午後3時~午後8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見を通知・公表

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見(委員会決定第31号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が12月10日に行われた。
読売テレビは、5月10日夕方のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、本件放送には、民放連放送基準の「(3)個人情報の取り扱いには十分注意し、プライバシーを侵すような取り扱いはしない」に反し、「適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛ける」よう求める放送倫理基本綱領および「人権の尊重」と「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない」と求める民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した。
今回の委員会では、委員会決定を伝えた読売テレビのニュースを視聴し、委員長や担当委員から、会見での質疑応答などが報告された。

2. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』の審議 1月に通知・公表へ

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議に入った。
今回は、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、次回の委員会で最終確認し、1月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換が行われた。次回委員会には、今回の議論を受けた意見書の修正案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の修正案が示される予定である。

5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、番組関係者へのヒアリングが11月半ばに完了したことが報告され、担当委員が意見書の原案を示し、これを基に意見交換を行い、次回の委員会に向け修正案を準備することになった。

6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
前回の委員会では、当該放送局から提出された報告書や同録DVD、新たに提出されたメキシコの現地協力者などへの調査結果をまとめた追加報告書などを基に討議を行った。その結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。

7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。前回の委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に意見交換が行われ、その結果、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。

8. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議入り

琉球朝日放送は9月21日に『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』という55分のローカル単発番組を放送した。この番組を見た視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられたため、委員会はDVDと報告書の提出を求めて視聴した。番組は、あるコンビニエンスストアが沖縄に初めて出店する様子を描いたもので、開店の準備の様子や地元の反応に加え、独自の食品について紹介したあとで、スタジオで司会者が試食し、味を称賛している。番組は、このコンビニエンスストアを経営する企業の提供だった。
また北日本放送は10月13日、『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という15分のローカル単発番組を放送した。視聴者からの同じ趣旨の意見を受けて委員会が確認したところ、高齢化時代の資産形成に触れながら、番組の多くの時間を使って富山市に本社がある投資信託相談を手がける会社の事業を紹介していた。番組の直前にはこの会社が開くセミナーのCMも放送された。
委員会はいずれの番組についても討議を行い、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないか、また、前者は番組内で試食して味を褒め、また後者も番組の直前にセミナーのCMが放送されて、視聴者にとっては広告か番組か識別できないのではないかなど、放送に至った経緯について検証が必要だという意見が相次いだ。また、別の放送局の番組に対して委員会が10月に出した意見書の審議の過程や結果が、それぞれの番組の制作過程にどのように反映されたのか詳しく聞く必要があるとして、テーマが共通しているこの2番組を1件とし、審議入りすることを決めた。今後は、琉球朝日放送と北日本放送の社員らに対するヒアリングなどを行って、審議を進める。

9. トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』を討議

テレビ山口が11月9日に放送した『週刊ちぐまや家族』について、トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという記事が新聞に載った。このため委員会は、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。
番組は、毎週土曜日の午前中に放送される58分のローカル情報番組。山口県内の各地域のさまざまな話題を紹介するコーナーで、1分30秒の間、駐車場で車の下に入ってオイル交換をしている人を紹介した。この際、リポーターが、視聴者にオイル交換をしている人が女性であることを示唆しながら、CMを挟んだあと、別のインタビューを受けた本人をよく知る男性の発言を受けて、画面には「珍 女性のような男性」と表示した。
放送後、本人が不本意なテロップ等とSNSでテレビ山口に抗議した。テレビ山口は、新聞報道の後、自社のホームページに「不適切な放送をしてしまいました」とお詫びを載せ、本人に会って謝罪した。またLGBT問題に詳しい弁護士などに委員になってもらい、社内に再発防止策を取りまとめる番組検証委員会を設けたという。
12月の放送倫理検証委員会では、第31号事案を踏まえると、取材の執拗さ等において相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人に対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容である、本人が受けたダメージは計り知れないほど大きいといった厳しい意見が相次いだ。他方で、当該放送局の報告書に記載された本人の心情などへの配慮が必要である、新聞報道後であるという誹りは免れないものの、当該放送局が一定の自主的・自律的な取り組みを行っていることは考慮する必要があるなど、さまざまな意見が出された。
以上の点を慎重に議論、検討した結果、委員会としては、放送倫理に照らして問題がある放送であるが、本人の心情などへの配慮も含め、総合的に判断して、当該局に対して注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載したうえで、今回で討議を終えることとし、審議入りしないことを決めた。

  • 委員会決定第31号事案を踏まえると、取材の執拗さにおいて相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人のプライバシーに対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容であり、放送倫理に照らして問題があると言わざるを得ない。

  • 本人が受けたダメージは計り知れないほど大きく、その点では審議入りも考えられる。

  • 本件において、担当ディレクターが、審議中である第31号事案のことを意識していなかったということは極めて遺憾である。

  • 放送倫理上問題がある放送であるとしても、報告書に記載されているご本人の心情への配慮が必要である。

  • 新聞報道後であるという誹りは免れないものの、自主的・自律的な取り組みを行っていることについては一定の評価をしてもよいのではないか。

以上

2019年12月13日

琉球朝日放送『島に"セブン-イレブン"がやって来た』・北日本放送『人生100年時代を楽しもう!』審議入り

放送倫理検証委員会は12月13日、琉球朝日放送の『島に"セブン-イレブン"がやって来た~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と北日本放送の『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』について、審議入りすることを決めた。
前者は、9月21日に沖縄県内で放送された55分の単発番組で、コンビニエンスストアのセブン-イレブンが沖縄に初めての店舗を開店させる日に合わせて、コンビニ側や県内の受け止め方などを紹介している。また後者は10月13日に富山県内で放送された15分の単発番組で、高齢化社会になり自分に合った資金形成が必要だとして、投資信託相談を手がける株式会社の様子を描いている。いずれも、視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という意見が寄せられ、委員会ではそれぞれの番組制作の経緯を知る必要があるとして、報告書と同録DVDの提出を求め討議した。その結果、委員から、「番組ではなくCMではないか」「民放連の放送基準に反しているのではないか」などの意見が出されたほか、やはり放送と広告との関係をめぐって10月に意見書を公表した委員会決定第30号の審議の経過や結果について、番組制作の過程でどのように反映させたのか聞く必要があるとして、この2つの番組を審議の対象として検証することを決めた。
審議入りについて神田安積委員長は、「広告放送と誤解されかねない番組だという疑いがあり、ともに自社制作の番組で、テーマが共通しているので1件2番組として審議していきます」と述べた。委員会は今後、2つの番組の制作に携わった関係者などからヒアリングをして審議を進める。

2019年11月21日

富山地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と富山県のテレビ・ラジオ局5社との意見交換会が、2019年11月21日、富山市内で開かれた。放送局出席者は5社24人、委員会からは鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員、中野剛委員の3人が出席した。放送倫理検証委員会が富山で意見交換会を開くのは初めて。

意見交換会は2部構成で行われ、1部では放送倫理検証委員会が今年度に公表した2つの意見書を取り上げた。まず7月に公表した委員会決定第29号「日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの祭り企画に関する意見」について、中野委員が、「バラエティーなのだから笑いをつかむ場面を仕込むことはあるだろうが、仕込むからにはその過程を把握しておいてほしい」と、海外ロケであっても現地コーディネーターがどのような準備をしているか、制作者が理解して演出を施すことが必要だと話した。岸本委員は、意見書に書いた制作者と視聴者との了解について、「長寿番組であればあるほど、『マニュアルは日々腐る』と考えて、視聴者との了解の範囲を常に探ってほしい。今回は、仕込んだ祭りであるのに『年に一度の祭り』と紹介するなど、番組作りがルーティン化する中で制作者が怠慢になっていたのではないか」と指摘した。参加者からは「バラエティー番組の演出はどこまで許されるのか」という質問があり、鈴木委員長代行は「その基準を作るのはBPOではなく、制作者であるみなさんです」と答えた。

続いて10月に公表した委員会決定第30号「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」にテーマを移した。まず鈴木委員長代行が、視聴者からBPOに寄せられた1通のメールがきっかけで審議を始め意見書につながったもので、放送倫理検証委員会が広告と番組のあり方について取り上げたのは初めて、また持ち込み番組の考査については2件目だと、意見書の特徴を説明した。その上で「広告収入で成り立つ民放では、番組と広告が分かれているから視聴者の信頼につながっているのであり、この区別がはっきりしないと信頼を揺るがしかねない」と意見書に込めた思いを述べた。参加者からは、経営に直結する問題で、どうすればよかったのかといった質問が相次ぎ、鈴木委員長代行は2017年に日本民間放送連盟が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に触れながら、「この留意事項に書かれている『特定の企業・団体などから番組制作上、特別な協力を受けた場合には、その旨を番組内で明らかにしているか』という点を忘れないでほしい」と答えた。

続く2部は、参加各社が日頃直面している課題などについて意見を交わした。この中では事件や事故の報道で、関係者の氏名を実名で放送するか匿名にするかで迷った例や、教員の不祥事の際、学校名を出さないでほしいと言われた例などが紹介された。委員会側は、実名報道を原則にしながら、個々の事例に適した放送を各社が判断して放送することが大切だと指摘した。また情報番組の中で過疎地域を「人よりイノシシの方が多い村」と表現することの是非について問われたのに対して、中野委員は、視聴者意見も大切にしながら、第三者的視点で表現が適切か否かチェックすることが必要だと答えた。岸本委員は、1つのシーンを切り取って判断することは適当ではなく、番組全体としての視点が差別的でないか、また画面に表示される文字がビジュアル的におどろおどろしくないかなど、総合的に考えるべきだと述べた。

