第298回放送と人権等権利に関する委員会

第298回 – 2021年11月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2021年11月16日(火)午後4時~午後7時30分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、
野村委員、丹羽委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
委員会は、前回委員会の審理をもとに修正した決定文の修正案が起草委員から示され議論を行った。その結果、概ね審理が尽くされ、次回委員会で最終決定に向けて議論することを確認した。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

第297回放送と人権等権利に関する委員会

第297回 – 2021年10月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2021年10月19日(火)午後4時~午後7時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、前回委員会での申立人・被申立人双方からのヒアリングやその後の審理を受けて、起草委員から決定文案が示された。委員の間で議論が行われたが、特に「金銭的なトラブル」という表現の評価について、各委員から意見が出された。その結果、委員会は、決定文の原案に修正を加えるとともに、決定内容について次回委員会でさらに議論することとした。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

第296回放送と人権等権利に関する委員会

第296回 – 2021年9月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリングを実施…など

議事の詳細

日時
2021年9月21日(火)午後3時~午後7時20分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリング及び審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、申立人・被申立人双方からのヒアリングを実施した。特に「金銭的なトラブル」という表現について、両者の意見を聞いた。その後、審理に移り決定の方向性について意見を交わし、その議論を基に担当委員が起草に入ることを決めた。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況を報告した。

以上

第295回放送と人権等権利に関する委員会

第295回 – 2021年8月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリング実施を決定…など

議事の詳細

日時
2021年8月17日(火)午後4時~午後5時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、双方から所定の書面すべてが提出されたのを受けて、論点を整理し、ヒアリングのための質問項目を絞り込み、次回委員会でヒアリングすることを決めた。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況を報告した。

以上

第294回放送と人権等権利に関する委員会

第294回 – 2021年7月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」に対するフジテレビの対応と取り組みを了承…など

議事の詳細

日時
2021年7月20日(火)午後4時~午後5時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、双方から提出された書面がすべては整わず、現時点での意見交換を行った。

2. 「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」フジテレビの対応と取り組み

今年3月30日に通知公表を行った委員会決定第76号「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」について、当該放送局のフジテレビから「対応と取り組み」をまとめた報告書を受領し、委員会での検討の結果、了承した。委員からは、「特に出演者や制作スタッフを守るための専門家の導入を期待したい」との意見があった。
フジテレビの対応報告は、こちら(PDFファイル)。

以上

第293回放送と人権等権利に関する委員会

第293回 – 2021年6月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定…など

議事の詳細

日時
2021年6月15日(火)午後4時~午後6時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 審理要請案件「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
ニュースでは、この火災について、被害者の服からガソリンの成分が検出されたことや、容疑者の自宅や車などの捜索から被害者の父親名義の銀行通帳が見つかり、口座から現金が引き出されていたことを報じた上で、「こうした状況から警察では2人の間に何らかの金銭トラブルがあり、容疑者(実名)がガソリンをまいて火をつけ被害者(実名)を殺害した疑いが強まったとして、殺人や放火などの疑いで容疑者死亡のまま書類送検する方針です」と締めくくった。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「亡くなった兄にも何らかの原因があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

2. 最新申立て状況報告

事務局から最新の申立て状況について報告した。

以上

2021年6月15日

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定

 BPO放送人権委員会は、6月15日の第293回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

 NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
 ニュースでは、この火災について、被害者の服からガソリンの成分が検出されたことや、容疑者の自宅や車などの捜索から被害者の父親名義の銀行通帳が見つかり、口座から現金が引き出されていたことを報じた上で、「こうした状況から警察では2人の間に何らかの金銭トラブルがあり、容疑者(実名)がガソリンをまいて火をつけ被害者(実名)を殺害した疑いが強まったとして、殺人や放火などの疑いで容疑者死亡のまま書類送検する方針です」と締めくくった。
 この放送に対して申立人が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「亡くなった兄にも何らかの原因があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
 これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。

 15日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第292回放送と人権等権利に関する委員会

第292回 – 2021年5月

「判断のグラデーション」表記について…など

議事の詳細

日時
2021年5月18日(火)午後4時~午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1.「判断のグラデーション」の表記について

2021年3月30日に通知公表を行った「委員会決定第76号 リアリティ番組出演者遺族からの申立て」の報道において、今回の委員会決定を「3番目に重い」と表現する新聞記事があった。今回は、「2番目に重い」判断であるが、「判断のグラデーション」では上から3番目に記載されていたことが上記の記事の記載につながったと考えられることから、表記の見直しを行った。
議論の結果、「人権侵害」と「放送倫理上重大な問題あり」を従来は縦列に表記していたが、横列で表記することになった。(下記参照)なお、「判断のグラデーション」の内容自体に変更はない。

委員会決定における判断のグラデーション

勧 告

人権侵害

  • 名誉毀損
  • プライバシー侵害
  • 肖像権侵害 等

放送倫理上重大な問題あり

見 解 放送倫理上問題あり
見 解 要望
問題なし

 

2.  事例研究

2021年度2回目の委員会である今回の委員会では、新任委員が委員会での議論の流れや判断基準を理解できるように、直近の委員会決定4件について担当起草委員がポイントを解説し、状況の共有に努めた。

以上

第291回放送と人権等権利に関する委員会

第291回 – 2021年4月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表報告…など

議事の詳細

日時
2021年4月20日(火)午後4時~5時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、國森委員、斉藤委員、丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 委員長選出

2021年度最初の今月の委員会は、3月末で退任した奥武則委員長、市川正司委員長代行、紙谷雅子委員、城戸真亜子委員、松田美佐委員に替わり、新任の、斉藤とも子委員、鈴木秀美委員、丹羽美之委員、野村裕委員の挨拶があった後、曽我部真裕委員長代行が委員の互選により第9代委員長に選出された。曽我部委員長は鈴木委員と二関辰郎委員を委員長代行に指名した。

2.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表報告

3月30日に通知・公表が行われた「委員会決定第76号 リアリティ番組出演者遺族からの申立て」について、当該局フジテレビの当日のニュース番組を視聴し、新聞各紙を事務局が説明して意見交換を行った。

以上

2020年3月30日

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表の概要

[通知]
2021年3月30日(火)午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と代理人弁護士、被申立人のフジテレビからは編成制作局コンテンツ事業センター局長補佐ら3人が出席した。
はじめに奥委員長が、放送人権委員会の判断の対象はあくまで「放送」であり、Netflixでの先行配信などは関連して取り上げることになると説明した上で、委員会の決定を伝えた。「人権侵害については3点の判断を行った」として、「①本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」については、人権侵害があったとまでは断定できないと述べた。「②自己決定権及び人格権の侵害」については、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような場合には当たらず、自己決定権等の侵害は認められないとした。また、申立人が主張する「③プライバシー侵害」も、木村氏は撮影されることを認識し認容していたことなどから、違法なプライバシー侵害であるとは言えないと説明した。一方、放送倫理上の問題については、「Netflixでの配信を契機に木村氏に対する誹謗中傷が起こり、自傷行為に至るという深刻な事態が生じていたところ、本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、本件放送には放送倫理上の問題があった」とした。これに関連してドラマなどのフィクションとは違い、視聴者の共感や反発が生身の出演者自身に向かうことになるというリアリティ番組の特殊性についても言及した。決定文の最後に「放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する」と記したことは、放送人権委員会としては異例のことであり、ぜひその真意をくみ取ってほしいと締めくくった。
続いて、曽我部委員長代行が補足説明し、「人権侵害と放送倫理上の問題では、判断の基準が違う。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と発言した。
続いて、水野委員が補足意見の意図について述べ、少数意見を書いた國森委員、二関委員が自身の意見の要点を説明した。
決定を受け、申立人は「娘本人がこの場に不在のため、事実を証明することが難しく悲しい」と発言。フジテレビは「今回の委員会決定を真摯に受け止め、今後の放送と番組作りに生かしていきたい」と述べた。

[公表]
午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで記者会見を行い、委員会決定を公表した。29社50人が取材した。テレビカメラの取材は、在京局を代表して当該局のフジテレビ、そのほかTOKYO MXが行った。出席委員は奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、決定を説明した。続いて、曽我部委員長代行が、「決定文の最後に、放送界全体へのメッセージを織り込んだ。通常は対象となった放送局に向けて要望を述べるのだが、この案件は放送界全体で考えてもらいたいという気持ちが込められている。また、木村氏の自傷行為後のケアについて、フジテレビの責任ある役職者と現場の間で情報共有や協議がなされていなかったという問題はあるが、制作スタッフは現場としてできることを懸命にやっていたと思う。さらに判断の内容の補足となるが、いずれも花さんへのケアの問題に焦点を当てながら、人権侵害と放送倫理上の問題で異なる見解を出した理由は、判断の基準が違うということ。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と説明した。廣田委員は本事案の審理の難しさについて「委員会で議論を重ね、悩んで、考えて、今回の結論に至った」と述べた。
続いて、水野委員が補足意見を書いた意図について話し、さらに、少数意見を書いた國森委員、二関委員が、委員会決定との差異を中心に自身の意見の要点を説明した。
その後行われた質疑応答の主な内容は以下のとおり。

(質問)
番組と木村花氏の死の因果関係をどう考えているのか。また、木村氏のケアに関連してコロナ禍について触れているが、コロナだったら自傷行為をした後、放っておいてよいというのか。また、この案件について放送倫理検証委員会と合同で議論する余地はなかったのか?
(奥委員長)
番組と木村花氏の自死との因果関係はわからない。テレビ局も自死を予見することはできなかったと思う。番組スタッフも木村氏を放っておいてよいとは思っていなかったはずだ。決定文ではコロナ禍との関連について、緊急事態宣言が発出されていたため木村氏のケアに物理的な制約があったことを指摘している。
BPOの3委員会はそれぞれ独立して活動しており、委員会に付与されている役割も違う。放送倫理検証委員会は、申立て制を取っている放送人権委員会とはまったく違う角度から放送番組を検証する役割だと理解している。簡単に合同委員会を開いて、ということにはならない。
(曽我部委員長代行)
番組と木村花氏の自死との因果関係については、委員会は判断していない。ただ、ケアをする責任はあるということで、それが十分だったかどうかに焦点を当てて議論した。コロナに関しては二つ影響があったと考える。一つはケアに関し制約があったということ。精神科医の受診ができなかったことや、テラスハウスに同居していれば日常的なサポートができたはずがコロナの関係で収録が中断しており出演者は自宅へ帰っていた。もう一つ、本業であるプロレスの興行ができなかったことが木村氏に与えた影響は無視できないと思う。

(質問)
今回はNetflixでの先行配信がきっかけで木村氏への誹謗中傷が起こったわけだが、番組以外の理由で木村氏への誹謗中傷が起きていた場合も、フジテレビは放送倫理上の問題を問われるのか?
(曽我部委員長代行)
今回については、先行配信があって自傷行為があり、そのケアの問題に焦点を当てたのだから、先行配信が無ければ責任は生じないというのが基本だと考える。前提として、BPOは、適法な内容の番組放送に関する第三者の誹謗中傷への責任をテレビ局が負うことについて否定的な立場を取っている。ただ、特殊な事情があれば、またその時に判断することになると思う。

(質問)
現在BPOは、放送されていない番組は扱わないという規則で運営されているが、最近は、スピンオフ作品を配信のみで流すという形が浸透している。放送局の自主自律を守っていく上で、今後、“放送はされていないが局が制作したコンテンツ”にどう対応していくか、見解をうかがいたい。
(奥委員長)
委員会は、現行の運営規則に則って審理しているが、BPOという組織そのものが新しい状況にどう対応するかという課題はあると思う。
(曽我部委員長代行)
運営規則にある委員会のミッションは、われわれ委員が決めているわけではない。BPO全体、ひいてはNHKと民放連で考えていくべき問題だと思う。

(質問)
木村氏の自死について、フジテレビから親子関係が要因の一つであったような発言があったとのことだが、具体的に教えてもらいたい。
(廣田委員)
ヒアリングではなく委員会への提出書類の中で、いろいろな背景事情の一つとして親子関係が挙げられていただけで、フジテレビが親子関係を自死の原因として主張しているわけではない。

(質問)
今回の審理を振り返って、難しさを感じた点があればうかがいたい。また、ヒアリングの規模感や難航した点があれば教えてほしい。
(奥委員長)
本来の当事者とも言うべき木村花氏が亡くなっていることに一番の難しさを感じた。
当委員会は、基本的に書面を提出してもらい、それに基づいて当事者にヒアリングするというやり方を採っている。調査対象を広げて大勢に話を聞くという仕組みにはなっていない。しかし今回は、フジテレビの社員だけでなく制作会社のスタッフにもヒアリングし、申立人側では木村氏のケアに当たったプロレス仲間の方二人にも協力していただき話を聞いた。
(曽我部委員長代行)
放送人権委員会は、普段は名誉毀損やプライバシー侵害を審理していて、申立人と放送局側の当事者の意見を聞くという意図で手続き等が定められている。そこが放送倫理検証委員会と違う点で、放送局のさまざまな立場の方に多数ヒアリングすることは想定していない。

(質問)
決定は、放送局の対応について、例えば放送を見送ることや内容を差し替えるなどの編成上の問題には踏み込んでいないが、そのような視点での議論はされなかったのか。
(奥委員長)
放送することを前提に、こうすべきだったと指摘しているわけではない。自傷行為以降、地上波放送にいたるまでの間に、ケアが十分であればもっと違う対応もあったのではないかということだ。放送するか否かは放送局が決めることであって、われわれ委員会は「放送を中止すべきだった」「内容を差し替えるべきだった」というようなことを言う立場にはない。

(質問)
制作の現場と制作責任者との間の意思疎通のあり方に問題があったと指摘しているが、制作会社とフジテレビの間で意識の違いはあったと思うか。また、放送決定にいたる過程で、現場と責任者の間に温度差があったのか知りたい。
(奥委員長)
意思疎通のあり方の問題点とは、自傷行為があった時点で、フジテレビ本体に情報を伝えて、どう対応するかを議論・検討すべきだったのではないかということを指している。また、放送決定に至る過程でどのような議論がされたか不明だ。ヒアリングで、放送するか否かの判断について温度差があったか等については浮かび上がってこなかった。

以上

2020年11月16日

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」に関する委員会決定の通知・公表の概要

[通知]
(2020年)11月16日午後1時からBPO会議室において決定通知が行われた。委員会からは、奥武則委員長、担当した二関辰郎委員、國森康弘委員、及び補足意見を書いた市川正司委員長代行が出席した。
申立人側は代理人のみが出席し、申立人本人は高齢であることや体調の問題等により出席できないとの説明があった。札幌テレビからはコンプライアンス担当の取締役、局長が出席した。
奥委員長から「決定の通知は、申立人と被申立人に同じ決定を同じ席で伝えることが重要だが、今回はご本人の体調に配慮して委員会としても異例の判断をした」と申立人本人不在での決定通知開催について説明した。
次に決定の内容について奥委員長から概略次のような説明があった。
「結論としては人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題も認められない。
人権侵害、名誉毀損について言えば、社会的評価が低下したかどうかが入り口となる。本件放送は、国に対する損害賠償請求訴訟を起こしていた申立人が、新しくできた法律に基づいて一時金を請求したことをニュースにしたもの。一般的にこのニュースを見た人が申立人に対する社会的評価を低下させることはない。一方で、新しくできた法律に批判的であった申立人が一時金を申請したことで、申立人の従来の見解を知っていた人から見れば考え方を変えたのではないかとみられてしまう可能性があり、社会的評価を低下させるというのが申立人の主張。しかし、本件放送は一時金支給法の問題点を鋭く追及しているし、申立人が悩みながら申請したということも伝わっており、社会的評価を低下させることにはならない。
放送倫理上の問題は、申立人が申請をするにいたるまでに、記者からの働きかけがどの程度あったのかということ。ヒアリングなどを通じて取材の経過を考えると、基本的には申立人に一時金申請をするという意図があり、記者の働きかけによって申請をしたとは認められないと判断した。それ以外にも事実を歪めるなどの内容も認められない。ということから放送倫理上の問題は認められないと結論付けた。法律専門家の援助を受ける権利等についての判断などは二関委員から説明する。」
二関委員からは以下の通りの発言があった。「繰り返しになるが、人権侵害については、申立人がどういう人なのかという前提知識がなかった人と、あった人の二段構えで判断した。いずれにせよ社会的評価の低下はなかったと判断した。
法律専門家の助言を受ける機会を奪われたという主張については、放送にいたる前の事情なので、基本的には当委員会では取り上げないというルールがある。記者による働きかけについても同様だが、今回は後者を取り上げ、法律専門家に相談する機会の問題はそのことに関連するので、その際にまとめて検討した。
放送倫理上の問題も、ある意味では二段構えと言える取り上げ方にしている。本件放送を見る限り、申立人が不本意ながら申立を行っているようには見えない。ただし、我々はそこだけでは検討を終えずに、放送に至るまでの経緯も検討対象とし、その点に関する双方の対立する主張の中から、共通して認められることをさぐった上で判断している。そのような過程を経てこの結論に至った。」
続いて補足意見を書いた市川委員長代行から以下のような説明がなされた。「結論は決定通りだが、今回の議論の中には一般論としても今後の参考になる点があり、掘り下げて述べておくのが良いと考えて補足意見を書いた。
今回の取材は、過去のことではなく、現在進行中のことを取材しており、その過程で、取材対象者が自ら選択し行動することに取材者がどこまで関与するのかは検討すべきこと。申立人が自ら行うことを記者が代わって行っているが、これが取材対象者との関係で踏み込みすぎと言われかねないものであるということを指摘している。今後の糧になると考えてここに掲載した。」
これに対し、申立人の代理人からは特に発言はなく、STVからは「概ね当社の主張が認められた。今日の内容は今後の取材活動に生かしていきたい」との話があった。

[公表]
同日午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見が行われ21社28人が出席した。
奥委員長、二関委員、市川代行からは概ね通知と同様の内容が公表された。國森委員からは弱者に寄り添うという同じ方向を向いている弁護団と記者が相対するのは悲しいこと。申立人を含めて三者がもっと密にコミュニケーションがはかれたらよかったと感じている。」という発言があった。

以上

2020年度 第76号

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」
に関する委員会決定

2021年3月30日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり(補足意見、少数意見付記)
当事案は、フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと訴え、委員会に申し立てたもの。
これに対してフジテレビは、番組で「女性を暴力的に描いていない」などと主張するとともに、社内調査の結果を基に、「人権侵害は認められない」と反論した。
委員会は、審理の結果、人権侵害は認められないとしたが、出演者の身体的・精神的な健康状態に関する配慮が欠けていた点について、放送倫理上の問題があったと判断した。その上で、フジテレビに、本決定を真摯に受け止め、改善のための対策を講じることを要望した。 なお、本決定には補足意見と2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2020年5月19日に放送されたフジテレビの『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(本件番組)。出演していたプロレスラーの木村花氏が放送後に亡くなったことについて、同氏の母親が、娘の死は番組の“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。本件番組は、募集によって選ばれた初対面の男女6人が「テラスハウス」で共同生活する様子を映し、スタジオのタレントらがそれにコメントするスタイルのいわゆるリアリティ番組であり、Netflix等で配信され、数週間後に地上波で放送されていた。
 本件放送の中盤、木村花氏が共用の洗濯乾燥機に置き忘れていた重要な試合用のコスチュームを、男性出演者が誤って洗濯、乾燥してしまったため縮んで着用できなくなったことに対し、木村氏が怒りをあらわにする様子が描かれる。木村氏は、テラスハウス住人全員が顔を合わせたところで、男性に怒りの言葉をぶつけ、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と言い、男性がかぶっていた帽子をとって投げ捨てる。この場面が「コスチューム事件」と名付けられ、SNS上で木村氏に対する多数の誹謗中傷を招いた。
 「コスチューム事件」が最初に人々の目に触れたのは3月31日のNetflix配信においてであるが、その直後、木村氏は自傷行為に至る。その後、5月14日には、未公開動画として、女性出演者から落ち度を指摘されたことに対し、木村氏が自身の正当性を主張するかのような動画がYouTube上で公開され、再度誹謗中傷を招いた。5月19日には地上波にて本件放送が行われ、5月23日、木村氏は自死した。
 以上の事案につき、人権侵害については3点の判断を行った。第1に、申立人は、視聴者からの誹謗中傷がインターネット上で殺到することは十分に認識可能であることから、放送局に「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」 の責任があると主張した。これについては、表現の自由との関係で問題があり、一般論としてはこうした主張は受け入れられない。ただ、本件では、先行するNetflix配信が誹謗中傷を招き、自傷行為という重大な結果を招いたという特殊性がある。このような場合においては、少なくとも、先行する放送ないし配信によって本件の自傷行為のような重大な被害が生じている場合、それを認識しながら特段の対応をすることなく漫然と実質的に同一の内容を放送・配信することは、具体的な被害が予見可能であるのにあえてそうした被害をもたらす行為をしたものとして、人権侵害の責任が生じうるものと考えられる。
 しかし、本件では、自傷行為後にフジテレビ側は一定のケア対応をしており、また、本件放送を行う前にも一定の慎重さをもって判断がなされたため、漫然と本件放送を決定したものとはいえず、人権侵害があったとまでは断定できない。
 第2に、申立人は、木村氏の言動は、著しく一方的な「同意書兼誓約書」の威嚇の下、煽りや指示によってなされたものだから、自己決定権及び人格権の侵害があると主張する。この点について、若者であるとはいえ成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフからなされた指示が違法性を帯びることは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような例外的な場合である。本件では、制作スタッフからの強い影響力が及んでいたことは想像に難くないが、上記のような例外的な場合にあったとはいえず、自己決定権等の侵害は認められない。
 第3に、コスチューム事件における木村氏の言動が、通常他人に見られたくないと考えられるものでプライバシー侵害に当たるとする主張については、撮影されることを認識し認容していたことなどからして、違法なプライバシー侵害であるとは言えない。
 他方、放送倫理上の問題に関して、3点につき判断した。第1に、それまでの経緯からして、木村氏に精神的な負担が生じることが明らかである本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、放送倫理上の問題があったと判断した。すなわち、リアリティ番組には、出演者のありのままの言動や感情を提示し、共感や反発を呼ぶことによって視聴者の関心を引きつける側面がある。しかし、ドラマなどのフィクションとは違い、真意に基づく言動とは異なる姿に対するものも含め、視聴者の共感や反発は、生身の出演者自身に向かうことになることから、リアリティ番組には、出演者に対する毀誉褒貶を、出演者自身が直接引き受けなければならない構造がある。そして、出演者の番組中の言動や容姿、性格等についてあれこれコメントをSNSなどで共有することがリアリティ番組の楽しみ方となっており、自身の言動や容姿、性格等に関する誹謗中傷によって出演者自身が精神的負担を負うリスクは、フィクションの場合よりも格段に高い。このことなどを踏まえると、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは、もともと放送倫理の当然の内容をなすものと考えられるが、リアリティ番組においては特にそれがあてはまる。しかし、上述のとおり、本件においてはこうした配慮が欠けており、放送倫理上の問題がある。
 第2に、申立人が、ことさらに視聴者の感情を刺激するような過剰な編集、演出を行ったことによる問題があると主張した点については、事実関係が確定できないこと、および、木村氏の怒りの場面は、少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 第3に、フジテレビの検証が内部調査にとどまった点の評価については、番組による人権侵害等を判断する委員会の基本的任務とは距離があり、本決定では判断を行わない。
 最後に、リアリティ番組の制作・放送を行うに当たっての体制の問題を、課題として指摘せざるを得ない。本決定を真摯に受け止めた上で、フジテレビが木村氏の死去後に自ら定める対策を着実に実施し、その効果の不断の検証を踏まえて改善を続けるなどして再発防止に努めるとともに、本決定の主旨を放送するよう要望する。
 同時に、放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する。

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2021年3月30日 第76号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第76号

申立人
番組出演者の母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』第38話
放送日
2020年5月19日(火)
放送時間
午前0時25分~0時55分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.委員会の判断の対象
    • (1) 本件番組及びその関連動画の相互関係
    • (2) 委員会の判断の対象
  • 2.事案の概要
    • (1) 本件番組について
    • (2) 木村花氏の本件番組への出演契約の際の状況
    • (3) 本件放送について
    • (4) 第38話のNetflix 配信後の状況
    • (5) 5月14日の未公開動画の配信
    • (6) 本件放送前後の状況
    • (7) SNS対策とSNS上の誹謗中傷の状況
      • ① 本件番組におけるSNS対策について
      • ② 第38話のNetflix配信及び本件放送を受けたSNS上の誹謗中傷の状況
    • (8) 木村氏死去後のフジテレビの対応
  • 3. 「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 人権侵害の判断基準について
      • ①「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」に関する一般論
      • ② リアリティ番組における、視聴者の行為を介した人権侵害に関する放送局の責任
      • ③ 本件放送の特殊性
    • (3) Netflix 配信の前後から本件放送の前後までのフジテレビの対応について
      • ① Netflix配信前の状況
      • ② 自傷行為後の木村氏へのケアについて
      • ③ 5月14日の本件未公開動画の公開について
      • ④ 本件放送を行うとする判断について
    • (4) 人権侵害についての検討
  • 4. 自己決定権及び人格権の侵害について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 検討
    • (3) 小括
  • 5. プライバシー侵害について
  • 6. 放送倫理上の問題について
    • (1) 本件放送を行うとする決定に際しての出演者への配慮について
      • ① 出演者の身体的・精神的な健康状態への配慮と放送倫理
      • ② 本件について
    • (2)「過剰な編集、演出を行ったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (3)「検証を十分に行わなかったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (4) 申立人に対する対応について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2021年3月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は2021年3月30日午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

2021年7月20日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

委員会決定第76号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月25日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第290回放送と人権等権利に関する委員会

第290回 – 2021年3月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」決定を了承…など

議事の詳細

日時
2021年3月16日(火)午後3時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」事案の審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、番組において「女性を暴力的に描いていない」などと主張するとともに、社内調査の結果を基に、「人権侵害は認められない」と反論している。
委員会は、これまでの審理をもとにまとめた決定文の最終案が起草委員から示され議論を行った。前回の委員会で残されたインターネットでの配信後の経緯において放送を行ったことや、同意書兼誓約書の存在などを人権侵害や放送倫理上の問題としてどのように判断するかといった論点などについても、改めて議論を行い、最終的に文案の一部に修正を加えたうえで、委員会決定として了承した。これを受けて委員会は、できるだけ早い機会に、申立人、被申立人に対して通知し、委員会決定を公表することを確認した。

