第41号

日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見

2021年7月21日 放送局:日本テレビ

日本テレビは3月12日に放送した情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして、動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、日本テレビには視聴者から不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で「放送内容においてアイヌの方たちを傷つける不適切な表現がありました。深くお詫び申し上げるとともに今後、再発防止に努めてまいります」と謝罪し、日本テレビのウェブサイト及び番組ウェブサイトにお詫びを掲載した。翌週月曜日15日には、『スッキリ』の番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と同録DVDを求め協議した結果、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。審議の結果、本件放送はアイヌ民族に対する明らかな差別表現を含んだもので、オンエアに至った背景には、収録動画の最終チェック体制が極めて甘く、アイヌ民族やその差別問題に関する基本的知識がスタッフ間で決定的に不足していた点があったことを指摘し、日本民間放送連盟の「放送基準」の「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」などに反しているとして、放送倫理違反があったと判断した。

2021年7月21日 第41号委員会決定

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目 次

2021年7月21日 決定の通知と公表

新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、通知は7月21日午後5時40分からオンライン会議システムで行われた。また公表の記者会見は午後6時15分から同じくオンライン会議システムを使用して行われ、委員長および担当委員が委員会決定の説明と質疑応答を行った。会見には132アカウントの参加があった。
詳細はこちら。

2021年11月12日【委員会決定に対する日本テレビの対応と取り組み】

委員会決定 第41号に対して、日本テレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2021年10月20日付で提出され、委員会はこれを了承した。

日本テレビの対応

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目 次

  • 1、委員会決定についての放送
  • 2、検証番組の放送について
  • 3、番組審議会への報告
  • 4、BPO委員を招き研修会を実施
  • 5、再発防止に向けた取り組み
  • 6、おわりに

第162回 放送倫理検証委員会

第162回–2021年7月

日本テレビの情報番組『スッキリ』を審議
7月中に委員会決定を通知・公表

第162回放送倫理検証委員会は7月9日にオンラインで開催された。
アイヌ民族に対する差別表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、担当委員から意見書の修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、7月中に当該放送局への通知と公表を行うことにした。

議事の詳細

日時
2021年7月9日(金)午後5時00分~午後7時00分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビが3月12日に放送した情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをしたことについて、委員会は、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決めた。
今回の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、7月中に当該放送局へ通知して公表することにした。

以上

第161回 放送倫理検証委員会

第161回–2021年6月

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見への対応報告を了承

第161回放送倫理検証委員会は6月11日にオンラインで開催された。
委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビの「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な再発防止策やこれに基づいて再開した世論調査の実施状況など取り組みをまとめた対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2021年6月11日(金)午後5時00分~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見への対応報告を了承

委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビの「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見(委員会決定第40号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定を社内やFNN(フジニュースネットワーク)の各会議で報告・共有し内容の浸透を図ったこと、再発防止策とこれに基づいて再開した世論調査の実施状況、研究者を招いての社内勉強会やBPO委員との研修会の模様、また報道局全社員が委員会決定を読み提出した所感の抜粋などが記されている。
委員からは、「取材活動であるはずの世論調査が、契約に基づく単なる委託業務としてルーティン化していたなどの反省が示されるなど問題が的確に認識されている」「再発防止策を緻密に設定しているのは問題を深刻に受け止めた結果だと感じる」「BPOが『丸投げ』と指摘した今回の問題は、世論調査特有のものではなく制作現場全てに当てはまる教訓だ、と所感にあるが、こうした問題に制作現場全体で取り組んでもらえるとよい」「マスメディアが行う世論調査に内在する問題に対策が必要とされる中、今後どうすればよいかの課題が見えて来たという点で、委員会の調査と当該放送局の対応には意義があった」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、当該報告を了承し、公表することにした。
フジテレビの対応報告は、こちら(PDFファイル)

2. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビが3月12日に放送した、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをしたことについて、委員会は、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決めた。
5月委員会でのヒアリング結果の報告を経て、今回の委員会では、当該局の関係者に対して実施したヒアリングに基づき担当委員が作成した意見書の原案が示され、意見交換を行った。次回は修正案が提出される予定である。

以上

第160回 放送倫理検証委員会

第160回–2021年5月

日本テレビの情報番組『スッキリ』を審議

第160回放送倫理検証委員会は5月14日にオンラインで開催された。
委員会が1月18日に通知・公表したフジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応を了承して公表することにした。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、前回委員会で、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りが決まったことを受け、今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対して行ったヒアリングの途中経過が報告された。

議事の詳細

日時
2021年5月14日(金)午後5時00分~午後6時45分
場所
放送倫理・番組向上機構[BPO]第1会議室(千代田放送会館7階)およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見への対応報告を了承

委員会が1月18日に通知・公表した、フジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見(委員会決定第39号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。 また、担当委員から、4月に当該放送局がオンライン形式で実施した研修会での委員との意見交換の様子などが報告された。委員会は、当該放送局の今後の改善状況を見守り、当該報告を了承して公表することにした。

2. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
前回の委員会で、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議した結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、適切な編集が行われずに放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りが決まった。今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対するヒアリングの途中経過の報告を受けて議論をした上、次回委員会において提案される予定の意見書案を踏まえてさらに検討することとした。

以上

第159回 放送倫理検証委員会

第159回–2021年4月

アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

第159回放送倫理検証委員会は4月9日に開催された。
委員会の冒頭、3月に退任した神田安積前委員長、中野剛委員に替わり新たに就任した小町谷育子委員、井桁大介委員が挨拶を行ったあと、委員の互選により小町谷育子委員が委員長に選出された。また、小町谷委員長は岸本葉子委員長代行及び升味佐江子委員長代行を引き続き委員長代行に指名した。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について同局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議した結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2021年4月9日金午後5時00分~午後7時00分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求め、それらを踏まえて協議した。その結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、適切な編集が行われずに放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

以上

2021年4月9日

アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求め、それらを踏まえて協議した結果、放送に至る経緯等を解明する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第158回 放送倫理検証委員会

第158回–2021年3月

2月の視聴者意見を報告

第158回放送倫理検証委員会は3月12日に開催され、2月にBPOに届いた視聴者意見の概要が事務局から報告された。

議事の詳細

日時
2021年3月12日(金)午後5時~午後7時
場所
放送倫理・番組向上機構[BPO]第1会議室(千代田放送会館7階)+オンライン
議題
出席者

神田委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、大石委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. 2月の視聴者意見の概要

2月の28日間にBPOに届いた視聴者意見のうち、新型コロナウイルスのワクチン接種のニュースで注射の映像が頻繁に放送されることに対する批判的な意見などが事務局から報告されたが、個別の番組について特に踏み込んだ議論は行われなかった。

以上

2020年12月3日

全国の放送局を対象に意見交換会開催

放送倫理検証委員会と全国の放送局との意見交換会が、2020年12月3日千代田放送会館2階大ホールで開催された。また事前に申し込みのあった放送局に対して、オンライン配信を同時に実施した。放送局の参加者は、会場に40人、配信にて視聴したのは97社で、そのアカウント数は298件であった。さらに社内の会議室等で複数名による共同視聴をしたところも多数あった。委員会からは神田安積委員長、岸本葉子委員長代行、升味佐江子委員長代行、西土彰一郎委員の4人が出席した。コロナ禍のため、2020年度に放送倫理検証委員会が意見交換会を開くのは今回限りで、オンライン配信を利用して全国を対象に実施したのは初めてのことである。

開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「この意見交換会はBPOとしても大変重視しており、BPOの活動と放送局の皆さまとをつなぐ非常に重要な役割となっている。これからメインテーマである番組と広告の問題について議論してもらうが、民放連の広告の取り扱いのルールなどにもあるように、放送の番組内容と、広告放送との識別、区別というのは大変重要で、視聴者にとって、放送の効用というものがしっかり伝わっていくための重要な原理だと思う。同時に、広告放送は民間放送が放送を自由で自律的に行っていくための大事な柱でもあるので、この番組と広告の問題というのは、放送局全体として幅広く議論していくテーマである」と挨拶した。

意見交換会の最初は、10月30日に公表した「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題した委員長談話について、以下のとおり、神田委員長が解説をした。
放送基準は全部で152条あるが、3分の1以上は広告に関する放送基準である。理事長から、番組と広告の問題は民放において重要な原理であるとのお話があったが、放送基準における広告にかかる条文の多さはそのことを物語っている。
約3年前に、ある地方局の番組の中で、いわゆるステマの問題が取り上げられたことがあり、2017年5月25日付で民放連が「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した。
「留意事項」は、まず、「民放は視聴者の利益に資することを目的に、さまざまな情報を番組で取り扱っており、そうした取り組みのひとつとして、特定の商品・サービスなどを取り上げ、紹介することが日常的に行われている」「番組で特定の商品・サービスを取り扱うことは、視聴者に対して具体的で有益な情報提供となる」ということを明らかにしている。
同時に、「留意事項」は、「取り上げ方や演出方法などによっては、広告の意図や目的がなくても、視聴者に『広告放送』であるとの誤解を招く場合がある」ことも指摘している。また、万が一にも「誤解や疑念を持たれることは、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる」と書かれている。
皆さんには、常にその2つの視点を意識しながら、番組の制作をしていただきたい。委員会も、番組が広告と誤解されることが問題になることがあれば、この2つの視点から考えることになる。つまり、特定の商品・サービスを取り上げ、紹介する番組について、最初から規制ありきではなく、視聴者に対して具体的で有益な情報提供であるという点を前提としたうえで、検討や評価をしているということをご理解いただきたい。
本年、秋田放送、山口放送の番組に関して、広告と誤解されるのではないかとの視聴者意見が寄せられ、委員会は討議を約半年間かけて行ってきた。その経過の中で、本年3月6日に、民放連の放送基準審議会が、「放送基準の遵守・徹底のお願い」という文書を発出した。本文書は、番組と広告の識別に関して、「その取り上げ方は放送責任の範囲内でおのずと決まってまいります。そのうえで、演出や構成などには大いに工夫の余地があるのではないでしょうか。番組の企画から放送前の考査まで、社内横断的なしっかりとした体制を構築し、放送の価値向上と収益の確保に尽力していただきたいと思います」としている。この点について、委員会は、民放連が各局に向けて、自主的・自律的な検討を促す趣旨のメッセージであると受け止めている。また、本文書は、番組と広告の問題とは別に、BPOにおいて過去にあった事例と同様の事例が繰り返し審議入りされていることについて、各局に対して警鐘を鳴らしている。
委員会は、このような動きを踏まえながら、半年間をかけて両放送局の番組の討議を行い、また、番組と広告の問題について、民放各局の自主的・自律的な対応を促すために望ましい結論に向けた議論をし、その結果、本年10月30日付の委員長談話を出すに至った。
委員長談話において触れているとおり、委員会は、これまで3局の事案について2つの意見書を出してきた。その中で、番組と広告の問題について、今後も民放各局で自主的・自律的に判断してほしい、その判断に当たっては「留意事項」を総合的に判断していただきたいということを繰り返し伝えてきた。その趣旨は、意見書で問題になった番組が放送倫理違反であると評価したとしても、そのことが、ある特定の部分を放送しなければ問題なかったということを意味するものではなく、むしろ、たとえば、その番組の中で、仮に問題がある部分があったとしても、他の部分で別の内容の放送になっていれば、いわば広告の印象が減殺され、全体として放送倫理に違反しないとされる余地があるのではないか、言い換えれば、ある特定の部分だけの問題ではなく、番組全体について「総合的に」考えてほしいということである。
通知公表時の質疑応答や意見交換会において、「番組の内容をどのようにすれば広告放送であると誤解を招かれなかったのか教えてほしい」といった質問や、さらには「番組と広告の境目をはっきりさせる明確な基準を示してほしい」という質問・要望も寄せられた。しかし、委員会の守備範囲は放送局の判断基準を作る役割ではない。仮に私たちが判断基準を作ることになれば、民放連が自主的・自律的に策定した「留意事項」を越えて、放送局の手足を縛る基準を作ってしまうことになりかねない。また、「総合的に判断する」ことは、放送局の自主的・自律的な判断を必要以上に阻害しないようにするためであり、決して放送局の判断を迷わせるためではない、ということは委員長談話でも重ねて触れているところである。
もっとも、「留意事項」が策定されてから既に3年が経過しているとしても、委員会で具体的なケースが取り上げられたのは去年以降であり、番組と広告の問題が急にクローズアップされて放送倫理違反という判断が出され、多くの局がどのような対策を講じたらよいか悩んでいることが意見交換等でもうかがわれたところである。そこで、委員長談話において、そのような事情を踏まえ、本問題について放送事業者や民放連が自ら問題点を整理した上で、処方箋を出すことが望ましく、自主的・自律的な取り組みが期待できるのであれば、その成果を待つべきであろうと考えるに至った。なお、自主的・自律的な取り組みが期待できるという1つの事情として、先ほど言及した民放連の放送基準審議会の文書に触れ、「本問題に関する放送局の現場の声を集約しながら、改めてこの問題に向き合う必要があるという民放連の自覚と決意がうかがわれる」と評価させていただいた。
以上のような点を踏まえて、委員会は、「民放連加盟各社または民放連の自主的・自律的な取り組みを当面注視することとする」旨の結論に至った。放送基準92条や「留意事項」の原点に立ち返っていただき、「留意事項」を実質的にまた総合的に会社の中で議論し参照して、よりよい番組作りをしてほしいと思う。委員会が「見守る」というのは、本問題を今後も皆さんと一緒に考えていくという趣旨であり、このような意見交換の機会があれば引き続き一緒に考えていきたいと思っている。
なお、本年9月に民放連の放送基準審議会に私が出席し、本問題について意見交換の機会をいただいた。議事要録が作成され各局に配付されていると聞いているので、どの程度ご参考になるか心もとないが、ご参考にしていただきたいと思う。
ご清聴いただき感謝申し上げたい。

次に、西土委員が「番組と広告の境目について」というテーマで講演をした。
本委員会は番組と広告の識別をめぐる問題を扱い、2つの決定を出している。これらの決定では、対象となった番組について、民放連放送基準第92条及び「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断した結果、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと結論づけた。
決定を公表した後、「何を基準として総合的に判断するのか」という声をよく聞く。この基準については、何よりも皆さんがお作りになった民放連放送基準第92条及び留意事項に依拠して判断する。その際、迷った時には原点に立ち返ってもらいたい。なぜ放送基準第92条及び留意事項が定められたのか、そこが原点になろうかと思う。当然だが、放送局の独立とそれに対する視聴者の信頼を保持することに、第92条の趣旨、目的を見出すことができる。
以上の趣旨に照らして、最終的には視聴者の読後感というか、視聴後感において、番組全体が広告放送であるとの印象を残すかどうかがポイントになるかと考える。つまり、番組の中に広告の要素、特定の商品をPRする要素があったとしても、番組を見終わった後に、例えば全体としてこれは情報番組であるという印象を視聴者に残すかどうかが、重要になる。
この判断のために、留意事項の2において例示として挙げられている「番組で取り扱う理由・目的」「視聴者への有益な情報」「視聴者に対してフェアな内容」など事案に即した多様な要素を番組のテーマや制作に至った背景も含め検討する。こうした検討は、繰り返しになるが、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を確保するためという視点に立ってのことである。
もちろん、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を行使するのは皆さんであり、したがって番組と広告の境目の問題は、皆さんがまず自主・自律的に考えていただくことになる。この点について、決定第36号は、決定第30号を引用して、「番組と広告の違い、その境目を認識し、緊張感を持って一線を画す日々の作業は部署を問わず、すべての民放関係者が肝に銘じるべき根本ではないか」と指摘して、自主・自律による対応策を求めている。
濱田理事長が冒頭で述べられた通り、広告は民放各局の自主・自律にとって、また財源という点でも極めて重要である。皆さんが番組と広告の境目の問題に突き当たって苦慮されていることは、私共も重々承知している。綺麗ごとではないことを承知してはいるけれども、国民の知る権利に奉仕する放送のプロの皆さんであれば、視聴者の立場に立って、説得力のある根拠を示しながら、グレーゾーンにある番組と広告の線引きも行うことができるものと確信している。そして、以上の不断の積み重ねにより養われるはずの皆さんの実践的な知を、民放連等を通じて、ぜひとも放送界全体の共有知にしてくだされば、大変嬉しい。それができるのであれば、この問題を扱った本委員会として、せめてもの救いになると考えている。最後に希望を付け加えて、私からの簡単な話に代えたいと思う。
どうもありがとうございました。

このあとの意見交換での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 番組と広告の問題は民放全体の重要な課題でありながら、例えば他局の営業系番組に関する深い情報を聞くことなどはなく個別の問題は表に出て来ないのだが、共有知とするために、委員会がヒアリングなどを通じて経験したことから共有化に向けての方策や方法論として気付いた点があれば披歴してほしいのだが。
A: 委員会決定の対象になった当該局が、その経験値を民放連に伝えるとか、系列局で悩みや苦労を共有して民放連に出してもらい、民放連が何らかの形で文書化するのが筋道立った方法ではないかと考える。(西土委員)
  各事案の意見書、特に委員会の「調査」または「検証」というところには、ヒアリングで制作過程について詳細にお聞きし、委員の受け止めたことが非常に具体的に書かれている。ヒントや共有知としてお役立ていただければうれしく思う。(岸本委員長代行)
  事例研究会であれば、参加している局どうしの意見交換、質疑応答の場があるので知見を共有できると思う。また、各局からの依頼(講師派遣制度)で機会を設けていただければ、率直な意見交換ができると思う。(神田委員長)
   
Q: 今後番組が番組として成立しつつ、ビジネスツールとしても考えていかねばならない時代に、現場にはBPOを恐れるような感覚があるが、新しい取り組みについて委員はどういうふうに考えるのかを伺いたい
A: 大変難しい質問であるが、問題になった時に備えて、きちんと説明できる社内における社内横断的かつ総合的な検討と、それを記録しておくことが必要である。新しい取り組みの内容については私たちにも知見として教えていただきたいし、勉強会などで意見交換していくことも大切な役割であると思う。(神田委員長)
  個人の意見だが、家のテレビで自分の家族が見た時にどう思うか、というのが1つの判断基準になるのではないか。恐れるべきはBPOの審議入りより、視聴者にそっぽを向かれることのはずだ。皆さんと共にトライ&エラーしながら経験値を重ねて、視聴者の信頼を失わない放送を、維持していきたい。(岸本委員長代行)
  番組は放送局が自らの責任で作る。局自身の判断で作られていると視聴者は信じているから、広告放送の中でなく番組の中である特定の商品やサービスが取り上げられると、その商品やサービスに対する好意的印象は高まる。だからこそ、広告主も広告放送ではなく番組の中で、自分の商品やサービスが取り上げられることを期待する。そこに気を付けないと、局の作る番組の中に広告が紛れ込み、視聴者は混乱し、商品やサービスに対する判断を誤ることにもなる。それは、本来局が制作する番組に対する信頼を低下させる恐れもあり、その点が心配である。そうならないためには、局が独自の視点で番組を展開していることが明確になるようにしなければならないのではないか。番組が全部同じ方向での特定の商品やサービスの情報提供になると視聴者の選択肢がなくなるので、番組の制作主体である局の姿が見えにくくなりがちである。番組制作の際に構成や内容に何かしらの手間をかけ、制作する主体が局である点に誤解が生じないようにすることが、放送の領域を自分たちで守ることにつながると思う。(升味委員長代行)
   
Q: 秋田放送と山口放送のローカル単発番組について、委員会は審議の対象としないという結論になったが、その理由について詳細に聞きたい。また、審議入りするか否かの判断基準について「①対象となる問題が小さく、かつ、②放送局の自主的・自律的な是正措置が適切に行われている場合には、原則として審議の対象としない」との考え方は、今後も判断基準の1つと考えても良いのか。
A: 後者の質問については、2009年7月に出した委員長談話の中で、審議に入るか否かの基準についてご指摘の2点の基準を明示しており、現在もその基準に沿って運用している。最初の質問については、議事概要に書いてあるとおりである。討議で終了している案件は、当該局に対してもそれ以上の説明をしていないので、その旨ご理解いただきたい。(神田委員長)
   
Q: 現在、民放連の考査事例研究部会で放送基準の改定作業が始まっているのだが、放送基準の書きぶりやよく分からない点などが委員会で議論になったことがあるか。
A: 「留意事項」において「対価を得て」という点が要件になるのかが議論になった。この点について、民放連に問い合わせたところ、対価の支払いの有無に関係なく「留意事項」は適用がされるとの回答であった。このことは意見書や委員長談話において触れているが、民放連でも改めて各局に十分周知されたほうがよいのではないかと思う。(神田委員長)
   
Q: 番組制作に伴う収益化が放送局にとっては命綱なので営業担当としては守っていきたいのだが、考査上のストライクゾーンが以前と比べて狭まった訳ではないのか。今までストライクだと思っていたのをボールと言われたのが今回の例だった、と解釈しているのだが。
A: ストライクゾーンつまりホームベースの大きさは変わっていない。ただし、ホームベースを通っていなくてもストライクだと思い込んでいた可能性はあるかもしれない。投げる前にきちんと考査をしてほしい。ストライクゾーン自体に変わりはないとしても、永久に変えなくて良いのかという問題はあると思う。時代の変化やメディアの役割の在り方などを踏まえ、民放連や各局において自主的・自律的に検討の余地はあるのかもしれない。(神田委員長)
   