さらに参加各局から、働き方改革の中で若手の育成に工夫している例などが紹介された。意見交換会を通して中野委員は「きょうはこちらの意見を伝えられ、またみなさんの実情も聞けて良かった。テレビ・ラジオでしかできない放送があるので、ぜひ若手を育てて、心揺さぶられる番組を作ってほしい」と、また岸本委員は「放送倫理上どこまでが許されてどこからがダメなのかという『線』をみなさんが求めているのであれば、それは違う。きょうはこちらからの投げかけが多かったが、委員会が出す意見書を良く読んで、みなさんでぜひ工夫してほしい」と呼びかけた。鈴木委員長代行は「各社がこれまで放送した番組のライブラリーは『宝の山』なので、そうした優れた番組を若手に見せて育成してほしい」と締めくくった。

最後に、参加局を代表して北日本放送の水野清常務取締役が「重いテーマだったが、放送への信頼は視聴者との約束があって初めて成り立つと再認識できた。若手社員から『マニュアル』はありますかと聞かれることが多いが、やり方を自分で工夫することが大切で、それが放送の自由を守ることにつながると教えていきたい」と述べ、3時間を超える会議を終えた。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 今回の意見交換会で印象に残ったのは「了解」という言葉だった。視聴者と「了解」したと思っている件が、放送局側の勝手な「了解」になっていないか、チェック体制を整えておかなければならないと思った。

  • 放送と広告の関係という民放の課題を、各社も悩んでいると感じた。正直に視聴者と向き合い、「了解」事項を確認しながら制作していくことの大切さを実感した。

  • 各社が抱える課題についての議論では、どこまでが良くて、どこからが違反なのかについて、明確な基準や線引き、マニュアルは無く、それぞれの事案によって判断されるということが分かった。局側からすると判断基準が欲しくなるが、そんな単純なものではないと理解できた。

  • 放送局みずからが番組向上のために自主的な取り組みを行うことが重要で、BPOはその意見を聞く第三者機関だということが改めて理解できた。やはり基本は、局の自主・自律で、常にメディアとして感性と理性を研ぎ澄ませていく必要があると感じた。

以上

2019年10月24日

福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局との意見交換会が、2019年10月24日、福岡市で開催された。NHKと民放をあわせ放送局から80人が参加し、委員会からは神田安積委員長、高田昌幸委員、藤田真文委員の3人が出席した。
前半は、最近の委員会決定のうち、日本テレビ「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」および長野放送「働き方改革から始まる未来に関する意見」についての説明と質疑応答、後半は今年7月に福岡県内で起きた殺人事件の報道を主な議題として意見交換を行った。

まず「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」について、神田委員長は「視聴者との間で互いに了解している約束に反したことが放送倫理違反であると判断した」と述べ、「この『約束』は現地のコーディネーターが主導したものであって、放送局はその点についての確認が不十分だった。このため『程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるを得ない』との表現になった」と背景を説明した。藤田委員は「『民放連放送基準』には、ニュースについて『事実に基づいて報道する』という基準がある。これはニュースだけでなく、情報を伝える番組の責務だ。わかりやすく伝える必要はあるが、最低限の事実は曲げてはいけないということであり、その点が放送基準に違反していると判断した」と指摘した。神田委員長は「放送倫理違反が生じた原因を追究し、確認することが再発防止につながる。自局のこととして受け止め、自主・自律的な対応ができるよう意見書を生かしてもらいたい」と述べた。

次に「働き方改革から始まる未来に関する意見」について、神田委員長より、委員会がこの番組を「広告と誤解される番組」と認定した理由についての説明があった。委員長は「持ち込み番組における考査が不十分であり、民放連の『番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項』が検討されなかったことなどの問題点が調査で浮かび上がった」と指摘した。その上で「放送基準の解釈や運用はBPOが決めるのではなく、また、意見書が出たからといって萎縮する必要はなく、むしろ『留意事項』を十分に検討し、自主的自律的に、広告と誤解されることがないよう番組を作っていただきたい」と強調した。
高田委員は「番組と広告の境目がどこにあるかということは、それぞれの番組をみて判断するしかない。公共性や視聴者にとって有益な情報となっているかという公益性に基づき、留意事項を参照して作られるべきだ」と述べた。
これに対し参加者からは「テレビの中でも営業に携わる人たちが、常々、放送法や放送基準、関連する規則などを強く意識しているかは疑問だ。考査担当者としては、それらに定められていることを守っていかないと最終的には政府に介入されることになるといっても、どこまで浸透するかは疑問だ。ただ現実は現実として、規則との折り合いをつけてぎりぎりの選択をせざるを得ない」との苦悩が表明された。これに対し神田委員長は「放送基準は抽象的であり、その解釈には幅があるが、放送事業者が自主・自律的に判断しているのであれば、私たちはできる限り尊重したい。今回の番組では、自主・自律的な判断に基づく考査がなされていなかった。番組が広告放送と誤解されることがあれば、自社だけではなく、民放全体の信頼にかかわると考えて向き合っていただきたい」と述べた。また高田委員は「制作と営業それぞれの担当者間で、本当にこれでよいのかという議論がきわめて重要だ。視聴者の信頼に応える番組を作るための社内議論ができにくいと感じるなら、議論を誘発するような仕組みを作ることが必要だ」と述べ、担当者だけでなく組織としての対応を促した。一方参加者からは「留意事項の3点以外にも注意すべき点はあるか」との質問があったが、神田委員長は「民放連が特に例示している3点はあくまで例示にとどまり、その他の点も含め、総合的に判断されるものである。他にどのような点に注意すべきかという点については、留意事項に特に例示されていない以上、当委員会が明示することは控えるべきであり、当該放送局にて自主・自律的に検討されることが望ましい」と述べた。

後半では、7月に福岡県内で起きた女性殺害事件に関する意見交換が行われた。まず放送局側から、事件の進展や被害者遺族の意向などによって、実名を匿名に切り替えたり、容疑内容の詳細な描写を控えたりするなど、時期や社によって異なった報道が行われたことが報告された。これに対し高田委員は「被害者にも加害者にも人権がある。実名・匿名は個々のケースで判断するしかないが、実名で報道することのみが原則なのではなく、実名を警察に出させて把握し、実名で取材することが原則だ。実名の報道にのみ価値があるわけではない。実名で何を伝えるのか、事件を通じて何を伝えるかが最も重要だ」と述べた。神田委員長は「実名も顔写真も、誤報でない限り、事実を報道するという点で放送倫理には抵触しないが、その場合であっても視聴者や社会に対し、報道をするに至ったプロセスや配慮などについて説明する責任が求められる時代になっている。責任を果たすために重要なのはそれぞれの社の自主・自律的な判断の過程だ。その過程なくして実名や顔写真の報道がなされなくなれば、報道機関に対する批判はなくなるかもしれないが社会の信頼も失われる」と述べた。参加者からは「実名・匿名では毎日悩んでいる。人権に配慮している間にネットには実名が出る。答えはなく個々に判断するしかない」という戸惑いや、「昔と違い、原則実名ということに社会の厳しい視線が注がれ、メディアスクラムも問題になる。世の中の変化にメディアが合わせることが必要かもしれない。若い記者たちに実名・匿名の意味を伝える一方、長年続いてきたメディアの考え方を変えていく柔軟性も必要だ」など、社会の受け止め方の変化やノウハウの継承についての悩みの声が聞かれた。

最後に、福岡放送の五島建次取締役報道局長が「同じ仕事に携わっていても日頃なかなか議論の機会がない各局や委員の意見を聞くことができ、心強く思った。現場は常に悩みながら放送に取り組んでいるが、今日の議論を踏まえ、明日からもさらにがんばっていきたい」と述べ、意見交換会を終了した。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

(議題について)

  • 全国的にも注目される事例を知ることができて有意義だった。委員から問題点への意見や提言、放送局へのエールなども聞くことができ、BPOが身近になった。

  • 放送と企業広告の線引き、具体的方法論について学べたことは大きな収穫だった。

  • 委員会決定までの背景や理由などが詳しく聞けたことにより、BPOの問題意識がわかり今後の参考になった。取り上げた番組の内容が事前にわかっていれば、より理解が深まったと思う。

  • 事件報道は各社が共通に悩みを抱えているテーマだったのでよかった。一方で、BPOの視点からリスクに陥りがちなテーマ(SNSなど)も幅広く議論してもよかったのではないか。

  • 放送倫理について、自分自身が考える超えてはいけないラインとBPOが持つラインに大きな違いがないことを再認識できた。今後番組を作る上で及び腰ではなく、もっと攻めた面白い企画を作りたいという思いを抱けるようになった。

  • (BPOは)放送局の自主自立を尊重する姿勢であると感じた。委員から直に話を聞けたので、委員会決定の行間を埋めることができたように思う。ただ実際の業務に関しては、委員会決定だけでは、営業への対応が難しい部分は残ると思った。

  • 福岡では各局が一堂に会して意見交換する機会があまりないため、貴重な機会となった。現在の日本のメディアは横の連携が弱く、これまで政府などからの圧力があった際に連帯して対応してこなかった。今後BPOが放送局どうしをつなぐ役割をできるならば、今後の日本のメディア環境にとって非常に意味があると思う。

  • BPOは、私たちからすると、できればかかわることのないほうが健全だとのイメージが強いが、実際話してみると思ったより緊張関係はなく、こちらの事情も理解していることがわかり、こうした機会を今後も設けてほしいと思った。

  • (BPOが)第三者機関としての役割ということであれば、変化していく視聴者の「テレビをどう見ているのか」という感覚値を、もっと各局と共有してほしい。

  • テレビ・ラジオの多くのメディア関係者が参加していたので、各社が発言する時間を確保し、もっとさまざまな意見を聞きたかった。

  • 放送現場と日常的に意見交換する場をもっと増やしてもらいたい。

以上

第31号

読売テレビ 『かんさい情報ネットten.』
「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見

2019年12月10日 放送局:読売テレビ

読売テレビが2019年5月10日に放送した夕方のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特にほかの出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会で、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、本件放送には、民放連放送基準の「(3)個人情報の取り扱いには十分注意し、プライバシーを侵すような取り扱いはしない」に反し、「適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛ける」よう求める放送倫理基本綱領および「人権の尊重」と「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない」と求める民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した。