2. その他

今年度で退任する委員から挨拶があった。

以上

第289回放送と人権等権利に関する委員会

第289回 – 2021年2月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2021年2月16日(火)午後3時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」事案の審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、番組において「女性を暴力的に描いていない」などと主張するとともに、社内調査の結果を示して、「人権侵害は認められない」と反論している。
委員会は、前回委員会の審理をもとに修正した決定文の修正案が起草委員から示され議論を行った。その結果、リアリティ番組の特性、番組における演出、放送とSNSにおける誹謗中傷の関係などの論点については、概ね意見がまとまった。インターネットでの配信後の経緯において放送を行ったことや同意書兼誓約書の存在などを人権侵害や放送倫理上の問題としてどのように判断するかという論点については、委員会全体の結論には至らなかった。次回委員会で最終決定に向けて審理を尽くすことを確認した。

2. その他

今後の委員会の予定について、事務局より報告があった。

なお、感染症拡大防止の緊急事態宣言延長にともない、今委員会も全委員とオンラインで結んで開催された。

以上

第288回放送と人権等権利に関する委員会

第288回 – 2021年1月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2021年1月19日(火)午後3時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」事案の審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、社内調査によって「人権侵害は認められない」と反論している。
委員会は、前回(第287回)委員会でのヒアリングと審理の結果を受け、起草委員が年末年始の間にまとめた決定文の原案が委員に示され審理を行った。議論は、委員会がヒアリング前に定めた論点に沿う形で進められ、リアリティ番組の特性、番組における演出、同意書兼誓約書の存在、放送とSNSにおける誹謗中傷の関係、インターネットでの配信後の経緯において放送を行ったことなど様々な問題点に分けて、それぞれ詳しく検討した。そのうえで、放送による人権侵害や放送倫理上の問題の有無について委員の間で意見を交わした。その結果、委員会は、決定文の原案に修正を加えるとともに、決定内容について次回委員会でさらに議論することとした。
なお、今委員会は、感染症拡大による緊急事態宣言にともない、全委員とオンラインで結んで開催した。

以上

第287回放送と人権等権利に関する委員会

第287回 – 2020年12月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」ヒアリングを実施…など

議事の詳細

日時
2020年12月15日(火)午後3時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」ヒアリングと審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、社内調査によって「人権侵害は認められない」と反論している。
今委員会ではヒアリングを実施した。通常のヒアリングは、申立人、被申立人に対して行われるが、今回は、女性が亡くなっているため番組制作当時や放送前後の様子を知る女性の知人らからも事情を聴いた。また被申立人側も、フジテレビの担当者に加え制作会社関係者からもヒアリングを行った。ヒアリングは全体で5時間に及び、母親は、SNS上で誹謗中傷が集中したあと女性が自傷行為を行ったことは、「SOSを出していたのであり、フジテレビが適切に対応していれば娘が命を落とすことはなかった」などと訴えた。また、女性の知人は当時の様子について、女性とのやり取りから制作スタッフに不信を抱いていたようだと感じたなどと述べた。一方フジテレビ側は、番組に過剰な演出はなく女性を暴力的に描いたことはないとして「人権侵害も放送倫理に反することもない」などと改めて主張した。
委員会は、ヒアリング後に審理を行い決定の方向性について意見を交わし、その議論を基に担当委員が起草に入ることを決めた。

以上

第286回放送と人権等権利に関する委員会

第286回 – 2020年11月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理、ヒアリング実施を決定…など

議事の詳細

日時
2020年11月17日(火)午後4時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、社内調査によって「人権侵害は認められない」と反論している。
今委員会では、双方から所定の書面がすべて提出されたのを受けて、論点を整理し、ヒアリングのための質問項目を絞り込み、次回委員会の際にヒアリングを行うことを決めた。ただ、当事者の女性が亡くなっているため、番組制作時の様子や放送前後の女性の状況を知る人物にも直接事情を聴くことができるよう、申立人、被申立人に協力を要請することになった。

2. その他

  • 委員会決定第75号「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」に関して、11月16日に行った通知公表について報告があった。

以上

2020年度 第75号

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年11月16日 放送局:札幌テレビ放送

見解:問題なし
札幌テレビは2019年4月26日の『どさんこワイド179』で、札幌市内に住む男性が「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づき、一時金を申請する模様を伝えた。
男性は札幌テレビの記者の働きかけで不本意ながら申請をし、これが報道されたことで名誉が毀損された等として、札幌テレビに謝罪と訂正を求めて申立書を提出した。
札幌テレビは、申立人に申請を働きかけたことはなく、取材と報道は公正なものだと反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 札幌テレビは、2019年4月26日(金)夕方のニュース『どさんこワイド179』において、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という)に基づく北海道初の一時金支給申請者として、申立人による申請の模様を伝えた(以下「本件放送」という)。
 申立人は、本件放送について、一時金申請を希望していなかった申立人に対し、札幌テレビのA記者が申請するよう働きかけた結果、不本意な申請をすることになり、これを広く報道されたことで名誉が毀損されたなどと人権侵害および放送倫理上の問題があったと主張して、本件申立てを行った。一方、札幌テレビは、信頼関係があったからこそ可能となった放送であり、取材と報道は公正なものと反論した。委員会は、審理のうえ、名誉毀損等の人権侵害はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
 申立人は、旧優生保護法に基づいてかつて強制不妊手術を受けた被害者として、国家賠償を求める旧優生保護法被害者訴訟を提起している原告の一人である。
 まず、名誉毀損について、一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件放送が報じたのは、新たに成立した一時金支給法に基づいて申立人が申請したという合法的な行為の紹介であり、これによって申立人の社会的評価は低下しない。また、本件放送は、申立人の複雑な心境や悩みまで浮き彫りにし、国に対する批判的なナレーションもまじえるなど申立人のような被害者の立場に寄り添った視点で構成されたものであって、申立人が一時金支給法の内容について批判的見解を有していたことを知る視聴者の観点を前提として検討した場合であっても、やはり社会的評価を低下させるものではない。よって、本件放送による名誉毀損は成立しない。
 次に、放送倫理上の問題について検討した。仮に、報道機関として報道したいと考える内容にあわせるよう事実を歪めたり、本来であれば存在しなかった事実を作出したりすることがあれば、問題がある。本件に即せば、当初の取材意図に固執するあまり、申立人に自己の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけた事情がもしもあれば、正当な取材活動を逸脱したものとして放送倫理上問題が生じる。また、その際、国家賠償請求訴訟との関連で一時金申請に伴う利害得失について訴訟弁護団の助言を受ける機会を申立人から奪うような言動がA記者にあったとすれば、放送倫理上の問題にかかわるだろう。しかし、文書とヒアリングにおける双方の主張を踏まえると、申立人による一時金申請は、申請が時期的に可能になったことをA記者から伝えられたことを契機としているものの、A記者との電話の後に申立人自ら北海道庁に電話し担当者から一時金支給法と裁判は関係ないとの説明を受けたことを理由として、一時金申請をする意思を抱いたと考えられる。この間A記者が、申立人が弁護団に相談するのを妨げる言動なども認められない。電話翌日の同行取材が決まったのも申立人の方からA記者に電話をかけたことを契機としている。また、申立人は、本件放送によって報じられた一時金申請の後、同年5月に申請を一旦取り下げたものの、2020年2月には、弁護団の助けを借りて再び申請をしている。したがって、これらの事実経過に照らすならば、申立人の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけて翻意させたとか、訴訟弁護団から助言を受ける機会を奪ったとか、それ以外にも事実を歪めたりありもしない事実を作出したりしたと評価すべき行き過ぎた取材があったとまでは言えないと委員会は判断する。
 よって、放送倫理上の問題も認められない。

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2020年11月16日 第75号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第75号

申立人
札幌市在住の男性
被申立人
札幌テレビ放送株式会社
苦情の対象となった番組
『どさんこワイド179』
放送日時
2019年4月26日(金)
午後3時48分~午後7時00分のうち午後6時54分から約2分間(ローカル)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.背景となる事情
  • 2.人権侵害の有無
  • 3.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年11月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年11月16日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2020年10月14日

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」
に関する委員会決定の通知・公表の概要

[通知]
2020年10月14日午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と、担当した水野剛也委員、紙谷雅子委員が委員会決定を通知した。
申立人本人と、被申立人のフジテレビから本件番組の責任者らが出席した。
はじめに奥委員長が「本件放送に人権侵害、また放送倫理上の問題があったとは判断できない」と結論を伝え、その上で「ただし、申立人のように取材・報道に不慣れな者が予期せず声をかけられる種の街頭インタビューでは、誤解やトラブルを招かぬためにも、放送局名・番組名はもとより、取材の趣旨などを取材に際しては可能な範囲で説明し、かつ撮影した映像等の使用について本人の意向を明確に確認しておくことが望ましい」と結論には注文がついていることを述べた。その後決定文に沿って説明した。まず判断の前提となった申立人と被申立人との対立点が取材の経緯と申立人本人の発言内容の2点であり、この対立点は双方から完全に言い分が異なる主張としてなされている、と指摘した。双方の主張についていずれかが明らかに整合性を欠いていた訳ではなく、委員会としては各種書面やヒアリングの結果「申立人の主張する事実があったとは認定できない」としたと述べた。それらを総合的に判断した結果、「人権侵害、また放送倫理上の問題があったとは判断できない」という結論に至ったと説明した。また、編集のありかたについて、より慎重な姿勢を望む意見が付記されていることも説明した。
水野委員は、「放送人権委員会決定第24号(2004年)を引用しているが、『カメラに向かってインタビューに応じることは放送についても承諾している』とする第24号決定は、SNSの普及や個人情報保護の観点から、現在ではすべての取材に一律に適用できない、とこの決定文に記した。申立人からすれば人権侵害や放送倫理違反が認められなかったことは不本意かもしれないが、今後の街頭インタビューの方法などについて改善が期待できる」と述べた。紙谷委員は「実際の映像を見ると、切り張りされていたり何かがすごく強調されていたりした訳ではない。妥当な部分を編集して放送したと考えた。その上で人格権の侵害があったと判断できない、とした」と述べた。
申立人は「そもそも自分の考えとはまったく反対の意見が放送されたことで申し立てたが、認められなくて不本意だ」と述べた。
被申立人のフジテレビは「我々の考えが理解されたと考えるが、その一方で指摘された取材の在り方については真摯に受け止めたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館ホールで、奥委員長、水野委員、紙谷委員が記者会見を行った。取材したのは22社33人。

(奥委員長)
結論として人権侵害も放送倫理上の問題も認められない。判断のグラデーションとしては「問題なし」に当たる。

(水野委員)
今後のインタビュー取材の在り方において一つの基準となる判断なのではないか。人権委員会の判断としては「問題なし」だが、今後の街頭インタビュー取材についてこの種のトラブルが生じた時の指針となると考えた。

(紙谷委員)
今回の場合、申立人は具体的な人権侵害ではなく「本来ではない自分」を放送されたと主張したので、人格権という観点で審理した。総合して考慮した結果、「人格権の侵害があったと判断することはできない」としたが、結論で述べているように取材時の丁寧な説明が望ましい。

質疑応答の概要は以下のとおり。

(質問)
申立人の年齢は?

(奥委員長)
申立書に年齢を記載する欄がないので把握していない。

(質問)
今後の取材の在り方が変化していくのではないか?

(奥委員長)
基本的なことをしっかりやっていただきたい、ということに尽きる。

以上

第285回放送と人権等権利に関する委員会

第285回 – 2020年10月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理開始…など

議事の詳細

日時
2020年10月20日(火)午後4時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」事案、審理

今事案の対象となったのは、札幌テレビが2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性に関する報道で、男性が自宅で申請書類に記入をし、北海道庁で申請手続きをする様子等の場面を放送した。この放送に対して取材された男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示するなど、「一時金申請を希望していなかったのに、記者が申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。これに対して札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ可能となった取材であり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
今委員会では、担当委員から決定文の修正案が示され、前回委員会で指摘のあった取材する側と取材される側の関係について更に議論が交わされた。そのうえで委員会は決定を了承し、次回委員会までに通知公表を行うことになった。
今事案は、第276回委員会で審理入りを決め審理を進めてきたが、新型コロナウイルス対策によって審理に遅延があった。

2.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、社内調査によって「人権侵害は認められない」と反論している。委員会は、第284回委員会で、運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして審理入りの要件を満たしていると判断し、審理を始めることを決めた。今委員会では、これまでに双方から提出されている書面を基に、論点の整理を始め、それに伴い審理を進めるうえで必要な資料の提出を当該局に求めることを決めた。今後、所定の書面がすべて整ったあと、委員会で論点を絞り込む予定。

3. その他

  • 委員会決定第74号「大縄跳び禁止報道に対する申立て」に関して、10月14日に行った通知公表について報告があった。

  • 申立て状況について事務局から報告があり、委員の間で意見が交わされた。

以上

2020年度 第74号

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年10月14日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された問題を放送した。インタビューに答えた周辺住民女性が、突然マイクを向けられ誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。フジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論した。
委員会決定は、本件放送に、人権侵害、また放送倫理上の問題があったとは判断できない、とした。

【決定の概要】

 2019年8月30日に放送されたフジテレビの『とくダネ!』は、都内の公園で近隣の受験塾の生徒が大縄跳びをしながら歴史上の人物名などを暗唱していることに周辺住民から苦情があり、行政が大縄跳びを禁止する看板を立てたことなどを紹介した。申立人はインタビューを受けた周辺住民の一人で、「本を読んでたりとか、集中して何かをやんなきゃいけない日だったりすると、ちょっとうるさいなと思って」などと答える場面が17秒にわたり放送された。
 申立人は、日没後に犬を連れて公園を散歩中、突然、若い女性に背後から声をかけられ、放送局名・番組名や取材の趣旨を告げられず、撮影許可を明示的に求められぬままインタビューを受け、また大縄跳びは「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに「誘導尋問」され、あたかも迷惑しているかのような発言を「捏造」された、と主張している。「懇意にしている学習塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて、BPO放送と人権等権利に関する委員会に申立書を提出した。
 一方、フジテレビは、取材したディレクターが2度にわたり「フジテレビ、とくダネ!です」と伝え、「(大縄跳びを禁止するという)看板について取材しているのですが」などと断ってからインタビューと撮影を開始したのであり、申立人は撮影・放送(いわゆる「顔出し」を含む)を承諾していた、また「誘導尋問」はしておらず、インタビュー内容も加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」と反論している。
 申立書などの書面とヒアリングを総合して検討した結果、委員会は、撮影・放送それ自体に対する申立人の承諾がなかったとまではいえず、また質問者が本意でない答えを強いるという意味での「誘導尋問」や「捏造」があったと断定することもできないため、本件放送が申立人の肖像権など人格権を不当に侵害したと判断することはできない。同じ理由で、取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法についても、放送倫理上の問題があったと判断することはできない。
 ただし、本件放送のような、通行人が予期せず声をかけられる種の街頭インタビューの場合、被取材者の大多数は申立人のようにマス・メディアの取材・報道に不慣れであることから、取材者は放送局名・番組名をはじめ、質問の対象・趣旨などを取材に際して可能な範囲で説明し、かつ撮影した映像等の実際の使用についても本人の意向を明確に確認しておくことが望ましい。

全文PDFはこちらpdf

2020年10月14日 第74号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第74号

申立人
東京都内在住 女性
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『とくダネ!』
放送日時
2019年8月30日(金)
午前8時~9時50分のうち午前8時13分から8時35分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人とフジテレビの対立点
    • (1) 取材経緯(承諾の有無)
    • (2) 発言内容(「誘導尋問」と発言の「捏造」)
  • 2.人権侵害
    • (1) 肖像権の侵害
    • (2) 「誘導尋問」と発言の「捏造」による人格権の侵害
  • 3.放送倫理上の問題
    • (1) 取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法
    • (2) 申立人に対する本件放送後の一連の対応

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

全文PDFはこちらpdf

2020年10月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年10月14日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

第284回放送と人権等権利に関する委員会

第284回 – 2020年9月

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」委員会決定を通知・公表へ

議事の詳細

日時
2020年9月15日(火)午後3時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」事案、審理

今事案の対象となったのは、札幌テレビが2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性に関する報道で、男性が自宅で申請書類に記入をし、北海道庁で申請手続きをする様子等の場面を放送した。この放送に対して取材された男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示するなど、「一時金申請を希望していなかったのに、記者が申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。これに対して札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ可能となった取材であり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
前委員会でのヒアリングを受けて、今委員会では担当委員から決定文の原案が示された。委員の間で意見交換が行なわれ、大きな方向性についての異論はなかったが、取材する側と取材される側の関係についてどう表現するかなどの意見が交わされた。これを受けて、次回委員会までに担当委員の間でさらに検討を加えることになった。

2.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案、審理

フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制したことを紹介したもので、周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性が、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論している。
委員会では、担当委員から決定文の修正案が示され、委員の間で意見交換を行った。その結果、決定内容について大筋で合意され、細かな文言の修正について委員長一任とし、次回委員会までに通知公表を行うことが決まった。

3. 審理要請案件「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理入り決定

フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘は番組内の「過剰な演出」がきっかけで、SNS上に批判が殺到し「自らの命を絶った」と訴え、人権侵害があったと申し立てた。これに対してフジテレビは、社内調査を基に「人権侵害は認められない」と反論している。委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理入りの要件を満たしていると判断し、審理を始めることを決めた。(詳細;委員会トピックス9月15日参照)

4. その他

  • 今年度これまでの新規申立て状況を事務局から報告した。

以上

2020年9月15日

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」審理入り決定

BPO放送人権委員会は、9月15日の第284回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

この事案は、フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019 - 2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘は番組内で取り上げられた同居人男性の帽子をはねるシーンをめぐってSNS上で「批判的なコメントが殺到」したことを苦に「自らの命を絶った」としたうえで、きっかけとなったその場面は「過剰な演出」によるものであったなどとする申立書を委員会に提出したもの。
申立人はフジテレビに対して、娘は番組で狂暴な女性のように描かれたことによって、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」ことによる人格権の侵害と、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」等の条項を含む「誓約書兼同意書」による支配関係のもと自己決定権が侵害されたとして、娘に対する人権侵害があったと訴えている。そして、フジテレビに謝罪と公平・公正な検証を求めている。
これに対してフジテレビは、番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、社内での検証結果に基づき「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」と主張した。また、「同意書兼誓約書」に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」として、「自己決定権を奪われたとの主張には理由がない」としている。そして、インターネット配信から放送後に至るまで、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケア等により、「精神状況が比較的安定していることを確認している」ことなどを挙げて、「番組内で狂暴な女性のように描かれ、視聴者がSNS上で誹謗中傷し、精神的苦痛を受け、人格権を侵害されたとの申立人の主張は認められない」と反論している。

15日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理入りの要件を満たしていると判断し、審理を始めることを決めた。委員会は今後、双方が提出する書面と、申立人と被申立人に対するヒアリングをもとに審理を行い、その結果を「勧告」または「見解」としてとりまとめ、申立人およびフジテレビに通知した後、記者会見を行い公表する。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第283回放送と人権等権利に関する委員会

第283回 – 2020年8月

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」事案のヒアリングを開催…など

議事の詳細

日時
2020年8月18日(火)午後1時~6時
場所
北海道新千歳空港ターミナル内会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

今事案は、昨年6月に申立てがあり、審理入り後今年3月にヒアリングを行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛要請等の影響で開催が再三延期されてきた。感染が再び拡大する状況での開催に関する申立人からの要請を検討した結果、委員会は、高齢の申立人に配慮するとともに、審理のこれ以上の遅延回避とヒアリングへの全委員出席の原則を踏まえ、異例の措置として申立人の居住地に出向いて行うことを決め、北海道新千歳空港内会議室において開催した。
今事案の対象となったのは、札幌テレビが2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性に関する報道で、男性が自宅で申請書類に記入をし、北海道庁で申請手続きをする様子等の場面を放送した。この放送に対して取材された男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示するなど、「一時金申請を希望していなかったのに、記者が申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。これに対して札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ可能となった取材であり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
ヒアリングでは、双方に対して、申請を行った経過やその際の記者とのやり取りなどをとくに詳しく聴いた。申立人には代理人が同席し、申請による影響等を申立人に代わって説明した。委員会は、ヒアリングを受けて審理を行い、決定の方向性を固め決定文の起草に入ることを決めた。

2.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案、審理

フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制したことを紹介したもので、周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性が、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では担当委員から決定文の原案が示され、委員の間で意見交換を行った。申立人が主張する権利の扱いや一般的な街録と違う申立人と近隣関係への影響、街録一般のトラブル回避策等について意見が出され、改めて起草委員会を開き修正を加えることとなった。

3. 審理要請案件、「裁判和解の見通し報道に対する申立て」

地方自治体を退職した元職員が自治体を相手に起こした訴訟で和解が成立する見通しだと報道した今年1月に放送されたニュースに対する申立て。裁判は、放送の3日後に和解した。元職員は、放送は自治体側の取材だけで報道しており自分に意見を言わせなかったのは人権侵害だとしてBPOに申し立てた。その後申立人は、協議を求める当該局の再三の電話に出ず、事務局からの連絡にも出ない等の状況が続いたため、審理要請案件として検討した前回(第282回)委員会は、申立て継続の意思が確認できなければ取り下げとみなすと判断し、その旨申立人に通知した。しかし申立人から期日までに返答はなく、今委員会で申立ては取り下げられたものとみなすことを正式に決定した。

4. その他

  • 新規申立て等に関して報告と意見交換が行われた。

以上

2020年6月30日

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」に関する
委員会決定の通知・公表の概要

[通知]
2020年6月30日午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と、担当した曽我部真裕委員長代行、松田美佐委員が委員会決定を通知した。
申立人本人と代理人弁護士、フジテレビから本件番組の責任者らが出席した。
はじめに奥委員長が「ヒアリングなどを通じて申立人の心情は理解したが、委員会は、あくまで放送番組によって人権が侵害されたのか、それに関連して放送倫理上の問題があったのかどうかを判断する立場であることを理解して欲しい」と述べた。
そして結論として「本件番組に人権侵害の問題や放送倫理上の問題は認められない」と述べ、委員会の判断を説明した。
まず、本件番組の意義として、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者らの死刑が執行されるという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであると、判断の前提となる考え方を示した。
そして、シール貼付などの手法については、迅速・正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められることや、出演した弁護士の発言は、表現として不相当とは言えないこと。また事実関係の間違いのほとんどは実質的に修正されていて、いずれも人権侵害は認められないと説明した。
さらに、極めて公共性の高い出来事を公益目的で放送したものであり、死刑執行をショーのように扱っているとは言えず、放送倫理上の問題もないと判断した、と説明した。
そのうえで3人の委員が補足意見を述べており、死刑執行をリアルタイムで報じる状況において配慮すべき点について付言していることを紹介した。
曽我部代行は、名誉感情の侵害という主張については、裁判と同じように、故人に対する申立人の敬愛追慕の情が許容限度を超えて侵害されたかどうかで判断した、と補足した。
松田委員は「申立人がどのような気持ちでこの番組を見たかを想像して判断した」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館ホールで、奥委員長、曽我部代行、松田委員が記者会見を行った。取材したのは29社36人。

(奥委員長)
結論として人権侵害も放送倫理上の問題も認められない。

(曽我部代行)
名誉感情の侵害という主張については、故人に対する申立人の敬愛追慕の情が許容限度を超えて侵害されたかどうかで判断した。

(松田委員)
例のない犯罪に関した例を見ない報道番組であり、議論も難しいものがあった。補足意見にあるように、番組はさまざまな立場の人に色々なことを想起させたと思われ、こうした状況での報道の在り方を考えていく必要を感じた。

質疑応答の概要は以下のとおり。

(質問)
シール貼付という手法の必要性・相当性を判断するうえで、ネット上で意見があった視聴者の違和感などについてどのような議論があったか。

(奥委員長)
そうした意見が多数意見だったのかどうかは分からないが、申立人からも関連する資料が提出されたので検討した。
シールを貼る場面については、放送ではそれ自体を強調してはおらず、色々な配慮もしていたことから問題は認められないとの結論になった。

(質問)
ほかの放送局も特番を放送していたが、申立人はこの番組だけを見たということか。

(奥委員長)
申立人はヒアリングでは、ほかの番組にも問題はあると述べていた。

(質問)
「生きているだけで悪影響」という弁護士の発言は強いことばだと思うが、
問題ないとの結論に至った経緯は。

(奥委員長、曽我部代行)
被害対策弁護団の一員、被害者・遺族との関係といった弁護士の立場から述べた発言であり、度を超えたものとまでは言えないと判断した。敬愛追慕の情は、生きている人に対する批判より許容範囲は広いであろうということ、この事件の特異さもある中で、表現として不相当とは言えないという結論になった。

以上

第282回放送と人権等権利に関する委員会

第282回 – 2020年7月

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理…など

議事の詳細

日時
2020年7月21日(火)午後3時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」 千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案、ヒアリングと審理

フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性が、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では、申立人とフジテレビに対するヒアリングが行われ、双方に対して、とくに取材時の過程を詳しく聞いた。ヒアリングを受けて委員会は審理を行い決定の方向性を固め、決定文の起草に入ることを決めた。

2.「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」事案の審理

札幌テレビは、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づく一時金申請に関する報道を行った。これに対して一時金を申請した男性が申立てた事案。
委員会は、すでに論点整理とヒアリングにおける質問項目を決定しているが、ヒアリングの時期については、新型コロナウイルス感染拡大防止の自粛要請のため、日程の決定を保留してきた。今委員会では、事態の状況と審理の遅延を勘案し、次回委員会で全委員出席のもとヒアリングを行うことを確認した。

3. その他

  • 6月30日に行われた委員会決定第73号「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」の通知公表について報告されたほか、新規申立てについて事務局より報告があり、意見が交わされた。