Q: 対価性があっても視聴後感が悪くなく、番組内容が視聴者にとって有益であれば、番組として成立するのかどうかについて聞きたい。
A: 「留意事項」に照らして総合的に判断した結果、特に内容に問題がなければ、対価の支払いの有無にかかわらず、番組として問題ないという判断になると思う。(神田委員長)
   
Q: 質問ではなく要望ですが、2009年にバラエティー番組に対して出された意見書(委員会決定第7号)の中に、バラエティーが「嫌われる」5つの瞬間というのがあってすごく分かりやすかったので、「番組が広告と認識されない5つの瞬間」のような形でまとめてもらえると理解しやすくなると思うのだが。
A: 今回の番組と広告の問題は、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる問題であり、少し硬い文章にせざるを得なかった。ご指摘の趣旨を踏まえて、今後も分かりやすく説明する機会や工夫をするように努めていきたい。(神田委員長)

意見交換会のまとめとして、神田委員長が、「当面は放送局の自主的・自律的な対応を見守りたいと考えているが、チェックリスト化、マニュアル化という対応ではなく、自主的・自律的に総合的な検討を深めていただきたい」と述べ、「是非お声掛けいただければ、できる限り意見交換の機会を設けていきたい」と結んだ。
最後にBPO事務局の竹内淳専務理事が、「番組と広告をめぐる現状の厳しさはひしひしと伝わってくるが、皆さまの自主・自律に期待することをご理解いただき、コロナ禍でもこういう意見交換の場は今後オンラインも加味して設けていきたい」と挨拶して閉会した。

終了後に実施したアンケートの回答から一部を紹介する。

  • 気になっていた「委員長談話」の詳細な解説を聞くことができて良かった。
  • 番組と広告の境界線については、今後も引き続き取り上げてほしい。
  • 多数かつ関連部署の人が同時に遠隔参加できることがオンラインの最大の利点。
  • 出張しなくて済むので助かる。時間も交通費も節約でき、大変ありがたい。
  • 参加しやすく効果的なので、今後もオンライン形式での意見交換の場を設けてほしい。
  • 必要な資料の事前共有をさせてほしかった。
  • キー局の場合は社員数が多いので、「1社5枠」という配信の制限は厳しい。

以上

第157回 放送倫理検証委員会

第157回–2021年2月

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見と、「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について意見交換

第157回放送倫理検証委員会は2月12日に開催された。
委員会が1月18日に通知・公表したフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表について、委員長と担当委員から詳細が報告された。
委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。

議事の詳細

日時
2021年2月12日(金)午後3時~午後6時
場所
オンライン
議題
出席者

神田委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、大石委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表について報告

フジテレビが2018年10月20日から2019年10月26日にかけて放送したクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、委員会は、解答権のないエキストラを出場させていたことは、番組が標ぼうしている「1人対99人」というコンセプトを信頼した多くの視聴者との約束を裏切るものであり、また、NHKと日本民間放送連盟が定めた「放送倫理基本綱領」の「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定に照らし、制作過程の重要な部分を制作者たちが十分に共有していなかった点において、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであるとして、放送倫理違反があったと判断した。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、1月18日、当該局への通知は電子メールで行い、公表は委員会決定をBPOのウェブサイトに掲載する形で行い、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたところ、当日数件の確認の連絡が寄せられた。
この日の委員会では、委員会決定を伝えた当該局のニュースを視聴し、委員長と担当委員が通知・公表の経緯について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について報告

フジテレビは、2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」の一部に架空データが含まれていたとして、2019年5月13日から2020年6月1日にかけて18本のニュース番組で報じた一連の世論調査結果に関する放送を取り消した。世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたって報じたもので、委員会は、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めないとして、本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、2月10日、当該局に対する通知および公表の記者会見をオンライン会議システムを使用して行った。
この日の委員会では、委員会決定を伝えた当該局のニュースを視聴し、委員長と担当委員が会見での質疑応答などについて報告した。
通知と公表の概要は、こちら

以上

2021年2月10日

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発出されていることから、2021年2月10日午後1時30分からオンライン会議システムで行われた。委員会から神田安積委員長、高田昌幸委員、巻美矢紀委員の3人が出席し、フジテレビからは5人が出席した。
まず神田委員長から、委員会決定について、「架空データが含まれた一連の世論調査報道」には重大な放送倫理違反があったと判断したことを通知した。その理由として、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えた点を挙げた上で、当該局は架空データ作成に関与しておらず、本件放送において意図的な作為もなかったものの、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査のニュースを1年余りにわたって合計18本放送し、市民の信頼を大きく裏切り、また、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない、と指摘した。
続いて高田委員は、民主主義の根幹である世論調査の信頼性に大きな影響を与えたことに言及した上で、「委託先の調査会社が全面的に信用できると考え、立ち会いで防げたかもしれないのに立ち会わなかった」といった、過去の審議事案と同様の思い込みや判断ミスが認められるとし、「ニュース番組で報じる以上、世論調査もジャーナリストの取材活動の一環であるとの認識があれば、委託先の作業であっても、より目配りがきいて今回の事態を防止できた可能性がある」と述べた。巻委員からは、「民主主義における世論調査の重要性を強く認識している以上、委託先に任せたままにせず、何らかの対応を取るべきだった。再発防止策をつくり、世論調査を開始しているが、二度とこうした事態を招かないようジャーナリストとしての目線を欠かさないでいただきたい」との意見が示された。最後に神田委員長から「結論として重大な倫理違反と評価しており、再発することがないように自主的、自律的な努力を続けていただきたい。」と要望が伝えられた。
これに対してフジテレビは、「本日の決定をきわめて重く受け止めている。ご意見を真摯に受け止め、今後の世論調査の報道に生かしていきたい」「世論調査は先月再開したが、不正防止策を徹底していくことで、視聴者の信頼回復に努めていきたい」と述べた。

続いて、午後2時30分から同じくオンライン会議システムによる記者会見を行い、委員会決定を公表した。記者会見には42のアカウントから参加があった。
はじめに神田委員長が「本件放送は、フジテレビが、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えたものであり、放送倫理基本綱領、民放連放送基準の前文、さらには、放送基準の第32条に反しているものと評価される。フジテレビは、架空データ作成に関与しておらず、また意図的な作為もなかったが、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、意見書の別表に記載したテーマに関し、架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり、合計18回放送したものであり、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない。これらの点を踏まえ本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って概要を説明した。
続いて高田委員は「専門の業者に調査そのものを任せたとは言え、世論調査に関する作業はすべて取材活動の一環であり、集めた材料が正しいかどうか、記者として仔細に検討し、裏付けを取り確認に確認を重ねるという、ジャーナリストとしての初歩の行いを貫徹することができていれば、また違った結果になったと思う」と審議を振り返った。
巻委員は「ヒアリングを通じ、当該局の皆さんが民主主義における世論調査の重要性を認識していることがわかったが、そうであれば、委託先の調査会社に任せたままにせず、ジャーナリストとして適切な対応を取るべきだったのではないか」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: この調査は産経新聞社と合同だが、主体はフジテレビだったという認識か。
A: BPOは放送のみを対象としている。新聞社は検証の対象にしておらず、フジテレビのみを対象として調査をした。(高田委員)
   
Q: 本件において、委員会は委託先、再委託先をヒアリングの対象としていないが、不正に実効的な役割を果たしていた再委託先、ないしは委託先にヒアリングしなかったのはなぜか?
A: フジテレビが委託先、再委託先にヒアリングを実施しており、フジテレビに対する委員会の調査で委託先、再委託先のシステムの実態について必要な情報が得られた。フジテレビに対するヒアリングの内容に特段の疑義があれば委託先、再委託先にヒアリングを求めることもあり得たが、今回の事案では、フジテレビからの聞き取りで事実認定が可能と判断した。(神田委員長)
   
Q: 他の新聞やテレビ各社に比べフジテレビのチェック体制はどうだったと評価しているか?
A: 委託先への立ち会いに入るか、入らないかなどは、他メディアと比べての判断ではない。今回はヒアリングでも、当のフジテレビ自身に、委託先を訪問していれば防ぐことができたかもしれないとの認識があり、我々もヒアリングを重ねる中、訪問していれば、防ぐことが出来た可能性があった、という判断をしている。他局と比べての判断ではない。(高田委員)
   
Q: フジテレビは取り消した放送18本の世論調査の結果と、それを修正した結果を、現在に至るまで公表していない。不正の内容を公表するべきと考えるが、委員会では明らかになっていない状態をどう考えるか?
A: 訂正をどのように行うかは、それぞれの当事者が自主的に判断することだと思う。取り消した場合はこのような内容で放送しなさいと言うことは、もとよりBPOの役割ではない。(高田委員)
放送の取り消しの方法には、各局の自主的・自律的な判断がある。取り消した放送の内容を紹介・周知することもひとつの考え方であり、それを明らかにしないということも、その是非は別として、当該局の判断だと考える。そこで、どのような内容の放送の取り消しだったのかということを事実として別表に客観的に記載するにとどめ、当該局のかかる自主的・自律的な判断については委員会が評価を控え、意見書の読み手がそれをどう評価するかに委ねることとした。(神田委員長)
   
Q: 重大な放送倫理違反があったという結論だが、重大がついた理由は?
A: 報道番組における重要な情報である世論調査であることを前提とし、フジテレビがその世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにしていたこと、その時々に世論形成に大きな影響を与える重要なテーマに関して架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり合計18本放送したということを踏まえ、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことを総合的に考慮し、委員会で議論の結果、重大な放送倫理違反があったとの判断に至った。(神田委員長)
   
Q: 1人に任せきりだったということだが、政治部長や、報道局長、あるいは解説委員室もあると思うが、一緒に作業をしていなかったということか?
A: トピック的にその時々の政治情勢、社会情勢に関する質問をつくる場合、報道局内で声をかけ質問を集め検討はしていた。ただ、委託先の世論調査会社から(調査の)答えが返ってくると、そのデータは共有するが、分析・解析、ニュース原稿の作成といったプロセスは担当者に任されていた。政治部長や報道局長は、職制上は当然関わっているが、事実上任されていた。(高田委員)

以上

第40号

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見

2021年2月10日 放送局:フジテレビ

フジテレビは、2020年6月19日、2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったと発表した。フジテレビが調査を委託した会社が再委託した調査会社で、実際には電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていたと明らかにした。フジテレビは世論調査を休止し、2019年5月19日から2020年6月1日にかけて18のニュース番組で伝えた世論調査結果とそれに関連する放送を取り消した。
2020年8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたことや、調査を委託した会社が不正の行われた調査会社へ再委託した経緯自体をフジテレビが把握していなかったなどのチェック体制の不備を踏まえ、合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
日本民間放送連盟(民放連)とNHKが1996年に定めた放送倫理基本綱領は「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」と定め、また、民放連の放送基準の冒頭では「世論を尊び」「正確で迅速な報道」の重視を求めている。さらに放送基準の第32条は報道の責任として「事実に基づいて報道し、公正でなければならない」と規定する。
委員会は、本件放送は世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めないとして、本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した。

2021年2月10日 第40号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2021年2月10日 決定の通知と公表

コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発出されていることから、当該局に対する通知は2021年2月10日午後1時30分からオンライン会議システムで行われた。また公表の記者会見は午後2時30分から同じくオンライン会議システムで行われ、委員長、担当委員が決定の説明及び質疑応答を行った。記者会見には42のアカウントから参加があった。
詳細はこちら。

2021年6月11日【委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第40号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2021年6月1日付で提出され、委員会はこれを了承した。

フジテレビの対応

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目 次

  • 1.経緯、委員会決定時の報道と社内部局への周知
  • 2.再発防止策の策定・公表と世論調査再開
  • 3.委員会決定を受けての取り組み
  • 4.終わりに

2021年1月18日

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表

フジテレビに対する委員会決定の通知は、新型コロナ特措法に基づき政府が緊急事態宣言を発出したことを踏まえ、1月18日午後1時30分に電子メールで行った。

これを受けてフジテレビは、「決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります。全社一丸となり、再発防止に取り組んでまいります」とコメントした。

意見の公表は、同日午後2時30分にBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載することにより実施し、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたところ、当日数件の確認の連絡が寄せられた。

以上

第156回 放送倫理検証委員会

第156回–2021年1月

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送した
フジテレビのニュース番組を審議
2月にも委員会決定を通知公表へ

第156回放送倫理検証委員会は1月15日に開催された。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にした放送が18回にわたり行われたとして審議入りしたフジテレビのニュース番組について、担当委員から意見書の修正案が再度示された。意見交換の結果、大筋で了承が得られたため、2月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。

議事の詳細

日時
2021年1月15日(金)午後3時30分~午後7時
場所
オンライン
議題
出席者

神田委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、大石委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議

フジテレビは、昨年6月19日、2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送を取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、電話調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済のサンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成したとしている。フジテレビは架空のデータを含む誤った世論調査結果を放送していた。
昨年8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたことや、フジテレビが架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
前回までの議論を受けて担当委員から再度示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、2月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

以上

第39号

フジテレビ 『超逆境クイズバトル!!99人の壁』
解答権のないエキストラ補充に関する意見

2021年1月18日 放送局:フジテレビ

フジテレビは、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、2020年4月3日、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
委員会は、当該放送局から提供された報告書と番組の映像をもとに討議した結果、「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似がうかがわれる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が委員から出され、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りし、議論を重ねてきた。
委員会は、本件番組が解答権のないエキストラを出場させていたことは、番組が標ぼうしている「1人対99人」というコンセプトを信頼した多くの視聴者との約束を裏切るものであり、また、NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた「放送倫理基本綱領」の「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定に照らし、制作過程の重要な部分を制作者たちが十分に共有していなかった点において、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであるとして、本件番組には放送倫理違反があったと判断した。

2021年1月18日 第39号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2021年1月18日 決定の通知と公表

政府の緊急事態宣言発出を踏まえ、通知は、1月18日午後1時30分に電子メールで行われ、公表は、午後2時30分にBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載し、記者会見の開催は見合わせた。
詳細はこちら。

2021年5月14日【委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第39号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2021年5月10日付で提出され、委員会はこれを了承した。

フジテレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定の報道について
  • 2.委員会決定の社内周知について
  • 3.制作センターの取り組み
  • 4.BPO委員を招き研修会を実施
  • 5.番組審議会への報告
  • 6.再発防止の取り組み
  • 7.総括

第155回 放送倫理検証委員会

第155回–2020年12月

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議
1月にも委員会決定を通知・公表へ

第155回放送倫理検証委員会は12月11日に開催された。
委員会が4月8日に通知・公表した北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見について、当該放送局から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
委員会が6月30日に通知・公表した琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見について、当該放送局から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
委員会が9月2日に通知・公表したテレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見について、当該放送局から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の修正案が再度示された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、1月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にした放送が18回にわたり行われたとして審議入りしたフジテレビのニュース番組について、担当委員から意見書の修正案が示され、意見交換を行った。

1. 北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見への対応報告を了承

4月8日に通知・公表した北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見(委員会決定第35号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
対応報告は、通常、通知・公表後3か月をめどに提出されるが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で当該局研修の日程が大幅に延期されたため、この時期の提出となった。
報告書には、委員会決定を受けて、全社員・スタッフにその内容を周知したほか、報道制作現場に対してアンケートを実施し、意見書の内容に関する受け止め方を確認したこと、委員会からの問題指摘後すぐに「選挙報道マニュアルの策定」を行うとともに、「報道ゼミナールの定期開催」「編集主幹を新設、メンター制導入などの組織の改善」などの再発防止への取り組みを決め実践していることなどが記されている。
委員からは、「事前に現場アンケートや社内に設けられた検証委員会の報告書に目を通して勉強会に臨んだ。出席者の感想を見ると委員会の思いが伝わっていると感じた」「簡潔にまとめられた報告書ではあるが、局内で十分に議論され、率直な意見交換も行われて再発防止に向けた取り組みを深めている様子がうかがわれる」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、委員会として報告を了承し、公表することにした。
北海道放送の対応報告書は、こちら。

2. 北日本放送「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」への対応報告を了承

6月30日に通知・公表した「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」(委員会決定第36号)への対応報告が当該放送局である北日本放送から書面で提出された。
報告書には、問題が指摘された後、直ちに番組検証チームを立ち上げて関係者から聞き取った内容を検証し報告書にまとめ、営業活動における放送倫理研修会を自主開催したこと、関係部局が協議して営業系番組の取り扱いルールを明文化したことなどが記されている。また、委員会決定を受けて、機構改革を行い編成業務局内に考査部を新設したこと、検証委員会委員を招いて研修会を開催したことなどが記されている。
委員からは、「何が問題であり、なぜそうなったのかという観点からしっかりと検証した上で、今後の対応策についても極めて明確な方針を出しており、高く評価できる報告書である」「意見書の趣旨をきちんと受け止めている。放送倫理に対する意識の希薄さがあったことを率直に受け止め、再発防止に努める決意がうかがわれる」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、委員会として報告を了承し、公表することにした。
北日本放送の対応報告書は、こちら。

3. テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見への対応報告を了承

9月2日に通知・公表したテレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見(委員会決定第38号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の内容を社内に周知徹底した上で、社内横断的な「放送倫理関連会議」で議論を行い、報道局以外の番組でも同種の事案の発生がないよう問題意識の全社的な浸透を図ったこと、再発防止勉強会や検証委員会の委員を招いて研修会を開催したことが記されている。また再発防止への取り組みとして、スタッフへの指導と環境づくりを行う「放送倫理を遵守するための対策」と、放送前に問題点を洗い出し修正する「放送倫理違反を防ぐための水際対策」を行ってきたことなどが報告されている。
委員からは、「研修会では活発な議論ができた。また再発防止策も大事なポイントを具体的に押さえている」「再発防止策がこの形で実施されるならば、今後は同様の問題が起きないことが期待できる」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、委員会として報告を了承し、公表することにした。
テレビ朝日の対応報告書は、こちら。

4. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」と、番組ホームページ上で公表した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
前回までの議論を受けて担当委員から再度示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、1月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

5. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議

フジテレビは、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送を取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、電話調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済のサンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成したとしている。フジテレビは架空のデータを含む誤った世論調査結果を放送していた。
8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたことや、フジテレビが架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
委員会には、前回の委員会に諮られた意見書の原案に対する議論を踏まえて担当委員が作成した修正案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は再度修正案が示される予定である。

以上

第154回 放送倫理検証委員会

第154回–2020年11月

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビのニュース番組を審議

第154回放送倫理検証委員会は11月13日に開催された。
委員会が8月4日に通知・公表したTBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見について、当該放送局から具体的な改善策を含む取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
秋田放送または山口放送がそれぞれ制作放送した弁護士法人1社提供のローカル単発番組に関する討議を踏まえ、委員長談話「番組内容が広告放送と誤解される問題について」を10月30日にBPOのウェブサイトで公表したことについて報告があった。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の再修正案が示され意見交換を行った。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にした放送が合計18回にわたり行われたとして審議入りしたフジテレビのニュース番組について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。

1. TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見への対応報告を了承

8月4日に通知・公表したTBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見(委員会決定 第37号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の社内周知を行った上で、バラエティ部門の全プロデューサーを対象に書面によるアンケートを行い、それを読み込むことで互いの現状認識や危機感を共有したこと、レギュラーのバラエティ番組ごとに「演出講座」を開いて「許される演出」「許されない演出」とは何かについて意見交換を行い、それぞれの番組が許容できるラインはどこまでかを改めて確認し共有したこと、また、再発防止への取り組みとして、各バラエティ番組に新たにチーフプロデューサー制を導入し、複眼でのチェックを行うようにしたことなどが記されている。
担当委員からは、「『演出講座』は効果的で、良い素材として当該番組担当者以外にも考えてもらい、率直な意見が出ている」ことなどが報告された。委員からは、「アンケート内容は詳細で役に立つと思う。危険の芽は、どこの放送局でも共通しているので、この報告書で今回のような問題が解消していくことを期待したい」「最近のバラエティ番組に関する意見書を通じて、構造的問題が共通していることが窺われるので、当該局に限らず、改めて何らかの形で放送界全体に見解を示すよう検討することが望ましい」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、委員会として報告を了承し、公表することにした。
TBSテレビの対応報告書は、こちら。

2.「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題する委員長談話について報告

10月の第153回委員会において、秋田放送が制作放送した30分のローカル単発番組『そこが知りたい!過払い金Q&A』及び山口放送が制作放送し、秋田放送が山口放送から購入して放送した30分のローカル単発番組『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』について、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとの指摘はできるものの、討議にて終了し、審議入りしないとの結論に至ったことを議事概要に掲載した。
また、番組内容が広告放送と誤解される問題に関し、10月30日に委員長談話としてBPOウェブサイトに公表した。
今回の委員会では、神田委員長から報告がなされ、事務局からは秋田放送と山口放送の議事概要掲載後の対応などが説明された。

3. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」と、番組ホームページ上で公表した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、前回の委員会で議論された意見書の修正案を踏まえて担当委員が作成した再修正案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は再度修正案が示される予定である。

4. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議

フジテレビは、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送を取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済のサンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成したとしている。フジテレビは架空のデータを含む誤った世論調査結果を放送していた。
8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、当該局が架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、報告書と、9月末から10月初旬にかけて当該局の関係者に対して実施したヒアリングに基づき担当委員が作成した意見書の原案が示され、意見交換を行った。次回は修正案が提出される予定である。

以上

委員長談話

番組内容が広告放送と誤解される問題について

2020年10月30日

放送倫理検証委員会
委員長 神田安積

1. はじめに

 委員会は、これまで、「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」(2019年10月7日付第30号。以下「決定第30号」という)及び「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」(2020年6月30日付第36号。以下「決定第36号」という)において、番組内容が広告放送と誤解されることに関する問題(以下「本問題」という)についての基本的な考え方を示してきた。
 そして、①秋田放送が制作し2019年10月26日に放送した30分のローカル単発番組『そこが知りたい!過払い金Q&A』(以下「本件番組①」という)及び②山口放送が制作し、秋田放送が山口放送から購入して同年10月19日に放送し、また山口放送においても同年5月25日及び同月29日に放送した30分のローカル単発番組『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』(以下「本件番組②」という。以下、本件番組①・②を「本件番組」と総称する)について、2020年5月の委員会(第148回)以降計6回にわたり本問題に関する討議を重ねてきた。
 討議の過程においては、本件番組を両局から購入して放送した局があり、また、本件番組を1社提供した弁護士法人X法律事務所(以下「X法律事務所」という)が提供する類似した番組を制作放送した局またはその番組を購入して放送した局がいずれも相当数存在することが報告され、本件番組が内包する本問題が全国的な広がりを有し、日本民間放送連盟(民放連)加盟各社が直面している共通の課題であることを改めて認識するに至った。
 そこで、10月の委員会(第153回)において、民放連加盟各社及び民放連に対する要望を含めて、本問題に関する委員の総意を改めて示すことが適切であると考え、委員長談話として明らかにすることとした。また、本件番組については放送倫理違反の疑いがあるのではないかとの指摘はできるものの、討議にて終了し、審議入りしないとの結論に至った。なお、本件番組に関する討議の詳細は委員会の議事概要に掲載することをもって代えることとする。

2. 委員会からの要望

 民放連の放送基準第92条は、「広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない。」と定めている。冒頭にも述べたとおり、委員会は、3局の事案に関する2つの意見書において、本問題に関する基本的な考え方を示してきた。特に、決定第36号では、「番組と広告の違い、その境目を認識し、緊張感を持って一線を画す日々の作業は部署を問わず、すべての民放関係者が肝に銘じるべき根本ではないか」との決定第30号の一文を今一度引用したうえで、「『番組と広告の境目』をめぐる問題の対応策についても、民放連や民放各局の自主的・自律的な精神と姿勢で検討されるよう望みたい」との要望の意を表明した。
 同時に、委員会は、視聴者に広告放送であるとの誤解を招くような内容・演出になっていないかを局が判断する際、民放連が2017年に策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」(以下「留意事項」という)において「総合的に判断する必要がある」とされていることを重視し、各意見書における個別的・具体的な判断がいわば新たな一般的な基準として独り歩きし、その結果、番組制作を必要以上に制約することがないように、両意見書において基本的な考え方を示すにとどめてきた。しかし、その結果、両意見書の通知・公表時の記者会見や意見交換会、事例研究会等において、少なからぬ局から、「どのようにすれば広告放送であるとの誤解を招かずに済んだのか」「番組と広告の境目を画するより明確な基準を示してほしい」という質問や要望が出されるに至っている。
 たしかに、留意事項が策定されて既に3年以上が経過しているとはいえ、本問題が短期間にクローズアップされたこともあり、また、民放連の説明によると、留意事項は対価の有無にかかわらず適用されるとのことであり、この点がまだ十分に浸透されていないことにも鑑みれば、問題点の整理や自主的・自律的な対応を講じるために一定の時間的な猶予が必要であると思われる。
 しかし、上記の要望の背景にかかる事情があるとしても、視聴者との約束である放送基準を策定し、また、適切に運用 するのはもとより委員会ではなく、放送事業者や民放連の役割であることからすれば、委員会が上記の要望等に応えることは適切ではない。そもそも委員会は、放送事業者自身がその自由を確保し、その自律を促すための仕組みの中に位置づけられた組織である。また、放送事業者は、放送の自由を生かし、その使命を果たすために、自らの手で放送倫理を具体化し、問題が生じれば、自主的・自律的に方策を講じる責任がある。
 したがって、本問題についても、放送事業者や民放連が、委員会がこれまで示してきた基本的な考え方を参照し、自ら問題点を整理したうえで、自らの手で処方箋を出すことが望ましいものと考える。そして、このような自主的・自律的な取り組みが期待できるのであれば、その成果を待つべきであろう。
 この点に関し、民放連は、2020年3月6日付で、放送基準審議会議長名による「放送基準審議会から放送基準の遵守・徹底のお願い」と題する文書を会員社宛に発出し、その中で「番組と広告の識別」の問題を取り上げて、「番組の企画から放送前の考査まで、社内横断的なしっかりとした体制を構築し、放送の価値向上と収益の確保に尽力していただきたい」と注意喚起し、併せて、「演出や構成などには大いに工夫の余地がある」ことを指摘するとともに、「会員社の皆さまの声に耳を傾けながら、丁寧に対応してまいります」と表明するに至った。この表明からは、留意事項が策定されたときと同様に、同種の事案が今後生じ得ることを前提として、本問題に関する放送局の現場の声を集約しながら、改めてこの問題に向き合う必要があるという民放連の自覚と決意がうかがわれる。
 そこで、委員会は、当面、本問題に対する民放連加盟各社及び民放連の自主的・自律的な取り組みを注視することとしたいと考えるに至った。当然のことながら、この判断は本問題にかかる放送倫理違反の疑いを今後一律に不問に付すことを意味するものではない。
 この結論に至るまでの委員会の議論では、すべての局が必要十分な自主的・自律的な対応を取るとは限らず、中には適切な対応を取らない局が出る可能性もあるのではないか、また、一見対応が取られたように見えても、留意事項に例示された事項をチェックリスト化することをもって十分と考え、様々な要素を踏まえた総合的な検討を怠る局が出るのではないか等の懸念の声が上がったのも事実である。実際、最近の意見交換会等における各局との質疑応答からは、留意事項に例示された基準や3局の事案に関する2つの意見書を形式的にマニュアル化しようとする傾向がうかがえることも否めないところである。
 しかし、番組と広告の識別には、抜け道を探すような後ろ向きの対応が求められているのではない。留意事項にも明記されている「民放の信頼やメディア価値の根幹」を維持・発展させるために、自主的・自律的な「攻めの対応」が求められているのである。そして、判断の当否に迷うことがあれば、本問題の原点に常に立ち返ることが求められる。それは、なぜ番組と広告を識別しなければならないのか、なぜ番組と広告の識別が「民放の信頼やメディア価値の根幹」に関わるのか、を考えることに他ならない。
 「広告」は、商品やサービスを視聴者に対して訴求し、その購買を誘引するために、スポンサーが主体となって制作されるものである。これに対し、「番組」は、放送局が主体となって、独立した立場で内容を吟味して制作しているとの視聴者からの信頼を前提として放送されている。ところが、「番組」の中に「広告」の要素が混在し、「番組」と「広告」の識別が困難になればどうなるか。視聴者の商品・サービスに対する判断を誤らせ、ひいては視聴者の放送事業者に対する信頼や番組の内容に対する信頼が損なわれてしまうのではないか。放送の社会的影響力の大きさ、そして視聴者の保護の観点をも踏まえ、番組と広告との識別の意義の重要性を今一度問い直すべきではないか。そのうえで、各局において、編成・制作・営業・考査がそれぞれの立場から多角的に相互にチェックすることが求められるのではないか。
 このような議論をする中で、委員会は、本問題にはもとより唯一の答えはなく、不断の議論こそが大切であることを痛感させられた。各局においても、制作・放送に携わる一人一人においても、番組と広告を識別しなければならない意義を常に自問自答し、その原点に立ち返る姿勢がない限り、たとえ対応策を講じても問題は再発し、民放の信頼は損なわれ、メディア価値の根幹も傷つき修復が困難になることだろう。
委員会は、民放連加盟各社及び民放連が、番組と広告の識別の意義を踏まえ、現場の声にも耳を傾けながら、留意事項に照らして「総合的に判断する」姿勢を深化させる取り組みを実行することを期待する。そして、今後も本問題に対する自主的・自律的な対応に重大な関心を持ちながら、その取り組みを見守りたい。

以上

委員長談話全文(PDF)pdf

第153回 放送倫理検証委員会

第153回–2020年10月

番組内容が広告放送と誤解される問題について委員長談話を公表

第153回放送倫理検証委員会は10月9日に開催された。
委員会が6月30日に通知・公表した「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」への対応報告が当該放送局である琉球朝日放送から書面で提出され、その内容を検討した結果、委員会との意見交換が適切な時期に開催されることを期待して、報告を了承し公表することにした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の修正案が示され意見交換を行った。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にして、合計18回にわたりフジテレビで放送されたニュース番組について、当該局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人1社提供のローカル単発番組に関し、委員会はこれまで番組内容が広告と誤解されることに関する問題について合計6回にわたり討議を重ねてきたが、今回の委員会で討議を終了し、審議入りしないこととした。また、民放連加盟各社および民放連に対する要望を含めて、本問題に関する委員の総意を改めて共有することが適切であるとして、「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題された委員長談話をBPOのウェブサイトで明らかにすることにした。

1.「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」への琉球朝日放送の対応報告を了承

6月30日に通知・公表した「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」(委員会決定第36号)への対応報告が当該放送局である琉球朝日放送から書面で提出された。
報告書には、委員会決定を受けて、全職員に決定内容を周知し、全社員・スタッフによる番組再検証を実施したこと、再発防止への取り組みとして、「番組制作にあたっては企画提案書を提出して、それを基に様々な人が意見を出し合い、スポンサーとも交渉をして、最終的にスポンサーが納得できないということであれば、見送りもある。売り上げが厳しいから放送倫理違反をしてもいいということはありえない」「放送倫理違反の意見書を受けた意味合いは大きい。今後も定期的に勉強会を開き社員教育を図っていく」などを確認したことが記されている。委員からは「全般的に意見書の主旨は理解されていると感じた」という意見が出され、また、「営業主導が途中から徐々に報道主導になったその境目を整理して書いていただけるとよかった」という意見も出されたが、意見書で指摘した課題に対しては概ね適切な対応がなされており、またコロナ禍で、委員会と当該局との意見交換は行われていないが、今後適切な時期に開催されることを期待することとして、当該対応報告を了承し公表することにした。
琉球朝日放送の対応報告書は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、前回の委員会で議論された原案を踏まえて担当委員が作成した意見書の修正案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は再度修正案が示される予定である。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの追加報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成し、誤った世論調査結果のデータを作成していたとしている。
8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、当該局が架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、9月末から10月初旬にかけて当該局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告された。次回委員会では意見書の原案が提出される予定である。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した(以下「本件番組①」という。2018年2月17日初回放送・同年10月13日再放送)。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』(以下「本件番組②」という)を番組販売で購入し放送していた。また、山口放送は、本件番組②を2019年5月25日、同月29日に制作放送していた。
なお、山口放送は、本件番組②とは別に、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』(以下「本件番組③」という)を制作し、2018年6月2日以降合計4回放送している。本件番組③については、本件番組②との関連性から、念のため一体のものとして検討することが適切であると考え、討議の対象としたが、放送内容が類似していることを踏まえ、討議における議論の対象は本件番組①及び本件番組②のみ(以下「本件番組」と総称する)とした。

本件番組は、その共通点として、弁護士法人X法律事務所(以下「X法律事務所」という)の1社提供の単発番組であり、X法律事務所の提供表示がなされ、番組名の前にも「弁護士法人X法律事務所presents」というタイトルが付けられている。また、番組の内容は、X法律事務所の代表弁護士(当時)が自ら出演し、クイズ形式か再現ドラマ形式かの違いはあるものの、X法律事務所における高額の過払金の回収事例を複数紹介して解説を加えている。そして、X法律事務所の相談料が原則無料であることを含む基本的な料金体系を説明し、さらに放送日時と近接した時期に開催されるX法律事務所の無料相談会を案内して勧めている。本編の中には中CMがあり、いずれも代表弁護士が登場するX法律事務所のCMである。以上のとおり、本件番組の内容や構成はほぼ共通している。
なお、討議中において、X法律事務所が、2020年6月に破産開始決定を受け、その後、X法律事務所の所属弁護士会が、X法律事務所が回収した過払い金を依頼者の意思に反して流用した疑い等があるとして、同弁護士会の綱紀委員会に対して懲戒処分に向けた調査をするよう求めるという報道に接した。

委員会は2020年5月、両局から提出された報告書及び同録DVDを基に討議し、本件番組はいずれも、総合的に判断すれば、番組内容が広告放送と誤解されることに関する問題(以下「本問題」という)の観点から、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。その後の委員会においては、本件番組を両局から購入して放送した局があり、また、本件番組を1社提供したX法律事務所が提供する類似した番組を制作放送した局またはその番組を購入して放送した局がいずれも相当数存在することが報告された。上記の各局に対しては、本件の討議の参考のために、任意の報告を依頼し、報告書と同録DVDの提供を受けた。しかし、各局が番組を制作した時期に幅があり、一部の局においては日本民間放送連盟(民放連)が「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」(以下「留意事項」という)を策定した2017年以前に制作・放送された番組もあるなど、番組の制作や考査の在り方について公平に比較検討することが困難であることを踏まえ、両局以外の番組は討議の対象としないこととした。

10月の委員会においても、本件番組について、民放連の放送基準第92条や留意事項に照らし、X法律事務所の取り上げ方や演出方法は、仮に広告の意図や目的がなかったとしても、また、必要とされる考査をした旨の両局の主張を踏まえても、総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であるとの誤解を招きかねず、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとの意見が多数出された。
そして、審議に入るか否かの基準については、委員長談話「TBSテレビ『情報7daysニュースキャスター「二重行政の現場」』について」(2009年7月17日)において、①対象となる問題が小さく、かつ、②放送局の自主的・自律的な是正措置が適切に行われている場合には、原則として審議の対象としないとされており、本件番組の問題は小さいとは言い難いから、審議入りの基準を満たしているともいえ、実際、審議入りをすべきであるとの意見もあった。
しかしながら、10月の委員会までの、計6回にわたる討議を踏まえ、本件番組が内包する本問題が全国的な広がりを有し、民放連加盟各社が直面している共通の課題であることを改めて認識するに至った。そこで、民放連加盟各社及び民放連に対する要望を含めて、本問題に関する委員の総意を改めて示すことが適切であると考え、委員長談話として明らかにすることとし、また、上記のとおり、同様の番組を制作放送した各局の番組について公平に比較検討することが困難であり、結論として討議の対象としないこととしたこととの均衡も考慮し、本件番組について放送倫理違反の疑いがあるとしても、委員から厳しい意見が出たことを議事概要に掲載して注意を喚起した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないとの結論に至った。
委員長談話は、こちら。

【委員の主な意見】

  • 本件番組はいずれも、X法律事務所における高額の過払金の回収事例を複数並べたうえで、X法律事務所の相談料が原則無料であることが説明され、本編の最後ではX法律事務所の基本的な料金体系と併せて、放送日時と近接した時期に開催されるX法律事務所の無料相談会を案内して勧める内容になっていること等からすると、過払金返還請求についての法的知識や手続きに関し、具体的で有益な情報提供をしていると認められる部分があるとしても、全体を通じて視聴すれば、X法律事務所のサービス内容を一方的にPRしているとの印象を否定できないのではないか。また、X法律事務所のサービス内容のみを取り扱う理由は明確とは言えないのではないか。

  • 本編の中にある中CMでは、いずれも代表弁護士が本編と関連するフレーズを語り、無料相談会を告知している。また、本編と中CMが連続して放送されるため、これを連続して視聴することによって、全体としてX法律事務所のサービスの広告効果がさらにもたらされているのではないか(2001年3月14日付にて民放連が作成し、2009年3月18日付にて改訂した「持ち込み番組と関連するCMの取り扱いについて」の第3文参照)。

  • 本件番組②については、本編におけるいずれの相談再現ドラマの中にもX法律事務所の情報が盛り込まれており、また、番組の最後の場面で男性タレントがX法律事務所の名前を挙げて番組が終了していること等も、視聴者に広告放送との誤解を招く事情となっているのではないか。

  • 総合的に判断すれば、本件番組におけるX法律事務所の取り上げ方や演出方法は、仮に広告の意図や目的がなかったとしても、視聴者に広告放送であるとの誤解を招きかねず、放送倫理違反の疑いがあるのではないか。

  • 本件番組に関し、秋田放送は「社員や代理店の勉強会などにより、いま一度、持ち込み番組を含めた社内外の認識確認を行いたい。『視聴者の誤解を招かない内容・演出』のため、今後はもっと全社的な考査機能を高めていかなければならない」との見解を、また、山口放送は「今回いただいた指摘を真摯に受け止め、民放連放送基準第92条及び留意事項、また2019年10月の委員会意見の内容について、改めて社内各所での徹底を図り、『広告放送』との誤解を招かない番組制作・放送に取り組んでいきたい」との見解をそれぞれの報告書において明らかにしている。両局が当該各見解を実質的かつ有効的に深化させる方策を講じることを期待したい。

以上

第152回 放送倫理検証委員会

第152回–2020年9月

解答権のないエキストラで欠員補充していたフジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

第152回放送倫理検証委員会は、8月末に退任した鈴木嘉一委員長代行に替わり新任の米倉律委員が出席して9月11日に開催された。冒頭、神田安積委員長が岸本葉子委員を委員長代行に指名した。
委員会が9月2日に行ったテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして審議入りした、フジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の原案が示され意見交換を行った。
データの一部が架空入力された世論調査結果を基にした放送が合計18回にわたり行われたフジテレビのニュース番組は、前回の委員会で審議入りし、今回の委員会では当該局に対するヒアリングの準備状況が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、これまでの議論を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

1. テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表について報告

テレビ朝日が2019年3月15日に放送したニュース番組『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画について、委員会は主要なエピソードを構成する登場人物のすべてがディレクターの生徒や知人だったうえ、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いており、放送倫理違反があったと判断し、9月2日に当該局に対し、意見書の通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、委員会決定を伝えたテレビ朝日のニュースを視聴し、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などについて報告した。
通知と公表の概要は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、前回の委員会で議論された骨子案を踏まえて担当委員が作成した意見書の原案が提出され、それに基づいて意見交換を行った。次回は修正案が示される予定である。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月まで14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの追加報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約12.9%に当たる1886サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えた架空データを作成し、誤った世論調査結果のデータを作成していたとしている。
前回の委員会では、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、当該局が架空データの作成が行われた調査会社への再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対して行うヒアリングの準備状況などが報告された。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとし、7月及び8月開催の委員会では、その経過報告を踏まえ、討議を継続していた。
今回の委員会では、これまでの議論を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

以上

2020年9月2日

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、9月2日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、高田昌幸委員の3人が出席し、テレビ朝日からは常務取締役(報道局担当)ら4人が出席した。
まず、神田委員長から、委員会決定について、本件特集には放送倫理違反があると判断したことを伝えた。その理由として、本件特集の主要なエピソードを構成する登場人物のすべてが、担当ディレクターの知人らだったうえ、ロケがあることを事前に知って取材の舞台となったスーパーに来店していたのであり、偶然に出会った利用客ではなかった。このことからすれば、本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていたと説明した。
続いて升味委員長代行は、「本件特集の制作会社はテレビ朝日と密接な関係があり、その報道部門を支えてきたともいえるところから、仲間意識もあってできた番組を受け取るときの考査、検収の意識が薄くなっていたのかとも思われる。対応策に示されているように今後は十分注意してほしい」「今後の対策として、本来なら準備に手間も時間もかかる人間ドキュメントを報道番組内で毎週のように定期的に放送していくことの難しさを認めて、このような番組制作を再検討するという点は、他局を含め多くの関係者に参考になるだろう」と述べた。また高田委員は、「今回ほど引き返すチャンスがたくさんあった事案は滅多にないが、それを生かせなかったのは残念」「番組に関わった多くの人が疑問を感じていたことが判明しており、仮にそれらの疑問が全体で共有されていればブレーキがかかったのではないか」「同僚や上下関係の中では仲間を疑うことに躊躇しがちだが、疑うことは確認することと裏表なので怠ってはいけない」とコメントした。最後に神田委員長から、偶然を装って故意に登場させたという点において、過去の類似の事案と比較して重い点があるとの補足説明がなされた。
これに対してテレビ朝日は、「今回の決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります」「視聴者の皆様の信頼を回復すべく、引き続き再発防止に努めてまいります」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には21社31人が出席した。
はじめに神田委員長が委員会の判断について、「本件特集は、偶然に街で出会った人から話を聞き、その暮らしや人生模様を描き出し、ごく平凡に見える人の思いがけないドラマやエピソードを視聴者に伝える報道番組内の特集である。しかし、主要なエピソードを構成する登場人物のすべてが、担当した契約ディレクターの生徒や知人だったうえ、本件特集のロケがあることを事前に知って舞台となったスーパーに来店していたのであり、いずれも偶然に出会った利用客ではなく、本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない『客』を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていた」と評価をして、放送倫理違反があったと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて升味委員長代行が、「視聴者にとっては面白かったり楽しかったりした前提が全部崩れてしまうということにもなるし、報道番組としての事実を伝えるという点でも非常に問題があった番組だったと思っている」と述べた。高田委員は、「制作の各段階で疑問を持ったスタッフはいたが、それが共有されなかった点がポイント。取材において疑うことは確認作業と同じであり、それをしていれば本件は起きなかったのではないか」と述べた。
記者からの質問は、事実関係の確認に関するもの以外、特になかった。