2019年12月10日 第31号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

  • III 委員会の検証pdf

    • 1 報道局制作のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』

    • 2 『ten.』の制作体制~2つのテイスト・2つの手法

    • 3 第2部の企画コーナー「迷ってナンボ!」

    • 4 「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」の企画から放送まで

      • (1) 企画・ロケ~撮影3時間の短期決戦
      • (2) 編集~分業とチェック体制
      • (3) 放送~凍りついたスタジオと司令塔の不在
    • 5 放送後の迅速な対応と検証・再発防止策の徹底

  • IV 委員会の考察pdf

    • 1 なぜ、ロケの時点で問題を感じなかったのか

    • 2 なぜ、編集の過程で問題が指摘されなかったのか

      • (1) 編集作業が細分され分業が進み、意見交換し違和感を共有する場がない
      • (2) 複数の目によるチェック体制が崩壊していた
    • 3 なぜ、多くのスタッフが問題を感じなかったのか

  • V 委員会の判断pdf

  • VI おわりに~10年目の「痛恨」pdf

2019年12月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年12月10日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2020年3月13日【委員会決定を受けての読売テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2019年12月10日)を受けて、当該の読売テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
3月13日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

読売テレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定についての報道
  • 2.委員会決定の社内周知について
  • 3.番組審議会への報告について
  • 4.再発防止にかかる取り組みについて
  • 5.BPO委員を招いての勉強会について
  • 6.ヒアリング対象者の意識の変化について
  • 7.全社的な意識の変化について
  • 8.終わりに

第143回 放送倫理検証委員会

第143回–2019年11月

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』委員会決定を通知・公表へ

第143回放送倫理検証委員会は11月8日に開催された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の修正案が示された。次回委員会には意見書の再修正案が提出される予定である。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、12月上旬に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、事前に準備した動物をその場で発見し捕獲したように見せる演出を行ったTBSテレビの『クレイジージャーニー』について、当該放送局から追加の報告書が提出され討議した結果、番組内容が民放連放送基準に抵触している疑いがあるとして審議入りすることを決めた。
スーパーマーケットの買い物客に密着する企画で、ディレクターの知人を客として登場させた内容を放送したテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、当該局から提出された同録DVDや報告書などを基に討議した。その結果、番組内容が放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議入りすることを決めた。

1. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月になって、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、それを基に意見交換した。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』の審議 12月上旬、通知公表へ

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りした。
今回は、前回の意見書の原案に対する議論を受けて担当委員から示された再修正案の内容について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、12月上旬に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うこととなった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には、意見書の原案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。

5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。
9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、担当委員から、番組関係者に対して行ったヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には意見書の原案が提出される予定である。

6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』審議入り

TBSテレビは、2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、制作スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
当該放送局の報告書によれば、専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後、外部からの指摘を受け社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことがわかったという。また過去10回の「爬虫類ハンター」企画を調べた結果、計7回、11種類の生物が、事前に用意されたものであることがわかったという。
委員会は10月、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議し、委員からは「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがある」「事実を伝えていないという点で視聴者との約束に反している」など放送倫理違反の疑いがあるとの意見が出されたが、当該放送局によるメキシコなど現地協力者への調査が継続中であることから、討議を継続していた。
今回、当該放送局から調査結果をまとめた追加報告書が新たに提出され、これらを基に委員会で討議した結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあることを踏まえ審議入りを決めた。

7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』審議入り

テレビ朝日は今年3月15日、報道番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーマーケットの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
当該放送局から提出された報告書によると、当該企画は、業務用の食品などを扱うスーパーを紹介し、個人で利用する客の事情など生活の様子を描くもので、当該放送局の関連会社に派遣されたディレクターが単独でロケ取材を行っていたという。企画の主要なエピソードの中心人物である4人はこのディレクターの知人で、事前にロケのスケジュールなどを伝えていた。
委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議として意見交換が行われ、委員からは「利害関係者を番組企画に登場させるなど、過失ではなく故意に行われた事案である可能性が大きく、放送倫理違反の疑いがある」などの意見が出され、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして、審議入りを決めた。

以上

2019年11月8日

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』審議入り

放送倫理検証委員会は11月8日の第143回委員会で、テレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、テレビ朝日が2019年3月15日、夕方のニュース番組『スーパーJチャンネル』で放送した「業務用スーパーの意外な利用法」という企画で、この企画に登場したスーパーの買い物客4人は、取材ディレクターの知人だったとして、テレビ朝日は記者会見を開き謝罪した。
当該企画は、業務用の食品などを扱うスーパーマーケットを紹介し、買い物客が業務用の商品を購入する事情など、それぞれの生活の様子を描いている。制作はテレビ朝日の関連会社に業務委託されており、取材したのは別のプロダクションから、この関連会社に派遣されていたディレクターで、一人でカメラも回しロケ取材を行っていたという。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、テレビ朝日に報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「取材対象者が担当ディレクターの知り合いであったということで放送倫理違反の疑いがあり審議入りした」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年11月8日

TBSテレビ『クレイジージャーニー』審議入り

放送倫理検証委員会は11月8日の第143回委員会で、TBSテレビの『クレイジージャーニー』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、TBSテレビが2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』。TBSテレビは、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、その場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後に外部からの指摘を受けて社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことが分かったという。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、TBSテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議を継続し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「報告書や番組の映像を見る限り放送倫理違反の疑いがあり、審議入りした」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年10月7日

長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、10月7日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、高田昌幸委員の3人が出席し、長野放送からは取締役(編成・業務推進・放送番組審議会担当)ら2人が出席した。
神田委員長は委員会決定について、「民放連放送基準(92)や、当該基準を踏まえて民放連が策定した『番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項』の『視聴者に「広告放送」であると誤解されないよう、特に留意すべき事項』に照らした適正な考査が行われておらず、放送倫理違反があったと判断した」と説明した。続いて鈴木委員長代行が、「問題点と背景として、考査体制というシステムの不備だけでなく、局員の当事者意識の希薄さがあった」と述べ、高田委員が、「持ち込み番組とはいえ、放送の数日前まで内容を誰も把握していなかった」と発言した。これに対して長野放送は、「この意見書を真摯に受け止め、今後の放送活動に生かしていく。全社一丸となり再発防止に取り組んでいく」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には43社80人が出席した。
はじめに神田委員長が、「持ち込み番組の場合、放送局による考査が適正に行われたどうかが検証の対象となる。その前提として番組の放送倫理上の問題の有無について検討した。その結果、当該放送局の考査は、民放連放送基準(92)や、当該基準を踏まえて民放連が策定した『番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項』の『視聴者に「広告放送」であると誤解されないよう、特に留意すべき事項』に照らした適正な考査を行わず、当該番組を放送したことについて放送倫理違反があったと判断した」と説明し、さらに、「当該番組を『留意事項』に照らして判断したとき、視聴者に広告放送であると誤解される番組であると委員会は事実認定した。放送基準の解釈・運用については各放送事業者の自主・自律的な判断が尊重されるべきであり、広告に関する放送に当たっても、各放送事業者が、『留意事項』等に照らして、自主・自律的な判断をしていただきたい」と補足した。続いて鈴木委員長代行が、「今回第30号となる意見書の特徴は、端緒が視聴者からのメールであった点、初めて広告との関係を問うものである点、2年前の東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』に対する意見書に続き持ち込み番組の考査のありかたを問うものである点である。『ニュース女子』に対する意見書では考査のあり方に対する注意喚起を行ったが、現場に浸透しておらず残念である」と述べた。高田委員は、「関係者の当事者意識が薄かった。番組に対してそれぞれ関わった人たちが少しでも番組の内容に関心をもっていればこうしたことは起きなかったのではないか」と述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 改稿要請すべきところをせずに放送した結果、広告放送と誤解されたという結果になった。この点が放送倫理違反と結論づけられたということでよいか?
A: それで結構である。(鈴木委員長代行)
   
Q: 広告放送でなかったものが広告放送と見られたのがよくないということでよいか?
A: 広告放送であると判断しておらず、広告放送であると誤解される番組であるという判断をし、その前提に立って意見を述べている。(神田委員長)
   
Q: 番組は放送基準に抵触したのか?
A: 放送基準(92)「広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」を踏まえて、民放連の「番組内で消費・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」が規定され、その中の「2.視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」において、「視聴者に『広告放送』であると誤解を招くような内容・演出になっていないかを、総合的に判断する必要がある」と規定されている。今回の事案は、放送基準(92)を踏まえて規定された「留意事項」2の「広告放送であると誤解される番組」であったと判断し、放送基準(92)及び「留意事項」2に反しているという評価をした。(神田委員長)
   
Q: 『ニュース女子』に対する意見書の教訓が現場に浸透していなかったことについてどう受け止めるか?また浸透させるための課題は?
A: 当該意見書の教訓が現場に浸透していないとすれば、委員会全体としても極めて残念、遺憾だと受け止めている。当該放送局だけでなく放送局全体に刺さる意見書を書く工夫をしてきたが、今回のように持ち込み番組への考査の問題が短期間に繰り返されたとなると、意見書の工夫だけでは足りないところがあると思う。当委員会としても、意見書を出すだけではなく、放送局との意見交換の機会を増やし、これまでの様々な事例、意見書のエッセンスを上層部の方々だけでなく現場で制作に関わる方々に伝え、直接意見交換をし、よりよい放送をしてもらうために、放送倫理を常に意識して自主・自律的に議論、判断することが大切であるということを考える機会をもっと設けていきたいと考えている。(神田委員長)