以上

2020年度 第73号

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年6月30日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは、2018年7月6日に放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』で、オウム真理教の元幹部7人の死刑執行について報じた。
申立人の松本麗華氏はオウム真理教の代表だった松本智津夫元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の名前と顔写真を一覧にしたフリップに「執行」のシールを貼るなどした点で死刑執行をショーのように扱っているとし、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者の発言によって名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、いずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2018年7月6日にフジテレビが放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』(以下、「本件番組」という)である。本件番組は、地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で死刑が確定したオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚ら、教団の元幹部7人の死刑執行に関する情報を、中継やスタジオ解説などを交えて報じた。
 申立人は松本元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の顔写真を一覧にしたフリップに「執行」の表示を印字やシール貼付で行ったことなどの点で、人の命を奪う死刑執行をショーのように扱い、また、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者(被害対策弁護団の伊藤芳朗弁護士)の「松本死刑囚が生きながらえればそれだけ、まあ生きているだけで悪影響というものはある」という発言が放送されたことによって、名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、フジテレビに謝罪を求め、BPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対しフジテレビは、速報情報を生放送で扱う時間的、技術的制約の下、複数の死刑執行の情報等を迅速に分かりやすく伝えたものであり、人権や表現上の配慮を十分行っている、などと説明している。
 まず、本件番組の意義について検討すると、本件番組は、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者や、事件において重要な役割を果たした者の死刑が執行され、または執行されようとしているという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものである。
 人権侵害に関しては、申立人の故人に対する敬愛追慕の情の侵害の有無が問題となる。敬愛追慕の情の違法な侵害があったと言えるかは、諸事情を総合考慮して社会的に妥当な許容限度(受忍限度)を超えたかどうかによって判断する。
 フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害の有無については、申立人の立場からすれば、悲しみに追い打ちをかけられたと感じることも当然だとは思われるものの、生放送で速報情報を扱う時間的、技術的制約の下で、複数の死刑囚の執行情報を視聴者に分かりやすく伝えるという目的の正当性があり、「執行」の文字の大きさや色などについて配慮がなされていることなどからすれば、必要性・相当性も認められる。
 「執行」シールを貼付する場面についても、それは1回だけであり、時間もごく短いもので、貼付行為そのものに注意を促すような出演者の言動もなかったことから、一般視聴者に対してシールの貼付自体が殊更に強い印象を与えたとも言えない。シール貼付には、迅速かつ正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められる。
 以上より、フリップ及び「執行」シール貼付の手法の利用は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を許容限度を超えて侵害するものではない。
 伊藤弁護士の発言による人権侵害については、その発言の趣旨は、現在も教団の後継諸団体に対して松本元死刑囚が影響力を有しており、無差別大量殺人に及ぶ危険性があるという状況の下で、被害対策弁護団の一員として「松本死刑囚の死刑執行までに時間がかかれば、それだけ悪影響はある」というものであり、それに加えて、死刑執行がなされない限り、被害者・遺族に不安を与え続けていたという趣旨も含まれていると、一般視聴者には理解される。同元死刑囚の教団の後継諸団体への影響力の点は、公安審査委員会や公安調査庁の認識を踏まえれば虚偽ではなく、また、本件発言は、同元死刑囚を首謀者として遂行された戦後犯罪史上屈指の重大事件の被害者や遺族の被害感情を代弁する発言の一部として述べられたものであることからすれば、表現として不相当であるとも言えず、本件発言は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を、許容限度を超えて侵害するものではない。
 本件番組には、元死刑囚らの移送された先の拘置所名や、元死刑囚らのかつての教団内での地位などについて誤りがあるが、一般に、生放送中にミスが生じることはありうることであって、また、そのほとんどは最終的には実質的に修正されているため、誤りがあることをもって死刑をショー化する等の意図があったとは言えない。
 放送倫理上の問題について、申立人は、本件番組が死刑をショー化しており、人命を軽視し、視聴者に不快感を与えるなどとして日本民間放送連盟放送基準や放送倫理基本綱領に違反すると主張する。しかし、前述のとおり、本件番組は、極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであるし、「執行」シールを貼るという手法も、死刑の執行をことさらショーのように扱ったものではなく、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 以上のとおり、委員会は、本件番組に人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断する。

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2020年6月30日 第73号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第73号

申立人
松本 麗華
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』
放送日
2018年7月6日(金)
放送時間
午前9時50分~11時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.今回の死刑執行報道の特殊性と本件番組の意義
    • (1) 今回の死刑執行報道の特殊性
    • (2) 本件番組の意義
  • 2.敬愛追慕の情の侵害による人権侵害について
    • (1) 判断方法
    • (2) フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害について
    • (3) 伊藤芳朗弁護士の発言による人権侵害について
    • (4) 事実関係の誤りによる人権侵害について
    • (5) 小括
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月30日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

第281回放送と人権等権利に関する委員会

第281回 – 2020年6月

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理
委員会決定を6月に通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2020年6月16日(火)午後4時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」 千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」 事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫元死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱っており、父親の死が利用されて名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、生放送の制約の中で複数の執行情報等を分かりやすく伝えたもので、人権侵害には当たらないなどと反論している。
今委員会では、担当委員から示された決定文の修正案について、最終的な議論を行ったうえで委員会決定を了承した。通知公表は月内に行う予定。

2.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

札幌テレビが2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで行った「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づく一時金申請に関する報道に対して、一時金申請をした男性が「記者に働きかけられた」として申立てた事案。
前回委員会で、論点整理とヒアリングにおける質問項目を決めており、今委員会では新たな議論は行わず、ヒアリングの時期について、新型コロナウイルス感染拡大防止の自粛要請が一部継続していることから、状況の改善を待って決定する方針を確認した。

3.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、番組では周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性から、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに、誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では、起草担当委員から論点とヒアリング時の質問項目の原案が示され、審理の結果、次回委員会で双方からのヒアリングを実施することになった。

4.その他

  • 6月12日に行われたテレビ埼玉に対する委員会決定第72号「訴訟報道に関する元市議からの申立て」の通知公表について報告された。

以上

2020年6月12日

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定の通知・公表の概要

[通知]
2020年6月12日午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と事案を担当した城戸真亜子委員、廣田智子委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人と申立代理人、テレビ埼玉からは取締役と編成局長が出席した。
奥委員長がまず、決定文の結論について「本件放送に名誉毀損の問題及び放送倫理上の問題は認められない」としたうえで、その判断に至る委員会の考えを、申立人の主張する3つのポイントにそって説明した。自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられた裁判であるかのような誤解を招くとする「ニュースのタイトル」については、ニュースの最初から最後までずっと表示されているタイトルスーパーの一部分であり、全体では誤解を招くようなものではないこと。議員辞職のタイミングが第三者委員会のセクハラ認定の後であるかのような時系列表現については、たとえ視聴者がそう受け取ったとしても、ニュース全体では申立人の裁判での主張を正確に伝えており、問題とはならないこと。そして、市議選への出馬に言及したことについては、「あの議員が性懲りもなくまた立候補する」との印象を与えてもいないし、再出馬を伝えることは地元メディアとして当然の責務と言えること。以上の理由から3点について、それぞれ名誉毀損も放送倫理上の問題もないとの結論に至ったと説明を行った。
続けて廣田委員が、結論は問題なしだが、委員会の議論の中では、テレビ埼玉の対応について懸念を示す意見があり、2箇所でそれを付記する形となっていることを説明した。1点目は、時系列表現の問題について、テレビ埼玉が「局所的な表記の問題」と捉えていることで、結果的に誤解が生じなかったから良いというものではなく、より正確な放送を目指すべきであるとの意見。2点目は、申立人側からの訂正要求に対して、一旦は応じる判断をしながら、交渉がうまく運ばず選挙告示前の訂正ができなかったことについて、正確な情報は有権者にとっても重要であり、申立人の納得が得られなくても、躊躇することなく実施すべきだったとの意見であることを説明した。
城戸委員は、放送局は視聴者のことだけではなく、放送でとりあげられる当事者がどう感じるのかも考えて、番組づくりをすることが大事であると述べた。
決定をうけ申立人は「非常に残念です」と述べ、申立代理人も「一般の受け止めではなく、放送される側への影響を理解してほしかった」と付け加えた。テレビ埼玉は、「ご指摘いただいたことを真摯に受け止め、今後の番組作りにしっかりと生かして行きたい」と述べた。

[公表]
 午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。18社25人が取材を行った。テレビカメラの取材は当該放送局のテレビ埼玉に加え、代表取材としてテレビ東京が行った。通知と同じく、奥委員長が決定の結論とそこに至る考え方を説明し、廣田委員が付記した意見の内容と、城戸委員が補足的な説明を行った。

(奥委員長)
結論的には名誉毀損も放送倫理上の問題も認められない。しかし、要望という形は取らなかったが、議論の中で出た委員の意見の一部を紹介する形でテレビ埼玉に考えて欲しいことを伝える決定となっている。
(廣田委員)
 放送は正確であることが基本。たとえ全体的には問題なくても、客観的な事実の訂正はした方がよかった。
(城戸委員)
 大筋正しければ、小さな表現の違いは「まあいいだろう」ではなく、放送される側にとっては、放送は一生に一度のことで、まさのその小さな表現が問題になることを、放送局は意識してほしい。

以上

2020年度 第72号

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定

2020年6月12日 放送局:テレビ埼玉

見解:問題なし
テレビ埼玉は2019年4月11日の『NEWS545』で、埼玉県内の元市議が提起した損害賠償訴訟のニュースを放送した。その中で、元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であるとして、BPO放送人権員会に申し立てを行った。
委員会は、審理の結果、そのいずれについても、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

テレビ埼玉は、2019年4月11日(木)の夕方のニュース番組『NEWS545』(以下、「本件番組」という)のトップ項目で、さいたま地裁Z支部(Zは放送では実名)で、埼玉県内のX元Y市議会議員(氏名X、市名Yともに放送では実名。以下同様)が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論のニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
元Y市議は、本件放送について以下の3つの点を問題として本件申立てを行ったが、委員会は、審理のうえ、そのいずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
(1) 申立人は、本件放送のタイトルが「元Y市議セクハラ訴訟」となっていること自体が問題であるとし、申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え、申立人の名誉を損なうと主張している。
しかし、本件放送において、一般視聴者が新聞の見出しのように「元Y市議セクハラ訴訟」の部分だけを拾い出して見る事情はないから、本件放送が何を伝えたかは、本件放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する。本件放送は、冒頭で「元Y市議が被害を訴えた女性職員を相手取った裁判」と明確に伝え、裁判では、申立人が女性職員から請求された慰謝料を支払う義務がないことの確認と女性職員に対する損害賠償を求めていること、申立人が女性職員の言うセクハラ被害は事実ではないと意見陳述したことなどを報じている。本件放送から一般視聴者が、この裁判について申立人がセクハラを訴えられたような印象を受けるとは認められず、名誉毀損は問題とならない。
また、「元Y市議セクハラ訴訟」との表示には、正確性と公正性の観点を配慮して工夫の余地があったとは言えるが、同表示は本件放送の一部であり、本件放送では、裁判における申立人の主張である請求の内容や意見陳述の内容が伝えられており、同表示に放送倫理上問題があるとはいえないと判断する。 
(2) 申立人は、実際には第三者委員会のハラスメント認定前に議員辞職しているのに、経緯の説明において「認定され、辞職しました」というナレーションがなされたことで、一般視聴者は、第三者委員会にハラスメントを認定されたのを受けて議員を辞職したと受け止め、議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等を与え名誉が損なわれたと主張している。
このナレーションによって、一般視聴者が、申立人はハラスメントを認定され、辞職したと、ナレーションの順番どおりの時系列で受け止める可能性はある。しかし、そのことを前提としても、本件放送は、申立人がハラスメントの事実を否定し、辞職理由について騒ぎに市議会を巻き込みたくなかったためであり断じてハラスメントの行為を認めたわけではないと意見陳述したことを報じており、本件放送によって一般視聴者が、申立人が議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等をするとは認められず、名誉毀損は問題とならない。同様の理由で、放送倫理上の問題もない。
この時系列の点について、申立人は代理人弁護士を介して本件放送直後に訂正の申入れをしたが、お詫びと訂正の放送は選挙投開票翌日となった。時間的制約などから当日の本件番組内で訂正しなかったことは一定程度理解できる。翌日、告示前に同じ時間帯の番組内でお詫びと訂正の放送をする選択があってしかるべきだったとは言えるが、本件放送当日夜のニュースでハラスメント認定と辞職の時系列がはっきりとわかるように修正して放送していること、本件放送は申立人の社会的評価を低下させるものとは認められないことから、それをしなかったことをもって放送倫理上問題があるとまではいえないと判断する。
(3) 申立人は、本件放送で次の市議会議員選挙への出馬に言及したことは、いくつものハラスメントを認定されて議員を辞職したばかりの元市議が性懲りもなく立候補するという印象を視聴者に与える選挙妨害であると主張している。
しかし、市議選への出馬は申立人自身が述べ、すでに周知されていたことであるし、本件放送では、申立人の提起した裁判の内容や意見陳述の内容を報じたうえで伝えており、申立人の市議選出馬に言及しても、申立人の社会的評価が低下することはないし、性懲りもなく立候補するという印象を一般視聴者に与えてもいない。市議選への出馬に言及したことは名誉毀損として問題にならないし、選挙を妨害するとは認められない。

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2020年6月12日 第72号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第72号

申立人
埼玉県在住 元市議会議員
被申立人
株式会社 テレビ埼玉
苦情の対象となった番組
『NEWS545』
放送日
2019年4月11日(木)
放送時間
午後5時45分~6時15分のうち午後5時45分~5時47分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
      • ア 「本件放送は何を伝えたか」をどう判断するか
      • イ 本件放送は何を伝えたか、申立人の社会的評価を低下させたか
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 市議選出馬への言及に問題はなかったか
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 本件番組中の訂正要求への対応とその後の措置について問題はなかったか
      • ア 事実経過
      • イ 委員会の判断

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月12日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

第280回放送と人権等権利に関する委員会

第280回 – 2020年5月

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2020年5月19日(火)午後4時~6時30分
場所
新型コロナウイルス対策のためオンラインにて開催
(主会場):「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
(主会場):奥委員長
(参加者):市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫元死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱っており、父親の死が利用されて名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、生放送の制約の中で複数の執行情報等を分かりやすく伝えたもので、人権侵害には当たらないなどと反論している。
今委員会では、担当委員から決定文の修正案が示され、意見交換を行った。この中では、各論点での人権侵害の有無に加え、放送全体を踏まえた放送倫理上の問題についての検討をめぐり活発な議論が交わされた。
今回の議論をもとに再度決定文案の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することとなった。

2.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

 札幌テレビは、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、男性が家で申請書類を記入し、北海道庁で申請手続きをする様子などを放送した。この放送に対して取材の対象となった男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せるなど、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。
申立てに対して札幌テレビは、放送と取材は記者との信頼関係があったからこそ可能となったものであり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
今委員会では、ヒアリング開催に向けた論点と質問項目について起草担当委員から案が示され、委員会の議論をへて決定した。ただ、実施時期については、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が継続しており、今後の状況を見極めて決めることを確認した。

3.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、番組では周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性が、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに、誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では必要な書面が整ったことを確認し、実質的な審理を始めるため、起草担当委員が論点の整理を行うことになった。

4.その他

  • テレビ埼玉が2019年4月11日『NEWS545』で放送した損害賠償訴訟のニュースを巡り、元市議が申し立てた「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する委員会決定は、前回委員会(3月)で了承された。ただ、通知公表は、新型コロナウイルスの影響でまだ行われておらず、緊急事態宣言解除後速やかに行う方針を確認した。

以上

2019年11月26日

中部地区意見交換会

放送委人権委員会の「中部地区意見交換会」が11月26日に名古屋市で開催された。BPOからは濱田理事長、放送人権委員会の奥委員長ら委員9名が出席。また、9県の民放及びNHK放送局からおよそ70名が参加した。意見交換会は午後1時30分から午後5時まで行われた。
前半は人権委員会から最近の決定についての説明、後半は事前のアンケートを元に「実名匿名問題」や「モザイク・ボカシ」の問題などについて意見を交換した。

〇冒頭濱田理事長からBPOの役割について説明があった。

<濱田理事長>
社会の中では色々な問題が起きるが、それをお上の手を借りるのではなく、自分たちの手で解決するというBPOの仕組みは、市民社会における問題解決の望ましいモデル。
自主規制・自律を行う放送人を応援するのが第三者機関としてのBPO。委員会決定をマニュアル化するのではなく、自分たちの頭で考え、議論をすることが一番大切。決定は結論だけが報道されることが多いが、大事なことは結論に至るまでの議論。その過程も含めて決定文を読み、番組作りに当たって何が大切なのかを考えていただきたい。
放送人はある意味特権を持った存在。ネット時代で表現が非常に軽くなっているといわれる中、「事実に真摯に向き合う姿勢」「議論や思考の深み」「全体感を持った視点」「多様性に対するリスペクト」などを大切にし、緊張感を持って表現行為の手本に是非なってもらいたい。緊張感を持つとことは、しんどいことだが、それを持つことが放送に携わる者の誇りであり、矜持。それが放送の自由と自律を支える。第三者の目を借りて、この緊張感を保つ機会を持つところにBPOの根源的な役割があると思う。

〇直近の放送人権委員会の決定についての報告。

まず「芸能ニュースに対する申立て」についてVTR視聴後、廣田委員が決定について解説し、曽我部代行が一部補足した。

<廣田委員>
申立人は事務所からのパワハラを理由にした契約解除に対して地位保全の仮処分を申し立て、その主張が認められた。にもかかかわらず放送は事務所側の主張を強調して取り上げ、自分の名誉・信用が著しく毀損したと主張した。
番組は視聴者に対してパワハラがあったと思わせ、申立人の社会的評価を低下させたと委員会は判断した。しかし、本件は放送倫理上の問題として取り上げた方が、今後の正確な放送と放送倫理の高揚への寄与のために有益であると判断し、放送倫理上の問題の有無を審理した。
本件は仮処分決定に言及しなかったことによって、公平・公正性、正確性を欠き、放送倫理上の問題がある。また使用された過去の映像についても、パワハラが実際に存在したという印象を強める効果を持ち、これも放送倫理上の問題があると判断した。
芸能情報番組の中で、芸能人は多少不正確な放送でも甘受すべきだという考えもあるが、この件は申立人の芸能人生命に関わるとして、法的措置にまで訴えていることからすれば、より慎重な配慮が必要だった。
情報番組やバラエティ番組には、表現の自由の枠を広げるという役割もある。息苦しい世の中になり大変だと思うが、細部にまで注意を払って、これまでになかった番組を作っていただきたい。

<曽我部代行>
今回は、一つの事案を人権侵害の問題として扱うのか、放送倫理上の問題として扱うのかについて、事案全体を見て委員会が判断できるということを定式化した。今後はこのように事案全体を見て判断することになる。今回一般論的に示した点は重要な判断だと思う。

〇続いて「情報公開請求に基づく報道に対する申し立て」についてVTR視聴後、紙谷委員から解説があり、二関委員、奥委員長からから補足説明があった。

<紙谷委員>
大学の男性教員が、学生に対して侮辱的な発言をしたことが、アカデミックハラスメントと認定され、訓告になった。NHKは情報公開請求で入手した資料を元にこれをニュースにした。申立人は、ハラスメントの認定と措置が不当なものであり、そもそもの判断がが間違っていた。放送局はもっと調べて正確な放送をすべきで、放送の結果申立人は教育研究活動が困難な状況に置かれていると主張した。
放送では秋田にある国公立大学のどこかの職員ということで、学部学科、職位、肩書きは一切出ていない。NHKは個別の具体的な名前を知らなかった。
大学関係者にはこれが申立人であるということは容易に特定出来たと思われるが、放送では今まで知られていた情報に追加するような新しい情報はなく、この番組によって申立人の社会的評価が追加的に下がっている訳ではないと判断した。
大学外の人については、申立人自身も、外部に新しく情報が伝わって自分の評価が低くなったということは主張していない。
こうしたことから委員会としては、この放送が申立人について社会的評価を新たに低下させるものではなく、名誉棄損に当たらないと結論づけた。
次に放送倫理上の問題について。申立人は訓告の原因となった出来事は虚偽であり、その情報を元にした放送の問題は大きいと主張したが、放送局は情報公開請求で入手した情報に加え、訓告について判断変更や取り消しがなかったかなど追加の取材もしていた。対立する見方がある場合には、双方に取材すべきであるが、今回は名前が特定出来ていなかったのでそれはできなかった。放送局は基本的な事実関係の確認、新しい情報を求めるための追加取材を行い、単に情報公開で得たものを流している訳ではなく、正確性、真実に迫る努力などの観点に照らして、放送倫理上の問題もないと判断した。

<二関委員>
特定性の点につき説明したい。委員会としては一般視聴者は確かに分からないと判断したが、放送で取り上げられた場合、その人の生活圏の中で知っている人たちからどう見られ、受け止められるかが大事なので、一般の人が判断特定出来るかというだけが問題になるわけではない。ここは非常に大事なところだと思うので、改めて強調したい。

<奥委員長>
情報公開請求で得た情報によって、どうニュースを作るかという問題についてこの委員会が扱った初めての事例。
社会を良くしていくために情報公開請求はどんどん使う必要があり、報道に役立てるべきだが、出てきた情報を右から左に流すだけで良いわけではない。決定ではこの点についても指摘していることを補足したい。

〇続いて最近の人権委員会の事例について奥委員長から報告があった。

<奥委員長>
放送局、報道機関が人権という問題とどう立ち向かい、付き合うのかますます難しい問題になってきているということを指摘したい。
人権は進化する。かつては人権として把握されていなかったものが、ある時期になると人権という形で社会的に構築されてくる。
かつてはセクハラ、パワハラという言葉自体無かったし、昔は放送局の現場などでは今言うパワハラというようなことは日常茶飯事だったかもしれないが、人権問題として浮上することは無かった。それがある時期から浮上してきている。
一方でメディア・報道機関はそういう新しい人権を、いわば作り出して行くという立場でもある。そこが非常に両義的なところ。
例えば性的マイノリティの人たちの人権や権利問題もかつては埋もれていた。それを見出して世の中に広め、人権を進化させていくという役割は、やはりメディアにある。そういう両義的な存在としてのメディアは、すごく重要であると同時にますます難しくなってきている。
皆さんが直面するのは日々新しいこと。マニュアルがある訳ではない。放送倫理とは一体何なのか。見事に答える人はなかなかいない。私ももちろん分からない。しかし重要なのは、職業人としてここまで行ってはいけない。これはまずいというその感覚、その理性・感性。それを日々しっかり磨いていただきたい。皆さんは大変難しい仕事を担っているということを、改めて強調しておきたい。

〇後半は、BPOの見解を示すのではなく、事前のアンケートで関心の高かった「実名匿名報道」と「映りこみやモザイク」の問題について意見を交換した。

まず、「実名・匿名」問題について、曽我部代行から問題提起があった。

<曽我部委員長代行>
(参考資料)
新聞研究2019年11月(819)号16頁
曽我部「報道界挙げて社会と対話を ネット時代の被害者報道と実名報道原則」(コピーを配布)
曽我部「『実名報道』原則の再構築に向けて『論拠』と報道被害への対応を明確に」Journalism317号(2016年)83頁
・http://hdl.handle.net/2433/216654

実名・匿名の問題は、放送局も含めて報道機関が改めてあり方を考える時期に来ている。考えた結果が実名原則維持だとしても、社会に向けてその理由を納得いく形で説明することが強く求められている。
きょうはルールを提案するのではなく、考えるためのきっかけ作りの話をしたい。
放送の自由、報道の自由、表現の自由は非常に重要なもので、国は容易に規制してはいけない。ただ、これは、報道・放送の自由に限界がない、無限界に自由があるということを意味しない。
最近被害者の実名報道が話題になることが多いが、この話は今に始まったものではなく、被害者支援は90年代頃から重要性が主張され、制度整備が進んできた。
「犯罪被害者等基本法」が2004年に制定され、警察や検察庁における被害者支援の体制も徐々に手厚いものになってきている。かつての刑事訴訟の考え方では、被害者には地位がなかった。刑事事件は、「国家が加害者を処罰する・・以上」と被害者が出る幕はなかったが今は様変わりしている。
被害者の痛みや苦痛の学問的解明も進んだ。被害者の痛みは多様で、時間によって変わるとも言われる。その中で、報道によってもたらされる痛みが少なくないということも明らかにされてきている。
インターネットの普及によって、被害が増幅することもある。またメディアが酷い取材、傍若無人な振る舞いをしたとツイッターに書かれ、バッシングされることもある。報道被害を受けた人が酷い仕打ちを受けたと広がることもある。

その一方、メディア側の「実名報道原則」は揺らいでいない。報道被害に対する問題意識の高まりとは無縁に実名報道原則は続いており、今臨界点に達しているのではないか。
もちろん報道側にも全く問題意識がなかったわけではなく、新聞協会では、『実名と報道』という冊子を作りその立場を示している。
※日本新聞協会『実名と報道』(2006年)
・https://www.pressnet.or.jp/publication/book/pdf/jitsumei.pdf

ここでは、警察が被害者や加害者、被疑者の名前を出すか出さないかという発表段階と、メディアが報道するかどうかの報道段階の2つの段階を区別している。
発表段階は、警察は基本的には全て実名で発表すべきだという立場。報道段階では、原則として実名で報道するものの、ケースバイケースで報道機関が責任を持って実名か匿名かを判断するという立場を示している。
その論拠が詳細に書かれているが、今問われているのはこれらの論拠に説得力があるのかどうかということ。
論拠の一つは取材を深める起点となるという話。実名がなければそれ以上取材ができないということを論拠としている。
メディアスクラムについては、各社とも、うちは節度を持ってやっているので問題ない言われるかもしれないが、1社1社に節度はあっても、何社も来られたら、相手方としてはどうなのか。自社が節度を持ってやっているかどうかとは別に、メディア全体で対処しないといけない問題。
次に、実名発表の判断権を警察が持つことが問題だという考え方について。「犯罪被害者等基本計画に関する 声明」が2005年に出されている(判断ガイドP449)。閣議決定された犯罪被害者等基本計画の中に、犯罪被害者の氏名については警察がプライバシー保護と公表の公益性を勘案して適切に判断するいう一節がある。
警察に判断権を委ねる形になったことに対して、メディアからは強い批判があった。当時のBRCもそういう立場で批判をしている。
しかし、警察も個人情報保護法に拘束されているので、無条件に実名を発表しろというのは現実的ではない。被害者の実名を発表するということは、警察側から見れば、自分の持っている個人情報を無条件で外の第三者に提供するということ。個人情報保護法の考え方からすると、到底説明できない措置で、警察の一定の判断が入るのは、個人情報保護法というものがある以上、やむを得ないのではないか。
ただ、プライバシー保護と公益性との間で適切な判断は必要。警察が必要以上に発表しないとなれば、メディア側から適正な判断を促すことが求められる。