以上

第38号

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』「業務用スーパー」企画に関する意見

2020年9月2日 放送局:テレビ朝日

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する特集を放送したが、この特集に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。委員会は、同年11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯などを詳しく検証する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
日本民間放送連盟とNHKが1996年に定めた放送倫理基本綱領は「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とし、「取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」と定めている。また、民放連の放送基準では、前文で「正確で迅速な報道」を求め、第32条では報道の責任として「事実に基づいて報道し、公正でなければならない」と掲げている。本件特集は、その取材の過程が適正とは言い難く、内容においても、本来ならその場に現れるはずのない「客」を偶然を装って登場させたという点で正確ではなく、公正さを欠いていた。
したがって、委員会は、本件特集には放送倫理違反があったと判断した。

2020年9月2日 第38号委員会決定

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目 次

2020年9月2日 決定の通知と公表

通知は、2020年9月2日午後1時30分から千代田放送会館7階会館会議室で行われ、午後2時30分から同2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、21社31人が出席した。
詳細はこちら。

2020年12月11日【委員会決定に対するテレビ朝日の対応と取り組み】

委員会決定 第38号に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月27日付で提出され、委員会はこれを了承した。

テレビ朝日の対応

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目 次

  • 1.委員会決定前の対応
  • 2.委員会決定時の放送対応
  • 3.委員会決定内容の周知徹底
  • 4.放送番組審議会への報告
  • 5.委員会決定後の取り組み
  • 6.再発防止に向けて
  • 7.おわりに

第151回 放送倫理検証委員会

第151回–2020年8月

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

第151回放送倫理検証委員会は8月7日に開催された。
委員会が8月4日に通知・公表したTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして、5月の委員会で審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、担当委員から意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、前回の委員会後の経過報告を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。
フジテレビと産経新聞が合同で行った世論調査のデータの一部に架空入力があり、それを基にしたニュースが合計18回放送されたことについて、当該放送局から提出された追加報告書に基づいて前回の委員会に引き続き討議を行い、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり報道されたこと、再委託の経緯自体を把握していなかったチェック体制の不備などを踏まえ、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
抗議デモの解説に使用したアニメ動画の描写が人種差別的であり、偏見があると批判されたNHKの報道番組『これでわかった!世界のいま』について、当該放送局から提供された報告書、追加報告書及び同録DVDを基に討議した。
その結果、当該アニメ動画部分は放送倫理に照らして問題があるが、番組全体としては抗議デモの問題を適時適切に取り上げた番組であると評価しうること、当該局の別の番組が、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できる、当該局による迅速なお詫びや自主的・自律的な再発防止策が取られ、今後その徹底を図るとされていること等を踏まえ、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

1. TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見の通知・公表について報告

TBSテレビが2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画について、委員会はハンターが自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るもので放送倫理違反があったと判断し、8月4日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などを報告した。
通知と公表の概要は、こちら。

2. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では6月末から7月上旬にかけて当該放送局の関係者に対して実施したヒアリング等に基づき担当委員が作成した意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。

3. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組が審議入り

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2500サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。
7月の委員会では、当該放送局から提出された報告書と同録DVDを基に討議を行ったが、委員からは厳しい意見が相次ぎ、局からの再発防止策等についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてもさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。
今回の委員会では、7月委員会で出された意見に加え、新たに提出された追加報告書を基に討議した。その結果、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたこと、再委託の経緯自体を把握していなかったなどのチェック体制の不備等を踏まえ、上記の合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとし、7月開催の委員会では、その経過報告を踏まえ、討議を継続していた。
今回の委員会では、その後の経過報告を踏まえて討議を行い、さらに討議を継続することとした。

5. 抗議デモの解説に使用したアニメ動画の描写が人種差別的であり、偏見があると批判されたNHKの報道番組『これでわかった!世界のいま』を討議

NHKは6月7日、報道番組『これでわかった! 世界のいま~拡大する抗議デモ アメリカでいま何が~』で、米国の人種差別抗議デモを取り上げ、その解説に使用したアニメーション動画を放送した。
番組は黒人の男性が警察官に押さえつけられて死亡した事件を紹介し、それをきっかけに人種差別に抗議するデモが全米に拡大していることを伝え、また、アニメ動画において、黒人がおかれた経済的な格差を描き、この格差が黒人の「怒り」の背景であると解説した。しかし、アニメ動画は、屈強な黒人の男性キャラクターなどが経済への不満から暴れているかのように描かれるなど、黒人に対する差別と偏見を助長するもので、実際に行われた人種を越えた平和的なデモとはかけ離れた表現だとして内外から批判が寄せられた。これを受けて当該局は、速やかにホームページやニュースなどで謝罪するとともに、翌週の同番組の冒頭で、番組責任者が経緯を説明するとともに、お詫びと再発防止に向けた取り組みを伝えた。
委員会は、当該局から提出された報告書と同録DVD及び追加報告書を基に討議した。その結果、当該アニメ動画部分は放送倫理に照らして問題があり、そのような放送がなされるに至ったことは残念であるなどの厳しい意見が出された一方で、番組全体としては抗議デモの問題を適時適切に取り上げた番組であると評価しうること、当該局の他の番組において、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できること、当該局による迅速なお詫びがなされ、また、人種問題等を取り扱う際の配慮や認識、動画をツイッターに掲載する際の注意点などについて局内で検討が行われ、国際的に扱いが難しい問題については外国籍や専門家などを活用した多様な視点でのチェックの実施、人種差別やアメリカの法律・メディア、SNSに詳しい専門家を招いた研修の実施などの自主的・自律的な再発防止策が取られ、今後その徹底を図るとされていること等を踏まえ、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

  • アニメ動画の内容については、放送倫理に照らして問題があるといわざるを得ず、また、表情の描き方、口調、声色などいずれにおいてもステレオタイプの表現であって、仮に差別意識や悪意はなかったとしても、そのこと自体、人種差別への問題意識が鈍感になっていることを物語るものであり、むしろ深刻に受け止めざるを得ない。

  • この番組で従前から使い続けている動画キャラクターを今回もそのまま使ったため、そこに慣れや油断があったのではないか。

  • 国際的な人権感覚やアメリカにおける人種差別の実態を知っているはずの国際部担当者が制作の過程を見ていたのに、放送が承認されてしまったことはとても残念である。

  • 約1分20秒のアニメ動画部分に問題があるとしても、約26分にわたる番組全体としては抗議デモの問題やトランプ政権の対応やそれに対する批判を適時適切に取り上げた番組であり、その点ではとても評価できる内容であった。

  • 番組の中で、デモに参加している黒人の女性を丁寧に取材している点が良かった。

  • 7月23日放送のEテレ「バリバラ」が抗議デモと人種差別の問題を取り上げ、その中で、日本にも人種差別の実態があるにもかかわらず、日本のメディアが人種差別の問題に向き合わず、むしろ助長してきた例があること、そして本番組について言及し、その問題点として、アニメ動画の内容が黒人のステレオタイプな暴力的描写であったこと、本番組の解説者が白人警察の立場に立って解説をしたことなどを取り上げていたが、当該局の他の番組において、改めて様々な立場から本番組の問題点を取り上げて制作・放送した姿勢は高く評価できる。

  • 再発防止策の徹底を図るという局の自主的・自律的な対応を評価し、今後の取り組みを期待して見守りたい。

以上

2020年8月4日

TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、8月4日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、長嶋甲兵委員、中野剛委員の3人が出席し、TBSテレビからは4人が出席した。
委員会決定について神田委員長はまず、本件番組について放送倫理違反があったと判断したと述べた。NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、局自身が認めるように、X氏が「希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹」であった。本件放送が、その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであり、また、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るものであったというほかない。これらのことを踏まえて、放送倫理違反があったという評価をしたと説明した。
続いて長嶋委員は、ヒアリングの際にベテラン関係者が口にした「作り方改革」「話し合い不足」という言葉を意見書に引用した。これから頑張ってやっていただきたいとコメントした。また中野委員は、委員会決定第24号TBSテレビ『ピラミッド・ダービー』を担当した立場からすると既視感のある事案で、今回もプロデューサーの番組管理という観点から考えた。全体会議もない中で、身軽な、機動的な番組作りだったのかもしれない。それが面白さの源泉だった面はあるだろうが、それがアクセルだとするとブレーキ役は存在したのか、改めて考えていただきたいとコメントした。
これに対してTBSテレビは、「約束を自ら破った。信頼を失ったと認識して番組を終了した。大きく反省している」「今後も、番組制作についての改革を進め、視聴者の皆様の信頼回復に努めていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には24社37人が出席した。
はじめに神田委員長が、「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、X氏が「希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹」であった。本件放送が、その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと評価した。併せて、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との約束を裏切るものであったという評価もした。その上で、「NHK・民放 番組倫理委員会」が1993年に出した「放送番組の倫理の向上について」と題する提言をも踏まえて、委員会としては、本件放送には放送倫理違反があったという結論に至ったと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて長嶋委員は、この番組のある種の試み、実験精神というものを放送全体が失わないで前に進んでほしいという思いを込めて意見書を書いた。それを読み取っていただきたいと述べた。また中野委員は、視聴者の普通の見方からすれば、真剣に探して捕まえているとみるだろう。局自身も捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が企画の根幹であると言っているので、視聴者との約束を裏切るものであったという認定になったと述べた。
その後、神田委員長が2点、補足説明した。まず、「本件放送のロケは、わずか現地滞在4泊5日という短期間で行われた」との指摘をしているが、これだけの希少動物を何種類も見つけ捕獲するシーンの撮影を4泊5日という短い日程の中で行うこと自体に限界、無理があるのではないか。これができなければ番組が成り立たないとすれば、逆にどこかで無理を強いることにならないか。そして、このような懸念を組織の中の誰かが感じなかったのか。そのような思いを、「番組の『作り方』そのものに内在していたと言えよう」という指摘に込めている。もう1つは、バラエティー番組を扱う際の演出論について、意見書に引用している『ほこ×たて』事案の意見書には、「どこまでが演出として可能なのか、許容されるのか、という個別事例における境界線の設定は、局の自主的・自律的な判断に委ねてきたのである」と書いている。この問題意識を共有し、また前提としながら意見書を作ったつもりであり、その中で、最大限、皆さんの制作の自由を確保しながら、それでも許されない演出があるとすれば、どういうことなのだろうかと考えるときに、これまで委員会が考えてきた1つの基準がそれぞれの番組における「視聴者との約束」ということになる。本件放送では、「視聴者との約束」をどこに見て取るか、この点については、「『爬虫類ハンター』は、局自身が認めるように、X氏が『希少動物を発見・捕獲する様子をカメラが追うドキュメンタリー性が本企画の根幹』であった」ということであり、本件放送が、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を、撮影直前に撮影現場に移したことは「本企画の根幹」、ないしは「視聴者との約束」を裏切るものであり、その点で放送倫理違反があったということになる。その点は、あくまで本件放送限りの評価であり、直ちにこの手法をあらゆる番組において否定することを意味するものではない。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: ADはロケに同行したのか。ADやコーディネーターが、動物が逃げないように体を弱らせるようなことをしていたのか。
A: 現場にADは同行していないし、私たちが調べた限りでは動かないようにしたということはない。(長嶋委員)
A: 現地にはディレクター、コーディネーター、更には現地の協力者がいた。(中野委員)
   
Q: Bディレクターも手法としてはCディレクターと似たようなことをしていたということか。
A: 本件放送では、動物をあらかじめ協力者から借り受け、または別の場所で捕獲して、撮影直前に現場に置いている。過去10回の放送では、現地の協力者に対して、事前に目的の動物を発見したらその場所を連絡するよう要請し、また、その際に目的の動物を捕獲してしまった場合は、捕獲したのと同じ場所に、前日か当日に放ってもらったものであり、他の場所から持ってくることはしていない点という点で異なっている。過去10回の放送については審議の対象としておらず、また、演出論には踏み込むことを控えるという姿勢を踏まえて、「自主自律的にその限界を議論することが求められよう」という問題提起にとどめたものである。(神田委員長)
   
Q: 判断の1つの基準として、「視聴者との約束」を裏切るものは放送倫理違反ということか。
A: その番組が視聴者とどういう「約束」をしているのかという認定は非常にセンシティブであり、制作、編集の自由を不当に制限しないように、映像の視聴やヒアリングなどを経て、慎重に検討する必要がある。また、仮に「約束」を裏切ったとしても、その程度や自主的自律的な事後対応次第にて、討議入りしない、又は討議にて終了するものもあれば、仮に審議入りしてもその評価が分かれることもあり得る。したがって、個々の番組を離れて、「約束」違反をもって、直ちに一律に放送倫理違反になるとまでは言えない。(神田委員長)
   

以上

2020年8月7日

データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について審議入り

放送倫理検証委員会は8月7日、データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について、審議入りすることを決めた。

フジテレビと産経新聞は、6月19日、2019年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。

フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2,500サンプルについて、実際には電話をしていないにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。

7月の委員会では、「社会の意見分布を知る一番の手掛かりは世論調査だ。不正な世論調査結果に基づいて18回ものニュースが放送されたことは、その時々の世論に影響を及ぼした可能性を否定できない」「世論調査は国民にとって重要な判断材料であり、不正の有無についてチェックされることなく放送されていたことは深刻な問題だ」「放送、新聞が行うすべての世論調査の信頼性を揺るがす由々しき事態だ」などの厳しい意見が相次ぎ、「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがあるのではないか」との意見も出された。

委員会は、フジテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、局からの再発防止策についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続。フジテレビから追加報告書が提出されたため、その報告書について意見交換した結果、放送倫理違反の疑いがあり、報道内容からして放送倫理違反の程度は軽いとは言えないとして審議入りを決めた。

委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第37号

TBSテレビ『クレイジージャーニー』「爬虫類ハンター」企画に関する意見

2020年8月4日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』における企画「爬虫類ハンター」を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
委員会は、日本民間放送連盟の放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた「放送倫理基本綱領」には、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定がある。「爬虫類ハンター」は、X氏が特異な能力を発揮し次々と希少動物を発見し捕獲するシーンを核とする企画であった。その核心である希少動物に、あらかじめ協力者から借り受けた動物、または別の場所で捕獲した動物を用いたことは、制作過程の重要な部分を制作者側が十分に把握していなかった点で、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであり、また、X氏が「確かな知識と野性の勘」を駆使して自力で希少動物を探し出したものと信じたであろう多くの視聴者との了解や約束を裏切るものであったというほかない。
よって、委員会は、本件放送には放送倫理違反があったと判断した。

2020年8月4日 第37号委員会決定

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目 次

2020年8月4日 決定の通知と公表

通知は、2020年8月4日午後1時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見が行われた。記者会見には24社37人が出席した。
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2020年11月13日【委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第37号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月5日付で提出され、委員会はこれを了承した。

TBSテレビの対応

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目 次

  • 1. 委員会決定に伴う放送対応
  • 2. コンテンツ制作局内での取り組み
  • 3.「放送倫理委員会」での取り組み
  • 4. BPO放送倫理検証委員会の委員を招いて意見交換会を実施
  • 5. 番組審議会への報告
  • 6.「放送と人権」特別委員会での議論
  • 7. 再発防止への取り組み
  • 8. 総括

第150回 放送倫理検証委員会

第150回–2020年7月

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』を審議
8月下旬以降に委員会決定を通知・公表へ

第150回放送倫理検証委員会は7月10日に開催された。
委員会が6月30日に通知・公表した琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
2月13日に通知・公表したTBSテレビの『消えた天才』映像早回しに関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含む取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
委員会が3月31日に通知・公表したNHK国際放送の『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見への対応報告が当該放送局から書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承し公表することにした。
スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人という不適切な演出をしたとして審議中のテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』について、担当委員から意見書の再修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、8月下旬以降に当該放送局への通知と公表を行うことになった。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させて欠員補填したとして、5月の委員会で審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組について、同番組を購入して放送した複数の局から提出された報告書及び当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも順次報告を求めることとしたが、その経過報告を踏まえて議論を行い、討議を継続することとした。
フジテレビと産経新聞が合同で行った世論調査のデータの一部に架空入力があり、それを基にしたニュースが合計18回放送されたことについて、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議を行った。委員からは厳しい意見が相次ぎ、再発防止策についての追加報告を待ち、併せてチェック体制などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。

議事の詳細

日時
2020年7月10日(金)午後2時30分~午後6時40分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
 
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、大石委員、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員

1. 「琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見」の通知・公表について報告

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやって来た〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』の2つのローカル単発番組について、委員会はいずれの番組も視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められ放送倫理違反があったと判断し、6月30日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長と担当委員が会見での質疑応答などを報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. TBSテレビ『消えた天才』映像早回しに関する意見への対応報告を了承

2月13日に通知・公表した、TBSテレビの『消えた天才』映像早回し加工に関する意見への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の社内周知や6月にBPO委員を招いてリモート形式で実施された研修会の状況等に加え、再発防止への取り組みとして、「放送倫理の向上を図るため、定期的に社内勉強会を行う」「素材段階でのチェックを強化する」「“密室”でのVTRチェックを禁止する」「スタッフを孤立させない組織作りを行う」などが記されている。
担当委員からは、上記研修会の様子や、研修の内容が受け止められて再発防止への取り組みが行われていることなどが報告され、適切な対応が行われているとして、当該報告を了承して公表することにした。
TBSテレビの対応報告書は、こちら(PDFファイル)

3. NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見への対応報告を了承

3月31日に通知・公表した、NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見(委員会決定第34号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、今回の問題を受けて2019年6月6日に公表した再発防止策の徹底を、放送に関わる全職員およびNHKの放送系の関連団体に改めて求め、経営委員会・国際放送番組審議会に報告したことが記されている。また、委員会決定を受けた新たな再発防止策として、取材した内容の真実性や利害関係者かどうかの確認などについて、出演者側の承認を取る内容になっている「出演等承諾書」を導入したことなどが記されている。
委員からは、「委員会決定を受けた後の局としての方策についての記載が乏しく、局として意見書を具体的にどう生かそうとしているのか分からなかった」という意見が出された一方、「番組制作に直接関わった人たちが、委員会決定をどう受け止めたのかについて、とても詳しく書かれていることは評価できる」「放送現場では意識や対応の変化が出てきていると書かれている。意見書の内容が伝わり、現場が受け止めているのであれば評価できる」「新型コロナウイルスの流行が本当に落ち着いた時点で、意見交換の機会が持てることを望みたい」などの意見が出され、概ね適切な対応がなされているとして、報告を了承して公表することにした。
NHKの対応報告書は、こちら(PDFファイル)

4. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、前回までの議論を受けて担当委員から示された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、8月下旬以降に当該放送局へ通知して公表することになった。

5. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
5月の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今回の委員会では6月末から7月上旬にかけて当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告された。次回委員会では意見書の骨子案が提出される見込みである。

6. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送では同年10月19日に、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとした。6月開催の委員会では、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を制作・放送し又は番組を購入して放送した複数の局からも報告を求めることとして、討議を継続していた。
今回の委員会では、その経過報告を踏まえ、さらに討議を継続することとした。

7. データの一部が架空入力された世論調査結果を放送したフジテレビの一連のニュース番組について討議

フジテレビと産経新聞は、6月19日、昨年5月から今年5月までの14回にわたり合同で行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったため、調査結果と関連する合計18回の放送及び記事をすべて取り消し、世論調査は確実な調査方法が確認できるまで休止すると発表した。
フジテレビの報告書によれば、調査を委託した会社の再委託先の会社の社員が、全サンプルの約17%に当たる約2500サンプルについて、実際には電話をしていないのにもかかわらず、架電済サンプルの属性と回答内容の一部を変えて架空データを作成しデータを作成していたとしている。
委員会では、「社会の意見分布を知る一番の手掛かりは世論調査だ。不正な世論調査結果に基づいて18回ものニュースが放送されたことは、その時々の世論に影響を及ぼした可能性を否定できない」「世論調査は国民にとって重要な判断材料であり、不正の有無についてチェックされることなく放送されていたことは深刻な問題だ」「放送、新聞が行うすべての世論調査の信頼性を揺るがす由々しき事態だ」などの厳しい意見が相次ぎ、「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがあるのではないか」との意見も出された。そのうえで、局からの再発防止策についての追加報告を待ち、併せて管理体制、納品されたデータのチェック方法などについてさらに報告を求める必要があるとして、討議を継続することとした。