以上

第142回 放送倫理検証委員会

第142回–2019年10月

"生き物捕獲バラエティー番組で事前に動物を用意"
TBSテレビ『クレイジージャーニー』を討議

第142回放送倫理検証委員会は10月11日に開催され、10月7日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
また、委員会が7月5日に通知・公表した日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応報告を了承し、公表することとした。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の原案が示された。次回委員会には意見書の修正案が提出される予定である。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、担当委員から意見書の修正案が示され、意見交換を行った。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し、前回審議入りした北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局の番組関係者の一部に対して行われたヒアリングの結果について担当委員から報告があった。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして、前回審議入りしたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、近く予定されている番組関係者へのヒアリングのポイント等について意見交換を行い、確認した。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ、前回の委員会で審議入りしたTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局から追加報告書が提出され、これを受けて担当委員から、当該番組関係者に対するヒアリングの準備に入る旨の報告があった。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、事前に準備した動物をその場で発見し捕獲したように見せる演出を行ったTBSテレビの『クレイジージャーニー』について、当該放送局から提出された報告書を基に討議した。その結果、番組内容が民放連放送基準に抵触している疑いがあり、他方で、当該放送局が調査を継続中であり、追加の報告書が提出される見込みであることを踏まえ、討議を継続することとした。

1. 長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見を通知・公表

長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見(委員会決定第30号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が10月7日に行われた。
長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、5月の委員会で、番組で取り上げられている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、長野放送が、民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。
今回の委員会では、委員会決定を伝えた長野放送のニュースを視聴し、委員長や担当委員から、会見での質疑応答などが報告された。

2. 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見への対応報告を了承

委員会が7月5日に通知公表した、日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見(委員会決定第29号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、情報・制作局の全社員が意見書を読んだ感想をアンケートとして集め、それを基にミーティングを開いたこと、意見書の真意をより深く理解するために放送倫理検証委員会の担当委員を招いて勉強会を開催したことなどが記載され、それぞれの会合で出た意見や感想が具体的かつ詳細に記されている。
委員会では、勉強会に出席した委員の「活発な意見交換ができた」という感想を踏まえて意見交換を行い、当該放送局が意見書で指摘した課題を受け止め、個々の社員においても自分の問題として受け止めていることが窺われ、局の対応も適切であるとして、当該対応報告を了承して、公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)

3. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の修正案が示される予定である。

4. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りした。
今回は、前回の意見書の原案に対する議論を受けて担当委員から示された修正案の内容について意見交換が行われ、次回の委員会でも引き続き議論を行う予定である。

5. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。前回の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
委員会では、当該放送局の番組関係者の一部に対して行われたヒアリングの結果が報告された。次回の委員会までに引き続きヒアリングを実施し、意見書の骨子案が示される予定である。

6. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3名がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
前回の委員会において、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りした。
委員会では、担当委員が、近く予定されている番組関係者へのヒアリングのポイント等について説明し、意見交換を行った。

7. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。
前回の委員会において、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
委員会では、当該放送局から、その後の調査において当該番組の全放送回で他に同様の加工はなかった旨の追加報告書が提出されたことを受けて、担当委員から、当該番組関係者に対するヒアリングの準備に入る旨の報告があった。

8. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』を討議

TBSテレビは、2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、制作スタッフが事前に準備した動物を、その場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
当該放送局の報告書によれば、専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後、外部からの指摘を受け社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことがわかったという。また過去10回の「爬虫類ハンター」企画を調べた結果、計7回、11種類の生物が、事前に用意されたものであることがわかったという。
委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議が行われた。委員からは「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがある」「当該放送局が認めているように、この番組のロケ部分はドキュメンタリーや情報番組においても虚偽やねつ造が許されないことと同様に過剰な演出にならないように注意する必要がある」「事実を伝えていないという点で視聴者との約束に反している」などの意見が出された。
委員会は、当該放送局が、現在も海外の現地協力者などに対して調査を続けており、その結果について追加の報告書を提出するとしていることから、討議を継続することとした。

以上

第30号

長野放送
『働き方改革から始まる未来』に関する意見

2019年10月7日 放送局:長野放送

長野放送が2019年3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、2019年5月の委員会で、番組で取り上げられている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、長野放送が、民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。

2019年10月7日 第30号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2019年10月7日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年10月7日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、43社80人が出席した。
詳細はこちら。

2020年1月10日【委員会決定に対する長野放送の対応と取り組み】

委員会決定 第30号に対して、長野放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2019年12月26日付で提出され、委員会はこれを了承した。

長野放送の対応

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目 次

  • 1. はじめに
  • 2. 視聴者に対する委員会決定のお知らせ
  • 3. 「役員・社員に対する放送倫理・番組基準の徹底と意識改革」に関する取り組み
  • 4. 「考査態勢の再構築」に関する取り組み
  • 5. 「持ち込み番組を含む外部制作番組の取り扱い要領の明文化」に関する取り組み
  • 6. 「制作会社に対する番組基準・放送倫理をめぐる情報共有」に関する取り組み
  • 7. 当社番組審議会での審議や報告
  • 8. おわりに

第141回 放送倫理検証委員会

第141回–2019年9月

長野放送『働き方改革から始まる未来』通知・公表へ

第141回放送倫理検証委員会は、新たに西土委員が加わり9月13日に開催された。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、意見書の原案が示され意見交換をした。
内容が番組か広告か曖昧であるとして審議していた長野放送の持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、担当委員から意見書の修正案が提出された。委員会での議論の結果、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、10月上旬に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の骨子案が示された。次回委員会には意見書の原案が提出される予定である。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客として登場した人物がこのサービスを提供する会社のスタッフだったことが判明したNHK国際放送の『Inside Lens』について、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議した。その結果、利用客が当該会社関係者でないことの確認が適切に行われたのかどうかなど取材や制作の経緯等を検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を、公示前日に紹介した北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議した。その結果、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるとして審議入りすることを決めた。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツの試合映像を早回し加工したTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行った。その結果、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を制作過程で加工した経緯等について検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。

1. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し、ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りを決めた。
今回は、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換が行われた。次回の委員会には、今回の議論を受けた意見書の修正案が示される予定である。

2. 「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の『働き方改革から始まる未来』通知・公表へ

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会において、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしていた。委員会では、前回までの議論を受けて担当委員から示された意見書の修正案の内容について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、10月上旬に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うこととなった。

3. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』において、コメンテーターとして出演した女性作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言し、この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の骨子案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議入り

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番『Inside Lens』で、仮の家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、外部から指摘があり、NHKが独自調査を行った結果、利用客として出演した男女3名がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。
また、代行会社の社長が、利用客として番組に登場した3人は派遣スタッフとしてこの代行会社に登録していた人物であり、番組のため会社側が手配したことを認めたという。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行った結果、本番組の内容からすれば、その取材や制作に際し、「制作者は出演を依頼する消費者や利用者の選定に当たっては、注意深くその人物が企業の関係者ではないかどうかの確認をしなければならない」(2012年7月31日放送倫理委員会決定第14号)という視点を踏まえ、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われるべきであったところ、十分な確認をしなかった可能性が窺われるため、放送に至るまでの経緯や原因を検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。

5. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議入り

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材し、他の比例代表の候補者にまったく触れなかったのは、公平性への配慮に欠けるという内容の批判的な意見が視聴者からBPOに寄せられた。
この番組は、長年にわたって政治活動を続けてきた一人の立候補予定者が、今回の選挙を「最後の戦い」だとして、スポーツジムで体を鍛えたり、国会議員でもある家族と買い物をしたりして選挙の準備をする様子が4分40秒余りにわたって放送されていた。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行った結果、(1)参議院比例代表には複数の政党・政治団体から多数の候補者が立候補したが、当該番組は、北海道に関係がある1人の候補者のみを取り上げ、その他の政党や候補者には言及していないこと、(2)参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、北海道内の有権者を、当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、しかも、この点に関しては放送倫理検証委員会が再三にわたり指摘してきたにもかかわらず(2010年12月2日放送倫理委員会決定第9号、2014年1月8日同第17号等)、制作に当たってその問題点が検討された形跡が窺われないことをも踏まえ、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りすることとした。

6. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議入り

8月11日に放送されたTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才~2時間半スペシャル』で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した当時12歳の少年を紹介した際、投球シーン全31球のうち7球の映像を早回し加工し、実際より球速が約20%から50%速く見えるよう編集していたことが判明したと、当該放送局より委員会に報告があった。
報告書によると、当該番組を見ていたスポーツ局のスタッフが気づき、確認したところ、担当ディレクターが早回し加工を認めたという。また、その後の調査で、別の放送回で卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の試合映像を放送した際、同様の早回し加工が確認されたという。当該放送局は、過去の放送分すべてについて調査を行っており、調査完了まで同番組の放送を休止するとしている。
委員会は当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行った結果、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。

以上

2019年9月13日

TBSテレビ『消えた天才』審議入り

放送倫理検証委員会は9月13日の第141回委員会で、TBSテレビの『消えた天才』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、TBSテレビが8月11日に放送した番組『消えた天才』2時間半スペシャル内「リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した当時12歳の少年」の企画で、少年の試合映像を放送した際、映像を早回しすることで実際の投球よりも球速が速く見える加工を行っていた。
加工が行われたのは、放送した投球シーン全31球のうち7球で、投手がボールをリリースした瞬間からキャッチャーミットに収まるまでの約0.5秒間について、映像のスピードを実際よりも20パーセントから50パーセント程度速くしていた。
TBSテレビは、「アスリートの凄さを実際の映像で表現するという番組の根幹をなす部分を加工することは、番組としては絶対にあってはならない手法だと考えております」として9月5日、ホームページで「 取材に協力してくださったご本人及び関係者の方々、そして番組をご覧いただいた視聴者の皆様に深くお詫びいたします」と謝罪した。そのうえで、今回の事案を重く受け止め、調査が完了するまで「消えた天才」の放送を休止すると発表した。
また過去の放送で、同様の加工が行われていなかったかどうか調査を行った結果、8月11日放送分の他に3件あったことが確認されたとして、ホームページで内容を公表した。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、TBSテレビに対して報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「TBSテレビからお詫びも出ているし、映像を早回し加工して複数回、放送したという報告を受けている。そういった点が放送倫理違反にあたる可能性があるということで、審議入りした」とコメントしている。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年9月13日