次に実名報道の論拠。「実名による報道は訴求力がある」という主張。もちろん、一般的にはそう言えるが、どうしても匿名にして欲しいと言っている人に対して、実名のほうが訴求力があるから実名で行きますと説明できるのか。
報道機関の方々は、「結局、報道被害を受けているのはネットで叩かれているからだ」と言う。その裏には、報道の責任ではないという含みがあるようだが、そう言えるのか。
自社は節度を持って取材しているから良いという主張。あるいは、叩かれるのはネットのせいで自社のせいではないという、責任範囲を狭く捉える発想が透けて見える。そこは、もう少し大きな視点で考えることが必要だと思う。
実名匿名を判断するルールそのものは皆さんでお考えいただくことだと思うので、アプローチについて話したい。
1つは、「論拠を明確にすべき」ということ。例えば、神戸で起きた学校の教師のいじめの事件は匿名で報道されているが、「実名報道原則」の論拠からして何故匿名なのかという疑問は、視聴者から当然出てくる。これはどう説明するのか。神戸の事件は匿名だけど、京アニの被害者は実名ですと、これはどう整合的に説明できるのか。それに答えていく必要がある。
次に、ルールを明確化すべきということ。ルールを作ると何が良いか。判断の基準になるというのはもちろんだが、社会に向けての説明のツールにもなるわけで、透明性、説明責任を担保する意味からもルールは必要。あらゆるケースを当てはめれば機械的に答えが出るというようなルール作りは無理にしても、ある程度指針となるようなものを明文化して公にすることが望ましい。
また、ルールが破られた場合に担保するような仕組みや、被害者側の声や苦情に対応できるような仕組みや手続きを設けることも信頼を得る所以ではないか。
個々の社の取り組みだけではなく、報道界をあげて取り組みをすることが必要。こうした取り組みを通じて、社会の報道に対する信頼を繋ぎとめることが求められているのではないかと思う。

〇この後、出席者と委員の間で意見交換が行われた。

<愛知県の放送局>。
メディアの側も社会との対話、説明責任が求められていると実感している。取材の現場で人権についての抗議を受けたり、企業からも放送内容に対して激しい抗議を受けることがある。メディア環境が変わってきて、人権も進化していると実感している。
実名報道については、原則実名だとは思うが、一方で望まない人への判断をどうするのか考えさせられるケースは、京アニや座間の事件など色々あった。個人的なには曽我部委員の言われるようにメディアも説明責任が求められていると感じる。

<愛知県の放送局>
京アニ事件の被害者の氏名公表に関して、新聞各社が自社の考えを記事として掲載した。メディア側から実名報道に対する考え方を外に出すのは珍しいケースだった。
メディア側から発言すると、どちらかと言えば批判的な目で評価され、視聴者と共通の意識を持つことができない。どうせ放送局の方便だろうと思われてしまう。
個人情報が色々な形で収集され、データとして活用されていく中で、新たなリテラシーが求められるのではないか。これは、もちろん、放送局からのアプローチもだけでなく、ネットを含めた広く社会全体のアプローチすることが大きな課題になると思う。

<國森委員>
原則としては、公権力が名前も含めた情報を持つのではなくて、メディアのほうが情報を得た上で報道をどうするかは、各々の判断に基づいてするべきだと思う。
ただし、ネットの普及など社会が変わってきている中で、視聴者や一般市民のメディアに対する信頼が少し失われている部分もあると感じている。
名前も含めた公権力からの情報をどれだけ把握する権利がメディアにあるのかを考えないといけない。時代に合わせた透明性や説明責任を見せることが必要になってくると思う。
代表取材とか、苦情申立ての窓口など、色々なやり方があるとは思うが、事件や災害で命を失った方の遺族や、実際に報道被害に遭われた関係者の方々の意見も交えながら、放送界、メディア業界としての再構築のあり方を考える、そんなきっかけができればいい。

<愛知県の放送局>
京アニの実名報道については、社内や系列でも議論した。
原則実名ということを改めて確認はしたものの、それを貫けない現場の事情もある。一方で、世間に理解されないからといって匿名社会で本当に良いのか悩ましい。
我々の世代は原則実名と言っていれば済んだが、今は現場に行くと、人の不幸を飯の種にしているのか、このマスコミどもめ、などと言われ、若い記者は悩んでいる。
わが社では京アニ事件から1ヶ月という番組を放送し、実名報道についても取り上げた。放送後、視聴者から「言いたいことはわかったが、京アニの被害者を実名で出す以前に、話題になっていたあおり運転の容疑者のモザイクをとっとと外せ。」と言われて大変驚いた。
我々の考える人権と、世間の人達の意識が乖離してしまっているのではないか。そこを丁寧にやらないと、犯罪者はとっとと顔を晒せというような、過激な意見が広がりかねない。この問題については議論を進めながら色々な形で、実名報道の大切さを訴えて行きたい。

<奥委員長>
先ほど、曽我部委員が、警察の持っている個人情報を無条件で第三者に提供するのは個人情報保護法の問題で難しいといわれたが、これを認めてしまうと、実名にするか匿名にするかを警察が判断することになる。すると、報道機関が持っている役割が十分果たせるのかということが問題になる。
一方でメディアの側も考え方を再構築して市民の理解を得なければならない状況は確かにある。メディアスクラムを起さないようにするかとか、遺族に対しては、何日間かは直接取材しないとか、そういうことを報道機関の中で決める必要はある。しかし、実名か匿名かを判断するのは警察だと認めることはできない。

<廣田委員>
私も奥委員長と同様に考える。日弁連も、実名を報道するか否かは、警察から情報の提供を受けたマスメディアが自らの責任において自主的・自律的に決定すべき事柄であって、警察の判断で匿名発表を行うことは是認できないとの意見である。
大変だと思うが、メディアにはこの状況下でも実名報道の原則を貫いて欲しい。表現の自由は社会の有り様と直結している。どういう社会が望ましい社会なのか考えた時に、何もかもが匿名になってしまうのではなく、名前を出して物が言えるような社会でないといけない。どうか踏ん張って、説明をして、透明性を持って、実名報道を貫いていただきたい。
説明しても放送局の方便だと言われるということだが、社内での悩みを外に出したらどうか。皆さんは、ジャーナリストのプロとして、悩みは外に出さないという発想で来ていると思うが、今社内の議論も外に出して、真剣に取り組んで実名で報じるということを外に出して頂きたい。

<水野委員>
私が大学で接する学生たちに聞いた。京アニの実名・匿名の問題で遺族が匿名を求めたり、警察が実名の発表を躊躇したり、報道機関側が実名を報道することについてどう思うかと。9割程度が匿名でいいと答えた。警察がその判断権を持つのも当然だという意見。メディアの理屈と、普通の人たちの考え方は噛み合っていないと感じる。しかし、解決策のないまま放置すれば、その開きはさらに拡大する。説明の仕方を工夫する必要があるのではないか。
「知る権利」を実名報道の根拠としているが、これは理解しにくい。亡くなった方の実名を知りたいとは思わない。それを知る権利を主張する気もないと言われる。それに対して例えばこのように言ってみたらどうか。報道機関にも悲しむ権利があって、あなた方はそうじゃないかもしれないけど、一般視聴者の中には、実名を知ることによって悲しみたい人もいると。このほうに、少し感情を入れたような理屈で一般視聴者に近い形の理屈付けになるのではないか。
記録を残すために実名が必要だという理屈もあるが、これも突き刺さりにくい。単に記録を残すためではなくて、思い出す権利があると言ったらどうか。ある一定期間経ったあとに思い出して悼むには、実名が必要でしょうと。それは必ずしも遺族だけじゃなくて、関係者、友人、あるいは、その時には全く無関係だった人でも、数年後には当事者にかかわる立場になるかもしれない。その人たちの思い出す権利や悼む権利、悲しむ権利、それらを代表して、自分たちは報道していると。
今までの報道機関の理屈だけを繰り返していては、現状はなかなか改善には向かないのではないか。

<二関委員>
匿名と実名の問題は、情報の非対称性の問題。国家権力や企業は多くの情報を持っていて、一般市民だけが知らされていない。一方で自分の情報は知られているという、そうい立場に置かれる。自分の情報をコントロールする権利が本来のプライバシーの現代的意味だが逆転が進んでいる。情報を出すか出さないかを権力が決めるのはおかしい。

〇続けて「映像の映り込み・ボカシ」について意見を交わした。

<愛知県の放送局>
突然走ってきた男が車のフロントガラスを叩き割り、後日逮捕された。提供されたドライブレコーダーの映像を使う際に男の顔にモザイクをかける局とかけない局があった。
外部から提供される映像については信憑性の問題があるが、この場合には問題ないと判断できた。では果たしてモザイクをかけるべきなのかどうかと。また、例えば立て籠もりの取材で、犯人確保で出て来た時にモザイクをかけるのは多分現実的ではないと思う。

<石川県の放送局>
判断に迷った事例があった。交通事故で、1人がなくなり1人がけがをして救急車で運ばれた。ケガ人が搬送されたシーンを取材して放送した。映像は救急隊員が主で、ストレッチャーが少し映っているような程度だったが、亡くなった方のご遺族から、悲しい映像を流すのはいかがなものかという強い抗議があった。
事故のニュースをを放送するのは、こういう事故を起こしてほしくはないという使命感がある。ご遺族にはいろいろとご説明をして理解は得たが、どこまで事故の悲惨さを伝えていくか悩むところ。

<愛知県の放送局>
広めの映像や、本来の趣旨とは関係ない人が画面に映り込んでいる時にモザイクをかけるケースが増えている。ある程度の配慮は必要だが、どこまで配慮しなくてはならないのか。 人権は進化するというお話もあったが、かつてはそういうことはなかった。面倒臭いことにならないためにやっておこうと放送局の方が自主規制してしまっているのならば、我々の仕事として今後問題を感じる。過去の映像を使用する場合もあるが、過去の映像にも遡ってそういうことを対応すべきかなど。困惑している。

<市川委員長代行>
モザイクやボカシの問題は、先程の実名匿名問題と通底する。法律的に言うとプライバシー権、肖像権の問題。
人権委員会の判断ガイドに沿って言うと、プラバイシーの権利は、69ページ。「本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考える権利」。肖像権については71ページ「何人もその承諾なしにみだりにその容貌肢体を撮影されたり、撮影された肖像写真や映像を公表されない権利」と記されている。
両方とも「みだりに」という言葉が入っている。色々な事情を含めて評価した上で、これが「みだり」なのどうか、同意のあるなしだけではなく、色々な事情を評価した上で権利侵害になるのかを判断する。
BPOの考え方を一般化するのは難しいが、一つの参考としては、「顔なしインタビュー等についての要望」(444ページ)ここでは、安易な顔なしインタビューについて、理由なく、ボカシを入れたり、顔を切ってしまうやり方はよくない。基本的には報道は真実性を担保するために、ありのままに全てを映すのが原則。したがって、ボカシや、匿名性についても行き過ぎた社会の匿名化に注意を促している。(145ページ)
ただ、一旦プライバシー保護が必要と判断した場合には、徹底して保護をする。モザイクをかけるのであれば、中途半端なモザイク、ボカシではない形にするべきという考え方。
先程の「みだりに」をどう評価するのか。一つの要素は同意の有無だが、撮っていいと明確に示されてなかったからといって権利侵害になるわけではない。しかし、明確な拒否があれば、その明確な拒否を乗り越えるだけの理由や公共性・公益性が必要になる。
その他に場所や状況の問題。公的な場所か、私的な領域か。その場所にいること自体が明らかになることが憚られるような特定の場所か、個人の秘匿性の高いような場所かどうか。さらに、何をしているところかということや時間の問題や。それに加えてテーマの公共性・公益性。こういったものを総合的に考えて、ここは隠す必要はないと判断すればそのまま映すべき。
映り込みについて。同意があったかどうかは明確ではないにしても、公道というオープンな場所で映りこむ場合。そこで映ったことによって何が明らかになるかというと、そこにその人がいたということしか分からない。その人にとっての不利益は大きくない。しかも通過する一瞬のこと。そう考えると、基本的にはその場面をいちいちモザイクをかけたり、ボカシを入れる必要はないのではないか。
一方、加害者や被疑者の場合についてはどうか。原則的には実名で顔出しだと思う。ただ軽微な犯罪の場合でも実名を出すのか。あるいは捕まって手錠をかけられて、引致されていくところをそのまま撮るのかということになると考えるべき点はある。
人権委員会の例でいえば「無許可スナック摘発報道への申立て」(判断ガイド253ページ)のケース。これは風営法違反で捕まった案件で、容疑者の顔や警察に連れていかれるところまで撮影され放送された。ちょっとやりすぎだという判断はあり得る。
被害者の場合も実名で顔出しが原則という基本は変わらないと私は考えている。最近は被害者の権利性が認識されるようになってきた。被害者のプライバシーや遺族の感情を何らかの形で保護するアプローチは必要だと思う。モザイクをかける必要があるかどうかについては、やはり事案による。例えば座間の事件などは殺された女性の遺族等のことを考えると、隠すのもやむを得なかったのではないか。具体的な事情を考えることが必要。
ネットとの関連について。ネットに上げると伝播しやすくなる。放送後、更に1ヶ月とか2ヶ月流れることになるとになると、放送だけの場合とは状況は違う。ネットに上げる場合の処理は、放送とは別に考える場面もあり得るのではないかと思う。

<城戸委員>
各局それぞれに映した理由があるはず。この映像を流すことに意味があると説明ができれば、映していいのではないかと思う。最近過敏になっている方が多い。例えば、街頭インタビューで後ろに映り込んでしまった人から抗議が来るというようなこともよく耳にする。それをぼかしている映像が多いが、それは歪な感じがする。
テレビは時代と共に変化していくもの。街頭インタビューでも、聞いている本人だけでなく、周りに映り込んでいる状況、場所や時間、こういう人たちが周りにいる中で聞いた意見だということも視聴者は受け取っている。受け手としては、周りに映り込んだ人たちも含めて伝えて欲しい事実ではないか。
今はあちこちに防犯カメラがあって、日々暮らしている中でも撮られているかもしれないと、一般の方々も映り込むことに対しての感覚は持っているはず。たまたま映り込んで抗議してやろうという人も中にはいるかもしれないが。カメラが多くある時代の中でどう振る舞うかということも、世の中全体が感覚として持っていて然るべきという気もする。
ある局の方は、只今撮影していますという看板を掲げながら取材をすると言われていた。もうそれが常識なのかもしれないが、気をつけていればそんなに萎縮する必要はないのではないか。抗議があったときに説明ができるようにしておけばいい。

<愛知県の放送局>
モザイクをかけるケースが増えれば増えるほど、逆になぜモザイクをかけないのかというクレームが増える。撮られたくない方たちを映してしまった時は、そのシーンは一切使わないが、全員に許諾がもらえるものではない。例えば渋谷のハロウィンや、湘南の海開きなどの映像にモザイクをかければ、画面の大半がモザイクだらけの映像になる。
もちろん嫌がる方は撮らないし、カメラがあることを明らかにするなどケアはしているが、その他の方はまあ受忍限度の範囲内でとして考えたい。

〇ネットとの関連について

<愛知県の放送局>
誤った情報を流してしまった時など、ネットからも消してくださいと言われる。自社の媒体を消したところで、ネットで拡散したものは消しきれない。誤っていなくても、マイナスの情報は永遠にネット上に残り続ける。そのインパクトの大きさと、報道側の言う実名報道の論拠との間のギャップが、今どんどん広がっていることが一端にあるのではないか。

<二関委員>
放送したものがネットに転載されるケース。これは難しい問題。誤った情報ということで、名誉棄損の問題として考えると、因果関係の範囲のことについての責任という話になるが、消せるとこまで消してもそれ以上残ってしまうことは、ある意味仕方がない。

<曽我部代行>
ネットとの関連で言うと、人権委員会で取り扱った案件で「大津いじめ事件報道に対する申立て」(判断ガイド277ページ)がある。
静止画がネットに載せられたこと自体は著作権侵害の行為なで、放送局は何ら関知していない。この点では放送局にはプラバイシー侵害の責任は問えない。名誉棄損についても同様で、これが標準的な法律論としての考え方。ただ法律論を離れて考えると、元々は放送に原因があるわけで、法的責任はないので知りませんと言えるのかどうか。できる範囲で削除等の協力、努力はするのが望ましい姿勢だと思う。

<奥委員長>
この案件は、テレビではわからないが、少年の名前が画面の端に出ていた。静止画にして拡大すると、実名が分かってしまった。
少年の名前にボカシをかけていれば問題がなかったわけで、テレビで見たら分からなかったといって、それをスルーたのはネット社会の報道の在り方としておかしいのでないかと指摘した。ネット時代なので、そういうことも考えながらテレビも作らなければならない時代になっている。違法アップロードなどネットに流れるものに、テレビ局がいちいち関与はできないけれども、そういう情報の伝わり方についても、頭に入れながら番組を作っていくっていくことが必要な時代だろうということを申し上げたい。

以上

第279回放送と人権等権利に関する委員会

第279回 – 2020年3月

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」を審理
委員会決定を4月に通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2020年3月17日(火)午後4時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫元死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対し松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱っており、父親の死が利用されて名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、生放送の制約の中で複数の執行情報等を分かりやすく伝えたもので、人権侵害には当たらないなどと反論している。
今委員会では、担当委員から決定文の草案が提出されて意見交換を行った。これらの意見を踏まえて修正案を作成し、次回委員会で引き続き検討することとした。

2.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

本事案は、テレビ埼玉が19年4月11日の『NEWS545』で放送した損害賠償訴訟のニュースを巡り元市議が申し立てたもの。元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられた。また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であると主張した。これに対しテレビ埼玉は、放送では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題となるものではないと反論している。テレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実として、同日夜のニュースで言葉を修正した放送を行い、また市議会選挙直後の4月22日の『NEWS545』でお詫びと訂正を行った。
今委員会では、前回審理を受けて修正された決定文案を委員長が説明し、続けて文全体の詳細な確認が行われた。同時に委員の意見交換も行われ、若干の修正を加えたうえで、決定内容は委員会で承認され、4月に通知・公表することになった。

3.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

札幌テレビは、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、男性が家で申請書類を記入し、北海道庁での申請手続きをする様子などを放送した。この放送に対して取材の対象となった男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「申請に行きましょう」などと説明し、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。
これに対して札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ取材が可能となったものであり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
今委員会では、ヒアリング開催に向けて手続きを進める方針が確認され、起草担当委員が論点と質問項目の検討に入ることになった。ただ、実施時期については、新型コロナウイルスの感染拡大という状況を見極めながら決めることとなった。

4.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

必要な書面を待っている状態のため実質的な審理は行われなかった。
フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、番組では、周辺住民のインタビューが流された。
この放送でインタビューに答えた女性から、突然マイクを向けられ質問された、一度も目撃したことがなく理解に苦しむ内容なのに、誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。

5. その他

  • 運営規則改正について報告
    改正が理事会で承認されたことを受け、改正内容の送付による会員社への通知、ウェブサイト掲載による告知を経て、4月1日から施行することが報告された。

  • 新型コロナウイルスに関連した報告
    新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、事務局の対応や委員会運営上の留意点等、事務局より説明があった。

以上

2020年3月24日

放送人権委員会、運営規則の一部改正

BPOが今年度行った認知度調査において、BPOを知る人が70%と大幅に増える一方、組織の設立趣旨や活動内容などについて理解が深まっていない実態が浮かび上がった。こうした状況の中で、放送人権委員会に届く申立ても、提出件数が増加し内容が複雑化する傾向がみられることから、委員会において申立ての扱いについて検討が重ねられた。
委員会の議論では、申立てが審理要請案件として委員会に諮られた際、委員会の議論の末、審理入りをしないと決定するには運営規則第5条「苦情の取り扱い基準」に明文規定がないこと等が指摘された。こうした状況を改善するべく委員会において議論され、第278回委員会で「苦情の取り扱い基準」の改正案をまとめ議決した。その後、規約に基づき、理事会で改正が承認された。改正内容は、3月中旬に会員社に対して文書をもって通知されたほか、一般にはBPOのウェブサイトに3月24日より掲載し告知される。改正した運営規則は4月1日から施行する。
この改正は、申し立ての要件に新たに制限を加えるものではなく、これまでどおり権利の侵害を受けたという人から申立てを受け付け、そのうえで審理入りするかどうか委員会が議論し判断するが、改正は委員会の判断の拠り所を明確にしたもの。新年度から施行するこの改正は、4月1日以降に事務局に届いた申し立てから適用する。(改正規則の全文はこちら)pdf

以上

2020年2月14日

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」に関する委員会決定の通知・公表

[通知]
2020年2月14日(金)午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と、事案を担当した市川正司委員長代行と水野剛也委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人と、被申立人のテレビ東京からは報道局長ら3人が出席した。
奥委員長が決定文にそって説明し、結論について「プライバシー、肖像権の侵害はなく、放送倫理上の問題もない。しかし、要望はある」とした上で、「アレフの動向を伝えたテレビ東京の番組には、全体としては公共性・公益性があると考える。だが、アレフが団体規制法の観察対象だからといって、申立人個人の人権を侵害してよいということにはならない。個人のプライバシー保護を徹底させることは、放送の目的と何ら矛盾することではなく、両立しうることであり、それは本件ニュースにもあてはまる。今回、申立人の音声の一部が加工されないまま放送されたことを、テレビ東京は編集上のミスであり単なる不体裁と説明しているが、これをプライバシー保護に関わる問題と受け止め、ボカシの濃さや音声加工についての技術的な処理の問題、事前のチェック体制など段取りの問題、プライバシー保護に対する関係者の意識の問題など、種々の観点から再発防止に向けた取り組みを強めることを要望する」と述べた。
続いて、市川委員長代行が補足説明し、「権利侵害はなく、放送倫理上の問題もないという結論となったが、結論に至った過程はテレビ東京の主張とは少し違う。委員会は、一部の人にとってではあるが、”申立人と特定はできた”という前提に立ち、個人のプライバシーがテーマとなるととらえて議論を進めてきた。テレビ東京には、議論の過程をよく理解し、放送局内のプライバシー保護の意識をさらに深めてほしい。番組全体の公益性・公共性があっても、そこに登場する人物のプライバシーをできるだけ保護するという問題は切り分けて対応してもらいたい」と発言。
水野委員は、「決定文をよく読めば、私たちの言いたいことは理解してもらえると思う。委員会の要望や付記された意見を心に留めてほしい」とテレビ東京への期待を述べた。
決定を受け、申立人は「自分の主張を一定程度くみ取ってもらえたと感じている」と発言。一方、テレビ東京は「決定文を熟読し、指摘された点を真摯に受け止め、今後の放送に生かしていきたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見をして、委員会決定を公表した。21社32人が取材した。テレビカメラの取材は、当該局のテレビ東京が行った。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、「要望あり」の見解となった決定を説明した。続いて、市川委員長代行と水野委員が補足的な説明をした。

その後の主な質疑応答は、大要以下のとおり。

(質問)
テレビ東京は、2014年にアレフを巡る報道で放送人権委員会からプライバシーの問題で「放送倫理上の問題あり」と指摘されたにもかかわらず、今回、同じような事案が起きた。テレビ東京がどの程度、前回と今回のことを深刻に受け止めているか、疑問が残る。前回の事案を踏まえて、委員会が今回「要望あり」とした点について、ポイントを教えてほしい。
(奥委員長)
放送人権委員会決定第52号は、さまざまな点で明らかにアレフ信者のプライバシーへの配慮を欠いたとして「放送倫理上の問題あり」とした。今回の事案とは、問題の質が違うと思う。ただ、同じプライバシーについて、過去に問題となったことがあったことは事実であり、その点は指摘し、考えてもらいたいというのが要望の趣旨だ。
(市川委員長代行)
前回の番組は、青年信者の内心に迫った内容で、放送により明らかになった事実の質が今回とはかなり違う。また今回は、前回とは違い、編集上のミスによって起こったことだ。教団に対して突っ込んで取材することの必要性は委員会も高く評価している。ただ、一般信者のプライバシーを守ると決めたのならば、徹底してもらいたい。その切り分けが中途半端だったいう点は通底する問題かもしれないが、テレビ東京がまったく反省しておらず、再び問題を起こした、というふうにはとらえていない。
既にテレビ東京でも取り組みを行っていると聞いているが、今回の問題をとらえなおして、放送局内で勉強してもらいたい。本日、テレビ東京からも、多くのスタッフで問題意識を共有する考えだという発言があったので、期待している。

以上

第278回放送と人権等権利に関する委員会

第278回 – 2020年2月

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案のヒアリングと審理…など

議事の詳細

日時
2020年2月18日(火)午後3時~8時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案 ヒアリングと審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対し松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱った放送であり、父親の死が利用され遺族として名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。フジテレビは、速報情報を扱う生放送の制約の中で、複数の執行情報などを分かりやすく伝えたものであり、申立人の人権を侵害していないなどと反論している。
今委員会では、申立人と被申立人にそれぞれヒアリングを行った。
申立人は、フリップやシールを使って執行情報を伝えたことや出演者の発言などについて、見せ物として面白く見せようとする意図が感じられ、人命を扱う報道という意識に欠けている、などと訴えた。
フジテレビは、死刑執行をショー化する意図はなく、執行情報を伝えた方法や表現には必要性、相当性があり、放送倫理上の配慮も十分行った、などと説明した。
ヒアリングに続いて審理を行い、担当委員が決定文の起草に入ることとなった。

2.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

本事案は、テレビ埼玉が昨年4月11日の『NEWS545』で放送した損害賠償訴訟のニュースを巡り元市議が申し立てたもの。元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられた。また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であると主張している。これに対しテレビ埼玉は、放送では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題となるものではないと反論している。またテレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実として、同日夜のニュースで言葉を修正した放送を行い、また市議会選挙直後の4月22日の『NEWS545』でお詫びと訂正を行った。
今委員会では、決定文の修正案について審理を行った。起草担当委員が前回の審理の内容を踏まえどのように修正を加えたかを説明し、続いて論点の各ポイントについて意見を出し合った。この議論を元に、さらに決定文の修正を行い、次回委員会で改めて審理することになった。

3.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

札幌テレビ(STV)は、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、男性が家で申請書類を記入するところや、北海道庁での申請手続きなどの様子を放送した。この放送に対して、取材の対象となった男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「明日、申請に行きましょう」などと説明し、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求め申立書を提出した。
一方の札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ取材が可能となったものだとして、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
今委員会までに双方からの書面が整い、委員会では通常どおりヒアリング開催に向けて手続きを進める方針が示された。しかし、手続きを進めるうえで確認すべき事項が指摘され、事務局において確認の上、次回委員会で改めて検討することになった。