以上

2020年6月30日

琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、6月30日午後2時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、西土彰一郎委員の3人が出席し、琉球朝日放送と北日本放送からは7人が出席した。
委員会決定について神田委員長はまず、両局の番組についていずれも放送倫理違反があったと判断したと述べた。琉球朝日放送の番組は、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるので、放送倫理違反があったと判断したと説明した。また、北日本放送の番組は、民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるので、放送倫理違反があったと判断したと説明した。
続いて鈴木委員長代行は「当該局による自主的・自律的な事後対応とその成果を期待している。正直、厳しい表現の下りもあるが、『自主・自律』を促すための苦言だと受け取っていただければありがたい」とコメントした。また西土委員は、番組と広告の境目を常に意識して番組を制作してほしい。そうした実践の積み重ねにより、自分のものにした留意事項、各局の実践的なルールこそが重要であると考えるとコメントした。
これに対して琉球朝日放送は、「放送倫理違反があったと判断されたことを何よりも重く受け止めている。今回の意見を踏まえて今後の番組作りに生かしていきたい」と述べた。北日本放送は、「委員会決定を本当に深く受け止めている。これからは考査体制を強化して、本当に視聴者から信頼される番組作りを、改めてどんな番組が信頼されるのかということを全社員で考えて、真摯に取り組んでいきたい」と述べた。
続いて、午後3時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には50社67人が出席した。
はじめに神田委員長が、琉球朝日放送の番組は、番組の中身や表示の問題点から、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連の「留意事項」に照らして総合的に判断すれば、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるという判断をした。北日本放送の番組は、北日本放送が自ら「中途半端なPR色」を認めるように、特に番組の後半部分は視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連放送基準の92や民放連の「留意事項」に盛り込まれた特に留意すべき事項に照らして総合的に判断すれば、この番組も視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められるという判断をしたと述べ、意見書の構成に沿ってその概要を説明した。
続いて鈴木委員長代行は「広告をめぐる意見書は2件目だ。意見書は通常、当該局に向けてものを言うものだが、今回は『民放連や民放各局の自主的・自律的な精神と姿勢で検討されるよう望みたい』と民放連を名指しして対応を促している。我々のメッセージがそこに込められていることを読みとっていただけるとありがたい」と述べた。また西土委員は、営業、編成、様々な職責の方がコミュニケーションをとって実践していく中でルールが具体的に決まってくるものだと思う。そういう観点から意見書を執筆したと述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 意見書には放送法第12条が出てこない。民放連放送基準で言及できるので、12条を持ち出すまでもないということか。
A: 当委員会は放送倫理に照らして倫理違反があるのかを判断する機関であることを踏まえ、放送倫理違反に関する判断をすることをもって必要十分であると考えている。(神田委員長)
   
Q: 琉球朝日放送の番組がセブンの提供でないことは、いつ分かったのか。また、番組は局の自主制作か。
A: 1月のヒアリング時に分かった。ビックリした。番組は琉球朝日放送の自主制作だ。
(鈴木委員長代行)
   
Q: セブン出店で沖縄ではお祭り騒ぎになったことは1つの情報であり、ニュースだと思う。PR色と情報性は表裏一体だと思うが。
A: 民放連の「留意事項」において、番組で特定の商品・サービスを取り扱うことは、視聴者に対して具体的で有益な情報提供となることが指摘されている。当委員会においても、その意義を損なうことのないよう十分に意識して議論、判断をしている。同時に、番組で取り上げた情報が広告放送であるとの誤解や疑念を持たれることは、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わることとなるとの指摘もされているところであり、その「境目」の判断については、「留意事項」に書かれているとおり、3つの視点はあくまで例示であり、総合的に判断する必要があると考えている。ご質問の点については、本件においてその点だけを踏まえて判断したものではなく、番組全体について総合的に判断したものであるが、その判断に関しては詳細な記載は控えている。詳細に記載するときは、個別事案を離れて基準であるかのような誤解を与え、かえってその意義を損なう可能性があると考えている。民放連放送基準審議会においても、「演出や構成などには大いに工夫の余地があるのではないでしょうか」と呼びかけている。私たちも各局に「大いに工夫の余地がある」ことを狭めることがないようにしたいと考えており、意見書にも記載したとおり、各局に自主的・自律的に検討していただきたい。(神田委員長)
   
Q: 広告会社の方がプロデューサーとして表示されていたことについて、委員会はどんな議論をしたのか。
A: その部分は倫理違反の判断とは直接関係ないが、表示は正確であってほしい。(鈴木委員長代行)

以上

第36号

琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見

2020年6月30日 放送局:琉球朝日放送・北日本放送

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやって来た〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとして審議入りを決め、議論を続けてきた。

琉球朝日放送の番組には広告取引の実態がなかったにせよ、番組の中身や表示の問題点から、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連の「留意事項」は、広告取引という対価性の有無にかかわらず番組全般に適用される。それに盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。
また、北日本放送の番組は特に後半部分は提供スポンサーの意向や事業などから独立した内容なのか見分けがつきにくく、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。

2020年6月30日 第36号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2020年6月30日 決定の通知と公表

通知は、2020年6月30日午後2時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われ、午後3時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見が行われた。記者会見には50社67人が出席した。
詳細はこちら。

2020年10月9日【委員会決定に対する琉球朝日放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、琉球朝日放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年9月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

琉球朝日放送の対応

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目 次

  • 1.委員会決定についての放送対応
  • 2.ホームページへの掲出
  • 3.委員会決定の社内周知
  • 4.社員・スタッフによる番組再検証
  • 5.社内連絡会議
  • 6.番組審議会への報告
  • 7.再発防止への取り組み
  • 8.総括

2020年12月11日【委員会決定に対する北日本放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、北日本放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

北日本放送の対応

全文pdf

目 次

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理違反があったと判断された番組
  • 3.番組放送から現在に至るまで
  • 4.主な取り組み
  • 5.おわりに

第149回 放送倫理検証委員会

第149回–2020年6月

生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』を審議

第149回放送倫理検証委員会は6月12日にオンライン会議システムを使用して開催された。
バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意する不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、7月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人という不適切な演出をしたとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させ、前回審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組を購入して放送した複数の局から提出された報告書を踏まえて引き続き討議を行ったが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

1. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、7月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

2. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書のさらなる修正案が示されて意見交換が行われたが、次回も引き続き審議することになった。

3. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
前回の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めたが、今回の委員会では当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送は同年10月19日には、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとして、討議を継続していた。
今回の委員会では、上記の番組のいずれかを購入して放送した他の放送局から提出された報告書も踏まえて引き続き討議したが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

以上

2020年2月26日

在阪テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と在阪のテレビ・ラジオ10局との意見交換会が、2020年2月26日大阪市内で開催された。放送局の参加者は10局74人、委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、長嶋甲兵委員、中野剛委員、西土彰一郎委員、巻美矢紀委員の6人が出席した。放送倫理検証委員会が大阪で意見交換会を開くのは2014年11月以来である。

開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「BPOの役割は、放送の自由、放送の責任を担っている現場の皆さんを後押しすることである。決定を出す背景にある委員会の議論や思い入れを知ってもらい、また局側からも言いたいことをフィードバックして、双方向の流れを作る意見交換会にしたい」と挨拶した。

意見交換会の前半は、2019年度の委員会決定から、「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」(委員会決定 第31号)、「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」(委員会決定 第32号)、「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」(委員会決定 第30号)の3事案を取り上げ、担当委員からの説明と質疑応答を行った。

「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」について、まず、審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の升味委員長代行が意見書の要点を説明したうえで、「街ブラ企画では事前に取材対象が決まっているわけではないので、現場にアンテナの立っている人がいないと問題のある個所がそのまま通ってしまうことになる。編集の段階で複数の目でチェックする体制が維持できなかったことも問題があった。社会ではLGBTなど性的個性に触れることに敏感になっているのに、どうしてピンとこなかったのか、ヒアリングでも決定的な要因は見つからなかった。日々番組を作る人たちがアンテナを張っていないと問題点を指摘するのは難しい。アンテナが立つようにするには研修なども必要だが、現場で意見交換や違った価値観のスタッフの話を聞くことが必要だと思う。現場ではそうした余裕がないようだ」と述べた。続いて同じく意見書を担当した長嶋委員が「情報バラエティー番組と報道番組の境界線があいまいになってきていて、それぞれの番組作りのやり方が混ざり合うところで問題が起こっていると感じる。それをマイナスに捉えず、お互いの専門分野の知見と経験を生かし合ってよい番組を作る方向があるのではないか。今年度は意見書の数が増えたが、放送界にとってはむしろよいことだと捉え、これまでの番組の作り方や中身を検討し直す機会にしてほしい」と述べた。参加局からは「取材対象者は特に不愉快と感じていなかったそうだが、それでも問題なのか」と質問があり、升味委員長代行が「取材対象者がどう思っても、テレビが他人のセクシュアリティを詳しくしつこく聞くのは社会に対する影響から考えてまずいと思う」と答えた。

「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」については、冒頭で審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の中野委員が意見書の要点を説明したうえで、「『韓国ってね、手首切るブスみたいなもんなんですよ』という発言を放送に残すことになった局内でのやり取りを意見書にしっかり書いた。また、放送後、局が自律的に『様々な感じ方をされる視聴者の皆様への配慮が足りず、心情を傷つけてしまう可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだった』とする見解に至った経緯にも詳しく触れた。意見書の内容がもし制作現場に十分に受け止められていないとすれば、それを埋めるのは局の仕事で、放送倫理規範を現場に浸透させていく活動をこれからも行っていただきたい」と述べた。また同じく意見書を担当した巻委員は「社会の多数派にとっては何気ないような表現であったとしても、当事者、特にマイノリティにとってはそれが自尊を傷つけるようなことがあるということを、改めて当事者の立場に立って、想像力を駆使して今後の番組作りに生かしてもらいたい」と述べた。参加局からは「特定個人の発言が良くなくても、別の出演者が『そういうレッテル貼りはいけない』と発言すれば番組は成立するのではないか」と質問があり、中野委員は「この番組に関しては、ほかの出演者から『それは違うんじゃないか』といった発言はなかった。私たちは個別番組ごとに判断する」と答え、神田委員長は「番組の流れの中で放送倫理違反と判断した。『手首切る』『ブス』という2つの言葉自体が問題であると判断したものではなく、あくまでも発言全体の文脈の中で広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現だという結論に至ったものだ」と述べた。

「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」については、まず、神田委員長が、民放連が2017年に策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の概要を含めて意見書の要点を説明したうえで、直前に開かれたBPOの事例研究会でも多くの質問が出たことを紹介した。参加局からは「テレビでは商品の露出に協力スーパーを入れたり、あるいは番組のバックボーンとしてそれを基に番組ができていたりなど、『タイアップ』と呼ばれる手法があるが、このタイアップについてはどういうところに留意すればよいか」と質問があり、神田委員長は、「個々の映像を前提としないで、タイアップという類型について一概に回答することは難しい。あくまで一般論としていえば、まず民放連の『留意事項』に照らし、『広告放送』であると視聴者に誤解されないように自主的・自律的に留意をしてもらうことが大切である。『留意事項』2の3つの要素はもちろんのこと、これらはあくまで例示であるので総合的に判断いただく必要がある。そして、結果として、放送倫理違反になる事例があるとしても、制作の過程で、『留意事項』に照らした議論をきちんとしていただければ、自ずと視聴者に『広告放送』と誤解されるような番組は減っていくのではないかと思っている。また、議論の経過をきちんと残しておくことにより、局が自主的・自律的な判断をしたことがきちんと説明できるのではないかと考える」と述べた。また別の参加局からの「どの部分がどういう違反になっているのか、どうあるべきだったか明快にされるべきではないか」という質問に対して、神田委員長は「長野放送の事案では、『留意事項』に照らし、最後の部分についてはかなり宣伝や広告に近いように映ったと指摘したうえで、放送全体として視聴者に『広告放送』と誤解されると判断したが、事案によっては、どの部分が放送倫理違反といえるのか特定できるものもありうる」と答えた。

意見交換会の後半は、「実名・匿名報道などについて」をテーマに取り上げた。
はじめに、2019年7月に発生した京都アニメーション放火事件の遺族への取材をめぐる放送界全体の動きや自社の被害者氏名の報道について、毎日放送報道局の澤田隆三主幹が報告した。この中では、事件発生の3日後に在阪民放4社でメディアスクラム回避策を協議し、「警察発表の居住地への取材は代表1社のみとし、映像素材や情報を共有する」などと取り決めたこと、8月には、NHKと民放局が「取材交渉は代表1社の記者が行い、カメラは同行しない」「取材交渉では必ず、民放とNHKの 6社を代表していますと伝えること」といった「京都方式」と呼ばれる枠組みに合意したことなどが紹介された。また、毎日放送では、遺族の精神的ダメージが大きいことから、被害者の実名発表から24時間を過ぎれば、遺族が実名報道を拒否している場合は匿名にする方針を決めたこと、2回目に発表された25人の犠牲者のうち遺族が氏名の公表を拒否している20人について、全国ニュースと重ねて実名が放送されないようにローカルニュースでは匿名としたことが報告された。澤田主幹は「この事件は特定の会社で起こったことであり、公共の場で起きたテロなどとは報道の目的も変わってくる。この事件をきっかけに実名と匿名のあり方の議論を深めていくべきではないか。また、被害者とメディアの間に立って取材を受ける意向を確認できるような第三者機関ができないか議論を始めていければよいと思っている」と述べた。続いてNHKの担当者が「メディアスクラムは防ぎたいと、民放4社の動きの情報を得ながら、常に考えてきた。NHKは一貫して実名報道を行ったが、必要以上に長く実名を出さないように配慮した。実名報道が絶対的に正しいとは思っておらずその意義について、今後も議論を続けていきたい」と説明した。また朝日放送テレビの担当者は「この事件は実名報道が原則であることをゆるがしたのではないか。議論のうえで、実名報道は各番組で1回にとどめ、ネット配信では実名公表が可能とされている被害者も名前は出さなかった。今後このような事件が起きた場合にしっかりと実名報道する理由を放送の中で説明する必要があるのではないか」と述べた。これらの発言に対し、西土委員は「各局の発言を重く受け止めた。実名報道については、被害者本人がどう思うのか、想像力をたくましくして日々考えるしかないのではないか。現場で厳しい対応を迫られているジャーナリスト、とりわけ若い人々の実践を我々がどう厳粛に受け止めるかも大事だ。倫理は現場のジャーナリストが苦悩しているところからでき上ってくるものであり、BPOの委員が勝手に決めるものではないと思う」と感想を話した。
続いて、阪神・淡路大震災から25年を機に朝日放送テレビの映像アーカイブをウェブサイトで公開した取り組みについて、朝日放送テレビの木戸崇之報道課長が、実際のウェブサイトの映像を紹介しながら、公開したのは約38時間分・約2000クリップで、肖像権については、受忍限度と社会的意義のバランスについて議論のうえ公開することにしたと報告した。

意見交換会の終了にあたり、神田委員長が「私たちは、問題となった放送があった場合、『放送局の放送後の自主的・自律的な対応』と『放送倫理違反の程度の重さ』という2つの要素を考慮して審議に入るかどうかを決める。自主的・自律的な対応が採られていても、放送倫理違反の程度が重ければ審議入りをすることになるが、多くの事案では当該放送局自身も放送倫理違反であることを認識し、自主的・自律的であり、かつ適切な事後対応がされていれば、その点を適切に評価して審議入りしないとの判断に至っていると説明し、「今日は参加された放送局から多くの意見をいただき心強かった。皆さんとのやり取りを通じて放送業界の自主・自律を守っていかなければならないと感じている」と結んだ。
最後に参加局を代表して、NHK大阪放送局の有吉伸人局長が「メディアをめぐる状況が大きく変化していく中で、今日は意見書の背景や議論のプロセスなど我々にとって意味のある話が聞けた。それぞれの現場でよりよい放送を出していくために議論し続けていく」と挨拶した。
当日は意見交換会に続いて懇親会を予定していたが、新型コロナウイルスの感染が懸念される状況を考慮し中止することとした。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 委員長はじめ各委員の説明や見解を直接聞くことができ、普段書面等で読むことしかできないBPOの“生”の考えの一端を知ることができた。

  • 委員の方々の見解、審議や考察のポイント、放送局側出席者の声など、このような意見交換会でしか知ることのできない視点や意見などに触れることができ、非常に参考になった。

  • 委員の発言を聞いて、制作側の視点と第三者の視点の両方から見ようとされていること、結果の「○」「×」より過程の問題点を明らかにすることに力点があること、そして「今議論しておかなければ」という覚悟を持って取り組んでおられることが感じ取れた。

  • 読売テレビと関西テレビの問題は、映像もあり、実際の雰囲気がわかりやすかった。

  • 実名報道の件は特に勉強になった。

  • 番組についての意見を局同士で忌憚なくやり取りできる機会は、こうしたBPOと局との意見交換会しかないと思われるので、そういう意味でも時間をかけて議論する場をさらに広げていただきたい。

以上

第148回 放送倫理検証委員会

第148回–2020年5月

琉球朝日放送と北日本放送のローカル2番組を審議
6月にも委員会決定を通知・公表へ

第148回放送倫理検証委員会は5月15日にオンライン会議システムを使用して開催された。
委員会が1月24日に通知・公表した関西テレビの『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告が、当該放送局から書面で提出され、その内容を検討した結果、委員会との意見交換が適切な時期に開催されることを期待し、報告を了承し公表することにした。
3月31日に通知・公表を行ったNHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。また4月8日にメールにて通知し、委員会決定をBPOウェブサイトに掲載して公表した北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見について、委員長から経過の報告がされた。
番組で取り上げている特定企業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、6月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
① 秋田放送が制作放送した『そこが知りたい!過払い金Q&A』、②山口放送が制作放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』、③山口放送が制作放送し、また秋田放送が放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座! PART2』というローカル単発番組について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書と同録DVDの提出を求め、継続して討議することとした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させていたことが判明したフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われることなどについて意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2020年5月15日(金)午後1時~午後4時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)他オンライン
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、大石委員、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員

1. 関西テレビ『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告を了承

1月24日に通知・公表した、関西テレビの『胸いっぱいサミット!収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見(委員会決定第32号)への対応報告が、当該放送局から委員会に対し書面で提出された。また、同局の番組審議会およびオンブズ・カンテレ委員会の議事内容をまとめた「番組審議会議事録」、「オンブズ・カンテレ委員会の見解」もあわせて提出された。
報告書には、再発防止、放送倫理意識向上に向けた「制作局における取り組み」が制作部会で共有され、自社検証番組「カンテレ通信」で審議に至る経緯、決定内容、改善に向けた取り組み等について放送したほか、専門家を招いた「全社的研修会」を3回開催したことなどが記されている。
委員からは、「意見書やオンブズ・カンテレ委員会が指摘しているにもかかわらず、制作現場と局の間にある意見の分断の解消についての言及がないのは残念である」「意見書を受け、制作現場の意識に変化はあったのかについて書いていただけるとよかった」といった意見が出されたが、意見書で指摘した課題に対し概ね適切な対応が行われており、また、新型コロナウイルスの拡大に伴う緊急事態宣言のため、委員会と当該局との意見交換は行われていないが、今後、適切な時期での開催を期待することとして、当該対応報告を了承し、公表することにした。
 関西テレビの対応報告書はこちら(PDFファイル)

2. NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見および北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見の通知・公表について報告

NHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、委員会は放送の内容は正確ではなく、適正な考査も行われなかったとして放送倫理違反があったと判断し、3月31日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長や担当委員が当日の様子を報告した。
また、北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、委員会は有権者に誤解を与え、比例区の投票行動をゆがめた可能性があるなど選挙報道に求められる公正・公平性を害し放送倫理に違反していると判断し、4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下であることを踏まえ、通知はメールで、公表は委員会決定をBPOウェブサイトに掲載する形で行った。この日の委員会では、その経緯について委員長が報告した。

3. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議、6月にも通知・公表へ

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやってきた〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、昨年12月の委員会で審議入りした。この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、6月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

4. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が示されて意見交換が行われた。

6. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。
この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。
秋田放送では、上記番組を2018年2月17日に初回放送し、その後、同年10月13日に2回目の放送をし、今回は3回目の放送であった。また、上記番組とは別に、2019年10月19日に山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を放送していた。
そして、山口放送では、2018年6月2日、同月15日、2019年5月11日及び同月18日に、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を、また、2019年5月25日および同月29日に、上記の『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』をいずれも制作放送していた。
そこで、委員会は秋田放送と山口放送から提出された報告書を基に討議した結果、いずれの番組も日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも、上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求め、継続して討議を行うこととした。

7. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、4月3日、フジテレビは、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ウェブサイト上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
委員会は、当該放送局から提供された報告書と同録DVDを基に討議した結果、委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、これまで2017年12月31日から2020年3月7日にかけて放送された番組のうち、レギュラー番組として放送された1回目(2018年10月20日)から25回目(2019年10月26日)までの回について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

以上

2020年3月31日

NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、3月31日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行の2人が出席し、NHKからは国際放送局長ら2人が出席した。
委員会決定について神田委員長は、「NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた放送倫理基本綱領、また、NHKの『放送ガイドライン』に照らした適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べた。続いて升味委員長代行が、「NEP(NHKエンタープライズ)による試写はプロデューサー1人だけ。できれば、NHK本体としても考査の役割を果たすために最終的に番組内容を検討する機会を意識してもつことが、今後、このようなつまずきにつながらない方法かと思う」とコメントした。これに対してNHKは、「再発防止はもとより、国際放送はこれからも放送法、放送番組基準、NHKの『放送ガイドライン』にきちんと従っていく形で、ますます視聴者のみなさまに資するチャンネルとして力を入れていきたい。今回のことを糧にして、これからも頑張っていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から都市センターホテル会議室で記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には19社30人が出席した。
はじめに神田委員長が、「自主制作か外部への委託制作か、持ち込み番組かを問わず、放送局は全ての番組について放送責任を負い、その内容は放送倫理にかなったものでなければならない。NHKが適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って説明を加えた。続いて升味委員長代行が、「テレビ局についての信頼は、事実が正しいことが大前提だ。事実の正しさを確認することは、地味で単純な作業だと思うが、それが大切である。それから、試写や考査で疑問が生じた時には、中途でうやむやにせず、結末まで原因を追究する必要性を再確認する機会にしていただければありがたい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 「事実確認の基本的作業なし、誤認の連続」とのこと。ディレクター、カメラマン、音声マンの3人とも本当に誤認だったのか。つまり、どこかで気付いていたのではないかという議論、3委員の間であったのか。
A: カメラマン、音声マンは日本人ではない。不信は感じなかったと言っている。ディレクターは、その場で全く疑問を感じなかったと答えている。1点あるとすれば、「彼女をレンタルする20代男性」の取材している場面。彼女をレンタルする動機が、女性と話すのが苦手だからという割に、非常にこなれた感じで最初から彼女に接していることについて、「あれっ」と思ったことはあったようだ。しかし、自ら納得してしまったところがある。若い人はこんなものなのかということと、前に同じ女性をレンタルしたことがあったので、2度目ならこういうものなのかなと納得してしまった。ディレクターの説明によると、1つずつ多少の疑問はあったけれども、自分の中で納得してしまっているうちに終わってしまったようだ。(升味委員長代行)
   
Q: 音声マンとカメラマンが日本人ではないとことだが、日本語はよく理解できないような方だったのか。
A: 完ぺきではないと思うが、外国から呼んだわけではないようだ。日本にいるスタッフ。(升味委員長代行)
   
Q: この審議が行われている途中で、NHKの朝の番組でシューズレンタルの話があった。事後のブリーフィングで、その件は取り上げないということだったので、今日の意見書の中に取り上げているのかなと注目していた。記載すべきだという議論はなかったのか。
A: NHKの『おはよう日本』についての質問かと思う。『おはよう日本』については、審議に至らずという結論となった。ただし、討議に付し、その中での委員の議論状況は委員会のHPで開示した。委員会の問題意識を必要十分に開示したということを踏まえて、本意見書に重ねて指摘することは結論として控えた。(神田委員長)

以上

2020年5月15日

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』審議入り

放送倫理検証委員会は5月15日、フジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、フジテレビが2017年12月31日から2020年3月7日にかけて放送したクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』。フジテレビは4月3日、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともにお詫びを行った。
番組は、1人の「チャレンジャー」が、99人の壁の解答者に阻まれながら全問正解を目指すクイズ番組で、合計5問に正解すると賞金100万円を獲得できるというもの。「チャレンジャー」はあらかじめ自分の得意なジャンルのクイズを指定できる特権を与えられる。
出場者全員が専門ジャンルの知識を持っているというのがこのクイズ番組の見どころだが、逆にそうした専門性の高い100人もの出場者をオーディションで選ぶことや、番組で使用するクイズの作成、解答の裏どり作業は、当初から相当の労力を要したという。
委員会は、フジテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議した。委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(検証委員会決定20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2020年4月8日

北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見の通知・公表

北海道放送に対する上記委員会決定の通知は、新型コロナウイルスに関連する緊急事態宣言の発令を踏まえ、4月8日午後1時30分に、電子メールにて実施した。

これに対して北海道放送は、「当社が2019年7月3日(水)に放送した『今日ドキッ!』内のニュースについて、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会から放送倫理違反の指摘を受けたことを重く受け止めています。意見書では、参議院比例代表選挙の公示前日に、特定の候補のみを取り上げて放送したことは、『選挙報道に求められる公平・公正性を損なっており、放送倫理に違反する』と指摘しています。当社は意見書に真摯に向き合い、再発防止に取り組み、より良い選挙報道の実現に向けて一層の努力をしてまいります。」とのコメントを、自社のホームページに掲載した。

また公表については、同日午後2時30分にBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載することにて実施し、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたが、4月15日時点で質問は寄せられていない。

以上

第35号

北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見

2020年4月8日 放送局:北海道放送

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、放送の内容が他の立候補予定者との公平・公正性を害し放送倫理違反となる可能性があり、制作に当たってこれまで委員会が指摘してきた諸問題が検討された形跡がないなどとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りした。
審議の結果、委員会は、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本件放送は公示日の前日に約5分間にわたって特定の立候補予定者のみを取り上げて視聴者に強く印象づけるような編集をし、有権者に誤解を与え比例区の投票行動を歪めた可能性があるとして、選挙報道に求められる公平・公正性を害したことが、放送倫理に違反していると判断した。

2020年4月8日 第35号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2020年4月8日 決定の通知と公表

通知は、2020年4月8日午後1時30分に電子メールにて行われ、午後2時30分からBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載して公表された。なお記者会見の開催は見合わせた。
詳細はこちら。

2020年12月11日【委員会決定に対する北海道放送の対応と取り組み】

委員会決定 第35号に対して、北海道放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年12月7日付で提出され、委員会はこれを了承した。

北海道放送の対応

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目 次

  • 1.委員会決定の報道と社内周知について
  • 2.問題の確認と対応について
  • 3.委員会決定と社内アンケートの実施
  • 4.番組審議会への報告と審議
  • 5.再発防止に向けて
  • 6.BPO放送倫理検証委員会との勉強会
  • 7.おわりに

第34号

NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見

2020年3月31日 放送局:NHK

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは2019年5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。委員会は9月、利用客が会社関係者でないこと等の確認が適切に行われるべきであったところ、十分な確認をしなかった可能性がうかがわれるため、放送に至るまでの経緯や原因を検証する必要があるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
委員会は、放送倫理基本綱領の「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」、NHK「放送ガイドライン」の「NHKのニュースや番組は正確でなければならない」との規定に照らすと、出演者が本物の利用客ではなかった点、また、出演者が会社関係者だったのにその関係を明らかにしていなかった点において、放送の内容は正確ではなく、したがって、NHKが適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。

2020年3月31日 第34号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2020年3月31日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年3月31日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から都市センターホテル会議室で公表の記者会見が行われた。記者会見には、19社30人が出席した。
詳細はこちら。

2020年7月10日【委員会決定に対するNHKの対応と取り組み】

委員会決定 第34号に対して、当該のNHKから対応と取り組み状況をまとめた報告書が2020年7月1日付で提出され、委員会はこれを了承した。

NHKの対応

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目 次

  • 1. 委員会決定についての放送対応
  • 2. 委員会決定の放送現場への周知
  • 3. 経営委員会・国際放送番組審議会への報告
  • 4.「Inside Lens」制作関係者などの受け止めや意識の変化
  • 5. 再発防止の取り組み
  • 6. おわりに

第147回 放送倫理検証委員会

第147回–2020年3月

北海道放送『今日ドキッ!』について審議 4月に委員会決定を通知・公表へ

第147回放送倫理検証委員会は3月13日に開催された。
委員会が昨年12月10日に通知・公表した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、再発防止に向けての取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、意見書で指摘した課題に対し適切な対応が行われているとして、了承し公表することにした。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の再々修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、4月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
番組で取り上げている特定企業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員から意見書の原案が示された。

1. 読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見への対応報告を了承

昨年12月10日に通知・公表した、読売テレビのローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見(委員会決定第31号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。報告書には、再発防止に向けて「人権研修会」を新設したことやBPO委員を招いて実施した勉強会の様子、その後の全社的な意識の変化についてなどが詳細に記されている。委員からは「番組のコンテンツ力やテレビのブランド価値を高める『攻めのコンプライアンス』ができればと思うというアンケートの感想に、前向きな姿勢であるとの印象を受けた」「良い番組づくりにはお金と人が必要だなどとする勉強会での社長の決意表明に感銘を受けた」「再発防止を図る取り組みや今後の改革に期待する」といった感想が述べられ、意見書で指摘した課題に対し適切な対応が行われているとして、当該報告を了承し公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)

2. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について審議、4月に通知・公表へ

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカル情報番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本来の選挙区の区切りとは異なった報道を行うことで有権者の投票行動をゆがめたのではないか、また特定候補者だけを取り上げ他の比例代表候補者や政党を報道しなかったことは選挙の公平・公正性を害しており放送倫理違反となる可能性があるとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りし、議論を重ねてきた。今回の委員会では、担当委員から示された意見書の再々修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、4月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. スーパーの買い物客密着企画で不適切な演出を行った『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、意見交換が行われた。

4. 海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組企画で不適切な演出を行ったTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、昨年12月の委員会で審議入りした。この日の委員会では、意見書の原案が示された。次回委員会には、意見書の修正案が提出される予定である。

以上

2020年2月13日

TBSテレビ『消えた天才』映像早回しに関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、2月13日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員の3人が出席し、TBSテレビからはスポーツ局担当の取締役ら4人が出席した。
神田委員長は委員会決定について、「今回の放送は、1993年に出されている『放送番組の倫理の向上について』と題する提言と民放連の放送基準(32)に抵触し、過剰な演出であるとして放送倫理違反があったと判断した」と説明した。続いて、岸本委員が「意見書の立場は、個人に責めを帰するのではなくその人がどうしてそうするに至ったか背景や構造的な問題がないかを探り学ぼうというものである。現在の技術環境に合わせたチェックの仕組みを構築するのはすぐにできることではなく、そうした状況にあっては個々人のモラルによるところが大きい」と述べた。続いて、鈴木委員長代行が「今回のように当該局が自ら問題のありかを探って公表するケースはそう多くはない。あるスタッフがプロデューサーに問題を報告してから公表まで1週間であり、ものすごいスピード感である。報告しなければいけないと思ったスタッフの感覚は健全であり、こうした感覚は今後いろいろなことに生きる」と述べた。これに対して、TBSテレビは「番組作りというのは、小さいかもしれないけれど、一個一個の判断の連続で最後に番組になっていくものなので、その判断が技術革新の便利さゆえに、安易になってはいけないということを教えていただいた。技術は進歩するが、立ち止まって番組作りのプロセスの中で、作り手が何を大事に、何を伝えるかということをきちんと踏まえて作れるような制作者のリテラシーアップと、番組を通じての視聴者への還元にこれから努めていきたいと思う」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社39人が出席した。
はじめに神田委員長が意見書に沿って、委員会の判断、番組の詳細、背景と問題点等を説明した後、「意見書の最後の段落に『技術革新が下げた心理的なハードルは、個々人のモラルによって押し上げ、保たなければならない状況にある』と書いている。『モラル』は『放送倫理』に置き換えることが可能であり、あらゆる放送局で妥当する普遍的な課題をつきつけている。各局各人に放送倫理に基づく対応を自主自律の下で検討してもらい、再発がないようにと強く願っている」と述べた。続いて岸本委員が「意見書に四つの背景と問題点を書いた。特に後の二つ(「技術革新と心理的ハードルの低下」「チェックの仕組みの限界」)は局や部署を問わず放送に携わる人が共有する課題だと思っている。今回の特徴は、問題が内部での気付きによって発覚し、すみやかに調査を開始したことである。違和感を感じたことを上司に上げる勇気が今回の特筆すべき自主自律的な対応につながった。こうした気づきとそれを口にして、問題の共有・解決につなげていく力学が働いたことをとても頼もしく思っている」と述べた。鈴木委員長代行は「ヒアリングで、早回しにかかわった人たちに悪意はまったくなく、むしろ"消えた天才"に対して、こんなにすごかったんだとつい強調したいためにこういう行為に走ったと改めて確認できた。組織的に確立された手法が継承されているわけではないということがわかった。スポーツ局内では、スピードを変える加工は悪い意味ではなく日常的に行われていた。スポーツ中継のリプレイでの早送りやスローモーションなどは、視聴者も了解しているから手法として認められているが、今回はまさかここで速めているとは思わないところで行われた。視聴者との約束を超えた映像加工であり、過剰な演出であると言わざるを得なかった。技術的に可能になればなんでもやっていいわけではなく、やっていいことと悪いことを当該局だけでなく広く放送の現場の人に考え”てほしい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: (意見)当該局の自主自律的な対応を今回のような形で意見書で評価して盛り込んでもらえると、委員会がこういう対応を自主自律的なこととして受け止めていることがよくわかる。
A: 意見書の中でも常に当該局の自主自律的な姿勢は適切に評価するように努めている。審議入りした案件だけではなく、討議入りするかどうか、また、討議から審議入りするかどうかのステージにおいても自主自律的な取り組みをしているかどうかを重視している。討議入りした案件について審議入りするか否かの基準については、2009年7月に川端前委員長が委員長コメントを出している。ひとつは放送倫理違反の程度の大小、もうひとつは自主自律的な取り組みをしているかを勘案して審議入りするかどうかを判断するとしている。審議入りした案件において、放送倫理違反があるとしても、局の事後的対応の評価を明らかにして、すべての局に自主自律的な姿勢の重要性と大切さを伝えていきたいと思っている。(神田委員長)
   
Q: 審議入りの経緯を改めて聞きたい。どういうきっかけでBPOに伝わったのか。元々野球の投手の件を調べた結果、ほかの3件が明らかになったのか。
A: 元々当該局が4件を公表した。それを基にBPOに報告書を提出してもらった。その時点で局の一連の対応はわかっていたが、もうひとつの審議入りの条件である、放送倫理違反の程度が重いか軽いかについて、委員会としては、初めてのケースであるし、こういう手法で早回しが行われたことに驚きがあり、事後対応はよいけれども審議入りせざるを得ないと判断した。技術革新の問題には、当該局だけではなく広く放送界に警鐘を鳴らすテーマがあるのではないかと考えて審議入りした。(鈴木委員長代行)

以上

第146回 放送倫理検証委員会

第146回–2020年2月

NHK国際放送『Inside Lens』委員会決定を通知・公表へ

第146回送倫理検証委員会は2月14日に開催された。
1月24日と2月13日にそれぞれ通知と公表の記者会見をした関西テレビ「『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」とTBSテレビ「『消えた天才』映像早回しに関する意見」について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、3月にも当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の原案が提出され、意見交換が行われた。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の修正案が提出され、これに基づいて意見交換が行われた。
参議院比例代表選挙に立候補予定の特定候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換を行った。
番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員からヒアリングの結果が報告され、意見書の構成案が示された。
宿泊施設を時々利用する客として登場した男性が、実際には一度も利用したことがなく、また、当該男性がその施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員であることが判明したNHK総合テレビ『おはよう日本』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、放送倫理に照らして問題がある放送であるが、比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないこと、不十分であると言わざるを得ないものの事前に一定の確認作業が行われていたこと等の事情を総合的に考慮して、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

議事の詳細

日時
2020年2月14日(金)午後3時~午後9時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 関西テレビ「『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」とTBSテレビ「『消えた天才』映像早回しに関する意見」の通知・公表について報告

関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』は、2019年4月6日など2回の放送の中で、韓国人の気質について、コメンテーターである作家の「手首切るブスみたいなもんなんですよ」という発言をそのまま放送した。また、TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』は、2019年8月11日など3回の放送の際、野球のリトルリーグなど4件の映像で早回し加工を行った。委員会はいずれも放送倫理に違反するものと判断し、『胸いっぱいサミット!』については1月24日、『消えた天才』については2月13日に、それぞれ当該放送局への通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長や担当委員が、通知の際のやりとりや会見での質疑応答などの模様を報告したあと、委員会決定を伝えた双方の放送局のニュースを視聴した。

2. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議、3月にも通知・公表へ

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。この日の委員会では、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、3月にも当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. スーパーの買い物客密着企画で不適切な演出を行ったテレビ朝日『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りし、当該放送局の番組制作担当者らに対するヒアリングが行われた。今回の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換が行われた。

4. 海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組企画で不適切な演出を行ったTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送の『今日ドキッ!』について審議

北海道放送は参議院選挙公示前日の2019年7月3日、夕方のローカル情報番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。委員会は9月、比例代表制度では自分の住む都道府県に関わりなく立候補者や政党・政治団体に投票できるにもかかわらず、本来の選挙区の区切りとは異なった報道を行うことで有権者の投票行動をゆがめたのではないか、また特定候補者だけを取り上げ他の比例代表候補者や政党を報道しなかったことは選挙の公平・公正性を害しており放送倫理違反となる可能性があるとして、放送に至った経緯等を検証するために審議入りを決めた。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が提出され意見交換が行われ、次回も引き続き審議することになった。

6. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっていて、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、委員会は12月から審議を続けている。この日の委員会では、担当委員から1月以降に行われたヒアリングの結果が報告されるとともに、意見書の構成案が示された。次回委員会には、意見書の原案が提出される予定である。

7. 番組で紹介した宿泊施設の利用客が関係者だったNHK総合テレビの『おはよう日本』を討議

NHK総合テレビが2019年12月9日に放送した『おはよう日本』における午前6時台のコーナー「おはBiz」で、約4分間にわたり、"キャビン型ホテル"と呼ばれる宿泊施設が紹介された。その中で、施設を時々利用する客として登場した男性が、実際には一度も利用したことがない上に、施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員だったことが視聴者の指摘で明らかになった。NHKは、同月26日に当該番組およびホームページで説明を行うとともにお詫びした。取材・制作担当者は、複数回メーカー社員本人の確認作業を行ったが、勤務先や宿泊施設に対するチェックが十分ではなかったと説明している。このため、委員会では、当該放送局から提出された報告書と番組の同録DVDをもとに討議した。
委員会は、同局において、同種の事案が審議中であるにもかかわらず、看板番組の一つであるニュース番組において、過去に利用したことがないのに時々利用している客として紹介し、また、当該男性がその施設にシューズなどを提供しているメーカーの社員だったことを見抜けなかったことは、事実と異なる内容の放送であり、放送倫理に照らして問題があるとの厳しい意見が出された。他方で、比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないこと、不十分ながらも事前に一定の確認作業が行われていたこと、再発防止策が導入され、今後徹底を図ることとされていること等の事情を踏まえ、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載した上で、今回で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

  • 過去に利用したことがないにもかかわらず、時々利用している客として紹介し、結果的に利害関係者を取り上げるなど事実に反する内容の放送になっている。現在審議中の当該局の他番組と同様の事態が、看板番組の一つであるニュース番組において再発したことは極めて遺憾である。

  • 当該客の属性等について事前に一定の確認作業は行われている。嘘をついている本人に何度確認したところで見破ることは難しい。もっとも、紹介された利用客をインターネットで検索した際、同姓同名のSNSアカウントを発見するなどシューズメーカーの社員である可能性が出てきた時点で、より慎重に確認すべきだった。

  • 比較的短時間の放送であったこと、宿泊施設の紹介内容自体に虚偽があるわけではないことなどからすれば、対象となる問題が必ずしも大きいわけではなく、審議入りするまでには至らないのではないか。

  • 当該局の他番組で起きた問題を受けて作成された「取材・制作の確認シート」をこのコーナーでも導入の検討をしている段階だったというが、導入されていたら今回のことは起こらなかっただろうか。企業のサービスを紹介する際に利害関係者から利用者の紹介を受けることを当面禁止したり、取材協力者に対して利害関係者ではないかを確認するための「出演承諾書」を交わす措置を取るなど、一定の自主的・自律的な事後対応がなされ、今後徹底が図られることに期待したいが、利害関係の有無の確認の難しさが問われている。

  • 「取材・制作の確認シート」を導入して安心するのではなく、記者のスキルや見極める目を高めていくことが重要なのではないか。それは一朝一夕には難しいけれども、より本質的なところから対処してほしい。

以上

第33号

TBSテレビ 『消えた天才』映像早回しに関する意見

2020年2月13日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、2019年8月11日の放送で、野球のリトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回(2018年1月3日および11月4日)でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたと報告があった。2019年9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りし、議論を重ねてきた。
委員会は、「実際の映像」と言いながら、またはそう受け取れる状況で、映像の加工が繰り返された本件放送について、1993年に「NHK・民放 番組倫理委員会」が出した提言「放送番組の倫理の向上について」の「1 放送人としての心構え (2)事実に基づいた取材・制作を行う」や、日本民間放送連盟の放送基準「(32)ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づいて報道し、公正でなければならない」に抵触するため放送倫理違反があったと判断した。