北海道放送『今日ドキッ!』審議入り

放送倫理検証委員会は9月13日の第141回委員会で、北海道放送『今日ドキッ!』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、参議院選挙公示前日の7月3日、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家が選挙に備える様子を紹介した。視聴者から、この一人以外の他の比例代表の候補者に触れておらず公平性への配慮に欠けるという批判的な意見がBPOに寄せられたため、委員会は北海道放送に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、参議院比例代表選挙に関してこれまで放送倫理検証委員会が出した複数の意見書が指摘した問題点にまったく配慮していないといった批判が相次ぎ、審議入りすることを決めた。
神田安積委員長は、「公示の前日に、ある特定の候補について放送したことが問題になります」とコメントしている。
委員会は、今後、当該放送局の社員などからヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年9月13日

NHK国際放送番組『Inside Lens』(インサイド・レンズ)審議入り

放送倫理検証委員会は9月13日の第141回委員会で、NHK国際放送『NHKワールドJAPAN』の番組で、レンタル家族について放送した「Inside Lens」(インサイド・レンズ)について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、NHKが2018年11月19日、国際放送『NHKワールドJAPAN』で放送したドキュメンタリー番組「Inside Lens」の中の『HAPPIER THAN REAL』。レンタル家族について放送した番組の出演者について、事実と異なる内容を伝えていたことがNHKの調査で分かった。
この番組では、家族や友人などのレンタルサービスを行う会社を、実際に利用客にサービスを提供する様子などを交えて紹介した。しかし、利用客として紹介した男女3人は、実際には客でなく、レンタルサービス会社が用意したスタッフだった。
NHKは、5月29日、判明した事実を公表するとともに、「事実と異なる内容を伝えたことは極めて遺憾であり、視聴者の皆さまにお詫びします」と謝罪。そのうえで、国際放送で訂正とお詫びをした。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、NHKに対して報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「レンタル家族の放送で、その利用者が映像の中に出てくるわけですが、その利用者が会社の関係者だった。そういったことが放送倫理に触れるのではないか。さらに利害関係者かどうか確認が必要なのに、その確認が十分にされていなかったという問題があるので、討議・審議入りした」とコメントしている。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第140回 放送倫理検証委員会

第140回–2019年8月

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

第140回放送倫理検証委員会は8月9日に開催された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し、前回の委員会で審議入りした関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』について、当該放送局社員など番組関係者に対するヒアリングが行われ、その内容について担当委員から報告があった。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送した読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、前回の委員会以降に実施された当該放送局の社員など番組関係者に対するヒアリングの報告があり、担当委員から提出された意見書の構成案が示されて意見交換をした。
内容が番組か広告か曖昧であるとして審議中の長野放送のローカル番組『働き方改革から始まる未来』については、担当委員から提出された意見書案について議論された。

議事の詳細

日時
2019年8月9日(金)午後4時~午後9時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、藤田委員、巻委員

1. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

4月6日と5月18日に放送された関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』で、コメンテーターとして出演した女性作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言し、民族差別や女性蔑視をあおる人権的配慮を欠いた放送であるという意見や、生放送ではなく収録番組であるのに編集作業で発言がカットされなかった点などについて、BPOに多数の批判が寄せられた。
委員会は、民放連の放送基準が人種や性別などによって取り扱いを差別しないとしていることに照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われず放送された経緯や放送後におわびに至るまでの経緯について、詳しく調査し検証する必要があるとして、前回、審議入りを決めた。
委員会では、担当委員が8月に行った当該放送局や制作会社の担当者に対してのヒアリングの内容が報告された。次回委員会では、意見交換を踏まえた意見書の骨子案が示される予定である。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別確認のために名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどの執拗な確認行為をする模様を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから許し難い人権感覚の欠如であって報道番組としての感覚を疑う旨の厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。
委員会は、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議している。
今回は、前回の委員会以降に実施された当該放送局の社員など番組関係者に対するヒアリングの報告と意見書の構成案の説明が担当委員から行われ、意見交換した。次回は意見書の原案が提出される予定である。

3. 内容が番組か広告か曖昧だとされた長野放送の『働き方改革から始まる未来』について審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会で、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしている。
委員会では、前回の議論を受けて担当委員から示された意見書案の内容について意見交換が行われた。次回も意見書案について議論を続ける予定である。

以上

第139回 放送倫理検証委員会

第139回–2019年7月

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』審議入り

第139回放送倫理検証委員会は7月12日に開催され、7月5日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見について、出席した委員長代行や担当委員から当日の様子が報告された。
街頭取材で取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し、前回の委員会で審議入りした読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、当該放送局など番組関係者に対するヒアリングが始まり、担当委員からその途中経過が報告された。
内容が番組か広告か曖昧であるとして審議中の長野放送のローカル番組『働き方改革から始まる未来』については、担当委員から示された意見書案について議論された。
出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』について、当該放送局から報告書と同録DVDの提出を受け討議を行った。その結果、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われず放送に至った経緯や放送後にお詫びに至るまでの経緯について、詳しく調査し検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。
6月12日に放送されたTBSテレビのバラエティー番組『水曜日のダウンタウン』の企画「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」における「ヤバめ素人」の描かれ方について当該放送局から報告書と同録DVDの提出を受け討議を行った。その結果、当該企画は、民放連の放送基準に抵触している疑いがあるが、当該放送局は放送直後に視聴者から批判を受け、演出上の配慮や注意喚起が十分ではなかったと真摯に受け止めており、また、番組制作者にも差別に関する研修に参加するよう指導するなどの自主的・自律的な対応もとられているとして討議を終了することとした。
番組内で差別的表現があったことをお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』について、委員会は討議を継続していたが、当該放送局のその後の自主的・自律的な対応を踏まえて討議を終了した。

1. 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見の通知・公表について

日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見(委員会決定第29号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が7月5日に行われた。2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けていた。
委員会は、「祭り」が番組のために用意されたものであったのに制作スタッフがその過程を把握していなかったこと、また視聴者の「了解」の範囲を見誤りナレーションによって地元に根差した「祭り」に出演者が体当たりで挑戦していると思わせてしまったこと、さらに挑戦の舞台である「祭り」への制作スタッフの関心が薄くなっていく中で安易なナレーションを生んでしまった、と検証したうえで、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるをえないと判断した。
委員会では、委員会決定を伝えた日本テレビのニュースを視聴し、委員長代行や担当委員から、通知の際のやりとりや会見での質疑応答などが報告された。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別確認のために名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどの執拗な確認行為をする模様を放送した。ロケのVTR終了後、レギュラー出演の男性コメンテーターが番組内容について、許し難い人権感覚の欠如であって報道番組としての感覚を疑うと厳しく叱責したが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。
その後読売テレビは、取材協力者や視聴者に謝罪するとともに、なぜ当該コーナーを取材し放送に至ったのかについて検証する番組を放送した。さらに社内に「検証・再発防止検討チーム」を設置して、人権に関する全社研修会の実施や映像チェック体制の強化を図るとともに、独自の検証結果を公表した。
委員会は、当該放送局の自主的・自律的な迅速な対応は評価できるものの、なぜ十分な議論や反対意見が出された形跡がないまま、この内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして、前回審議入りを決めた。7月上旬、担当委員が当該放送局や制作会社の担当者の一部に対してヒアリングを行い、その途中経過が報告された。次回委員会までに引き続きヒアリングを実施する予定である。

3.「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の『働き方改革から始まる未来』を審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会で、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしている。委員会では前回に引き続き、担当委員から示された意見書案の内容について意見交換が行われた。次回も意見書案について議論を続ける予定である。

4. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議入り決定

4月6日と5月18日に放送された関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』で、コメンテーターとして出演した女性作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言し、民族差別や女性蔑視をあおる人権的配慮を欠いた放送であるとの批判的意見や、番組は生放送ではなく収録されたもので、編集作業で発言がカットされなかったことについての批判がBPOに多数寄せられた。
当該放送局の報告書によると、4月6日の番組内容について、制作や考査の責任者らが事前に発言を検討し、当該発言は「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」「配偶者が韓国人であり、頻繁に韓国を訪れ親近感を持っているコメンテーターならではの比喩表現であり、差別には当たらない」との判断を行った、5月18日についても、発言には差別的意図はないと判断し、放送したとしている。
放送後、関西テレビは、5月24日、「人種、民族、性別や自傷行為を繰り返す方々への差別的意図はない」という見解をまとめたものの、その後、6月18日に至り、「視聴者への配慮が足りず、心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送するという判断は誤りだった」とする謝罪コメントを発表、社長も記者会見で謝罪した。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と当該番組のDVDを基に討議した結果、民放連の放送基準が、人種・性別などを表現する時に、なにげない表現が当事者にとって重大な侮蔑あるいは差別として受け取られることが少なくないなどとしていることに照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われず放送に至った経緯や放送後にお詫びに至るまでの経緯について、詳しく調査し検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行い、審議を進める予定である。