4.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

今委員会では、まだ双方から必要な書面が整っていない状況が報告され、実質的な審理は行われなかった。
今事案は、フジテレビが2019年8月30日の『とくダネ!』で放送した都内の公園で大縄跳びが禁止された話題に対するもの。放送は、近所の進学塾が生徒たちに暗記手段として大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えさせていることに、周辺住民から苦情があり、行政が公園での規制を始めたことを紹介した。番組では、周辺住民が「本を読んだり、集中する日には、うるさいと思う」などと答えるインタビューが紹介された。
この放送に対して、このインタビューに答えた女性が、犬の散歩中に突然見知らぬ女性からマイクを向けられ、大縄跳びの騒音問題について聞かれた。「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに誘導尋問され、勝手に放送に使われ、「懇意にしている進学塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。

5.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」通知公表の報告

この事案に関する委員会決定第71号は2月14日に申立人と被申立人であるテレビ東京に対して通知され、通知後に記者会見を行い公表された。その報告とともに、委員会決定についてテレビ東京が報道した放送内容が紹介された。

6. その他

委員会運営規則に関する議論
運営規則の改正に関して委員会は、「苦情の取り扱い基準」を中心に検討を進めてきた。議論の焦点は、委員会として取り扱う事案について、これまでどおり委員会の審理を経てその都度決定することを前提としながら、委員会が審理対象としない決定をすることができるような明文規定を設けることにあった。第274回委員会から5回にわたる議論の結果、今委員会で委員会としての改正案がまとまり、これを決議した。今後改正案は、3月初めの理事会に諮られ、承認を得たうえで年次報告会で会員社に報告、ウェブサイト掲載などで一般に告知し、新年度から施行する予定。

以上

2019年度 第71号

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」に関する
委員会決定

2020年2月14日 放送局:テレビ東京

見解:要望あり
テレビ東京は、2018年5月16日、『ゆうがたサテライト』内で、オウム真理教の後継団体であるアレフの動向に関するニュースを放送した。その中に、アレフの信者である申立人が登場する部分があったが、申立人の顔にはボカシがかけられていたものの、音声の一部が加工されていなかった。
申立人は、再三撮影をしないよう訴えたにもかかわらず無断で全国放送され、肖像権とプライバシーが侵害された、さらに、取材や編集の方法において放送倫理上の問題もあるとして、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、プライバシー、肖像権の侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。
ただし、委員会は、放送内容に高い公共性・公益性があるとしても、個人のプライバシー保護を徹底させることは、放送の目的と何ら矛盾することではなく、両立しうることであると考える。それは本件ニュースにもあてはまるとして、テレビ東京に対して、ボカシの濃さや音声加工についての技術的な処理の問題、事前のチェック体制など段取りの問題、プライバシー保護に対する関係者の意識の問題など、種々の観点から再発防止に向けた取り組みを強めることを要望した。

【決定の概要】

テレビ東京は、2018年5月16日(水)のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、午後4時59分から午後5時6分頃までの間、オウム真理教の後継団体であるアレフの動向に関するニュースを放送し、その中にアレフの信者である申立人が登場する部分があった。
ニュースは、死刑判決が確定していたオウム真理教の元幹部7人が2018年3月半ばに各地に移送され、教祖・麻原彰晃らの死刑執行の準備が進んでいるとの見方があることを紹介したうえで、そのような状況下でのアレフの動向を報じたものである。
アレフが「集中セミナー」と呼ぶ信者を集めた行事を行うという情報に基づいて、テレビ東京の取材班が、道路を隔てた向かい側にある駐車場に停めたワゴン車の中から教団施設の方向を撮影しようとしていたところ、これを発見した申立人ともう1人の信者がテレビ東京の記者に声をかけた。ワゴン車から出てきたテレビ東京のカメラマンが、申立人が撮影されることを拒否しているにもかかわらず申立人を撮影し続け、申立人の側もビデオカメラを構えてテレビ東京の記者たちを撮影しているという状況が放送される。テレビ東京のカメラマンがカメラを回し続けたこともあり、申立人は徐々に強い口調になりながら撮影への抗議を続ける場面が1分間弱続いてその場面は終わる。
その場面では、申立人の顔の部分にボカシがかかっている。申立人の声は基本的に加工されているものの、途中の10秒余り、加工されないままの肉声が流れ、これに続いて申立人の音声が加工されたかたちで同じ場面が繰り返し放送される部分がある。これは、一連の画像から一部のみを切り取って声を加工したうえで、もとの部分に上書きする方法で編集するべきであったところ、誤って、声を加工していない映像の後ろに、声を加工した同じ場面を挿入してしまったために生じたミスであるとテレビ東京は説明している。
申立人は、このニュースについて、放送で登場する人物が申立人と特定できるために申立人がアレフの信者であることなどが明らかにされてプライバシーが侵害された、また、申立人が拒絶したにもかかわらず撮影を続けられて肖像権が侵害された、さらに、取材や編集の方法において放送倫理上の問題もあるとして委員会に申し立てた。
委員会は、審理のうえ、プライバシー、肖像権の侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。しかし、後述のとおり再発防止策の強化を要望することとした。決定の概要は以下のとおりである。
申立人の顔にかけられたボカシは薄く、一部で申立人の肉声が流れたことから、申立人がこの施設にいることや申立人がアレフの信者であることを知る者などには、放送の対象が申立人であると特定が可能である。しかし、アレフの動向を報じる本件ニュースの放送内容には、全体としては高い公共性・公益性が認められ、放送の対象を申立人と特定しうる視聴者は、基本的には申立人がアレフの信者であることを知っている者に限られることなどから、プライバシーの侵害があったと断ずることはできないと判断した。
また、取材の目的にも公共性・公益性が認められ、申立人やアレフの側とのトラブルを回避する必要性もある中で撮影を続けたことに違法性はなく、肖像権の侵害にもあたらない。
編集上のミスによって申立人の肉声が流れたことなどによって一部の視聴者には放送の対象が申立人であると特定できることとなったことについては、一部で肉声が流れたことは故意によるものではなく、ボカシを入れるなどの編集は行われて申立人と特定できる者の範囲は限定されていたこと、放送後速やかに編集上のミスの再発防止のための取り組みを行っていることから、放送倫理上の問題があるとはいえず、取材方法等にも放送倫理上の問題はない。
ただし、本件ニュースに全体としては高い公共性・公益性があることは委員会も認めるものであるが、申立人は、出家信者であるとはいえ、教団で特段の役職を持っている者ではなく、放送の対象が申立人であることを特定することに特段の意味はない。いかに放送内容に高い公共性・公益性があるとしても、個人としてのプライバシーを守る必要のある場面で、プライバシー保護を徹底させることは、放送の目的と何ら矛盾することではなく、両立しうることであり、本件ニュースでもこのことはあてはまる。
委員会は、テレビ東京に対して、ボカシの濃さや音声加工についての技術的な処理の問題、放送時間直前になってようやく編集作業が終わり、全体としてのチェックができなかったという段取りの問題、プライバシー保護に対する関係者の意識の問題など、種々の観点から再発防止に向けた取り組みを強めることを要望する。

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2020年2月14日 第71号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第71号

申立人
宗教団体会員の男性
被申立人
株式会社 テレビ東京
苦情の対象となった番組
『ゆうがたサテライト』
放送日
2018年5月16日(水)
放送時間
午後4時54分~5時20分のうち4時59分~5時6分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.プライバシー侵害の有無について
    • (1) 放送の対象が申立人であることを特定できるか
    • (2) プライバシー侵害の有無
  • 3.撮影・放送による肖像権侵害の有無
    • (1) 肖像権侵害についての考え方
    • (2) 撮影時の肖像権侵害の有無
    • (3) 放送による肖像権侵害の有無
  • 4.放送倫理に関する検討
    • (1) 取材方法について
    • (2) 編集方法について
    • (3) 申立人が特定されるおそれのある放送について
    • (4) 放送後の対応・申立人への配慮について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年2月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年2月14日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

第277回放送と人権等権利に関する委員会

第277回 – 2020年1月

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」委員会決定を通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2020年1月21日(火)午後4時~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理

テレビ東京は、2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」としたうえで、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」としている。
今委員会では、再修正された決定文案が担当委員から示され審理し、修正を加えたうえで、委員会として決定内容を承認した。2月14日に通知公表の予定。

2.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

本事案は、テレビ埼玉の『NEWS545』が昨年4月11日に放送した損害賠償訴訟のニュースを巡って元市議が申し立てたもの。元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」であり、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられた。また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であると主張した。これに対しテレビ埼玉は、放送では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題となるものではないと反論している。テレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実だとして、同日夜のニュースで言葉を修正した放送を行い、また市議会選挙直後の4月22日の『NEWS545』でお詫びと訂正を行った。
今委員会では、起草担当委員より決定文の草案が提出され、担当委員が全体構成と論点別の主旨を説明した。審理の中では、とくに議員辞職と第三者委員会のセクハラ認定の時系列関係が逆転しているようなナレーションについて、委員の間で活発に意見が交わされた。この日の議論を元に、次回委員会までに、さらに決定文案の修正を行い、改めて審理することになった。

3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対し松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱った放送であり、父親の死が利用され遺族として名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の制約の中で、複数の死刑囚の執行情報を分かりやすく伝えたもので、申立人の人権を侵害していないなどと反論している。
今委員会では、番組のどの部分が申立人の主張する権利侵害などの問題になりうるか、検討すべき論点を整理した。そのうえで、申立人と放送局の双方に対してヒアリングを行う方針を確認し、質問項目を決定した。次回2月委員会でヒアリングを実施する予定。

4.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の報告

今委員会では、まだ双方から必要な書面が整っていない状況が報告され、実質的な審理は行われなかった。
この事案は、札幌テレビ(STV)が、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道したもの。番組では、男性が家で申請書類を記入するところや、北海道庁での申請手続きなどの様子を放送した。これに対して、この男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「明日、申請に行きましょう」などと説明し、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求め申立書を提出したもの。
一方、札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ取材が可能となったものだとして、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。

5. 審理要請案件

・「大縄跳び禁止報道に対する申立て」
フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を取り上げた。放送は、近所の進学塾が生徒たちに暗記手段として大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えさせていることに、周辺住民から苦情があり、行政が公園での規制を始めたことを紹介したもの。番組では、周辺住民が「本を読んだり、集中する日には、うるさいと思う」などと答えるインタビューが紹介された。この放送に対して、このインタビューに答えた女性が、犬の散歩中に突然見知らぬ女性からマイクを向けられ、大縄跳びの騒音問題について聞かれた。「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに誘導尋問され、勝手に放送に使われ、「懇意にしている進学塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて、BPO放送人権委員会に申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。

6. その他

  • 「覚せい剤押収報道に対する申立て」の通知報告
    前回委員会で審理入りしないと決めた同事案の処理に関する報告。同事案は、人権侵害の有無及びそれに係る放送倫理上の問題を検討する必要があると委員会が判断したものの、審理に不可欠な、取材の経緯を知る申立人の家族への事情聴取について了承を得られず、審理対象にしないと決定したもの。今回、申立人、被申立人である当該放送局に審理入りしないことを通知するとともに、委員長として、この決定にいたった委員会の判断と議論について説明する書簡を、双方に送ったことが報告された。

  • 委員会運営規則に関する議論
    BPOの認知度が上がるとともに、委員会に対する申立ての提出件数が急増し、内容が複雑化、委員会本来の目的とずれたものも散見されている。こうした状況を受け、委員会は、主に運営規則にある「苦情の取り扱い基準」のありかたについて議論した。委員会としては、これまでどおり委員会の審理を経て、その都度決定することを前提としながら、審理対象としない決定をすることができるような規定を明文化する方向で検討することとなった。

以上

2020年1月21日

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」審理入り決定

対象となったのはフジテレビの『とくダネ!』。昨年8月30日の放送で、都内の公園において大縄跳び禁止の看板が立てられた話題を取り上げ、近所の進学塾が生徒たちに暗記手段として大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えさせていることに周辺住民から苦情があり、行政が公園での規制を始めたことを紹介した。番組は、周辺住民数人をインタビューし、その中の一人として申立人が、「本を読んだり、集中して何かをやる日には、ちょっとうるさいと思う」などと答えた場面を放送した。

この放送に対して申立人は、犬の散歩中に突然見知らぬ女性からマイクを向けられ、大縄跳びの騒音問題について聞かれた。「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに誘導尋問されたものを、勝手に放送に使われた。「内容的に、懇意にしている学習塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて、BPO放送人権委員会に申立書を提出した。

これに対してフジテレビは、誘導尋問との指摘について、インタビュー映像には誘導尋問をする場面はないと反論するとともに、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」と主張している。

21日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第276回放送と人権等権利に関する委員会

第276回 – 2019年12月

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案のヒアリングと審理…など

議事の詳細

日時
2019年12月17日(火)午後3時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案のヒアリングと審理

本件は、テレビ埼玉が2019年4月11日に放送した『News545』の中で伝えた損害賠償訴訟のニュースを巡り、元市議から申立てがあったもの。その中で元市議は、「自分が起こした裁判であるのに、自分がセクハラで訴えられたかのようなニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」であると伝えたことは選挙妨害であると主張している。これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題となるものではないと反論している。またテレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実であるとして、当該放送日の夜のニュースで言葉を修正した放送を行い、また市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会では、申立人と被申立人双方に個別にヒアリングを行った。申立人は、当該ニュース番組の放送中に3回テレビ埼玉に電話し、「議員辞職は第三者委員会の認定の前である」と間違いを正すように求めたにもかわわらず訂正されなかった。「違う時間で訂正しても同じ人が見ているとは限らない」と訴えた。一方、被申立人であるテレビ埼玉は、ニュース全体を見れば誤解を与えるようなものでないことは明らかであると説明した。
ヒアリングに続いて本件の審理を行い、担当委員が論点を踏まえて決定文の起草に入ることを決めた。

2.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」とした上で、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」としている。
今委員会では、前回委員会の議論を反映した委員会決定文の修正案が担当委員から提出され、意見交換を行った。今回の議論を基にさらに決定文の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することになった。

3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビが去年7月、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行を報じた特別番組について、松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱った放送であり、父親の死が利用され遺族として名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の制約の中で、複数の死刑囚の執行情報を分かりやすく伝えたもので、放送内容には必要性、相当性があるなどと反論している。
今委員会までに双方から必要な書面が提出され、それぞれの主張をもとに検討すべきポイントについて意見交換を行った。担当委員が次回委員会までに論点等を整理することになった。

4. 審理要請案件

・「覚せい剤押収報道に対する申立て」審理入りせず
X放送局は、今年6月、ローカルニュースの中で、覚せい剤押収事件について押収現場での記者リポートや付近住民のインタビューなどをニュースとして放送した。インタビューは、人物が分からないようにカーテン越しに撮影された映像で音声だけが伝えられた。この放送に対して、その家族から、放送は現場と自宅の場所を「特定するに十分な情報であり、家族の肉声は、現場を監視し警察に通報した者のように聞こえた」と訴えるとともに、「インタビューは、麻薬の運び出しと関係のない会話を一部切り取って放送した」と指摘した。そのうえで、「麻薬関連の報道は、暴力団も絡み、住民の安全に配慮するべきところを、私たち家族を危険にさらし、地域社会に誠実に暮らす家族の名誉を傷つけた」として、放送した経緯の説明と謝罪を求めて8月4日付で委員会に対して申立書を提出した。
この申立てについて委員会は、まず、人権侵害の有無及びそれに係る放送倫理上の問題を検討する必要がある事案と判断した。しかし、審理にはインタビューの経緯や内容を家族に直接聞くことが不可欠であるところ、申立人は家族の病気を理由にそれが困難であるとして、その了承を得ることができなかった。このため委員会は、十分な判断材料が得られないことがあらかじめ明らかな以上、本申立てを審理対象にすることはできないと判断した。ただし、この決定に至った委員会の判断と議論について、申立人だけでなく被申立人に対して詳しく説明することにした。

・「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」審理入りを決定
札幌テレビ(STV)は、今年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、北海道における初めての申請であるとして、男性が家で申請書類を記入する様子やインタビューのほか、北海道庁での申請手続きなどについて放送した。
これに対して、この男性は、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「明日、申請に行きましょう」などと説明し、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、申立書を提出した。記者の働きかけにより「不本意な申請をすることになり、これを広く報道され、申立人の名誉を毀損された」などとして、放送内容の訂正と謝罪を求めた。
一方、札幌テレビは、記者との信頼関係があったからこそ取材が可能となったとして、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

5. その他

  • 運営規則に関する議論
    社会におけるBPOの認知度が上がっている。ことし6月にBPOが行った調査でも70%となった。そうした中で、委員会に対する申立ての提出件数も増えている。しかし、その内容が複雑になり委員会本来の目的とずれたものも散見されるようになっている。こうした状況を受け、委員会では、運営規則にある「苦情の取り扱い基準」の整備の必要性が指摘され、委員の間で意見が交わされた。

以上

2019年12月17日

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」審理入り決定

BPO放送人権委員会は、12月17日に開催した第276回委員会で上記申立てについて審理入りを決定した。

札幌テレビ(STV)は、今年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。

放送は、北海道における初めての申請であるとして、男性が家で申請書類を記入する様子や「裁判を続けていきたいけど、区切りを一つ一つやっていきたい」と話すインタビューのほか、タクシーで北海道庁に到着する映像などを放送し、ナレーションで男性が担当部署で職員と面談して申請手続きを行ったことなどを説明した。

これに対してこの男性はBPO放送人権委員会に申立書を提出し、その中で、記者が申請のための請求書を取り寄せ、必要な書類の準備を指示したうえ、「明日、申請に行きましょう」などと説明し、タクシーも手配したと指摘した。そのうえで、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張し、その結果、「不本意な申請をすることになり、これを広く報道され、申立人の名誉を毀損するとともに、法律専門家の援助を得る機会を与えない不利益を与えた」として、放送内容の訂正と謝罪を求めた。

一方、札幌テレビは、記者は申立人を1年以上にわたって取材を続け、申立人と良好な関係を築いてきたとして、「その信頼関係があったからこそ一時金申請の取材が可能となった。検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。

17日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2019年10月30日

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」に関する委員会決定の通知・公表

[通知]
放送人権委員会は、2019年10月30日午後1時30分からBPO会議室において、奥武則委員長、起草を担当した紙谷雅子委員と二関辰郎委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人の大学教員、被申立人のNHKから秋田放送局長ら2人が出席した。
奥委員長が冒頭「名誉毀損はない。放送倫理上の問題もない」と結論を告げ、その後決定文に沿って説明した。「申立人は大学当局のハラスメント認定について不当性を強く主張していたが、委員会は、放送がある人の人権を侵害したかどうか、それに関わって放送倫理上の問題があるかどうかを検討する場である。大学当局のハラスメント認定が事実に基づいていたか否かを判断する立場にはない。本件放送には男性教員であるということ以外、個人情報は含まれていない。申立人の所属する学部学科にも言及していない。総合的に考えると本件放送によって、広く不特定多数の一般視聴者が男性教員を申立人であると特定する可能性はない。ただし本件放送の中に新しい情報が含まれていて、それに申立人の特定に繋がる情報が含まれていたとすると、問題は違ってくる。具体的には『小中学生でもできる』という表現が放送の中にある。しかし、すでにわかっていた威圧的な言動という情報は、何らかの具体的な言葉か行動を必然的に伴う。この点、『小中学生でもできる』という表現は社会的に是認できる表現ではないものの、そのような言動の具体例として、とりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。よって、本件放送は申立人に対する名誉毀損にはあたらない。
次に放送倫理上の問題だが、訓告措置に変更がないかなどメールや電話で大学当局に数回にわたって追加取材を行っている。放送倫理に求められる事実の正確性、真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題はないという判断に至った」と述べた。
続いて紙谷委員が、「申立人は、大学の決定について非常に力を入れて説明していたが、この委員会のできることの範囲の外であるということは、重要なことだ。委員会は、この放送によって、あなたが実際に名誉毀損されたのかどうか、をポイントに判断した」と述べた。
二関委員は「今回名誉毀損について特定するものではないと判断し、その後の公共性などに入ることなく、この結論に至っている。さらに不特定多数の一般視聴者が特定できないだろうと言った上で、もともと知っていた人たちがどう受け止めるのかということも判断して、社会的評価が低下することはないという結論に至った」と述べた。
決定を受けた申立人は「大学の措置が正しい情報によって判定されているのであれば何も申し上げることはないが、そうではない。その辺の問題を踏まえた上で決定を出すことが、非常に難しいとはわかるが、幾分そこは考慮していただきたかった。残念だ」と述べた。
一方、NHKからは「私どもの説明をご理解いただいたものだと受け止めている。ご指摘のように、情報公開請求は、私どもにとって大変大事な取材手法の1つであるが、それが右から左へということではなく、きちんと追加取材をして、裏取りすることは大前提だと思っている。今後もそうした取材を行い、人権に配慮した公益性の高い報道を続けて行きたい」と述べた。

[公表]
午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、委員会決定を公表した。
18社32人が取材した。テレビカメラの取材は日本テレビが代表して行った。
まず、奥委員長が「問題なし」とする決定内容を説明し、紙谷委員と二関委員が補足的な説明をした。

その後の質疑応答の概要は以下の通り。

(質問)
今年、人権委員会も含めてBPOに持ち込まれるケースが、昨年よりも増えているようだ。その背景の1つとして、一般の方の誤解のような部分もあるのか。
(奥委員長)
誤解と言っていいのかどうかはわからないが、放送人権委員会という存在が、かなり認知度が高まっている状況が背景にある。一方で、放送人権委員会は一体何をしてくれるのか必ずしも正確な知識を持っていない。そういう部分も確かにあるだろうと思っている。

(質問)
今回の放送は匿名報道であった。だから、本人が特定されるかどうかというのが論点の1つになっていたかと思う。ただ名誉毀損については、違法性阻却事由としては、公共性、公益性、真実相当性だ。このあたりはどのように判断したのか。また、今後、匿名報道ではなく実名報道する場合もあり得ると思うが、どのように判断していくのか。
(二関委員)
名誉毀損の成否が争いになったら、その人の社会的評価を低下するか否かを考える。そして低下するとなったら、その先に阻却事由がないかどうかという判断に進んで行く。今回は、特定されていない。一部の人について特定はあるけれど、社会的評価の低下はないというところで、もう判断は終わっている。一応今回の決定の論点というのを、公共性、公益目的があるか、真実性、真実相当性は認められるかと、5ページで項目として挙げているが、そこの判断に入るまでもなく、名誉毀損はないという結論に至ったので、それ以上には踏み込んでいない。だから、実名で、かつ社会的評価を低下するのであれば、当然その先のほうに判断は入って行くことになる。

以上

第275回放送と人権等権利に関する委員会

第275回 – 2019年11月

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2019年11月19日(火)午後4時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」とした上で、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」としている。
今委員会では、起草担当の委員から提出された委員会決定の草案について審理を行った。はじめに、起草担当委員が決定案の構成等について説明し、申立人が訴えるプライバシー権、肖像権の侵害に関する評価、取材・編集方法に放送倫理上の問題があったか等、意見が交わされた。今回の議論を基に決定文の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することになった。

2.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

テレビ埼玉は、2019年4月11日の『News545』の中で損害賠償訴訟のニュースを放送した。この放送に対して元市議から申立てがあった。元市議は、放送の中で「自分が起こした裁判であるのに、自分がセクハラで訴えられたかのようなニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられたと申し立てた。また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であると主張している。
これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題もないと反論している。またテレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことを認め、当該放送日の夜のニュースで言葉を修正した放送を行ったほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会では論点整理が行われ、また、申立人、被申立人に対するヒアリングにおいて、それぞれに尋ねる質問項目を決めた。ヒアリングは、次回12月の委員会で行う予定。

3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビが去年7月、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行を報じた特別番組について、松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱い、父親の死が利用されたことで遺族としての名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報を分かりやすく伝えたもので、その方法には必要性、相当性があり、申立人の権利を侵害していないなどと反論している。委員会は、前回、審理入りを決めた。
今委員会では、書面が出そろっていないことから、論点として検討すべきポイントや今後の議論の進め方について意見交換を行った。

4. その他

  • 申立てについて事務局より報告し、意見が交わされた。
  • 委員会運営について意見交換を行った。
  • 次回委員会は12月17日に開かれる。

以上

2019年9月24日

福島で県単位意見交換会

放送人権委員会の「意見交換会」が2019年9月24日に福島市で行われた。委員会から奥武則委員長、城戸真亜子委員、廣田智子委員が参加、福島県の放送局7社からは編成や報道、コンプライアンスの担当者など30人が参加し、3時間にわたって活発な意見交換が行われた。

会議ではまず、BPOの竹内専務理事が、BPOはNHKと民放事業者が作った第三者機関で、放送局と視聴者の間の問題を解決するのが目的であり、世界的にもほかに例を見ない日本独自の仕組みであると紹介した。続けて奥委員長が、放送人権委員会は決定文を書くだけではなく、研修会や意見交換会を通して、放送現場の生の声を聴く機会を重視しており、今日は活発な意見交換をお願いしたいと、あいさつした。

意見交換会は二部構成で行われた。前半は、委員が最近の委員会決定とその趣旨の説明を行い、まず奥委員長が第66号「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する委員会決定を、廣田委員が第69号「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定を解説し、それぞれ質疑応答の形で参加者と意見の交換が行われた。
後半は、事前アンケートの結果を基に、福島県内で放送や取材の過程で生じた問題や疑問などをテーマに意見交換が行われ、参加者からは、被害者の実名報道や、顔写真・映像の放送に対する家族からの苦情や要望に、どう応えるべきかなどの質問が数多く出された。また、BPOが果たすべき役割について、城戸委員より委員会の目的は「表現と言論の自由を守ること」であるといった説明があった。

◆第一部 委員会決定の説明と質疑応答

第66号「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する委員会決定

冒頭、奥委員長は、1961年3月に起こった「名張毒ブドウ酒事件」の新聞記事などを引用し、当時は人権を問題視することはなく、逮捕された人物は呼び捨て、また「朝食ぺろりと平らげる」などの恣意的な見出しや、手錠を掛けられた写真が堂々と使われていた事を紹介し、この数十年で人権意識が大きく進化してきたことを強調した。
さらに、事件報道には、いつの時代も、どうしても払拭できない「悪」の側面があることも事実であり、事件事故の当事者にとっては、触れてほしくない事実を報道しなければならないとうジレンマがあると述べた上で、「浜名湖切断遺体事件に対する申立て」の委員会の判断についての説明に入った。