2020年2月13日 第33号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

    • 1 卓球コーナー
    • 2 フィギュアスケート・コーナー
    • 3 サッカー・コーナー
    • 4 リトルリーグ・コーナー
  • III 委員会の調査pdf

    • 1 異例の“昇格”をした番組
    • 2 一連の早回し加工
      • (1) 卓球のラリー
      • (2) フィギュアスケートのスピン
      • (3) サッカーのドリブル
    • 3 新しい体制へ移行
    • 4 新体制下でも行われた早回し
    • 5 発覚の経緯と公表
  • IV 本件放送の背景と問題点pdf

    • 1 整っていなかった制作体制
    • 2 スピードを変える加工
    • 3 技術革新と心理的ハードルの低下
    • 4 チェックの仕組みの限界
  • V 委員会の判断pdf

  • VI おわりにpdf

2020年2月13日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年2月13日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、25社39人が出席した。
詳細はこちら。

2020年7月10日【委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第33号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年7月2日付で提出され、委員会はこれを了承した。

TBSテレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定についての報道
  • 2.委員会決定の社内周知
  • 3.BPO委員を招いて研修会を実施
  • 4.番組審議会への報告
  • 5.「放送と人権」特別委員会での議論
  • 6.再発防止への取り組み
  • 7.総括

2020年1月24日

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、1月24日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、中野剛委員、巻美矢紀委員の3人が出席し、関西テレビからは編成局担当の取締役ら3人が出席した。
まず神田委員長が、審議の対象とした番組には放送倫理違反があったという委員会の判断を説明したうえで、「現場の制作者の中に局の見解や本決定に納得できない人がいれば、局はそのような意見を受け止めながら、現場での理解を深めていっていただきたい」と、経営側として今後の適切な対応を求めた。中野委員も「経営陣によく読んでもらいたいというメッセージを込めて、局の事後対応の検証にも重点を置いた意見書にした。辛辣なトークを楽しみにしている視聴者もいるので、この意見書をいい番組作りにいかしてほしい」と、また巻委員は「一部の制作者の問題ではなく、会社全体のシステムを見直す好機ととらえて現場との対話を続けていってほしい」と述べた。
これに対して関西テレビは「問題が起きてから勉強会を積み重ねてきたが、現場には新しい人も入ってきているので、この意見書をしっかり読んで、視聴者の信頼を得られるようにしていきたい」と答えた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には、22社43人が出席した。
はじめに神田委員長が意見書のポイントを解説して、放送倫理違反があったという判断にいたった経緯を説明した。続けて「関西テレビの当初の見解とその後の見解との間には相違があり、局内に見解の変遷があったことを示している。だからこそ最終的に『放送倫理上の問題があった』という結論には重みがあり、その結論を社内で深めてほしい」とコメントした。中野委員は「ヒアリングをした複数の制作者が『ギリギリのラインを攻めることが視聴者から求められている』と話していたが、そうであれば、自分たちが自主自律的に作ったガイドラインを十分に理解している必要がある。2007年に発覚した『あるある大事典II』の問題を受けて関西テレビが自主的に作った『番組制作ガイドライン』や『倫理・行動憲章』の内容を、経営陣は改めて現場に指導してほしい」と経営に呼びかけた。その一方で「考査は最後の砦なので、各社の考査のあり方を今一度考えてほしい。さらに、疑問に思ったことを伝えあえる環境かどうか、各社の制作現場も考えてほしい」と、現場にも意見書の趣旨を踏まえるよう促した。また巻委員は「今回の問題については、関西テレビの中だけでなく放送界全体でもさまざまな意見があると思う」とヒアリングなどで受けた印象を受けて、「だからこそ今回の問題をきっかけに、公共性が高いと位置付けられているテレビの役割や使命、また各社が自主的に作っている放送基準の意義や具体化について、放送界全体で考えるきっかけにしてほしい」と、放送業界へのメッセージを述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 韓国の人を「手首切るブスみたいなもの」と揶揄的に言っていることが放送倫理違反なのか?
A: 一つ一つの表現がダメだというのではなく、発言全体の文脈の中で、国の外交姿勢の擬人化にとどまらず、広く韓国籍を有している人を侮辱していて、それが民放連の放送基準などに抵触していると判断した。(神田委員長)
   
Q: どういう表現をすればよかったのか?
A: ヒアリングの際に「カットすべきだった」と話す制作者はいたが、委員会として具体的にどうすべきであったとは言っていない。その方法にはいろいろな選択肢があったはずであり、局が自主自律的に考えるべきことであると考える。(神田委員長)
   
Q: 意見書を読むと、現場の制作者の中には局の見解に納得していない人がいるようだ。そういう人たちには、自己批評番組でコメンテーターが指摘した「作り手のエゴ」だという認識がないのではないか?
A: ヒアリングをした委員の実感としては、現場の制作者は悩んでいた。だから制作会社のスタッフは局のプロデューサーに「この表現が放送で使えるかどうか」を聞き、プロデューサーはさらに放送倫理担当者に聞いている。最終的には問題の表現を使うということになったが、使っていいのかどうか悩んでいたことがうかがえる。最終的なジャッジに問題があったと考える。(中野委員)
A: 局の見解と自分の考えの間に「溝」がある制作者がいることは事実だが、その「溝」を埋めるために、一人ひとりが考え続けてほしいという期待を込めている。(神田委員長)

以上

第32号

関西テレビ 『胸いっぱいサミット!』
収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見

2020年1月24日 放送局:関西テレビ

関西テレビが2019年4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について委員会は、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている日本民間放送連盟(民放連)放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議を続けてきた。
委員会が行ったヒアリングの中で、制作陣からは 刺激的な表現で「ギリギリのラインを攻める」ことが視聴者から期待されているという趣旨の声が複数聞かれた。これについて委員会は、「ギリギリのラインを攻める」ことの意味とその危うさに対して制作陣の意識は不十分であったと言わざるを得ず、「ギリギリのラインを攻める」番組を放送倫理の観点から客観的にジャッジすることができる体制とはいえなかったのでないかと分析した。そのうえで、民放連放送基準「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」や、当該放送局の放送倫理規範である「番組制作ガイドライン」の中の「すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗教、などによって差別を受けることは許されることではありません」という規定などに照らして、審議の対象とした2回の放送はいずれも放送倫理に違反するものだったと判断した。

2020年1月24日 第32号委員会決定

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目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

    • 1 4月6日放送回~戦犯ステッカー条例案をめぐる発言
    • 2 5月18日放送回~韓国国会議長の祝電問題をめぐる発言
  • III 本件各放送の制作過程pdf

    • 1 『胸いっぱいサミット!』の制作体制
    • 2 4月6日放送回の企画、収録に至るまで
    • 3 編集過程で何があったか
    • 4 5月18日放送回の制作・編集過程
  • IV 局の事後対応の経過pdf

    • 1 2回目の放送後からお詫びに至るまでの経緯
    • 2 番組審議会、オンブズ・カンテレ委員会の対応
      • (1)番組審議会の意見の内容と推移
      • (2)オンブズ・カンテレ委員会の提言
  • V 委員会の検証と分析pdf

    • 1 X氏の発言が編集でカットされなかった原因、背景
      • (1)「ギリギリのラインを攻める」ことの危うさが露呈した
      • (2)考査担当者の意見が尊重される制作環境だったか
  • VI 委員会の判断pdf

  • VII おわりにpdf

2020年1月24日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年1月24日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、22社43人が出席した。
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2020年5月15日【委員会決定に対する関西テレビの対応と取り組み】

委員会決定 第32号に対して、関西テレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2020年4月24日付で提出され、委員会はこれを了承した。

関西テレビの対応

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目 次

  • 1.委員会決定についての放送と社外通知
  • 2.委員会決定の社内通知について
  • 3.オンブズ・カンテレ委員会への報告について
  • 4.番組審議会への報告について
  • 5.再発防止、放送倫理意識向上への取り組みについて
  • 6.終わりに

第145回 放送倫理検証委員会

第145回–2020年1月

スポーツの映像を早回し加工したTBSテレビの『消えた天才』委員会決定を通知・公表へ

第145回放送倫理検証委員会は1月10日に開催された。 委員会が昨年10月7日に通知・公表した長野放送の『働き方改革から始まる未来』に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応を了承して公表することにした。 少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、担当委員から意見書の修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、2月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うことになった。 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。 仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の修正案が示された。 海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議しているTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』とついて、意見書の原案が提出された。 スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人だったという不適切な演出で審議入りしているテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、意見書の骨子案が示された。 番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、日本民間放送連盟(民放連)の放送基準等に照らして検証が必要だとして審議入りしている琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、ヒアリングの途中経過や今後の予定が報告された。

議事の詳細

日時
2020年1月10日(金)午後2時~午後7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見への対応報告を了承

委員会が10月7日に通知公表した、長野放送の『働き方改革から始まる未来』に関する意見(委員会決定第30号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。 報告書には、「『役員・社員に対する放送倫理・番組基準の徹底と意識改革』に関する取り組み」として、社内で意見書勉強会とアンケートを実施するとともに、民放連事務局から講師を招いて「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の理解を深めるために勉強会を開いたことなどが詳細に記されている。委員からは「社員のアンケート結果からは、一人一人がしっかりと事例を受け止めていることがわかる」「社員に加え、制作会社の関係者まで広く対象とし、また、社員等の主体性を生かす研修を実施するなど、自主・自律的な観点から望ましい事後対応を行っている」といった感想が述べられ、適切な対応が行われているとして、当該報告を了承して公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)

2. スポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議 2月に通知・公表へ

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、昨年8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたと報告があった。9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議することになり、議論を重ねてきた。 今回は、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、2月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

参議院選挙公示前日の昨年7月3日、北海道放送は夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した企画を放送した。企画の中ではその他の比例代表の候補者や政党にまったく言及しておらず、制度上、参議院比例代表選挙には北海道という区切りがないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できず、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして、委員会は9月から審議を続けている。 今回の委員会では、担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。 

4."レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは昨年5月、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと明らかにした。番組の制作担当者は、利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。 委員会は、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞いて放送に至った経緯を検証する必要があるとして、昨年9月に審議入りを決めた。 この日の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、それをもとに議論した。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。 

5. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは、昨年8月14日放送のバラエティー番組『クレイジージャーニー』の中で海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議することを決めた。 この日の委員会では、12月に行われた制作担当者らに対するヒアリングを踏まえて担当委員から意見書の原案が示され、意見交換が行われた。次回委員会には、この日の議論を受けた意見書の修正案が提出される予定である。

6. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は昨年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」でスーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったことがわかったとして、10月に謝罪した。 11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議することになり、12月に当該放送局の番組制作担当者らに対するヒアリングを行った。 これを踏まえて今回の委員会には意見書の骨子案が提出され、意見交換が行われた。次回委員会には議論を受けた原案が示される予定である。

7. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議

琉球朝日放送が昨年9月21日に放送した『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と、北日本放送が10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっていて、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかという意見が相次ぎ、12月から審議を続けている。委員会は、昨年10月に別の放送局の番組に対して出した意見書の審議の過程や結果が、それぞれの番組の制作過程にどのように反映されたのについても詳しく聞く必要があるとしてヒアリングを始めていて、この日の委員会ではその途中経過が報告されるとともに、今後の予定が説明された。 次回委員会には、意見書の構成案が提出される予定である。

以上

2019年12月10日

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、12月10日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、長嶋甲兵委員の4人が出席し、読売テレビからは常務取締役(コンプライアンス、技術担当、社長担当補佐)ら3人が出席した。
委員会決定について升味委員長代行は、「プライバシーの観点から、取材でここまで踏み込まずにどこかで止まって欲しかった」と述べた。岸本委員は、「本件は多くの放送局にとって共通の課題だと思うが、放送後の対応には目を見張るものがあった」と述べ、また長嶋委員は、「報道と情報バラエティの境がなくなりつつある中で、良識のようなものが混乱している」と発言した。最後に神田委員長から、「意見書の冒頭に番組内で叱責した出演者の発言をあげたが、その内容には大変重いものがあり、その後の自主・自律的な対応につながったと言えよう。意見書だけではなく、その言葉を、今後の教訓として自局内で問い続けていってほしい」とコメントした。これに対して読売テレビは、「意見を真摯に受け止め、今後の番組作りに生かしていく。放送後、番組制作体制の強化とともに全社的な研修会を開催して人権意識の向上に取り組んでおり、今後も再発防止と信頼回復に努めていく」と述べた。
続いて、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社44人が出席した。
はじめに神田委員長が、「問題の放送は、特に性的少数者の人権や当事者の社会的困難への配慮が課題として議論されている時代に、もっとも感性が鋭敏であるべき放送が、著しく配慮を欠くやり取りを放送した点で看過できない問題があり、民放連の放送基準(3)に反し、放送倫理基本綱領や民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って説明を加えた。続いて升味委員長代行が、「報道番組で培ってきた人権意識や裏取りの意識を貫いて、情報バラエティの番組作りにも生かしてもらいたい。また研修や日々の現場でお互いに意見を言い合うことなどを積み重ねて、人権への関心を高めてほしい」と感想を述べた。岸本委員は、「企画を成立させる、誰かがチェックしている、といった基準ではなく、多様性の時代の社会生活における普通の感性で取材や制作をすることが課題である」と述べ、長嶋委員は、「街ブラ企画には問題を生む土壌があるなと気になった。違和感を共有する場がなかった点も踏まえて、新たなワークフローの形を考える必要があるのではないか」と述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 特に性的少数者の人権などが議論されている時代、と委員会の判断にあるが、放送倫理違反があったとする今回の意見に時代背景が影響したとの認識でよいか。
A: プライバシーに関しては、性的少数者の当事者だけではなく、その背後にいて告白できない人たちも含めて守っていかねばならない時代であり、それを前提にして放送基準を理解しないといけなく、その解釈の中に時代は影響してくる。(升味委員長代行)
   
Q: この放送に関わってヒアリングの対象となった13人のうちで、女性は何人いたのか。
A: 2人。役職者ではない。(升味委員長代行)
   
Q: 感度の高いアンテナを張るよう期待するとあるが、その反面で気にし過ぎて萎縮して自由な表現ができなくならないか。そのバランスに関してはどう考えるか。
A: 出演者に言われてその重大性に気付いたが、出演者に言われるまで気が付かなかった、そのギャップの大きさの理由を知りたかったが、必ずしも明らかにならなかった。そこで、今後、感度の高いアンテナを張る必要性に触れたが、今回の事案や意見書の内容が今後の番組制作を萎縮させるようなものだとは考えていない。むしろ、放送に至るまでの間に、放送倫理に照らして議論をすることが必要であったと思う。(神田委員長)
  萎縮というのは、どこに触れたらいけないのかがわからない時に起こるものであり、研修などで知見を広めることによって、伸び伸びと制作することができるのだと思う。(岸本委員)
  気付いている人もいたが共有する場がなかったり、判断するのが1人の統括プロデューサーに任されていたりした点は、違和感や問題意識を丁寧に拾い上げるようなシステムではなかったということで問題である。(長嶋委員)
  自分が知るということがまずは大事だが、自分の関心事だけではなく現場の色んな人と意見交換をする場を持ち、別の見方があることを指摘され、それで知識が広がっていくと思う。(升味委員長代行)
   
Q: 意見書を読むと違和感を持った人もいたようだが、声を上げられなかったのは、仕事に追われていたとか放送時間が迫っていたとか、気持ちの面での弱さのようなものがあったのかどうか、ヒアリングで聞く機会はあったのか。
A: 元々ダブルチェック体制だったが1人の統括プロデューサーに任され、彼がコンプライアンス意識も高く上司や部下からの信頼も厚くて、何となくスルーしてしまった感じである。(長嶋委員)
  時間に追われているというようなことはなかった。前提として2部は問題が起こるようなことはないという油断があった。そして制作の過程で違和感を感じたスタッフもそれを共有し反映する場がなかったことがあげられる。(升味委員長代行)
   
Q: チーフプロデューサー(CP)と統括プロデューサー(統括P)について、CPは役職名で何人かいるプロデューサーの中から任命されていると思うが、統括Pもそのような認識でいいのか、それとも何人かを束ねる立場なのか。また、生放送時に対応すべきは統括Pであると定められているのか。
A: 番組には統括Pが2人いて、1部と2部それぞれを統括している。放送中に対応するのは統括Pである。(升味委員長代行)
   
Q: 放送を見ていないので教えてもらいたい。性別を表明していない客にどう接したらいいか悩むご主人というテーマで、興味本位だけの企画ではないと思っていたのだが、現実的にはどんな内容・コンセプトだったのか。
A: お好み焼き屋の店前をよく通る犬を連れた人が、男か女かわからないというお店の女性の悩みに対してお笑い芸人が応えるという内容。(長嶋委員)
(*回答を聞いて、質問者が勘違いしていたとの返事あり)
   
Q: もし同じ内容の企画がバラエティ番組で深夜の放送だとして審議されたら、同じ見解になるのか。
A: 私たちが解答を述べることは控えるべきであり、まさに放送局がその番組がどのような内容であるかを踏まえて自主的・自律的に判断してほしい。(神田委員長)

以上

第144回 放送倫理検証委員会

第144回–2019年12月

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』委員会決定を通知公表へ

第144回放送倫理検証委員会は12月13日に開催され、12月10日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、1月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換を行った。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の原案が示された。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議入りしたTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
スーパーの買い物客に密着する企画で、登場した主要な客4人がディレクターの知人だったことが明らかとなり放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議中のテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
琉球朝日放送が9月に放送した『島に"セブン-イレブン"がやって来た』と北日本放送が10月に放送した『人生100年時代を楽しもう!』という2つのローカル単発番組について討議を行い、日本民間放送連盟放送基準(以下「民放連放送基準」という)等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかといった意見が多く、また、同じテーマで意見書を公表した委員会決定第30号の審議の経過や結果を両放送局がどのように受け止めていたのかなどについて検証が必要であるとして、テーマが共通していることに鑑み2番組を1件としたうえで、審議入りすることを決めた。
トランスジェンダーの方について不適切な放送を行ったという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、委員の中から厳しい意見が出されるなど、放送倫理に照らして問題がある放送であるところ、当該放送局の報告書に記載されている取材対象者本人の心情などへの配慮等も含め、総合的に判断して、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載することとした上で、今回で討議を終え、審議の対象とはしないこととした。

議事の詳細

日時
2019年12月13日(金)午後3時~午後8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、藤田委員、巻委員

1. 読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見を通知・公表

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見(委員会決定第31号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が12月10日に行われた。
読売テレビは、5月10日夕方のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、本件放送には、民放連放送基準の「(3)個人情報の取り扱いには十分注意し、プライバシーを侵すような取り扱いはしない」に反し、「適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛ける」よう求める放送倫理基本綱領および「人権の尊重」と「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない」と求める民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した。
今回の委員会では、委員会決定を伝えた読売テレビのニュースを視聴し、委員長や担当委員から、会見での質疑応答などが報告された。

2. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』の審議 1月に通知・公表へ

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議に入った。
今回は、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、次回の委員会で最終確認し、1月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換が行われた。次回委員会には、今回の議論を受けた意見書の修正案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の修正案が示される予定である。

5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、番組関係者へのヒアリングが11月半ばに完了したことが報告され、担当委員が意見書の原案を示し、これを基に意見交換を行い、次回の委員会に向け修正案を準備することになった。

6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
前回の委員会では、当該放送局から提出された報告書や同録DVD、新たに提出されたメキシコの現地協力者などへの調査結果をまとめた追加報告書などを基に討議を行った。その結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。

7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。前回の委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に意見交換が行われ、その結果、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。

8. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議入り

琉球朝日放送は9月21日に『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』という55分のローカル単発番組を放送した。この番組を見た視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられたため、委員会はDVDと報告書の提出を求めて視聴した。番組は、あるコンビニエンスストアが沖縄に初めて出店する様子を描いたもので、開店の準備の様子や地元の反応に加え、独自の食品について紹介したあとで、スタジオで司会者が試食し、味を称賛している。番組は、このコンビニエンスストアを経営する企業の提供だった。
また北日本放送は10月13日、『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という15分のローカル単発番組を放送した。視聴者からの同じ趣旨の意見を受けて委員会が確認したところ、高齢化時代の資産形成に触れながら、番組の多くの時間を使って富山市に本社がある投資信託相談を手がける会社の事業を紹介していた。番組の直前にはこの会社が開くセミナーのCMも放送された。
委員会はいずれの番組についても討議を行い、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないか、また、前者は番組内で試食して味を褒め、また後者も番組の直前にセミナーのCMが放送されて、視聴者にとっては広告か番組か識別できないのではないかなど、放送に至った経緯について検証が必要だという意見が相次いだ。また、別の放送局の番組に対して委員会が10月に出した意見書の審議の過程や結果が、それぞれの番組の制作過程にどのように反映されたのか詳しく聞く必要があるとして、テーマが共通しているこの2番組を1件とし、審議入りすることを決めた。今後は、琉球朝日放送と北日本放送の社員らに対するヒアリングなどを行って、審議を進める。

9. トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』を討議

テレビ山口が11月9日に放送した『週刊ちぐまや家族』について、トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという記事が新聞に載った。このため委員会は、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。
番組は、毎週土曜日の午前中に放送される58分のローカル情報番組。山口県内の各地域のさまざまな話題を紹介するコーナーで、1分30秒の間、駐車場で車の下に入ってオイル交換をしている人を紹介した。この際、リポーターが、視聴者にオイル交換をしている人が女性であることを示唆しながら、CMを挟んだあと、別のインタビューを受けた本人をよく知る男性の発言を受けて、画面には「珍 女性のような男性」と表示した。
放送後、本人が不本意なテロップ等とSNSでテレビ山口に抗議した。テレビ山口は、新聞報道の後、自社のホームページに「不適切な放送をしてしまいました」とお詫びを載せ、本人に会って謝罪した。またLGBT問題に詳しい弁護士などに委員になってもらい、社内に再発防止策を取りまとめる番組検証委員会を設けたという。
12月の放送倫理検証委員会では、第31号事案を踏まえると、取材の執拗さ等において相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人に対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容である、本人が受けたダメージは計り知れないほど大きいといった厳しい意見が相次いだ。他方で、当該放送局の報告書に記載された本人の心情などへの配慮が必要である、新聞報道後であるという誹りは免れないものの、当該放送局が一定の自主的・自律的な取り組みを行っていることは考慮する必要があるなど、さまざまな意見が出された。
以上の点を慎重に議論、検討した結果、委員会としては、放送倫理に照らして問題がある放送であるが、本人の心情などへの配慮も含め、総合的に判断して、当該局に対して注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載したうえで、今回で討議を終えることとし、審議入りしないことを決めた。

  • 委員会決定第31号事案を踏まえると、取材の執拗さにおいて相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人のプライバシーに対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容であり、放送倫理に照らして問題があると言わざるを得ない。

  • 本人が受けたダメージは計り知れないほど大きく、その点では審議入りも考えられる。

  • 本件において、担当ディレクターが、審議中である第31号事案のことを意識していなかったということは極めて遺憾である。

  • 放送倫理上問題がある放送であるとしても、報告書に記載されているご本人の心情への配慮が必要である。

  • 新聞報道後であるという誹りは免れないものの、自主的・自律的な取り組みを行っていることについては一定の評価をしてもよいのではないか。

以上

2019年12月13日

琉球朝日放送『島に"セブン-イレブン"がやって来た』・北日本放送『人生100年時代を楽しもう!』審議入り

放送倫理検証委員会は12月13日、琉球朝日放送の『島に"セブン-イレブン"がやって来た~沖縄進出の軌跡と挑戦~』と北日本放送の『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』について、審議入りすることを決めた。
前者は、9月21日に沖縄県内で放送された55分の単発番組で、コンビニエンスストアのセブン-イレブンが沖縄に初めての店舗を開店させる日に合わせて、コンビニ側や県内の受け止め方などを紹介している。また後者は10月13日に富山県内で放送された15分の単発番組で、高齢化社会になり自分に合った資金形成が必要だとして、投資信託相談を手がける株式会社の様子を描いている。いずれも、視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という意見が寄せられ、委員会ではそれぞれの番組制作の経緯を知る必要があるとして、報告書と同録DVDの提出を求め討議した。その結果、委員から、「番組ではなくCMではないか」「民放連の放送基準に反しているのではないか」などの意見が出されたほか、やはり放送と広告との関係をめぐって10月に意見書を公表した委員会決定第30号の審議の経過や結果について、番組制作の過程でどのように反映させたのか聞く必要があるとして、この2つの番組を審議の対象として検証することを決めた。
審議入りについて神田安積委員長は、「広告放送と誤解されかねない番組だという疑いがあり、ともに自社制作の番組で、テーマが共通しているので1件2番組として審議していきます」と述べた。委員会は今後、2つの番組の制作に携わった関係者などからヒアリングをして審議を進める。

2019年11月21日

富山地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と富山県のテレビ・ラジオ局5社との意見交換会が、2019年11月21日、富山市内で開かれた。放送局出席者は5社24人、委員会からは鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員、中野剛委員の3人が出席した。放送倫理検証委員会が富山で意見交換会を開くのは初めて。

意見交換会は2部構成で行われ、1部では放送倫理検証委員会が今年度に公表した2つの意見書を取り上げた。まず7月に公表した委員会決定第29号「日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの祭り企画に関する意見」について、中野委員が、「バラエティーなのだから笑いをつかむ場面を仕込むことはあるだろうが、仕込むからにはその過程を把握しておいてほしい」と、海外ロケであっても現地コーディネーターがどのような準備をしているか、制作者が理解して演出を施すことが必要だと話した。岸本委員は、意見書に書いた制作者と視聴者との了解について、「長寿番組であればあるほど、『マニュアルは日々腐る』と考えて、視聴者との了解の範囲を常に探ってほしい。今回は、仕込んだ祭りであるのに『年に一度の祭り』と紹介するなど、番組作りがルーティン化する中で制作者が怠慢になっていたのではないか」と指摘した。参加者からは「バラエティー番組の演出はどこまで許されるのか」という質問があり、鈴木委員長代行は「その基準を作るのはBPOではなく、制作者であるみなさんです」と答えた。

続いて10月に公表した委員会決定第30号「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」にテーマを移した。まず鈴木委員長代行が、視聴者からBPOに寄せられた1通のメールがきっかけで審議を始め意見書につながったもので、放送倫理検証委員会が広告と番組のあり方について取り上げたのは初めて、また持ち込み番組の考査については2件目だと、意見書の特徴を説明した。その上で「広告収入で成り立つ民放では、番組と広告が分かれているから視聴者の信頼につながっているのであり、この区別がはっきりしないと信頼を揺るがしかねない」と意見書に込めた思いを述べた。参加者からは、経営に直結する問題で、どうすればよかったのかといった質問が相次ぎ、鈴木委員長代行は2017年に日本民間放送連盟が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に触れながら、「この留意事項に書かれている『特定の企業・団体などから番組制作上、特別な協力を受けた場合には、その旨を番組内で明らかにしているか』という点を忘れないでほしい」と答えた。

続く2部は、参加各社が日頃直面している課題などについて意見を交わした。この中では事件や事故の報道で、関係者の氏名を実名で放送するか匿名にするかで迷った例や、教員の不祥事の際、学校名を出さないでほしいと言われた例などが紹介された。委員会側は、実名報道を原則にしながら、個々の事例に適した放送を各社が判断して放送することが大切だと指摘した。また情報番組の中で過疎地域を「人よりイノシシの方が多い村」と表現することの是非について問われたのに対して、中野委員は、視聴者意見も大切にしながら、第三者的視点で表現が適切か否かチェックすることが必要だと答えた。岸本委員は、1つのシーンを切り取って判断することは適当ではなく、番組全体としての視点が差別的でないか、また画面に表示される文字がビジュアル的におどろおどろしくないかなど、総合的に考えるべきだと述べた。

さらに参加各局から、働き方改革の中で若手の育成に工夫している例などが紹介された。意見交換会を通して中野委員は「きょうはこちらの意見を伝えられ、またみなさんの実情も聞けて良かった。テレビ・ラジオでしかできない放送があるので、ぜひ若手を育てて、心揺さぶられる番組を作ってほしい」と、また岸本委員は「放送倫理上どこまでが許されてどこからがダメなのかという『線』をみなさんが求めているのであれば、それは違う。きょうはこちらからの投げかけが多かったが、委員会が出す意見書を良く読んで、みなさんでぜひ工夫してほしい」と呼びかけた。鈴木委員長代行は「各社がこれまで放送した番組のライブラリーは『宝の山』なので、そうした優れた番組を若手に見せて育成してほしい」と締めくくった。

最後に、参加局を代表して北日本放送の水野清常務取締役が「重いテーマだったが、放送への信頼は視聴者との約束があって初めて成り立つと再認識できた。若手社員から『マニュアル』はありますかと聞かれることが多いが、やり方を自分で工夫することが大切で、それが放送の自由を守ることにつながると教えていきたい」と述べ、3時間を超える会議を終えた。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 今回の意見交換会で印象に残ったのは「了解」という言葉だった。視聴者と「了解」したと思っている件が、放送局側の勝手な「了解」になっていないか、チェック体制を整えておかなければならないと思った。

  • 放送と広告の関係という民放の課題を、各社も悩んでいると感じた。正直に視聴者と向き合い、「了解」事項を確認しながら制作していくことの大切さを実感した。

  • 各社が抱える課題についての議論では、どこまでが良くて、どこからが違反なのかについて、明確な基準や線引き、マニュアルは無く、それぞれの事案によって判断されるということが分かった。局側からすると判断基準が欲しくなるが、そんな単純なものではないと理解できた。

  • 放送局みずからが番組向上のために自主的な取り組みを行うことが重要で、BPOはその意見を聞く第三者機関だということが改めて理解できた。やはり基本は、局の自主・自律で、常にメディアとして感性と理性を研ぎ澄ませていく必要があると感じた。

以上

2019年10月24日

福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局との意見交換会が、2019年10月24日、福岡市で開催された。NHKと民放をあわせ放送局から80人が参加し、委員会からは神田安積委員長、高田昌幸委員、藤田真文委員の3人が出席した。
前半は、最近の委員会決定のうち、日本テレビ「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」および長野放送「働き方改革から始まる未来に関する意見」についての説明と質疑応答、後半は今年7月に福岡県内で起きた殺人事件の報道を主な議題として意見交換を行った。

まず「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」について、神田委員長は「視聴者との間で互いに了解している約束に反したことが放送倫理違反であると判断した」と述べ、「この『約束』は現地のコーディネーターが主導したものであって、放送局はその点についての確認が不十分だった。このため『程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるを得ない』との表現になった」と背景を説明した。藤田委員は「『民放連放送基準』には、ニュースについて『事実に基づいて報道する』という基準がある。これはニュースだけでなく、情報を伝える番組の責務だ。わかりやすく伝える必要はあるが、最低限の事実は曲げてはいけないということであり、その点が放送基準に違反していると判断した」と指摘した。神田委員長は「放送倫理違反が生じた原因を追究し、確認することが再発防止につながる。自局のこととして受け止め、自主・自律的な対応ができるよう意見書を生かしてもらいたい」と述べた。

次に「働き方改革から始まる未来に関する意見」について、神田委員長より、委員会がこの番組を「広告と誤解される番組」と認定した理由についての説明があった。委員長は「持ち込み番組における考査が不十分であり、民放連の『番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項』が検討されなかったことなどの問題点が調査で浮かび上がった」と指摘した。その上で「放送基準の解釈や運用はBPOが決めるのではなく、また、意見書が出たからといって萎縮する必要はなく、むしろ『留意事項』を十分に検討し、自主的自律的に、広告と誤解されることがないよう番組を作っていただきたい」と強調した。
高田委員は「番組と広告の境目がどこにあるかということは、それぞれの番組をみて判断するしかない。公共性や視聴者にとって有益な情報となっているかという公益性に基づき、留意事項を参照して作られるべきだ」と述べた。
これに対し参加者からは「テレビの中でも営業に携わる人たちが、常々、放送法や放送基準、関連する規則などを強く意識しているかは疑問だ。考査担当者としては、それらに定められていることを守っていかないと最終的には政府に介入されることになるといっても、どこまで浸透するかは疑問だ。ただ現実は現実として、規則との折り合いをつけてぎりぎりの選択をせざるを得ない」との苦悩が表明された。これに対し神田委員長は「放送基準は抽象的であり、その解釈には幅があるが、放送事業者が自主・自律的に判断しているのであれば、私たちはできる限り尊重したい。今回の番組では、自主・自律的な判断に基づく考査がなされていなかった。番組が広告放送と誤解されることがあれば、自社だけではなく、民放全体の信頼にかかわると考えて向き合っていただきたい」と述べた。また高田委員は「制作と営業それぞれの担当者間で、本当にこれでよいのかという議論がきわめて重要だ。視聴者の信頼に応える番組を作るための社内議論ができにくいと感じるなら、議論を誘発するような仕組みを作ることが必要だ」と述べ、担当者だけでなく組織としての対応を促した。一方参加者からは「留意事項の3点以外にも注意すべき点はあるか」との質問があったが、神田委員長は「民放連が特に例示している3点はあくまで例示にとどまり、その他の点も含め、総合的に判断されるものである。他にどのような点に注意すべきかという点については、留意事項に特に例示されていない以上、当委員会が明示することは控えるべきであり、当該放送局にて自主・自律的に検討されることが望ましい」と述べた。

後半では、7月に福岡県内で起きた女性殺害事件に関する意見交換が行われた。まず放送局側から、事件の進展や被害者遺族の意向などによって、実名を匿名に切り替えたり、容疑内容の詳細な描写を控えたりするなど、時期や社によって異なった報道が行われたことが報告された。これに対し高田委員は「被害者にも加害者にも人権がある。実名・匿名は個々のケースで判断するしかないが、実名で報道することのみが原則なのではなく、実名を警察に出させて把握し、実名で取材することが原則だ。実名の報道にのみ価値があるわけではない。実名で何を伝えるのか、事件を通じて何を伝えるかが最も重要だ」と述べた。神田委員長は「実名も顔写真も、誤報でない限り、事実を報道するという点で放送倫理には抵触しないが、その場合であっても視聴者や社会に対し、報道をするに至ったプロセスや配慮などについて説明する責任が求められる時代になっている。責任を果たすために重要なのはそれぞれの社の自主・自律的な判断の過程だ。その過程なくして実名や顔写真の報道がなされなくなれば、報道機関に対する批判はなくなるかもしれないが社会の信頼も失われる」と述べた。参加者からは「実名・匿名では毎日悩んでいる。人権に配慮している間にネットには実名が出る。答えはなく個々に判断するしかない」という戸惑いや、「昔と違い、原則実名ということに社会の厳しい視線が注がれ、メディアスクラムも問題になる。世の中の変化にメディアが合わせることが必要かもしれない。若い記者たちに実名・匿名の意味を伝える一方、長年続いてきたメディアの考え方を変えていく柔軟性も必要だ」など、社会の受け止め方の変化やノウハウの継承についての悩みの声が聞かれた。

最後に、福岡放送の五島建次取締役報道局長が「同じ仕事に携わっていても日頃なかなか議論の機会がない各局や委員の意見を聞くことができ、心強く思った。現場は常に悩みながら放送に取り組んでいるが、今日の議論を踏まえ、明日からもさらにがんばっていきたい」と述べ、意見交換会を終了した。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

(議題について)

  • 全国的にも注目される事例を知ることができて有意義だった。委員から問題点への意見や提言、放送局へのエールなども聞くことができ、BPOが身近になった。

  • 放送と企業広告の線引き、具体的方法論について学べたことは大きな収穫だった。

  • 委員会決定までの背景や理由などが詳しく聞けたことにより、BPOの問題意識がわかり今後の参考になった。取り上げた番組の内容が事前にわかっていれば、より理解が深まったと思う。

  • 事件報道は各社が共通に悩みを抱えているテーマだったのでよかった。一方で、BPOの視点からリスクに陥りがちなテーマ(SNSなど)も幅広く議論してもよかったのではないか。

  • 放送倫理について、自分自身が考える超えてはいけないラインとBPOが持つラインに大きな違いがないことを再認識できた。今後番組を作る上で及び腰ではなく、もっと攻めた面白い企画を作りたいという思いを抱けるようになった。

  • (BPOは)放送局の自主自立を尊重する姿勢であると感じた。委員から直に話を聞けたので、委員会決定の行間を埋めることができたように思う。ただ実際の業務に関しては、委員会決定だけでは、営業への対応が難しい部分は残ると思った。

  • 福岡では各局が一堂に会して意見交換する機会があまりないため、貴重な機会となった。現在の日本のメディアは横の連携が弱く、これまで政府などからの圧力があった際に連帯して対応してこなかった。今後BPOが放送局どうしをつなぐ役割をできるならば、今後の日本のメディア環境にとって非常に意味があると思う。

  • BPOは、私たちからすると、できればかかわることのないほうが健全だとのイメージが強いが、実際話してみると思ったより緊張関係はなく、こちらの事情も理解していることがわかり、こうした機会を今後も設けてほしいと思った。

  • (BPOが)第三者機関としての役割ということであれば、変化していく視聴者の「テレビをどう見ているのか」という感覚値を、もっと各局と共有してほしい。

  • テレビ・ラジオの多くのメディア関係者が参加していたので、各社が発言する時間を確保し、もっとさまざまな意見を聞きたかった。

  • 放送現場と日常的に意見交換する場をもっと増やしてもらいたい。

以上

第31号

読売テレビ 『かんさい情報ネットten.』
「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見

2019年12月10日 放送局:読売テレビ

読売テレビが2019年5月10日に放送した夕方のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特にほかの出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会で、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、本件放送には、民放連放送基準の「(3)個人情報の取り扱いには十分注意し、プライバシーを侵すような取り扱いはしない」に反し、「適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛ける」よう求める放送倫理基本綱領および「人権の尊重」と「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない」と求める民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した。

2019年12月10日 第31号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf

  • II 審議の対象とした番組pdf

  • III 委員会の検証pdf

    • 1 報道局制作のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』

    • 2 『ten.』の制作体制~2つのテイスト・2つの手法

    • 3 第2部の企画コーナー「迷ってナンボ!」

    • 4 「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」の企画から放送まで

      • (1) 企画・ロケ~撮影3時間の短期決戦
      • (2) 編集~分業とチェック体制
      • (3) 放送~凍りついたスタジオと司令塔の不在
    • 5 放送後の迅速な対応と検証・再発防止策の徹底

  • IV 委員会の考察pdf

    • 1 なぜ、ロケの時点で問題を感じなかったのか

    • 2 なぜ、編集の過程で問題が指摘されなかったのか

      • (1) 編集作業が細分され分業が進み、意見交換し違和感を共有する場がない
      • (2) 複数の目によるチェック体制が崩壊していた
    • 3 なぜ、多くのスタッフが問題を感じなかったのか

  • V 委員会の判断pdf

  • VI おわりに~10年目の「痛恨」pdf

2019年12月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年12月10日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2020年3月13日【委員会決定を受けての読売テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2019年12月10日)を受けて、当該の読売テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
3月13日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

読売テレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定についての報道
  • 2.委員会決定の社内周知について
  • 3.番組審議会への報告について
  • 4.再発防止にかかる取り組みについて
  • 5.BPO委員を招いての勉強会について
  • 6.ヒアリング対象者の意識の変化について
  • 7.全社的な意識の変化について
  • 8.終わりに

第143回 放送倫理検証委員会

第143回–2019年11月

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』委員会決定を通知・公表へ

第143回放送倫理検証委員会は11月8日に開催された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の修正案が示された。次回委員会には意見書の再修正案が提出される予定である。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、12月上旬に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、事前に準備した動物をその場で発見し捕獲したように見せる演出を行ったTBSテレビの『クレイジージャーニー』について、当該放送局から追加の報告書が提出され討議した結果、番組内容が民放連放送基準に抵触している疑いがあるとして審議入りすることを決めた。
スーパーマーケットの買い物客に密着する企画で、ディレクターの知人を客として登場させた内容を放送したテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、当該局から提出された同録DVDや報告書などを基に討議した。その結果、番組内容が放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議入りすることを決めた。

1. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月になって、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、それを基に意見交換した。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』の審議 12月上旬、通知公表へ

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りした。
今回は、前回の意見書の原案に対する議論を受けて担当委員から示された再修正案の内容について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、12月上旬に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うこととなった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には、意見書の原案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。

5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。
9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、担当委員から、番組関係者に対して行ったヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には意見書の原案が提出される予定である。

6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』審議入り

TBSテレビは、2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、制作スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
当該放送局の報告書によれば、専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後、外部からの指摘を受け社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことがわかったという。また過去10回の「爬虫類ハンター」企画を調べた結果、計7回、11種類の生物が、事前に用意されたものであることがわかったという。
委員会は10月、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議し、委員からは「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがある」「事実を伝えていないという点で視聴者との約束に反している」など放送倫理違反の疑いがあるとの意見が出されたが、当該放送局によるメキシコなど現地協力者への調査が継続中であることから、討議を継続していた。
今回、当該放送局から調査結果をまとめた追加報告書が新たに提出され、これらを基に委員会で討議した結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあることを踏まえ審議入りを決めた。

7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』審議入り

テレビ朝日は今年3月15日、報道番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーマーケットの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
当該放送局から提出された報告書によると、当該企画は、業務用の食品などを扱うスーパーを紹介し、個人で利用する客の事情など生活の様子を描くもので、当該放送局の関連会社に派遣されたディレクターが単独でロケ取材を行っていたという。企画の主要なエピソードの中心人物である4人はこのディレクターの知人で、事前にロケのスケジュールなどを伝えていた。
委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議として意見交換が行われ、委員からは「利害関係者を番組企画に登場させるなど、過失ではなく故意に行われた事案である可能性が大きく、放送倫理違反の疑いがある」などの意見が出され、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして、審議入りを決めた。

以上