5. TBSテレビ『水曜日のダウンタウン』の「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」企画について討議

6月12日に放送されたTBSテレビのバラエティー番組『水曜日のダウンタウン』の企画「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」について、放送後BPOに「障害者をネタとし、健常な対応がとれない素人に(リポーターが)どう対応するかを笑う特集になっています」など批判的な意見が複数寄せられた。このため委員会は、当該放送局に番組の同録DVDと報告書の提出を求め、討議を行った。
TBSテレビの報告書によると、『水曜日のダウンタウン』で2018年10月3日にも「中継先に現れたヤバめ素人のさばき方で芸人の力量丸わかり説」という企画を放送し、その時と同じ俳優が「ヤバめ素人」を演じたという。また、昨年10月の放送後「障害者をイメージさせて不快である」という主旨の意見が2件寄せられていたため、今回の企画においては、視聴者にそのような意図にとられないよう検討した上で演出を行ったということであるが、TBSテレビには視聴者から「障害者を演じている設定に見えました」「障害者を笑うつもりですか」などと批判的な意見が寄せられ、身内に発達障害の方がいるという局員からも「障害がある者を身内に持つ身としては、辛い部分もあった」という指摘を受け、改めて社内で話し合ったという。
委員会では、当該企画は民放連の放送基準「(56)精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない」で記されている配慮が足りなかったという意見が大勢を占め、上記の演出の工夫では改善されたとは思えないという意見も出されたが、昨年10月の放送への批判を受け、限定的ではあるが改善する努力をしていた点を考慮できるとの意見もあった。
その結果、障害がある方やその家族の視点を踏まえた演出上の配慮や注意喚起が十分ではなかったと真摯に受け止めており、また、番組制作者にも差別に関する研修に参加するよう指導したり、番組スタッフ全員で問題点を共有し、今回のような配慮が足りず不快感を与えるような演出については避けるなどの自主的・自律的な対応もとられているとして討議を終了することとした。

6. 高校中退芸人の差別的発言をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も、その方面に行かない方がいいという趣旨の差別的な表現をした。さらに、他の出演者の「道できれいな10円を12円で売っている」人がいたとの発言に、その様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。そして当該高校などからは一連の対応に理解を示してもらったという。
委員会では、討議を継続してきたが、当事者間で話し合いの場を設けてお詫びをしており、当該放送局の自主的・自律的な取り組みを評価して、委員からの意見を議事概要に公表することにして討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 番組内容のチェックが甘く、差別や人権など社会問題に対する認識が見受けられない。制作者には教育と啓発が必要である。

  • 高校の実名を出す必要性が感じられない。

  • 放送倫理上の問題があるが、放送やホームページで訂正するなど、抗議を受けた後は自主的・自律的に対応している。

以上

2019年7月5日

日本テレビ
『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』
2つの「祭り企画」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、7月5日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、中野剛委員、藤田真文委員の5人が出席し、日本テレビからは取締役執行役員(コンプライアンス担当)ら3人が出席した。
まず升味委員長代行が、「祭り」が番組のために用意されたものであったのに制作スタッフがその過程を把握していなかったこと、また視聴者の「了解」の範囲を見誤りナレーションによって地元に根差した「祭り」に出演者が体当たりしていると思わせてしまったこと、さらに挑戦の舞台である「祭り」への関心が薄くなっていく中で安易なナレーションを生んでしまった、という委員会の検証を解説し、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるをえないという判断になったことを説明した。
これに対して日本テレビは、「丁寧な審議に感謝している。今回の決定を真摯に受け止め、今後の番組制作にいかしていく。視聴者に自信を持って伝えられる体制を整えてから、ぜひ『祭り企画』を再開させたい」と述べた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には、30社62人が出席した。
はじめに升味委員長代行が、意見書の内容を紹介して判断にいたった経緯を説明した。岸本委員は「どこまで視聴者に伝える必要があるのかという問いが現場から聞かれたが、それ以前に、制作過程を正確に把握していなかったことが問題だ。すべてを把握してはじめて、バラエティーが豊かな番組空間を作り出せる」と述べた。中野委員は「日曜日の夜8時にこの番組を見ている人たちは、番組のコアなファンだけでなく、多様な視聴者がいることを忘れてはならない。現地コーディネーターに頼りすぎるのでなく、コーディネーターとのコミュニケーションを密にしてほしい」と呼び掛けた。さらに藤田委員は、これまでに放送倫理検証委員会が出したバラエティーの意見書(決定第7号 2009年11月17日)について触れ、「番組のすみずみまで計算しつくしてはじめてバラエティーが成り立つ」という委員会の考えに変わりがないことを説明した。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 祭り企画は全部で111回放送しているが、2つ以外の「祭り企画」を審議の対象とはしなかったのか?
A: 審議に必要なものは視聴したが、この2件について掘り下げて審議することに意味があると考えた。(升味委員長代行)
   
Q: 現地コーディネーターは、制作スタッフの一員なのか?あるいは外部の存在なのか?
A: 独立した当事者。企画が通ってはじめて経済的にも対価を得ている。制作スタッフと現地コーディネーターとの関係は、放送局と制作会社との関係とは異なる。(中野委員)
   
  制作スタッフは、企画の提案を各方面に投げかけ、提案されたいくつもの企画の中から選んだものについてロケをしている。選ばれた企画の現地コーディネーターは、制作スタッフと一体ではなく、制作会社と契約関係にある独立した他者だ。ただし、制作スタッフがその企画を採用して番組にしているのだから企画内容には責任を伴い、ロケに入ってからは制作スタッフと現地コーディネーターのコミュニケーションが大切であるのに、今回はこのコミュニケーションが欠けていた。(藤田委員)
   
  日本テレビは問題が明るみに出た当初、現地コーディネーターを切り離して外の存在であるかのように言っていたが、その後、番組制作の大切な協力者だと訂正した。委員会のヒアリングの対象は普段は放送局と制作会社だが、今回は制作会社の協力者という立場で、コーディネーターにもヒアリングに応じてもらった。(岸本委員)
   
Q: 「やらせ」「でっちあげ」という指摘については、どういう議論があったのか?
A: これまでも、委員会では、「やらせ」「でっち上げ」を定義し、その番組がこれにあたるかあたらないかという判断の仕方はとっていない。今回の『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』についていえば、バラエティー番組であり、番組の素材として番組のために何か物を作る、何かを準備するということ自体が倫理違反であるとは考えていない。そこにある事実そのものを伝える報道番組やそのようなドキュメンタリーとは違う面があると考えている。(升味委員長代行)

以上

2019年7月12日

関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』審議入り

放送倫理検証委員会は7月12日の第139回委員会で、関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』で、コメンテーターの作家が、韓国人の気質について、「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言。民族差別や女性蔑視をあおる人権的配慮を欠いた放送であるとの批判的な意見がBPOに寄せられた。番組は生放送ではなく収録されたもので、編集でカットされなかったことについても批判が相次いだ。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、当該放送局に対して報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、民放連の放送基準が、人種や性別などによって取り扱いを差別しないとしていることを挙げ、「当該放送局がスタジオ収録を経て編集・放送、そしてお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要がある」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第29号

日本テレビ
『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』
2つの「祭り企画」に関する意見

2019年7月5日 放送局:日本テレビ

日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』で、2017年2月に放送された「タイ・カリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオス・橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けてきた。
委員会は(1)「祭り」は番組のために用意されたものであったが、制作スタッフはその過程を把握していなかった(2)視聴者の「了解」の範囲を見誤り、地元に根差した「祭り」への体当たり挑戦だとナレーションで思わせた(3)挑戦の舞台である「祭り」そのものへの関心が希薄化したため安易なナレーションを生んだ、と分析した。そして、制作過程の重要な部分を制作者側が把握していなかった点でその過程が適正に保たれておらず、現地にもともとある祭りに出演者が参加しているように視聴者を誘導した点で、多くの視聴者が番組に求める約束に反したものだったと言われても仕方がないとして、2つの「祭り企画」には、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるを得ないと判断した。
そのうえで、世の中の権威や無意味な制約を笑いとばし、差別や偏見のばかばかしさを暴き、新たな驚きや笑いを視聴者に届けるしなやかさや気概を持ち続けてほしいとバラエティー制作者に呼びかけた。

2019年7月5日 第29号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf
  • II 審議の対象とした番組pdf
    • 1 「ラオス・橋祭り」
    • 2 「タイ・カリフラワー祭り」
  • III 本件放送の制作過程と問題が指摘されたあとの日本テレビの対応pdf
    • 1 『イッテQ!』の制作体制
    • 2 「祭り企画」について
    • 3 「ラオス・橋祭り」の制作過程
    • 4 「タイ・カリフラワー祭り」の制作過程
    • 5 問題が指摘されたあとの日本テレビの対応
    • 6 その他の「祭り企画」109回の調査報告の検討
  • IV 委員会の検証pdf
    • 1 「祭り」は番組のために用意されたものであったが、制作スタッフはその過程を把握していなかった
    • 2 視聴者の「了解」の範囲を見誤り、ナレーションによって地元に根差した「祭り」への体当たり挑戦と思わせた
    • 3 挑戦の舞台である「祭り」そのものへの関心が希薄化し、安易なナレーションを生んだ
  • V 委員会の判断pdf
  • VI おわりにpdf

2019年7月5日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年7月5日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、30社62人が出席した。
詳細はこちら。

2019年10月11日【委員会決定を受けての日本テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2019年7月5日)を受けて、当該の日本テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
10月11日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

日本テレビの対応

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目 次

  • 1、委員会決定についての報道
  • 2、情報・制作局の取り組み
  • 3、BPO委員を招いて研修会を実施
  • 4、決定内容の社内周知について
  • 5、番組審議会への報告
  • 6、イッテQ 再発防止への取り組み
  • 7、総括

第138回 放送倫理検証委員会

第138回–2019年6月

日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』の審議

第138回放送倫理検証委員会は6月14日に開催され、海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、審議を続けている日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
長野放送がローカルで放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、放送内容が番組か広告か曖昧であり、考査が適正だったか検証する必要があるとして、前回の委員会で審議入りが決まった。その後、担当委員が当該放送局や制作会社の担当者に対してヒアリングを行い、それを基にまとめた意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換を行った。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送した読売テレビのローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』について、当該放送局から提出された報告書などを基に討議した。その結果、プライバシーや人権への配慮を著しく欠いた不適切な放送であり、この内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして、審議入りすることを決めた。
番組内で差別的表現があったことをお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』について、追加報告書が提出されて委員会で議論したが、さらに討議を継続することになった。
統一地方選挙の告示約3週間前に立候補予定の現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』および立候補していた現職の知事を、告示の翌日に番組内で取り上げたCBCテレビの『ゴゴスマ』について、当該放送局に報告書の提出を求めて討議した。報告書によると、前者については、制作スタッフは選挙を巡る放送基準は認識していたが、告示の3週間前であることに思いが及ばず放送に至ったとのことであり、後者については、制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には注意が必要との認識はあったものの、紹介した知事が候補者かどうかの確認を怠ったという。委員会では、最近の討議事案と類似のミスが繰り返されていることに厳しい意見が出されたが、いずれの番組も他の候補者との間で実質的に公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しておらず、今後、各放送局が、社内のチェック体制を構築して再発防止に努めるとしていることから、今回は審議に入らず、議事概要に主な意見を記載して改めて注意喚起をすることとし、討議を終了した。