●奥委員長
この事案は、2016年7月8日、テレビ静岡が、浜名湖で切断された遺体が見つかった事件の続報として伝えたニュースの中で、「関係者」と表現された人物から、自分は事件の「関係者」ではなく、撮影された自宅も「関係先」ではないなどと、委員会に人権侵害の申立てがあったものです。
申立人の「自宅の映像が放送され、プライバシーが侵害された」との主張について、委員会は次のように考えました。「他者に知られることを欲しない個人に関する情報や私生活上の事柄」を、「本人の意思に反してみだりに公開した場合」に、プライバシーの侵害が問われます。この「みだりに」というところが重要で、本件映像を仔細に見るとロングの映像は使っておらず、直ちに申立人宅が特定されるものではありませんでした。表札もちゃんと消されているなど、プライバシーの侵害には当たらないという結論となりました。
次に、委員会が名誉毀損の判断をする時の入り口は、申立人の社会的評価が低下したかどうかです。朝から警察が来て、ワサワサとやっていたわけですから、当日の状況を知る周辺の住民が申立人宅を特定した可能性は否定できない。そういう意味では、社会的評価の低下は、一定程度認められます。しかし、そのニュースが伝えた事実に、公共性とか、公益目的があり、さらに、真実性、あるいは真実と考えるに足るそれなりの理由があるという「真実相当性」が認められれば、社会的評価が低下したとしても名誉毀損には当たらないという判断になるわけです。
これは、浜名湖事件という、特に地元では、大変関心のある大きな事件の続報ですから、ニュースに公共性・公益目的があったことは、はっきりしている。問題は真実性・真実相当性の検討です。ニュースの中では、「関係者」、「関係先の捜索」という表現が使われており、申立人はこれを一番問題にしている。つまり、申立人は事件の「関係者」であったのか、さらに申立人宅は事件の「関係先」であったのかということです。
取材したテレビ静岡は、「何かあるよ」というリークを受けて、警察の車を追尾してこの申立人宅に着いた。そこで大々的に車の押収が行われ、捜査員が外で何やら話をしている場面があり、殺人事件の捜索が行われたと考えたとしても、不思議はないということになり、この点では、真実相当性が認められるということになりました。

では、「関係先」と「関係者」について、どういう表現が適切であったのかということですが、容疑者とされる人と申立人は、一緒に食事をしたり、車を譲り受けたりしている関係ですから、捜査の一環としてその日警察が接触したとなると、やはり「関係者」とか「関係先」という表現以外に、代わるものはないだろうと委員会は考えました。
事件報道の通常の用語として、「関係者」とか「関係先」というのは、特段おかしなものではないということで、最終的に名誉毀損には当たらないという判断になったわけです。
ただ決定の最後に、補足的に意見を付け加えたのですが、申立人宅の映像の使用は、「より抑制的であるべきではなかったか」ということです。つまり申立人宅が、事件の本筋と深く関わるっているものではないことは、時間の経緯とともに分かってきたはずです。ところが逆に、午後の遅い時間、夕方の時間帯になると、申立人宅の映像が増えてきます。これはちょっと問題があるのではないかと指摘しました。

 この問題を考えるのに、最初の話と少しつなげて終わりたいと思っています。事件報道というものは、嫌がる人の話を引き出したりして、隠しておきたいことを聞くというようなことを、どうしてもやらないといけない。そうすると、解決できない問題も生じる。どうしたらいいのか。
結論から言うと、熟練した職業人としての腕と情熱、そして品性を持ったジャーナリストが一方にいて、もう一方には成熟した市民がいて、これが両側から、犯罪報道、事件報道が持っている「悪」の要素を飼い慣らす、順化していく、そういう方向しかないだろうと思います。
「熟練した職業人」という言い方をしましたが、プロの報道者、つまり新聞記者、テレビの記者、番組の制作者、そういう人たちが、「ここまで書いていいのか」、「これは書いちゃいけないのか」、ということをしっかりと判断する。そのとき重要になるのが「品性」だと、私は思っています。
人権というものは、どんどん進化し、変わっていきます。取材する側にとっては、以前はここまで踏み込んでも問題なかったものが、取材される側の当事者からは、大きな人権侵害だとアピールされることが増えています。
その一方で、取材記者・報道記者というのは、そういう新しい社会問題を、発見していく立場にもあるわけです。LGBTで差別されている人がいるなら、そういう問題を発掘する。障害者の差別の問題があれば、それを発掘しニュースにしていく。それによって人権が進化し、深まっていく。そういう立場にあるということを、元新聞記者として、私は痛感しています。
どういうことをやったら人権侵害になるのか、どんなことが放送倫理違反なのか、しっかりと書いてあるものがあるといい、というようなご意見もありましたが、実はマニュアルでは対応できないと思います。
事件・事故というものは、日々新しい出来事で、その都度、何らかの場面で新しい判断が求められます。誰が判断するかというと、個々のジャーナリストが判断するしかありません。マニュアルを超えたものが、いつもあるわけです。そうすると、先ほど「品性」といいましたが、一人一人が、物事の正邪の感覚というか、理非曲直の感覚をしっかりと身に付ける、それが重要だと思います。
少し浜名湖事件を超えた話をしましたが、細部についてご質問があれば、お答えしたいと思います。

<質疑応答>

●参加者
「近所の人が判断できる」というのが、果たしてプライバシーの侵害に当たるのかどうか。もう一点、BPOに「抑制的」と言われると「使っちゃいけない」と思ってしまうが、使わないことは有り得ない。どういう使い方ならよいのでしょうか。

●奥委員長
今回の場合は、近所の人は、「誰々さんの家で、今朝あったあれだな」と分かっただろうと思わざるを得ない。それと、ニュース全体の中での「関係者」「関係先」という表現を巡るつながりの中で、忌まわしい殺人事件と関わりがある人だなということで、社会的評価は一定程度低下したと考えられます。
しかし、警察は家の中までは入ってはいないが、車を押収したという事実があり、それが浜名湖事件全体の捜査の一環であるということは間違いないので、そのレベルで考えると、近所の人がニュースを見て「あの人の家であったことだ」と言ったとしても、それは、ある意味で仕方がないということです。
もう一つ、「抑制的に使うべきでなかったか」というのは、テレビ静岡がリークされた情報を元に取材活動をして、いわば特ダネ映像として、あの現場を撮影したわけです。ですから映像として使うというのは全然問題ないのですが、朝から夕方まで取材が進むうちに、「ここは事件の本筋の場面ではないな」というのは、取材者としては分かってきたはずです。しかし実際は、別の車が押収される場面も、申立人宅の映像と合わせて使っている。それはちょっと行き過ぎじゃないのという話です。

●城戸委員
「関係先」という言葉は、ニュースの原稿などで普通に使われますし、使わないとしたらほかに何ていえばいいのか、皆さん疑問に感じていると思いますが、放送に携わっている人が思う常識的な言葉と、一般の人がテレビを見て感じるのはちょっと違うのかなと思います。自分のことを、「あなた関係者でしょ?」と言われたら、どう感じるでしょうか。みんなが当たり前に使っているからいいのではなく、言葉を使う人間として、ほかの言葉はないのかと考えることが必要ではないのかなと思います。例えば、「接点のあった人の」とか、いろいろ考えられると思います。そういう責任のある仕事をしているのだという自負と自覚、その両方が必要だと感じました。

第69号「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定

対象となった番組は2017年12月29日の21時から23時までTBSが放送した『新・情報7daysニュースキャスター』という番組の2時間特番で、2017年の芸能ニュースをランキング形式で取り上げ、その14位として、申立人の細川茂樹さんの所属事務所との契約トラブルについて伝えた。その中で、契約解除の理由が、あたかも申立人のパワハラにあったと強調するようなナレーションや編集がなされ、人権が侵害されたなどと委員会に申立てがあった。

●廣田委員
この事案の特徴として、申立人の被害感情が非常に強かったという点があります。この事案の理解のために、なぜ申立人が、そのように強い被害感情を持つことになったのか、背景事情を説明します。
放送の1年前の2016年12月、申立人は所属事務所から債務不履行を理由とする契約解除通知を受け取ります。申立人は年明けの1月には、専属契約上の地位にあることを仮に定めることなどを求めて、東京地裁に地位保全の仮処分の申し立てを行い、2月にそれが認められました。そのころ数多くのテレビ番組で申立人の契約解除が取りあげられており、申立人は各局に抗議を始めていました。TBSにも接触し、この番組の通常の放送では、申立人の仮処分申請が認められたことを伝えています。そして5月7日に申立人の事務所との契約は、事務所の解約申入れにより終了します。その後は、9月にTBSの別の番組スタッフと申立人が代理人と共に面会しています。申立人の抗議に対しては、別の在京キー局が12月になってホームページに謝罪コメントを掲載し、同様の動きは他局にも広がりつつありました。
申立人としては、自分が受けたと考える被害の回復に自分で努力をしているときに、この放送があったとしており、委員会も決定の中で、「申立人のそれまでの努力に冷や水を浴びせるものとも言える」と表現しています。
これに対してTBSは、「言葉足らずで、誤解を招きかねない部分があった。申立人に謝罪すると共に、ホームページ、あるいは放送を通じて視聴者に説明します。しかしながら、申立人を意図的に貶めようと放送したとの主張は全くの誤解である。仮処分決定に言及しなかったのは、短い放送の中で制約があったことに加えて、仮処分決定でパワハラの存在が否定されたわけではないと理解していたから」と答弁しています。
委員会がまず考えたのは、放送は何を伝えたのかです。申立人の被害感情や、放送局の意図がどうあれ、一般視聴者にはどう伝わったのかが重要です。
この部分の判断は、番組のナレーションでは、一般視聴者は、パワハラを理由に契約終了になったと理解する可能性もあるが、そうでないと理解する可能性もあり、ナレーションそのものからは確定できない。テロップは、パワハラが存在したことを断定しているとは言い難いが、赤文字でパワハラが存在したことを強調しているように見える。このナレーションやテロップに先立つ申立人を紹介するVTR映像には、「何を言われようとやんちゃに生きていきますね」という発言があり、パワハラが実際に存在したという印象を強める効果を持っている。
総合的にみて、本件放送は、申立人がパワハラを行ったことを断定しているとまでは言えないが、一般視聴者には、そうした疑惑が相当程度濃厚であると伝わった。よって、申立人の社会的評価を低下させるという判断になりました。
社会的評価の低下があれば、通常は免責事由として、公共性、公益目的、真実性、真実相当性があるのかどうかということを検討して、名誉毀損となるのかどうかを考えるのですが、本件の場合は、ナレーションとテロップは、重大な言及漏れがあるものの、概ね真実です。申立人が強い被害感情を抱くのは無理のない面もあるが、放送局に申立人を貶める意図や悪意があったわけではない。そして、TBSは当初から一定の問題点を認めて、解決に向けて協議に応じる意向を示していたが、申立人の過大な要求があって協議が頓挫していた。協議がまとまっていたなら、早期に被害回復措置が取られる可能性もあったと思われ、本件については放送倫理上の問題として取り上げる方が、BPOの目的である、正確な放送と放送倫理の高揚への寄与のために有益であると判断しました。

では具体的に放送倫理上の問題としてどのようなものが考えられるのか。ひとつは、仮処分決定に言及がなかったこと。司法の場に持ち込まれるほどの紛争トラブルの事案を扱う際に、特に求められる公平、公正性、及び正確性を欠くことになった点については、放送倫理上、問題があると判断しました。
次に、8年も前の「やんちゃ発言VTR」を使ったことについて、放送局は、男らしさ、気風の良さといった申立人の人柄を端的に表しているVTRを使用したまでで、悪意はないと述べていました。しかしこの放送の文脈の中で使われた場合に、視聴者にはそう理解することはできず、パワハラが疑惑ではなくて、実際に存在したという印象を強める効果を持っていると考えました。つまり申立人の名誉や名誉感情に対する配慮が不十分で、放送倫理上の問題があると判断しました。
また、仮処分決定後の事情について、事後的な確認がされておらず、本件番組とは別のTBSのスタッフが申立人と面会をして事情をよく知っていたという点や、他局のホームページに謝罪コメントが本件放送の前に掲載されていたという点について、申立人は強く問題としていますが、これについては、放送倫理上の問題があるとは言えないという判断になりました。

この話の中で普遍的な問題として、皆様の番組作りにも生かされると思うのが、追加取材の重要性です。最近では、問題が起こると、第三者委員会などが組織されて、調査結果が発表されることが多くなっています。その調査結果を皆さんもニュースとして報じられると思いますが、その結果に納得のいかない当事者が、裁判に訴えたり、新たな調査委員会が組まれるなどして、のちに事態が変わることがあります。そこで追加取材をせず、前に放送した内容をそのまま流してしまうと、新たな人権侵害、名誉棄損の問題を起こしてしまいます。名誉棄損の免責要件の一つである真実相当性は、それぞれの放送時点で判断されるので、以前の報道に再び触れる時には注意が必要です。
この番組、年末の2時間の特番ですが、単に噂話のようなものをランキングで見せるというものではなくて、長いインタビューコーナーがあって、その年の顔であった野村克也元監督や、市川海老蔵さん、ビートたけしさん、デビ夫人らの生き方を深く聞いている大変面白い番組でした。その中で、本文ではなくいわゆる見出しの部分の「アバンVTR」でこういうことが起こってしまうと、本当にもったいないと思います。チェックする方はきちんとチェックして、いい番組を作っていただきたいとしみじみ思いました。そのうえで、実際に番組を作る現場の人たちは、萎縮したりしないで、とにかく面白いもの、人をびっくりさせるようなもの、自分の作りたいものをのびのびと作って欲しいと切に願っています。

<質疑応答>

●参加者
アバンのVTRの中では、なるべく短くて、視聴者に興味を持ってもらえるような表現をするのが、ある意味作り手の腕の見せ所だったりすると思いますが、例えばアバンの中ではそれが端折られているけれども、番組の中ではしっかり補足されていれば、どうなのでしょう。アバンでもそういったところは全て網羅されているべきなのでしょうか?

●廣田委員
TBSの方も、短いものの中で「仮処分が…」とかいうと、仮処分が何かも説明しなければならなくなるし、中途半端に言ってしまうと、余計分からなくならないかと言っていましたが、やはり抜かしてはいけないものであったと思います。いくら短くても、そこは工夫するしかないのかなと。

●奥委員長
細川さんの話は、あれが全てであとは全然出てきません。確かにあの時間内で、仮処分について触れるのは、なかなか難しいですよね。でも、もう少し工夫はできたと思います。やはり裁判まで争って細川さん側の申立ては認められているわけだから、それにメンションしないというのは、「言葉足らず」という軽い表現で済ませることではなかったと思います。

◆第二部 アンケートを基にした意見交換

主なテーマは以下のとおり

  • 福島県内でこれまでに人権が問題となった事案
  • 被害者の実名、写真を報道することについての視聴者反応
  • BPOはどういう存在であるべきか

●参加者
2018年11月に発生した小野町の火災で、亡くなった方の写真を放送したら遺族から苦情があった。この件に限らず、最近、事件、事故に巻き込まれた被害者の顔写真を使うと、家族や親戚からお叱りを受けることが多い。特に写真はネット上に残るので、それに対する拒絶反応が強い。どう対応すればよいのか。

●奥委員長
事件・事故の被害者の顔写真を新聞やテレビ報道で使うことは、以前と変わらないと思いますが、遺族など載せられる側の意識が大きく変わってきました。取材側に求められることは、原点に帰って、なぜ顔写真が必要なのかをしっかり考えたうえで使うということです。
遺族や関係者から文句が出ることも、ネットで叩かれることもあるだろうが、しかしこのニュースにはこの顔写真が必要だということを考え、確信して、仕事をするしかない。そして必要であれば使う。
実際に、顔写真が出るのと出ないのでは全く違う。そのニュースの持つ重みはそこにかかっている。後でどう言われようが、顔写真が必要なニュースには顔写真は付ける。それしかないでしょう。

●参加者
被害者の写真を報道で使ったことが人権侵害だとBPOに持ち込まれた場合、どういう判断になるのでしょうか。

●奥委員長
そのニュースの論点、公共性とか公益目的、真実性とか真実相当性を検討して、最終的に判断せざるを得ない。もちろん取材のプロセスとか、事案の具体的な内容にもよります。嫌がる写真を強奪してきたとかであれば、話は別ですが、そうではなく、正当な方法で入手し放送で使ったことが、人権問題を構成することはないと思います。

●参加者
事件事故の現場の近所から顔写真を入手することが、人権問題になることがありますか。

●廣田委員
それもやはり、入手の仕方によります。たとえば、意図を伏せて、きちんと説明をしないで入手し放送すると問題になると思います。

●参加者
カメラを持った取材クルーが、「この近所で事件があって、誰々さんの写真を探しています。放送に使いたいので映させてください」とお願いして入手したものが、問題になるようなことはありますか。

●奥委員長
取材の過程は正当なわけですから、それが人権問題を構成するとか、あるいは放送倫理上の問題が発生するとは、私は思いません。

●廣田委員
写真を放送した後に、ご遺族から、こういう理由でやめてほしいという申し出があり、しかも何度もあったにもかかわらず、ずっと使っていたというような状況であれば、写真を何回も使う必要性があったのかという検討をすることになると思います。

●参加者
座間9遺体事件で福島県内の高校生が犠牲者とわかり、家族に取材を行った。別居していた父親がインタビューに応じたため、取材は父親に集中してしまった。しかし母親が、別居中の父親の反応を不快に思っているとの情報が入り、以降抑制的に使うことになった。たとえば家族の中で意見が違う場合、どのように対応すればよいでしょうか。

●奥委員長
やはりそのインタビューがこの事件を報道するのに必要で、非常に大切な部分であるのであれば、夫婦の問題とか、母親との関係があったとしても、ある程度使わざるを得ないと思います。そういう背景があったということで、使い方を抑えていたという判断はよかったと思います。マニュアルがあるわけではなく、その時取材した人間の感覚を大事にして、判断せざるを得ないと思います。

●廣田委員
座間の事件の時に、弁護士会のなかでも、「ご遺族にもさまざまな意見があり、家族を取材しないことにはわからないわけだから、それをあるご遺族がこう言ったからと全部決めることはできないのではないか」というのが話題になりました。
やはり、ご遺族のご要望があったとしても、これは実名で報じなければならないと判断されるのであれば、実名で報じて、なぜ自分たちが実名で報じるのかをしっかりと説明することが求められると思います。
また、人がどんどん匿名になって行く一方で、監視カメラが町中のあちこちに付いていて、誰が何をやっているかがすぐにわかるような状況になっている。そうした現状の中で事件を報じる時に、実名であるべきなのか、匿名にすべきなのかを考えるには、どういう社会であるべきなのかということも意識する必要があると思います

●参加者
県内の交通死亡事故で、記者が入手した防犯カメラに映った事故の映像を放送したところ、亡くなった男性の息子さんから、父親が死亡する瞬間の映像を流すのはいかがなものか、また家族に許可は取らないのかというクレームが入った。基本的に許可は必要ないと思っているが、このケースでは自宅を訪ね、放送する意味を説明し、納得いただいた。街中に映像がある一方で、それを放送に使用することについては、いろんな意見が寄せられる時代になった。説明責任を果たすことが重要だと、勉強になった。

●奥委員長
防犯カメラや監視カメラの映像を使用するのに、映っている人やその家族の許可がいるのかという問題がひとつですね。これは、映像の中身に依存する。交通事故の場面が、相当リアルで悲惨な状況であるような場合は、遺族は嫌がるだろうし、使う場合は許可を取る作業が必要になることもあるでしょう。ただ、一般的に、必ず許可が必要ではないと思います。ケースバイケースです。
もうひとつの問題は、視聴者から苦情が来た時に、テレビ局の担当者が、最初にどのように対応するかということで、これは実はすごく大きい。電話でやり取りするだけじゃなくて、実際に行って説明するという、大変丁寧な対応をされたわけで、こういう対応が重要なのだと思います。

●参加者
一般の人が撮ったスマホの映像は、監視カメラの映像と同じように借りてきて使っていいものなのでしょうか。

●奥委員長
たとえば台風の被害がいろいろなところで発生している時に、視聴者が撮った映像がある。あとからテレビ局のカメラマンが撮った映像よりも、もっとリアルであると。それは当然使うべきだと思います。
ただし、本当に間違いなくその映像なのかどうかを、撮った人に確認する必要があります。これも結構面倒な作業ですけれども、その出来事の全体像を伝えるという意味で、そういう映像は貴重な情報で、使うことに尻込みする必要はないと思います。

●参加者
フェイスブックやツイッター上に上がっている写真を、「緊急性があるから」と使っていいのかについてはいかがでしょうか。

●奥委員長
フェイスブックとかは、基本的には公開されているわけですよね。公開されている情報なのであって、様々な形で確認する作業は必要ですが、私は使っていい、使うことは仕方がないと思っています。
そもそも、フェイスブックとかに上げている人は、それが公開の情報だとわかっているわけでしょう。その公開されているものを使うのは、いわばコモンズですから。あまり問題はないと私は思います。

●廣田委員
皆さん既にやっておられますけど、「フェイスブックより」という断りを入れたりしますね。そのように、出典を明示して使うといいのではないかという話をした時に、そのフェイスブックに「これは自分の知り合いに向けたのものだから、第三者が勝手に使うことを禁止します」という文言を入れたらどうなのか、という質問がありました。その場合は、慎重に使わなければいけないことになるのだと思います。

●参加者
フェイスブックに限らず、いろんなものを、報道目的で引用することがあると思います。例えば、「私の知り合いのために見せるためだけのもの」と書いてあっても、緊急性のある報道引用として使うということについては、いかがですか。

●廣田委員
それは、掲載してよいのだと思います。もしそれが問題になったら、「自分たちはこういう必要性を持って、その写真を使ったのだ」ということを説明する。あとはその使い方の相当性の問題になっていくので、その写真がどういう状態で使われたのか。例えば、苦情が出た後もずっと使っていたとか。要は、報道機関の方が「これは必要だから使うのだ」と思ったら、その責任と覚悟の下に、使って報道するしかないと思います。

●参加者
そうすると、なぜ伝えるのか、なぜ実名なのか、公共性があるのか、その辺がBPO的に見ても大切になってくるということでしょうか。

●廣田委員
実名を言うことによって、予測される被害と、言うことの意義というのを、比較衡量することになるのだと思うので、なぜ実名なのか、なぜこれを報じるのかというのは、コアなんじゃないかと私は思います。

●参加者
街頭インタビューに答えた方から、やはり放送しないでほしいと言われたことがありました。
郡山市民の歌の取材で、歌をご存知の方をようやく見つけインタビューしたのですが、撮ってからできれば使わないでほしいと言われました。短い秒数でいいので使わせてほしいとお願いしたのですが、少しやり取りが曖昧になってしまいました。取材直後の放送は、仕方ないかなと思っていたとのことですが、2ヶ月後にまた別の番組でこの情報が放送され、クレームの電話が入りました。使って欲しくないと伝えたにもかかわらずなぜ使うのかと。電話でお話しさせていただき、取材時のやりとりに曖昧な点があったことや、聞いていたのに2度も使ってしまったことを丁寧にお詫びし、納得いただけました。

●司会
東京や大阪の局では、インタビューした人に、放送の承諾書をもらうことが多いと聞いていますが、各局ではどうなのでしょうか。

●参加者
承諾書は取っていませんでした。もし承諾書も取ったうえで、やはりやめてほしいという相談があった場合は、どうすべきでしょうか。

●奥委員長
テレビの取材だということを明示して、カメラを回しているという状況の中でインタビューに答えているわけですから、それが放送されることについては、その当人は納得していると考えていいと思います。ただ、当たり前ですが、何を伝えるにしても、曖昧なのはいけません。
インタビューするときに、これはどういう番組で、どういう取材だということはしっかり明示する必要があります。そういうことを名刺の裏に書いている取材記者もいましたよ。そういうことも必要だと思います。

●廣田委員
カメラの前でインタビューを受けたのだから、そこで承諾があったのは当たり前ということに対しては、それを使わないで欲しいという人はおそらく、「インタビューを受けたときは突然だったので、テレビカメラを向けられて舞い上がってしまい、使ってもいいと言ってしまったけれど、あとから落ち着いて考えたらやっぱり嫌だ」ということだと思います。しかし承諾したのは事実なので、そこは局の方に説得していただくしかないと思います。一度承諾しても撤回がまったくないわけではないので、場合によっては使って欲しくないという連絡が来たら、尊重しなければならないこともあると思います。

●参加者
原発事故で自主避難した中学生が避難先で頑張っている姿を系列局が取材し放送した際、いい内容だったので福島でも放送させてもらったら、当人から、「まさか福島県で放送されるとは思わなかった」と電話がありました。故郷を捨てたような形で避難しているのに、友達がどんな感情でみたか不安を覚える。もう放送してくれるなということでした。
ホームページ上のニュースにも原発被災関係としてあげていたので、それも消さないといけなくなりましたが、自社だけでなくキー局や系列局にもアップされていて、今や全てのデジタル情報を消すことは難しい状況でした。

●奥委員長
あのような大きな事故ですから、個々にいろんな状況が発生しているわけで、それぞれ個別のケースをどうニュースにするか、どう番組にするかは、すごくセンシティブな問題であると思います。

●廣田委員
私は、強制避難になった地区の皆さんの弁護団の一員として、たくさん話を聴いていますが、皆さん罪悪感みたいなものを持っておられる。ほかの人が地元で頑張っているのに、自分はそこから避難しているとかですね。けれども、誰もがそれぞれの家族の事情や、自分自身の事情を抱えて暮らしている。そこにすごく複雑な感情があるのだと思います。

●参加者
それ以降は他の県で頑張っている方の特集とかを放送するときには、福島県で放送することの了解を得てくださいってことを、お願いして放送するようにしています。ここでひとつ学んで、その後は気を付けるようにしましたが、その時は、秋田だったと思うのですが、そちらで放送されたからそれはOKだろうと勝手に判断していました。

●城戸委員
多分今後も、似たようなケースが出てくると思います。番組を作る側としてはよかれと思って頑張っている姿を紹介したつもりでも、もしかしたら我々には計り知れない、思春期の女の子の感情や、被災地に住む人たちの人間関係というのがあると思うので、非常に難しい問題だと思います。
この場で発表していただいたことによって、他の局で同じようなことが起きた場合にどうするか、もう1回許可を取るとか、そういう心構えができたかなと思いますし、我々もそういうことを学べて大変いいお話でした。ありがとうございました。