1.「海外ロケの企画をでっち上げた疑いがある」と報じられた『世界の果てまでイッテQ!』を審議

日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』で、2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けてきた。
この日は、前回までの議論を受けて担当委員が作成した意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しをしたうえで、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
なお、神田委員長は当該番組の審議には参加していない。

2.「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』を審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について視聴者から「放送番組なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられた。当該番組は30分枠の編成で、2分間のステーションブレークを除いた28分間には、中CMがなかった。前回の委員会で、当該番組で取り上げている特定の社会保険労務士法人の事業紹介は、民放連の放送基準に照らして広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったのか検証する必要があるとして、審議入りを決めた。その後5月末から6月初めにかけて、担当委員が長野放送社員や番組を制作した制作会社の担当者にヒアリングを行った。
今回の委員会では、担当委員からヒアリングの概要が報告され、併せて、長野放送から再発防止策に向けた改善策などが記載された追加報告書が提出されたことも報告されたうえで、意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換が行われた。次回も引き続き意見書案を中心に審議する予定である。

3. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議入り

読売テレビが5月10日に放送した夕方のローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画について、「プライバシーおよび人権を侵害しているのではないか」という批判的な意見がBPOに対して多数寄せられた。
「迷ってナンボ!」と題されたコーナー企画は、お笑い芸人2人が街頭に出て、人々のさまざまな疑問や迷いを探し、その場で解決していくというもので、当該番組は、大阪市内の飲食店の女性に依頼され、男性常連客の性別を確認するというものだった。その際、名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどした。ロケのVTRが終わって映像がスタジオに切り替わった際、レギュラー出演している男性コメンテーターが「許し難い人権感覚の欠如だ。よくこんなもの放送できるね。報道番組としてどういう感覚なのか」と厳しく叱責し、司会のアナウンサーなど他の出演者がその指摘に特に応じることなくコーナーの放送は終わった。
これを受けて読売テレビは5月13日、取材協力者に謝罪するとともに、番組ホームページに謝罪コメントを掲載、その日の同番組冒頭でも「人権的配慮に欠けた不適切な放送であった」と謝罪した。5月15日には番組を拡大し、問題を指摘したコメンテーターも出演して、なぜ当該コーナーを取材し、放送に至ったのかについて検証する番組を放送した。また、「迷ってナンボ!」という当該コーナーを当面の間休止すると発表した。
さらに社内に、「検証・再発防止検討チーム」を設置して、人権に関する全社研修会の実施や映像チェック体制の強化を図るとともに、独自の検証結果を公表した。また、視聴者からの意見に答える番組『声 あなたと読売テレビ』で、寄せられた意見を紹介し今回の問題点や再発防止策などについて改めて視聴者に説明した。
委員会では、当該放送局から提出された映像素材や報告書を基に討議が行われ、委員から「性的少数者の描き方に根本的な問題がある」「あまりにもマジョリティーの立場に立ちすぎた放送で重大性は群を抜いている」「放送内容のみならず制作過程に大きな問題があるのではないか」などの批判的意見が相次いだ。また、「深刻なのはコメンテーターや視聴者から指摘されるまで出演者だけでなく制作陣が問題に気づいていなかったことだ」「社会の批判的感覚と局内の感覚に深いギャップがある」との指摘もあった。
討議の結果、当該放送局の自主・自律の迅速な対応は評価できるが、読売テレビの放送基準が準拠する民放連放送基準の条項に複数抵触するおそれがあるとの意見や、十分な議論や反対意見が出された形跡がないまま、この内容が放送されるに至ったかを解明する必要があるなどの意見が出され、審議入りを決定した。

4. 高校中退芸人の差別的表現をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も、その方面に行かない方がいいという趣旨の差別的な表現をした。さらに、他の出演者の「道できれいな10円を12円で売っている」人がいたとの発言にその様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。当該高校などからは一連の対応に理解を示してもらったという。
委員会では、当該放送局から提出された追加報告書を基に意見交換したが、討議を継続することになった。

5-1. 統一地方選挙の告示約3週間前に現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』を討議

テレビ東京はバラエティー番組『日曜ビッグバラエティ』で、3月3日に『不法投棄を許すな!ヤバいゴミぜんぶ拾う大作戦~東京湾ダイバー70人で潜って一斉清掃SP~』を放送した。この番組の「三重県の不法投棄地帯で奮闘する不法投棄Gメンに密着」という特集コーナーの中で、三重県知事がインタビュー出演した。番組はゴミの不法投棄を取り締まる三重県職員の奮闘ぶりを伝えるもので、その一部として現職知事のインタビューが37秒間放送された。
放送日は、統一地方選挙で三重県知事選挙の告示まで約3週間前だった。
委員会は、当該放送局に対して、告示の1カ月前を切った時期に現職知事を放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、制作会社のディレクターやプロデューサー、テレビ東京の社員も含め番組スタッフは民放連放送基準「(12)選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」の規定は認識していたが、知事のインタビュー出演が選挙事前運動にあたるとは考えなかったという。このため放送日が「告示の1カ月前を切った、3週間前の放送」になってしまう事に思いが及ばず、放送に至ったとしている。
選挙関連の放送を巡っては、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。他方で、放送倫理違反の有無の判断にあたっては、候補者が番組に出演しているかどうかという形式的な観点からの検討だけでは十分ではなく、視聴者、有権者に与える印象の程度を考慮して、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがないかどうかという実質的な観点も合わせて判断すべきであること(決定第9号)を踏まえ、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。また、当該放送局は、今回の事案を受けて、社内に向けた注意喚起をより一層強化するとともに社内のチェック体制を構築し、制作会社に向けて説明する機会を設けるなど、再発防止に努めるとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 選挙は現職に有利であるとされており、インタビュー取材の相手は立候補予定者の現職知事ではなく、現職知事以外の責任者でも良かったはずではないか。

  • 現職の知事が自治体の最高責任者であることを踏まえて、懸案となっている不法投棄問題についてインタビュー取材を申し入れることはあり得ると考えられるが、今回のように、現職知事が政策や政治活動の実効性について発言することになれば、告示前であっても選挙の事前運動的効果が強いと視聴者に受け取られかねず注意が必要だ。

  • 統一地方選挙の時期である以上、日頃は守備範囲外である地方選挙に対しても感覚を鋭敏にすべきであるにもかかわらず、告示の3週間前であることなどについて意識が希薄であったことは問題であり、残念である。

  • 今年2月の委員会の選挙関連事案に際して注意喚起した意見が生かされておらず、大変遺憾である。

5-2. 統一地方選挙期間中に現職候補者の顔写真と名前を放送したCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』を討議

3月22日に放送されたCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』で、秋篠宮佳子さまの大学卒業の話題に関連して現職の鳥取県知事を扱った。番組では、佳子さま卒業のニュースを受け、佳子さまに関するエピソードのひとつとして「公務で見事な切り返し」と題して、鳥取県を訪問された際の知事とのやり取りを紹介した。その際、知事の顔写真と名前が書き込まれたフリップを約31秒間放送した。放送当日は、鳥取県知事選挙が告示された翌日でありフリップで紹介した知事も立候補していた。
委員会は、当該放送局に対して、統一地方選挙期間中にもかかわらず放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、番組制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には十分な注意が必要であるという認識はあったものの、知事本人が選挙期間中の候補者かどうかという確認ができていなかったとしている。
本件番組に対しても、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。そのうえで、上記と同様に、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。
そして、当該放送局は、今回の放送では名前や顔写真を出さない手法もあったと反省しており、番組制作にかかわるスタッフ全員が改めて選挙の公正性について高い意識を持つように注意喚起をしたという。また、国政選挙だけでなく地方選挙も含めた全国の選挙スケジュールを可視化して各番組で共有するとともに、このようなミスを起こさないために運用している番組内容確認表に「選挙期間中の候補者の出演、紹介、映り込みの有無」という確認項目を追加するなど、チェック体制の強化を図ったとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 単純ミスであるとしても、告示の翌日という選挙期間中であることは軽視できない。

  • 政治家の写真を扱う際に、選挙に関係しているかどうかを調べることは、それほど難しい作業ではないと思う。

  • 今年2月の知事選挙に関連した討議事案があったことをBPO放送倫理検証委員会の議事概要で知っていたとのことであるが、その教訓が自らの番組作りに生かされなかったのは大変遺憾である。

  • 今年は参議院議員選挙もあるが、選挙事前運動に関する不注意には十分気をつけたうえで、選挙報道に関して萎縮することなく積極的に取り組んでもらいたい。

以上

2019年6月14日

読売テレビの報道番組『かんさい情報ネットten.』審議入り

放送倫理検証委員会は6月14日の第138回委員会で、読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、読売テレビが5月10日、夕方のニュース番組『かんさい情報ネットten.』で放送した企画コーナーの「迷ってナンボ!」で、一般男性の性別を執拗に確認するシーンが流れた。
番組は、お笑い芸人が大阪市内にある飲食店の店員の「性別が分からない常連客がいる」という声を取り上げ、芸人が常連客の男性に性別を確認。男性に名前や住所、恋人の有無を聞くなどしたうえで保険証の性別欄を撮影したり、胸を触ったりして、「男性」と確認できたと結論づけた。コーナーが終了しスタジオの映像に切り替わった際、番組のコメンテーターが「許しがたい人権感覚の欠如だ」などと批判。局には視聴者から多数の批判の意見が寄せられた。
読売テレビは、この男性に謝罪するとともに、番組ホームページで謝罪。番組でアナウンサーや解説デスク、報道局長が出演して人権的配慮に欠けた不適切な放送であったと謝罪したうえで、「迷ってナンボ!」のコーナーは当面の間、放送を休止すると発表した。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、当該放送局に対して報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は審議入りについて、「事後の対応は自主・自律的に一定程度きちんと行われていたが、多様な性のあり方が社会で共有されている中で、放送局側の意識と視聴者の意識の差、その大きな違いを否定できない。なぜ放送に至ったのか、チェックできなかったのか、放送倫理に照らしてどう評価できるか、しっかり審議すべきだと判断した」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第137回 放送倫理検証委員会