●参加者
ラジオ局ですが、番組のSNS、ツイッターとかフェイスブックを立ち上げていますが、そこでリスナー同士の言い争いが、かなりエスカレートしてしまうことが起きています。
番組に苦言を呈したリスナーがいて、それを別のリスナーが窘めたところ、今度はその人を攻撃したりして、リスナー同士がSNS上でケンカをしているような状態です。局や番組としては、どうしたらよいでしょうか。

●廣田委員
そのSNS自体を管理しているのは局になるわけですよね。そうすると、そこであまりにもひどい、明らかな誹謗中傷とか、プライバシーの曝露とか、明らかな名誉棄損のようなことが起こっているのを放置していると、SNSを管理している局側に、その責任が発生してしまう可能性があります。通常のリスナーの方同士のバトルも、それが違法というレベルまで達したときには、やはりなんらかの手立てをとらないと、管理者責任が問われることになりかねないと思います。

●司会
ツイッターとかのSNS上ですので、局管理とはいえないような気もするのですが。

●廣田委員
局や番組の公式ツイッターの中に書きこんで、それを管理しているのが局なり番組であるなら、名誉棄損とか、プライバシー侵害とかに発展し、それをそのまま放置していると、局に責任が発生する可能性はあると思います。

●城戸委員
個人への中傷とかは削除しますみたいな、ルールというか但し書きを明示するとよいのではないでしょうか。

●司会
事前アンケートで、「BPOはもう少し放送局に寄り添う側面があってもいいのではないか」というご意見をいただきましたが、なぜそう思われたのでしょうか。

●参加者
最近、局に入るクレームで、よく「BPOに訴えるぞ」と言われるようなことがあります。そう言われると、若い記者やスタッフの中には、萎縮して、真実を追究する前に、「これ以上突っ込むと、トラブルに巻き込まれそうだからやめておこう」と、引いてしまうことがあります。しっかり取材を尽くしたうえで、どう放送するかが大切だと指導はしていますが、人権意識がますます高まる中で、BPOは厳しいことを言われるところでもありますので、そのように思ったこともありました。ただ、今日お話を聞いて、「BPOの存在には、こういう意義があるのだ」と、改めて感じております。

●城戸委員
「寄り添う」と言ってしまうと、肩を持つみたいになってしまうので、言葉選びが難しいところではありますが、あくまでもスタンスは中立ということです。
でも、表現・言論の自由というのは、やはり保たれないとダメだと思います。例えば権力に屈するとか、遠慮するとか、つまり萎縮して取材ができなくなってしまっては、放送局としての意味がないと思いますので、人権は保護しつつも、萎縮せずに、より魅力ある番組を作って欲しいと、委員会としてそう考えています。
特に、今、ネット上でフェイクニュースが横行して、何の責任も持たずに、言いたいことを言っているような、そういう情報が飛び交う中で、放送局として、見ている人に正しい情報を伝えることは、すごく意味のあることだと思います。
BPOがどういう存在かということですが、放送は公共性と社会的影響が大変高いメディアですから、世の中の様々な出来事を人々にきちんと伝える責任がある。きちんと伝えるためには、放送はどうあるべきかを考え、言論と表現の自由を確保するために、委員会があるのだと思います。
ご存知のとおり、この放送人権委員会は、個人から「私、被害に遭いました」という申し立てがあって、初めて動きだすという委員会です。放送する側も、意図して人を傷つけるということは、まずありませんが、日常の放送の中で、「こんなに小さく写っている人の、ちょっとした一言だからいいのではないか」みたいな、ある意味慣れのようなことから、人を傷つけてしまうようなことを含めて、その放送の中身を第三者的に、中立的な立場で審理していくというのが、この委員会です。
奥委員長が、お手元に配った冊子の「はじめに」のところで、「放送の自主と自立をサポートするのが、この委員会の役割だと思っている」ということを書かれていますが、まさに、そういう存在だと思っていただければいいのかなと思います。

●奥委員長
「最近のBPOは、テレビ局に寄り添い過ぎだ」という批判があります。「BPOは放送局に対して、もっと厳しく当たるべきではないか」という意見が、世の中にはむしろ多いようですが、テレビ局の側からすれば、こんな小さな問題を取り上げて、放送倫理違反だとか、人権問題だとか言うのか、という考え方ももちろんある。
人権という問題が、かつてよりもずっとセンシティブな問題になってきているので、報道する側、番組を作る側がそのことを自覚していないと、いろいろな批判が起こるのは、どうしようもないことだと思います。
ただ、一方で、アグレッシブに、新しい社会問題を発掘したりすることもメディアの役割です。権力批判だけが、その役割ではないのです。例えばバラエティ番組で、いろんなことをやって、楽しい世の中を作っていくこともすごく重要で、役割のひとつであろうと思います。
委員会もそういうことを考えていますが、決して、放送局とは同じ意識にはならないということですね。同じ意識にはならないというのは、「人権侵害があった」と言って訴えてくる人に、とりあえずは耳を傾けなくてはならないという組織だからです。そこは、理解していただくしかないと思っています。
委員会決定を読んでもらうとわかると思いますが、大体いつも放送局に対してはエールを送っています。「いい番組ではある」とか、「優れた調査報道ではあるが」とかね。そういうところを、読み取っていただければ幸いです。

●廣田委員
私は「寄り添う」のではなくて、委員としてひとつひとつに「向き合って」います。番組を作る方は真剣に作っておられるわけですし、それに対して、「自分がこんな辛い思いをした」と言ってくる人は、単なるクレームの枠を越えて、申し立てというところまで来ているわけですから、その人の思いとか、被害にも、きちんと向き合わなければいけないし、作っている方たちにも向き合わなくてはならないと思っています。
そして「人権侵害だ」と申し立ててきた人に対して、「人権侵害ではない」と言う時には、ヒアリングでその人が言ったことを思い出して、すごく苦しい気持ちになります。
いいものを作ろうと頑張っている放送局に対しても、「これは放送倫理違反ですよ」、「これは人権侵害ですよ」と言うことも、やはりそれなりの痛みを感じながらやっています。
表現の自由とか、自由な取材とかは、ある意味誰かの権利と、抵触を起こしているのだと思います。だから、そういう放送を扱う方たちが、日々真剣に向き合っているように、それを判断する者としても、「被害にあった」と訴えている人に真剣に向き合うし、取材して番組を作っている人にも真剣に向き合って、表現の自由を守るためにはこういうものが必要だという結論を出して、ご理解をいただく以外にはないと思っています。とにかく、誰もがみな、何か痛みみたいなものを抱えながら、真剣にやっていくしかないのでないかと思っています。

●参加者
京都アニメーション事件の実名報道に関するご意見を、ぜひ聞きたいと思っています。局内でも議論しましたが、実名や顔写真の報道によって、リアリティや、人が生きた証みたいなものを伝えることができるのではないか。また再発防止という意味からも、実名で報じる意味があると考えています。そのためには、目の前に座っている記者に、「この人だったら話してもいい」とか、「写真を出してもいい」とか、そう思ってもらえる取材が必要だと思っています。
京都アニメーション事件では、大阪の局は、メディアスクラムを避けるために、代表取材方式をとりました。また、弊社の系列では、被害者の名前が公表されたときには、全部出したけれども、2回目以降は家族が望んでいない場合は出さないという配慮をしています。実名報道というのは、そういう配慮をもってやっていくべきなのかなと考えます。

●奥委員長
京都アニメーションの事件は、事件報道、実名報道という意味でも、非常に新しい次元を開いたのではないかと思っています。警察の対応、メディアの対応、いろんな意味で、悪くはなっていないのだなという感じがしました。
遺族が、実名にしたくないという大きな理由の一つは、メディアスクラムではないかと思います。メディアスクラムで、洗いざらい取材をされるのは嫌だということですね。そういう状況を作らないために、メディアの側でどうするか、自主的な取り組みをすることが重要です。

●廣田委員
被害者の実名報道については、弁護士会の中でもいろんな意見があります。私は「遺族がだめだと言っているのだからだめだ」という意見には、反対の立場ですけれども、ただ、ご遺族や実名報道に反対する弁護士たちが言っていることの中で、「そうだよね」と納得することが一つあります。
それは、「実名にする必要があるとしても、最初から実名でなくてもいいのではないか。実名で報道すべき関係性とか、関連性がわかった段階になってから、実名で報道するのでは遅いのですか」ということです。
また「せめて、お葬式と初七日が終わるまでは待ってもらえないか」という話が出た時に、あるメディアの方が、「初報というのがすごく重要で、一般の関心が集中している時に実名を出し、2回目、3回目以降は出さないようにする」と説明されていました。でも、このネット社会では、1回出てしまうと、後からどんなに匿名にしたとしても消えずに残ってしまうので、やはり「なぜ最初から実名でないといけないのか」という意見には、かなり説得力があると思います。

●司会
今日は、長時間ありがとうございました。ぜひ今後の番組作りに生かしていただければと思います。

以上

第274回放送と人権等権利に関する委員会

第274回 – 2019年10月

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2019年10月15日(火) 午後3時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案のヒアリングと審理

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工のないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、放送人権委員会に申立てを行った。これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」としている。
今委員会では、申立人とテレビ東京に対するヒアリングが行われた。申立人は、放送によって自身がアレフ会員であることが知られると、対外的な活動に支障を来すなど不利益を被る可能性があると訴えた。被申立人のテレビ東京は、「プライバシー保護には十分配慮した」と述べた一方、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」と発言。また、申立人らのメディアに対する取材妨害の実態を伝えることも教団の閉鎖性などを伝える証左になると考え放送した、と説明した。
ヒアリング終了後、本件の論点を踏まえて審理を行い、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理

対象番組は今年1月21日に秋田県内で放送された『NHKニュースこまち845』。情報公開請求等によって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ「訓告の処分を受けた」と報じた。
この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求めBPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対してNHKは、「処分をされた教員はいずれも匿名で、役職や年齢に触れていないなど、個人が特定できないよう十分配慮している」と説明した。
今委員会では起草委員より委員会決定の修正案が示され、審理の結果、委員会決定を了承した。10月30日に通知・公表を行う運びとなった。

3. 「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

テレビ埼玉は、2019年4月11日午後の『News545』で、元市議が提訴した損害賠償訴訟のニュースを放送した。元市議は、その中で「自分がセクハラで訴えられたかのようなタイトル」をつけられたことや、「第三者委員会のセクハラ認定後に議員辞職したかのような誤解を与える表現」などによって、名誉が損なわれたとして申立てた。
これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に説明しているなど、全体をみれば誤解されるようなものではなく、名誉毀損や放送倫理に反するものではないと反論している。またテレビ埼玉は「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実だとして、当該放送のあった日の午後9時半のニュースで表現を修正して放送したほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会までに全ての必要書類が提出され、双方の主張が出そろったことを受け、次回委員会までに担当委員が論点等を整理することになった。

4. 審理要請案件「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」~審理入り

フジテレビは、2018年7月6日の「FNN 報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行」で、オウム真理教事件の松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行に関する情報を速報するかたちで放送した。
特別番組は、各拘置所からの中継、スタジオでの事件の解説、被害者遺族らの会見や反応など約1時間半にわたって生放送され、刑の執行情報は更新しながらフリップなどで伝えられた。
これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、番組は「人の命を奪う死刑執行をショーのように扱った」ことと、出演者のコメントが、遺族の名誉感情を傷つけるものであったなどと主張し、フジテレビに謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報をできるだけ視聴者に分かりやすく伝えたと説明し、「ショーのように扱った」ものではなく、人権侵害にあたらないなどと反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。

5. 審理要請案件「俳優のドキュメンタリーに対する申立て」~審理入りせず

ある俳優に密着したドキュメンタリーの放送(以下、「本件放送」という)に対して、番組は俳優側との間で交した約束の趣旨と違う内容であり、番組に提供した映像が許可なく使われたなどとして、家族が2019年7月22日付けで、当該放送局に謝罪を求める申立書を委員会に提出した(以下、「本件申立て」という)。
委員会は、委員会運営規則5条1項の苦情の取り扱い基準に照らして本件申立てを審理するかどうか検討し、審理対象外と判断した。理由は以下の通り。
当機構は、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的としている(BPO規約第3条)。当該目的に鑑み、当委員会では、運営規則において、裁判で係争中の事案および申立てにおいて放送事業者に対し損害賠償を請求する事案は取り扱わないものと定めており(放送人権委員会運営規則第5条第1項第5号)、また、その趣旨を踏まえて、放送局に対する金銭要求が関係している事案については取り扱わないことを原則としている。
この点、申立人は、本件申立てに先立ち、当該放送局に対して損害賠償の支払いを請求している。
また、申立人は、本件申立てにおいて、本件放送は自身が撮影した映像を許可なく番組に使用したとして、当該映像について自身が有する権利を侵害するものであるとの主張もしている。これは、当該映像に関する著作権を主張しているものと解される。当委員会では、著作権に関わる問題については、財産的色彩が強く、上記目的を有する当委員会の審理に馴染まないことから、これも取り扱わないことにしている。
これらの理由から、当委員会は、本件申立てについて審理対象とはならないものと判断した。

6. その他

  • 申立ての状況について事務局より報告した。
  • 次回委員会は11月19日に開かれる。

以上

2019年度 第70号

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」に関する
委員会決定

2019年10月30日 放送局:日本放送協会(NHK)

見解:問題なし
NHKは、2019年1月21日に「ニュースこまち845」(秋田県ローカル放送)で、情報公開請求などで明らかになった、過去5年間の県内国公立大学での教員のハラスメントによる処分に関するニュースを放送した。この中で県内の大学(放送では実名)で起きた3年前の事案について、匿名で「男性教員は、複数の学生に侮辱的な発言をしたことなどがアカデミックハラスメントと認定され、訓告の処分を受けた」と報じた。
この放送について、男性教員は「不正確な情報をあたかも実際に起きたかのように報道された。正常に勤務ができなくなった」として、NHKに対して謝罪を求め、委員会に申立書を提出した。
申立人は本件放送について「事実と異なる内容」と主張しているが、申立人が大学当局からハラスメントを理由に訓告措置を受けたこと自体は、申立人も認めている。
もし本件放送で「男性教員」が特定できるとすれば、その者の社会的評価を低下させる。しかし、本件放送には、大学名と男性教員であるということ以外、申立人に関する個人情報は含まれていないことなどから、申立人に対する名誉毀損は成立しない。また社会的評価をさらに低下させる新しい情報があったとすれば、名誉毀損が成立する可能性があるが、本件放送にある言動の具体例もとりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。したがって、この点でも申立人に対する名誉毀損は成立しない。
本件放送は、情報公開請求を通じて得た情報をもとにニュースとして伝えたものである。NHKの担当記者は大学当局に数回にわたって追加取材を行っている。放送倫理に求められる事実の正確性と真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題もない。

【決定の概要】

NHK秋田放送局は2019年1月21日午後8時45分から秋田ローカルのニュース『ニュースこまち845』で、秋田県内の国公立大学で過去5年間に行われた教員によるセクシャルハラスメントやアカデミックハラスメントなどによる処分に関して、情報公開請求を通じて得た情報をもとにしたニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
申立人は、2016年9月、学生へのアカデミックハラスメントを認定され、大学当局から訓告を受けている。本件放送は、同じ大学でのセクハラの事例の後、「さらに別の男性教員(申立人を指す)は、複数の学生に侮辱的な発言をしたことなどがアカデミックハラスメントと認定され、平成28年9月に訓告の処分を受けています」と報じた。このナレーションと重なるかたちで、大学構内を歩く学生の映像や「A大学(本件放送では実名)の男性教員 アカデミックハラスメントと認定」というテロップと、NHKが得た文書中の「学生への侮辱的な発言、威圧的な行動」、「小中学生でもできる」という文言を接写して拡大したものが画面に表示された。
申立人は本件放送について「事実と異なる内容」と主張し、ハラスメントを認定した大学当局の措置の不当性を強く主張しているが、事実認定の当否は別にして、申立人が大学当局からハラスメントを理由に訓告措置を受けたこと自体は、申立人も認めている争いのない事実である。
申立人に対する訓告措置は教授会で報告されたほか、匿名で大学内のイントラネットで教職員・学生に告知された。申立人の研究室の所属学生の1年間募集停止の措置を伴っていたこともあって、対象者が申立人であることは大学教職員だけでなく当時当該学部に在籍していた学生の多くに知られることになったと考えられる。しかし、それは訓告措置が公表された結果であって、本件放送に起因するものではない。
本件放送の内容は、不祥事ゆえに所属大学から不利益措置を受けたことを意味するから、放送された「男性教員」が特定できるとすれば、その者の社会的評価を低下させる。しかし、本件放送には、大学名と男性教員であるということ以外、申立人に関する個人情報は含まれていない。当時、申立人が訓告措置を受けたことを知っていた大学関係者・学生を超えて、本件放送を見た不特定多数の一般視聴者が「男性教員」を申立人と特定する可能性は考えられない。したがって、申立人に対する名誉毀損は成立しない。
ただし、本件放送中に申立人の社会的評価をさらに低下させる新しい情報があったとすれば、名誉毀損が成立する可能性がある。本件放送では、「小中学生でもできる」という訓告措置を学内に伝えた文書中にはなかった表現がある。しかし、「小中学生でもできる」という表現は、威圧的な言動の具体例としてとりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。したがって、この点でも申立人に対する名誉毀損は成立しない。
本件放送は、前述のように情報公開請求を通じて得た情報をもとにニュースとして伝えたものである。国民の知る権利に応える観点から、報道機関はこうした制度を積極的に活用すべきだろう。もっとも情報公開請求によって得た情報とはいえ、その内容をそのまま報道するだけであれば、発表報道とさして変わらない場合もある。報道することの公共的な価値の判断に加えて、疑問点を質すなど事実の吟味も必要である。
本件放送について言えば、NHKの担当記者は訓告措置に変更がないかどうかなどの追加取材を、メールや電話で大学当局に数回にわたって行っている。放送倫理に求められる事実の正確性と真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題はないと、委員会は判断する。

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2019年10月30日 第70号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第70号

申立人
秋田県在住 男性大学教員
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『ニュースこまち845』(秋田放送局ローカルニュース)
放送日
2019年1月21日(月)
放送時間
午後8時45分~9時00分のうち午後8時46分~8時51分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.検討の対象
  • 2.名誉毀損についての判断
    • (1) 本件放送は何を伝えたか
    • (2) 申立人を特定できたか
    • (3)「新しい情報」の評価
    • (4) 名誉毀損についての結論
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

全文PDFはこちらpdf

2019年10月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年10月30日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2019年10月15日

「オウム事件 死刑執行特番に対する申立て」審理入り決定

BPO放送人権委員会は、10月15日に開催した第274回委員会で上記申立てについて審理入りを決定した。

フジテレビは、2018年7月6日の「FNN 報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行」で、オウム真理教事件の死刑囚13人のうち松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行に関する情報を速報するかたちで放送した。
特別番組は、各拘置所からの中継、スタジオでの事件の解説、被害者遺族らの会見、国内外の反応など約1時間半にわたって生放送され、刑の執行情報は更新しながらフリップなどで伝えられた。

申立人は松本元死刑囚の三女で、番組は「人の命を奪う死刑執行をショーのように扱った」として、遺族の名誉感情を害されたと訴えている。また、スタジオのコメントも名誉感情を傷つけるものであったなどと主張し、フジテレビに謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。

これに対してフジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報をできるだけ視聴者に分かりやすく伝えたと説明し、「死刑執行をショーのように扱った」ものではなく、人権侵害にあたらないなどと反論している。

15日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第273回放送と人権等権利に関する委員会

第273回 – 2019年9月

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2019年9月17日(火)午後4時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、水野委員

1.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」

対象番組は今年1月21日に秋田県内で放送された『NHKニュースこまち845』。情報公開請求等によって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ「訓告の処分を受けた」と報じた。この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「不正確な情報を、あたかも実際に起きたかのように間違って報道された」と主張し、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求めBPO放送人権委員会に申立てを行った。
 
これに対してNHKは、「情報公開請求で開示された内容を、各大学で改めて取材を行い、内容に誤りや変更がないことを確認した上で概要を説明した」と反論したうえで、「処分をされた教員は、いずれも匿名で、役職や年齢に触れていないなど、個人が特定できないよう、十分配慮している」と説明した。
 
第269回委員会において審理入りを決定し、前回委員会では申立人とNHKに対してヒアリングを行った。今月の委員会では、第1回起草委員会で起草した「委員会決定」案が示され、委員より説明の後、審理が行われた。審理では、論点に対する評価や表現等について意見が交わされた。修正を行い、次回の委員会に提案することになった。

2.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。その中で、アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかける一方、音声の一部が加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」としている。
委員会は、第271回委員会で、運営規則の要件を満たしているとして審理入りを決定した。
今委員会では、論点の整理やヒアリングでの質問項目の絞り込みなどを行い、次回委員会で申立人、被申立人双方に対してヒアリングを行うことを決めた。

3. 審理要請案件「訴訟報道に関する元市議からの申立て」

テレビ埼玉は、2019年4月11日午後の『News545』で、元市議が提訴した損害賠償訴訟のニュースを放送した。元市議は、その中で「自分がセクハラで訴えられたかのようなタイトル」をつけられたことや、「第三者委員会のセクハラ認定後に議員辞職したかのような誤解を与える表現」などによって、名誉が損なわれたとして申し立てた。これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に説明しているなど、全体をみれば誤解されるようなものではなく、名誉毀損や放送倫理に反するものではないと反論している。またテレビ埼玉は「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実だとして、当該放送のあった日の午後9時半のニュースで表現を修正して放送したほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
委員会は、第272回委員会で、運用規則の要件を満たしているとして審理入りを決定した。まだ双方の必要書類が全て揃っておらず、今委員会では、今後の審理の進め方について意見交換を行った。

4. その他

  • 申立ての状況について事務局より報告があり、関連して委員の間で意見交換が行われた。

  • 次回委員会は10月15日に開かれる。

以上

2019年1月29日

近畿地区意見交換会

放送人権委員会の「近畿地区意見交換会」が1月29日に大阪市で開催された。BPOからは、濱田純一理事長をはじめ放送人権委員会の奥武則委員長ら委員9名全員が出席し、近畿地区の民放15局とNHK近畿地区の放送局から90名が参加して3時間30分にわたって行われた。
意見交換会では、まず濱田BPO理事長が「BPOとは何か」と題し、「BPOにおいて、第三者が決定をしてそれで終わりではなく、あるいは第三者に丸投げして解決をしてもらうということでもなく、あくまで放送に関わる人たちが自律をするということ、それが根幹」だと強調した。
続いて奥委員長が、放送人権委員会の役割と「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」(人権委員会決定第67号)に関する委員会決定について、さらに市川委員長代行が、「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(決定第63・64号)に関する委員会決定について説明し、それらを基に参加者と意見を交わした。また、参加者への事前アンケートで関心の高かった近畿地方での刑事事件2件についてとりあげ、被害者の実名報道や顔写真使用の是非、未成年の被害者に対する報道実態などについて質疑応答を行うなど、有意義な意見交換となった。

【BPOとは何か】

●濱田理事長
私からは、BPOが持つ意味や精神と、ジャーナリストの皆さんたちに期待したいことを簡単にお話します。
私は、「BPOは、市民社会における問題解決の望ましいモデルだ」というふうに言っています。社会の中で紛争が起きても、公的な力で解決するのは究極の方法で、一番いいのは自らの手で解決をしていくことです。それを実現しているのが、BPOという組織だということです。
BPOはよく、「自主規制機関か、第三者機関なのか」と聞かれますが、私は「BPOとは、第三者の支援を得て自律を行う仕組みだ」と考えています。つまり、重点は自律にあります。第三者が決定をして、それでお仕舞いではなくて、あるいは第三者に丸投げして解決をしてもらうことではなく、あくまで放送に関わる人達が自律をするということ、それが根幹です。それを第三者が助けていく、そういう構造だと思います。
大切なのは、そういう意味で自律が機能するということで、そのために、案件について委員会の判断が出たあとに、3か月経ってどう対応がなされているかといった「3か月報告」であるとか、あるいは案件が生じた局に対する「当該局研修」であるとか、あるいは今日のような「意見交換会」であるとか、あるいは毎年開催している「事例研究会」であるとか、「講師派遣制度」であるとか、こういったいろいろな仕組みがあります。ですから、裁判所のように、とにかく決定が出ればそれでいいという話ではなくて、委員会の判断を巡るさまざまな消化や議論の機会があって、それらが全体として、このBPOという自律の仕組みを機能させている、ということだと言えます。
したがって、委員会が決定等を出しまが、その読み方も、ともすれば数行を読んで「あ、決定の結論はこういうことだな」と頭に入れてしまうことが多いのですが、大事なことは、その決定についてどちらが勝ったか負けたかではなくて、どういうポイントをどういう筋道で考えなければいけなかったのか、そういうことをあらためて振り返ってみるためのメッセージが、その決定の中には含まれています。そうしたところを是非、読み取っていただきたいと思います。
なにか"べからず集"を作って、そのマニュアルに従っていれば、それで物事がスムーズに運ぶということではありません。何かルールを決めて形式的に物事を処理するのは、ジャーナリズムの本質、あるいは表現する者の本質に反することだと思います。決まっていることであっても、それをあらためて、それはどうしてかと、これでいいのかと、そういうことをしっかり考えるのが、表現に携わる者の姿かと思います。そうしたことを考える場として、今日のような機会も設けられているわけですが、こうした場では当然、いろいろな議論が出てきます。厳しいやり取りが出ることもあります。そのときに、お互いに信じ合わなければ議論というのは成り立たない。つまり、ジャーナリストの皆さん方、あるいは委員の皆さん方、それぞれに良心を持って、放送というものをよりよいものにしようという同じ思いを持って対話をしている、ということを確認し合う。そのようにお互いを信頼しながら率直な議論をして、問題をさまざまな角度から眺めて見ることがとても大切なことだと思います。
このBPOの各委員会は倫理の問題というものを取り扱います。で、何人か法律の専門家が委員にもいますが、ちょっと気になるのは、倫理ということをあまり強く言うことで、法律で規制されていないものまで何か自粛しなければいけなくなる、そういう問題はどう考えればよいのか、ということです。法というのは倫理の一部で、倫理を守るというのは法的制裁より広い範囲を意味することになりますが、あえてそういう幅広い倫理というものを自分達が守ろうと、それを巡って議論しようというのは、結局、自分達が持っている自由の質を高めていこうと、自分達の職業倫理というものを確認することで、自分達が放送人であるという自覚を高めていこう、そういうアプローチだと思います。ただ法律を守ればいいということではなくて、倫理というものを常に考えることによって、自らの職業、自らの役割というものの重さ、尊さ、そして作法というものを考えていく、これがとても大事なことであり、それがあってこそ視聴者の信頼を得られるのだと思います。
結局、そうした倫理を支える原点にあるのは、放送人としての誇りであり、緊張感です。そういうものがなくなってしまうと、いくら自由だ、自律だと言っても、社会的な役割は果たせない。そうした誇りや緊張感、そういうものを思い起こしてもらうのが、このBPOの役割だと私は思っています。
今日、一つ付け加えておきたいのは、BPOには青少年委員会もあって、その前委員長である汐見稔幸先生が、ちょっと面白いことをおっしゃっていました。今の子ども達は「スマホ的個人」と言われるようなものになってきている。つまり、自分が思ったことを、とにかく他人に伝えたい。ほかの人から何やかや言われるよりも、あるいは議論するよりも、とにかく言いたいことを言いたい。自分の言っていることが正しいかどうかということを振り返ってみることを、ちゃんとしない。スマホ世代というのは、そういうリスクをもつ傾向があるということを言っているわけですが、元々、表現というものはそういうものではないだろう、お互いに、より説得力があり、より実証性のある論理を懸命に組み立てて、それを即座にその場で論敵も含めてお互いに評価し合うという知的空間、こういうものがあるというのが本来の表現の場だということ、これをスマホ的個人というものに対置して語っておられます。
私は、ジャーナリズムも基本的にそのように双方向的なものだと、あらためてこの言葉を読んで思いました。特に最近、放送の役割、あるいはマスメディアの役割と、インターネットでの表現の役割、そこの差はいったい何なのかということが議論になることがありますが、その差というのは、まさにここにあるのだと思います。放送人の皆さまには、「スマホ的個人」にはなってもらいたくない。常に対話と緊張、誇りというものを持ち続けながら、表現という行為に携わっていただきたいと思います。