第137回–2019年5月

"CMと誤解を招きかねず放送基準に抵触する疑い"長野放送『働き方改革から始まる未来』審議入り

第137回放送倫理検証委員会は5月10日に開催され、新年度になって委員3人が交代したため、冒頭、報道各社による委員会の写真撮影が行われた。
委員会では、海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、審議を続けている日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』について、前回の委員会の議論を踏まえた意見書の修正案が担当委員から示された。来月の委員会では、今回の議論を反映した再修正案が提出される予定である。
また、以下の3事案について、当該放送局から報告書と当該番組のDVDの提出を受けてそれぞれ討議した結果、1事案の審議入りを決めた。
まず、長野放送が3月に放送したローカル単発番組『働き方改革から始まる未来』という持ち込み番組について討議を行い、日本民間放送連盟放送基準(以下「民放連放送基準」という)等に照らし、番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、また、広告放送であるにもかかわらず、CMのかたちをとっておらず、放送番組と識別できていないのではないか等の意見が大勢を占め、また、持ち込み番組であることを踏まえてどのような考査を行ったのか等について検証が必要であるとの意見も出され、審議入りすることを決めた。
また、テレビ朝日が、2月に放送した番組で差別的表現があったことをお詫びしたバラエティー番組『アメトーーク!』について討議を行い、委員会は、特定の地域や学校を差別する表現があり、民放連放送基準に照らして問題があると考えられるところ、さらに確認したい点があるとして当該放送局に追加の質問を行い、討議を継続することになった。
続いて東海テレビが、気象庁の訓練用「火山噴火情報」を誤って速報スーパーで放送した事案について討議を行い、事実と異なる放送であり放送倫理違反が認められるうえ、必ずしも速やかに誤報を訂正したとはいえない等の意見が出された一方で、問い合わせのあった視聴者に対しては適切な対応を取り、具体的な再発防止策なども取っており、最終的に自主的・自律的な対応がなされているとして討議を終了した。もっとも、従前の同種の事案において、「提言」や「委員長コメント」が出されていることを踏まえ、委員から出された意見を議事概要に掲載して、改めて注意喚起することとなった。

1.「海外ロケの企画をでっち上げた疑いがある」と報じられた『世界の果てまでイッテQ!』を審議

日本テレビの「謎とき冒険バラエティー『世界の果てまでイッテQ!』」で、2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この二つの「祭り企画」を対象に審議を続けている。
この日の委員会には、前回出された意見を受けて担当委員が作成した意見書の修正案が提案された。各委員からは、修正案の構成や指摘しているポイントの表現方法などについてさまざまな意見や見方が示された。
次の委員会では、今回の議論を踏まえて、担当委員から意見書の再修正案が提出される予定になっている。
なお、神田委員長は『世界の果てまでイッテQ!』の審議には参加していない。

2.長野放送『働き方改革から始まる未来』について放送か広告か曖昧だとして審議入り

長野放送は3月21日に『働き方改革から始まる未来』という持ち込み番組をローカル放送した。この番組は、労働基準法などいわゆる「働き方改革関連法」が変わる4月を前に、その準備ができているか等を問う内容となっているが、視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられた。このため長野放送に対し、放送した番組のDVDと報告書の提出を求めて確認したところ、その内容のほとんどは、長野県に本社がある特定の社会保険労務士法人の事業の紹介であり、本編28分間の間にCMはなかった。
そこで、委員会は討議を行い、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」等に照らすと、番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、広告放送であるにもかかわらず、CMのかたちをとっておらず、放送番組と識別できていないのではないか等、放送倫理違反の疑いが大きいという意見や、持ち込み番組であることを踏まえて考査の過程など放送に至った経緯についても検証が必要である等の意見が相次いで出され、審議入りすることを決定した。今後は、長野放送の社員らに対するヒアリングなどを行って、審議を進める。

3.放送内容の差別的表現をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も「僕らも学生の頃にそっち方面は行かんとことみんなで言うてた」と発言、また他の出演者の「道できれいな10円を12円で売ってる」人がいたとの発言にその様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。その後、当該放送局は、4月18日の同じ番組で、「事実と異なる内容や差別的な表現があった」として謝罪し、番組のホームページにも謝罪文を載せた。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。また、当該放送局によると、当該高校などからは、番組の一連の対応に理解をしてもらったという。
そこで、委員会は討議を行い、特定の地域や学校を差別する表現があり、民放連放送基準に照らして問題があると考えられるところ、さらに確認したい点があるとして当該放送局に追加の質問を行い、討議を継続することになった。

4.火山噴火情報の「訓練用の速報スーパー」を誤報しお詫びした東海テレビの報道内容を討議

東海テレビは、1月22日午後3時過ぎ、「午後3時1分頃新たな活火山が噴火した(気象庁)登山者はすぐに下山または避難を」という内容を速報スーパーで伝えた。しかし、当日、実際には活火山の噴火はなく、気象庁が東京の放送キー局各局と行っていた訓練用の情報を誤って放送したものであった。
当該放送局の報告書によると、担当の報道部は、キー局から送られてきた情報に火山の地名がないことを不審に思ったものの「人命にかかわる緊急性の高い情報」「地震速報などでは続報で詳細な内容が追加される場合がある」と考え速報スーパーとして放送し、その後、情報が訓練用のものであることが確認されたため、訂正の速報スーパーを放送することを検討したが、速報スーパーでは十分な説明ができず、逆に視聴者の混乱を招きかねないと判断し、夕方のローカルニュース番組の開始まで待ち、その冒頭で訂正とお詫びをしたという。
委員会では、本件が事実に基づかないニュースであり、放送倫理違反が認められること、また、当該誤報を取り消して訂正しているものの、必ずしも速やかに対応したとはいえないこと、とりわけ、「登山者はすぐに下山または避難を」という災害情報であったことに鑑みれば、より速やかに速報スーパーで取り消し又は訂正を行う余地があったのではないかとの意見が出された。
他方で、災害情報であったことを踏まえると、まずは速報を行う必要性があったことも否めないこと、当該放送局では、誤報の可能性が高まった段階から、問い合わせのあった視聴者に対して誤報の可能性を伝え、誤報であることが確定した後は、誤報であることをお詫びとともに伝えていたこと、本件を契機として、訓練データが配信されないように当該放送局系列のキー局のシステムを改修し、訓練情報であることをデータに明記するなどの具体的な再発防止策がとられたこと、当該放送局の番組審議会や第三者諮問機関において、本件が取り上げられて厳しい意見が出されていることなど、最終的に自主的・自律的な対応がなされていることを踏まえ、審議の対象とはせず、討議を終了することとした。もっとも、かつて、誤字幕、誤映像のミスが生じた同種の事案において、委員会として「提言」(2011年9月)をおこなって注意喚起をした経緯が存すること、また、それとは別に、不適切テロップが送出された事案において、当該放送局が迅速な訂正をし、かつ訂正とお詫びを翌朝までに3度放送した事案においても「委員長コメント」(2012年4月)を出して注意喚起をした経緯を踏まえ、委員から出された意見を議事概要に掲載して、改めてBPO加盟の放送局に注意喚起することとした。

【委員の主な意見】

  • 火山の名前が記載されていなかったのであるから、まず火山を特定する必要があったにもかかわらず、その点を十分に確認しないまま誤った事実をスーパーで流したことは放送倫理違反にあたるのではないか

  • 災害情報であったことを踏まえると、火山の名前が記載されていなかったとしても、むしろ速やかに報道する必要性があったことも否めないのではないか

  • 「登山者はすぐに下山または避難を」という災害情報であり、人命にかかわる緊急性の高い情報でもあったことに鑑みれば、『ニュースの誤報は速やかに取り消しまたは訂正する』との放送基準に照らして、速やかに取り消し又は訂正を行うべきではなかったか

  • 災害情報を速報スーパーで誤ったのであれば、速やかに速報スーパーで取消又は訂正すべきだったのではないか

  • 誤字幕、誤映像の問題については「提言」や「委員長コメント」を行った先例があり、とりわけ災害報道や災害の緊急告知に際しての字幕や映像の正確性や訂正の必要性について、放送局全体が危機意識を有してほしい

以上

2019年5月10日

長野放送『働き方改革から始まる未来』審議入り

放送倫理検証委員会は5月10日、長野放送の『働き方改革から始まる未来』について、審議入りすることを決めた。
審議の対象となるのは、3月21日に長野県内で放送された30分番組の『働き方改革から始まる未来』で、放送は長野県内の社会保険労務士法人の働き方改革をめぐる取り組みを紹介している。委員会では、視聴者から寄せられた「放送なのか広告なのか曖昧だ」という意見を受けて、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、当該放送局に対して報告書と同録DVDの提出を求め討議した。その結果、委員から、「番組ではなくCMではないか、民放連の放送基準に反しているのではないか」などの意見が出され、『働き方改革から始まる未来』を審議の対象として検証することを決めた。
審議入りについて神田安積委員長は、「広告放送とコマーシャルの区別ができているのかどうか、視聴者に広告放送と誤解を招くような演出になっていないか総合的に判断する必要がある」と述べた。委員会は今後、長野放送の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。