【放送人権委員会の役割】

●奥委員長
BPOには、3つの委員会があって、放送倫理検証委員会は番組内容について放送倫理上の問題を審議、審理する。我々の放送人権委員会は、放送によって名誉・プライバシーなど人権侵害を受けたという申立てを受けて審理し、人権侵害があったかどうか、放送倫理上の問題があったかを判断します。
放送人権委員会は具体的な申立てが入り口です。放送番組によって人権侵害されたと受け取った人がいる。その人からの申立て、その放送によって申立人の社会的評価が低下し、名誉を毀損したかどうか、放送倫理上の問題はなかったどうかを審理する。こういう枠組みです。
社会的評価が低下したかどうかを考える時には、その放送番組が申立人についてどのような内容を視聴者に伝えているか、どのような印象を視聴者が持ったかと。つまり、これが法律の言葉で言うと事実の摘示ということになります。要するに視聴者はどう見るかということがあるわけで、これは判例として定着していますが、「テレビ放送された番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すべきである」ということです。専門家でなくて、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とする。さらに「その番組の全体的な構成、これに登場した者の発言の内容、画面に表示された文字情報の内容を重視し、映像及び音声に関わる情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する」。これはテレビの特質と言っていいと思います。新聞の記事であれば、何回も繰り返して読めるわけですが、テレビだと流れてしまう。これは皆さんご存じの、テレビ朝日の所沢ダイオキシン報道についての最高裁判決です。我々も、いつも、基準にしていることです。
しかし、社会的評価が低下したから、すぐ名誉毀損になるかというと、そうではない。その報道が社会的評価を低下させても、名誉毀損罪に問われない場合の規定が刑法にあります。これが民事のレベルにも適用されます。公共性・公益目的があって、真実性、あるいは真実相当性-真実と考えたことに相当の理由ということです-認められるということになれば、名誉毀損には問われないことになっています。
我々は、いわば天秤を持って仕事をしています。片方の皿に人権という問題が乗っています。これがしっかり守られないと困るわけですが、人権を守っていれば良いかというと、報道は、そうも行かないです。公共性とか公益性があって、その上で真実性とか真実相当性が認められたならば、報道には自由があるんだと、こっちの皿の方が重いというわけです。この比較衡量、どっちが重いのかを考えながら、皆さんも、現場で仕事をしているのだと思いますが、我々も結果的にはこういうことで判断しているわけです。

【委員会決定第67号について】

「沖縄基地反対運動特集に対する」委員会決定第67号について説明していきますが、人権侵害というのは、我々の決定の中のグラデーションから言うと、一番上というか、重いというか、そういうレベルです。
申立人・辛淑玉さんの主張を整理すると、1つ目は「申立人は、反原発、反ヘイトスピーチ、基地反対運動を職業的にやってきた人物で、基地反対運動を扇動している黒幕だとの事実を断定している」ということ。後半のスタジオトークの中で、こういうことを確かにいろいろ言っていて、辛淑玉さんという名前も出しているわけです。2つ目はお金の問題です。「金銭で動機付けられた基地反対運動参加者に日当を出して雇っているのは申立人である」と。申立人が雇っているという言い方を直接はしていませんが、スタジオトークを普通の感覚で見ていくと、こうなるというのが申立人の主張です。カリスマで、反原発、お金がジャブジャブ集まってくるとか、そういうことを言っているという部分です。それから3つ目ですが、「申立人は韓国人で」、「親北派であることから基地反対運動を展開している」。このとおりの言い方ではありませんが、こういう意味のことを確かに言っています。4つ目は、かなり重要なところですが、反対運動そのものについて、「反対派が救急車を止めたとか、反対派が暴力を振るっているとか、振興予算が無法地帯に流れている等の事実を摘示し」、「反対派をテロリストと表現しており、視聴者は基地反対運動に参加する反対派は犯罪を行っている犯罪者集団であるとの印象を持つ」という主張です。地元の人という人にインタビューして、この人がテロリストと言っても過言ではないと話す部分がありました。犯罪を行っているという話も、そこにずいぶん出てきました。申立人はこういうことを主張して、これが名誉毀損だというわけです。職業的にやってきた人物、これは自分のことだというわけです。扇動している黒幕だという。それから日当を出して雇っているのは申立人であると。申立人は韓国人であると。この3つの部分は申立人その人についての話ですが、4つ目は、直接申立人のことではなく、反対運動のことを言っているわけです。
これに対して、当初、MXテレビの反論は、1つ目は、職業的という表現については、申立人は反原発、反ヘイトスピーチ、基地反対運動などに積極的に従事して、現在は沖縄の基地問題に取り組んでいるという事実を伝えただけで、申立人の社会的評価を低下させるものではない。申立人が黒幕だとは言っていない。確かに、申立人が黒幕だという表現は、直接はないです。もし仮にそう取られ、申立人の社会的評価を低下させたとしても、公共性や公益目的で行った放送であり、内容は真実である。実際、黒幕的な立場だという主張です。2つ目は、のりこえネットの集会のチラシに「5万円の交通費を支給する」とあることを放送で示しているけれど、財源は不明だとしており、申立人が出しているとは言っていない。しかし、普通に、あの流れの中で視聴をしていると、どういうふうに視聴者が受け取ったかという問題になるわけですね。お金を出している云々という話ですが、一般論としての見解であり、申立人を指して言ったわけではないと主張しました。3つ目は、確かに高江ヘリパッド建設反対運動の一部では強硬な手段が行われている。それについて、テロリストという比喩的な表現を使ったのであって、申立人をテロリストと名指ししたわけではない。こうMXは反論したわけです。
こうした主張を整理してみると、反対派の暴力行為で地元住民も高江に近寄れない状況があるという話。それから救急車をも止めるという話もありました。テロリストと言ってもいいなどの犯罪行為を繰り返している。それから、なぜ犯罪行為を繰り返すのか。これは、スタジオトークで言っていました。その裏に信じられないカラクリがあるというテロップが出る。これは重要な部分だと思います。のりこえネット主催の集会、お茶の水の何とか会館で、5万円あげますと書いてあるんですと。で、韓国の方ですねって。2万円と書かれた封筒を、これが、いわば、証拠だというように見せている。反対派は何らかの組織に雇われているのか、こういうトークもありました。こういうことから、全体的に視聴者がどう受け取るかというと、取材もできない過激さで、資金を出している団体がある、そこには韓国の方の名前がある、こういう事実を摘示しているということになるわけです。後半のスタジオトークの部分で辛さんの名前が初めて出てくるわけです。「のりこえネットの辛さんの名前が書かれたビラがあったじゃないですか」、「この方々というのは、元々、反原発、反ヘイトスピーチなどの、職業的にずーっとやってきて、今、沖縄に行っている」という発言があり、「沖縄・高江ヘリパッド問題反対運動を扇動する黒幕の正体は」とテロップでも流れるわけです。ここで、「辛さんていうのは、在日韓国・朝鮮人の差別ということに関して戦ってきた中ではカリスマなんです、ピカイチなんですよ」、「お金がガンガン集まってくる」、「親北派です」、「韓国の中にも北朝鮮が大好きな人もいる」と、こういうようなスタジオトークが展開されるわけです。韓国の方というのが実は辛さんだと言及されるわけです。扇動する黒幕の正体というのが、普通に見ていると、「あ、そうか、辛さんなのか」というふうに受け取られる。そう私たちは判断したわけです。
委員会の判断を少しまとめますと、実際に現地入りして取材したという放送が流れて、スタジオトークがあるわけです。これを全体の流れの中で判断しなければいけないということです。そうすると、申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物で、その黒幕である。さらに、申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している。こういうことを摘示しているというふうに、我々は判断したわけです。これは明らかに申立人の社会的評価を低下させますから、名誉毀損が成立しますとなるわけです。
しかし、最初にお話ししたように、名誉毀損にならない、阻却されるかどうかということなので、この放送には公共性、公共目的、認められる。これについては、委員の中にもいろいろ意見があって、公共性も公益目的もないという意見もありましたけれども、一応、沖縄の基地反対運動の現状を取り上げているという意味で、これは、認められるでしょうということになりました。
問題は、真実性あるいは真実相当性の問題です。反対運動の過激性、犯罪性について、どういうことを辛さんが集会で言っているか、読んでみます。「だから、現場で彼ら2人が20何台も工事関係車両を止めた、それでも1日止められるのは15分」、「でも、あと3人行ったらね」と言っています。こうした発言を、MXは、実際、過激性、犯罪性があるんだという、いわばそれを立証するというか、その証拠というか、そういうものとして持ち出しています。実際、こういうことは確かに言っています。もう少し読みますと、こういうことを言った。「あともう1人行ったら20分止められるかもしれない。だから私は人をヘリパッド建設現場に送りたいんです。そして私たちは、私もね」と、これ、辛さんのことですね、「はっきり言います。一生懸命、これから稼ぎます」、「なぜならば、私、もう体力ない。あとは若い子に死んでもらう。で、それから爺さん、婆さんたちはですね、向こうに行ったら、ただ座って止まって、何しろ嫌がらせをして、みんな捕まってください」、「でも、70以上がみんな捕まったら、そしたら、もう刑務所へも入れませんから、若い子が次々頑張ってくれますので」。こういうことを集会で辛淑玉さんが言っている。これはまさに反対運動の過激性、犯罪性を物語っているのではないかということで、真実性があると主張したわけです。我々委員も、相当、辛さんは過激なことを言ったなと思いました。だけど、それは、反対運動の集会の中で、いわば、ある種のアジテーションで言っているわけで、これで、すぐに、反対運動全体の犯罪性だとか、そういうことはちょっと言えないのではないかということです。
それから黒幕の話です。確かに、往復の飛行機代相当5万円、支援します、あとは自力で頑張ってくださいと、のりこえネットの集会のチラシに、書いてあるわけです。だけど実際に黒幕ということで考えると、辞書で引くと、「自分は表面に出ず、影にいて計画したり人に指図したりして影響力を行使する人物」と出てくる。辛さんがそういうことだったのかというと、のりこえネットが交通費を支給したのは確かです。のりこえネットにカンパなり寄付なりがあって、それを、何十人かに支給はしたんですけれども、だからといって、のりこえネットと申立人個人と同一視することはできない。真実性は認められないということで、結局、名誉毀損が成立するということになったわけです。
以上が、この事案についての委員会の決定の骨子です。MXは、その後、やっぱり、まずい放送をしてしまったと、というふうに考え方を改めました。放送倫理検証委員会でも、持ち込み番組をそのまま使った考査が不十分だったと指摘しました。そういうことも含めて、私は、こういう人権侵害と我々が判断したような番組が放送されてしまったということを、少し別の角度から考えてみたいと思います。いったいそこで何が問われたのかということです。こういうことを考えないと、根本的な問題に入り込めないのではないかと思います。
私は、「メディアフレームの危うさ」と「テレビ放送の力というものへの認識の欠如」があったのではないかと考えました。MXは「本番組は、沖縄県東村高江地区のヘリパッド建設反対運動が、過激な活動によって地元住民の生活に大きな支障を生じさせている現状と、沖縄基地問題において、これまで他のメディアで紹介されることが少なかった声を、現地に赴いて取材し、伝えるという意図で企画されたものである」というふうに説明しました。「これまで他のメディアで紹介されることが少なかった声を現地に取材し伝える意図」、これだけ見ると私は、すごく正しいというか、メディアとして多様な情報が多様な形で流れることが必要で、こういう意図を持っている。この意図は、非常に評価できると思いました。
しかし、実際問題として、そういう番組になっているかというと、そうじゃない。ともかく、彼らは過激で、犯罪行為をする。そういう、最初からの枠組みがあった。取材者は、当初から出来事の全体を掴んでいるわけではない。取材に行く時に、どこに光を当てるかというふうな意味での枠組みとか視点とかがないといけないのですが、この番組の場合はどうだったか。本来は、かなり有効なメディアフレームだったと思います。ところが実際問題としては、現場へ行ってもほとんど取材しないで、最初から持っている、彼らは過激だというようなことを繰り返して、先入観で突っ走っている。これではダメであって、取材に行ったら、現場で見ていたら、そうではないのだなというようなことを分かったりする。それをフィードバックして、メディアフレームを修正するということがないといけないんで、それが全然ないというふうに思います。
だから、こういう取材をする時に、一定のメディアフレームを持つ必要はあるけれども、これを現場に行って取材して、いろんな情報を聞く中で、ちょっと違っていたりすると、修正してフィードバックしていく、そういう在り方が、この番組には、全然なかったと。先入観ですね。暴力的、過激であると。テロリストと言ってもいいと。そういうせりふが出てきました。で、沖縄県外から、韓国人はいるわ、中国人はいるわって、こういうような、ある意味で、非常に無責任なことを言っている。実際に事実を確かめているかどうか分からない。確かに、韓国人や中国人がいますけれど、それがどれくらいいるのかというようなことも、ちゃんと事実を取材しているわけではなく、こういう言葉だけ使っているわけです。それから、背景に資金を出している組織があると、これが事実なら反対派の人たちは何らかの組織に雇われているということを言っていて、のりこえネットと辛さんの名前を挙げているわけだけれど、のりこえネットに対して取材をしているかというと、そんなこと全然ないんです。あのビラ一枚、見せて、こういうことを言っているというわけです。それで辛さんという人はカリスマで、お金がガンガン入ってくるよと言っていて、当初持っている先入観で、そのまま突っ走った。そういうことを少し考えてほしいです。
テレビ放送の力ということで言うと、元々、インターネットに流すような番組として生まれた経緯があるようですね、『ニュース女子』というのは。もちろん、テレビ局でも、全国的にもいろいろなところで流していますけれど。MXの当事者は、テレビ放送が持つ力というものをしっかり認識していなかったと思います。人権委員会ではヒアリングをいつもします。ヒアリングに来た辛さんが、こういうことを言っていまして、非常に印象的だったのは、「自分はこれまでにもインターネットの世界で様々な誹謗や中傷を受けてきた。それらには、もちろん傷付いた。しかし、今回の放送は、それが地上波のテレビで行われたことに愕然とした。もう自分はこの国では生きていけないのかと思った」と。インターネットには無責任な言説というのはいっぱい出ていますが、やはり人々の感覚は、インターネットに出ている情報と、テレビで流れることとの、歴然とした差別をしているわけで、そのテレビの持つ力、それをしっかり把握していなかった、そういうことが問われたのではないかと考えました。

【意見交換】

(A局)
『ニュース女子』を、毎週放送していて、毎週考査を行っています。出演者はジャーナリストや専門家が多く、視聴者がその発言を事実と受け取りやすいことから、どの程度まで事実確認が必要なのか、頭を悩ませています。
この回でも「マスコミが報道しない事実」という言葉がありましたけども、どうやって事実確認をしたらいいのか、いつも悩んでおります。今はインターネットなどで調べて、新聞で報道されているなら、ある程度、事実と言えるのではないかというような判断の仕方とか、そうした調べ方をしています。そもそも新聞もしくは週刊誌は、事実確認のエビデンスとしては使えないかなと個人的には思っていますが、新聞、週刊誌に掲載されているようなら、ある程度、信頼してもいいのか。それとも出演者、元官僚だったりとか、政治経済に精通した専門家だったりとか、ある程度、取材、個人的に取材もされているような方が、この『ニュース女子』、たくさん出ていますけども、彼らが自身の経験として発言していることを考査担当として事実確認がしづらい部分もあります。そういったことは、ある程度、個人の責任として放送してしまってもいいのか、いつも判断に迷いながら考査を行っています。

●奥委員長
非常に切実な問題だと思います。事実確認という言い方をされていましたけれども、テレビのニュースや情報番組は、実は事実だけを伝えるわけではない、コメントや論評もするわけです。報道の自由という中には、論評の自由というのも含まれていると考えていいと思います。ただ、その論評の仕方とか内容が問われるのであって、誹謗中傷に当たるとか、どう考えてもそれは間違っているというものは、考査のレベルで止めることは必要でしょう。専門家が、いろいろな意見を言うということについて、規制することは、表現の自由とか報道の自由とか、そういう観点から言っても決して望ましくないと思います。ただ、出演者にはちゃんとした自覚を持ってもらわないと困るわけで、『ニュース女子』に出てきた人たちは、MCは新聞の論説副主幹などをしていた方で、あと、経済評論家、軍事漫談家と称する人や元官僚の人たちもいましたが、彼らに、どこか番組について、バカにしているような感覚があったのではないかと私は思っています。もし、あれが視聴率の高い時間帯に行われる番組であったら、あの人たちはああいうことを言っただろうかと考えます。彼らは、発言に対してすごくルーズになっていた。それは考査のレベルでしっかり止めなければいけないだろうし、やっぱり、番組を作り出すプロセスの中で、しっかり議論していくということが、前段階として必要だったと思います。

●白波瀬委員
私は、法律家とか放送の専門家ではないので、委員の中では一番一般の視聴者の視線に近い立場で議論したいと思います。今、事実確認ということがありましたが、視聴者は、それが正しいかというよりも、放送という媒体から出た瞬間、一つのストーリーというか、これ、奥先生はフレームワークとおっしゃったのですけれども、何らかのストーリーなりメッセージ、あるいは論評として捉えるものと思います。今回、この内容自体が、今の日本の直面している大きな問題とも関連して、注意して取り扱うべきことであるということは、もし本当の意味の専門家であったら、そういう自覚と良心は、既にあったとは思いますが、テロリストとか、そういう言葉はそんなに簡単に使えるような言葉ではないと思います。

●曽我部代行
法律家の観点から補足すると、考査は何を目指すのかということがあります。最低限、法律的なリスクのお話で申しますと、名誉毀損とかプライバシー侵害とか、そういうので法律的な責任を問われるということがありうるわけです。これは、持ち込み番組であっても、放送した局が責任はそのまま問われます。持ち込み番組なので、うちではちゃんと取材はできませんでしたので、しょうがないので免責してくださいということには、全くなりません。これは、共同通信の記事に基づいて配信する地方紙の立場とは違って、こういう持ち込み番組を放送するテレビ局は、その内容の全部について法的責任を負うということですので、少なくとも名誉毀損とかプライバシー侵害、あるいは肖像権等々、権利侵害に該当しうるものについては、かなり綿密にチェックをされる必要があると思います。その上で、そうでない一般的な事実の誤りとか、あるいはコメントの行き過ぎとか、そういうのは直ちに法律的な責任を問われるものではないので、そういう観点から、自社で放送するにふさわしいかどうかをお考えいただいて、判断されることだと思います。例えば、この回なんかは、もう丸ごと放送しないという判断もありうること、そう判断された局もあったやに聞いていますけれども、という意味では、大きな判断も、時にはしないといけないのかなとは思います。少なくとも、その法律的な責任を問われるようなところは、少なくとも新聞記事は見るとか、可能な範囲で十分チェックをされないといけないのかなとは思います。

●二関委員
新聞で報道されていることとか、あるいは元官僚の方が語ったことであれば信頼していいかというご質問ですが、一概に、それだったらいいというふうには言えません。だから非常に難しい問題なんだということですね。そこで止まると、あまりに参考にならないので、一つ最高裁の裁判をご紹介します。1999年10月26日判決という最高裁の判決ですが、刑事の第一審の判決において示された結論とか、あるいは判決理由中の事情というのは、それが、地裁の判断が高裁でひっくり返ったとしても、ひっくり返る前に、その刑事の判決に則って報道したものであれば、それは間違っていても信頼しても構わないというような最高裁の判断です。それはなぜかというと、やっぱり刑事事件というのは非常に慎重な審理を経た上で裁判官が一定の判断を下しているものだから、それは信頼に値すると言っているということです。それとの比較において、じゃあ新聞報道は果たしてどうなのか、あるいは元官僚の人が自分の経験として語ったことはどうかを考えてみると、おそらく、自ずとですね、そうそう信頼していいものではないのじゃないかっていう考え方が、そこから導けるのではないかなと思います。

●曽我部代行
法律上の話ですが、二関委員が言われたように、持ち込み番組であっても、放送した内容については放送した局が全て責任を問われます。名誉毀損について言うと、新聞記事とか、あるいは専門家と称する人のコメントであっても、それだけでは通常は真実相当性というのは認められにくいので、先ほど、新聞記事などでチェックしたらどうかと申し上げましたが、それでは、多分、実際、訴訟になったらダメです。ただ、日常的にできることしては、それぐらいが限度かなというので申し上げました。なので、普段の考査で、新聞記事等でチェックされていても、いざ本当に訴訟になると、それでは不十分だと判断される可能性は十二分にあります。考査でいくらチェックしても、責任を免れ、完全にリスクを排除することは不可能だと思われます。その場合は、制作会社と放送した局の間の契約等で、事後的な、補償等の契約をするのが、多分、解決方法だろうと思います。

(B局)
こうしたスタイルのトーク番組は、関西ではありがちです。対立構造みたいなのを見せて議論する演出は、分かりやすい一方で、ついセンセーショナルな方向に走りがちで、制作側としては、いい悪いでどっちかに結論を出してやらないと、番組が締まらないみたいなことがあって、そういう演出に行ってしまう場合があります。あと、出演されている人の発言を制限するというのも、どうかなと悩むところです。どう整理したらいいのか、どう判断して放送したらいいのかが常に悩ましく、社内でどうチェックをしていったらいいのか常に悩んでいます。

●水野委員
そのコメントなり何なりが事実に基づくか否かですかね。事実に基づいた上での発言であれば、フェアなコメントと大概の場合は言えるかと思いますので、極端な誹謗中傷、個人的な人身攻撃にならなければ、何らかの問題、事実に関するある種の批評なり感想なりということで、大方は問題ないのじゃないかと思いますが。皆さんは放送のプロなので、これまで、自分で体験し経験し培ってきた価値観、もしくは、これはちょっとまずいっていう、プロの勘、感覚っていうんですかね、プラス、これまで半世紀以上、積み重ねてきた日本の放送界の成果を総動員して、皆さんが意識する・しないにかかわらず、貯めてきたエキスというのを、基本的に信頼しています。そのプロの感覚で、これはまずいなっていうことでない限りは、だいたい深刻な問題になることはないだろうと考えています。そこで重要なのが、先入観みたいなものですね。これがあると、その勘が鈍ってしまう危険性が出てくるので、そういった時に危うい。なので、できるだけ決め付けない。もしかしたら、第一勘、第一印象とは違った可能性があるんじゃないか、そんな、自省、多少の謙虚さを持って日々の報道に当たっておられれば、大きな逸脱はないのではないかと、一視聴者としても考えています。

●曽我部代行
関西でよくあるタイプのトーク番組では、事実については、やっぱり同じように確認をしていただく必要があると思います。もう一つ、事実ではなくて、それに基づいていろんな意見を言うことは、水野委員の指摘のように、これはかなり許容の幅が広いということです。とりわけ、論争をしていて、こういう意見もあれば、ああいう意見もあるという形であれば、全体として、ある程度、バランスが取れている可能性がありますので、一つひとつの発言が、ある程度、過激なものであっても、全体として見れば、まあ論評の域に収まっているというふうに主張できる可能性も十分あるので、そういう線でまとめていただくことがいいんじゃないかなと思います。

【委員会決定第63・64号について】

●市川代行
まずテレビ熊本の事案ですけれども、事案の内容は、申立人は、放送は、警察発表に色をつけて報道して、意識がもうろうとした女性を連れ込んで、無理やり服を脱がせたというような事実と異なる内容を放送した。容疑を認めたと言うことによって、すべてを認めていたように誤認させている。それからフェイスブックからの無断使用。そして職場の内部とか、自宅の映像まで放送されているということが、非常にひどい扱いをされたということで、人権侵害だと訴えました。テレビ熊本は現職の公務員の準強制わいせつの事案なので、影響は大きいと考えて、報道した。適切な報道であると、こういう説明をしています。
事件の発生に沿って説明させて頂きます。警察からFAXで、この準強制わいせつ事件の被疑者の逮捕について、という広報連絡が入ります。この広報連絡には、通常逮捕で、準強制わいせつの罪名ですと書いてある。そして、事案の概要については、「上記発生日時場所において、Aさんが抗拒不能の状態にあるのに乗じ、裸体をデジタルカメラ等で撮影したものです。」という説明になっています。そうすると、まず警察広報担当者に何を聞くかとことですが、事案の概要の容疑を認めていますかと聞くと、広報担当は、間違いありませんと認めてますという。そして、皆さん疑問に思う抗拒不能とはどういうことですかということを聞いた。すると、それに対する答えとして、先ほど言った、タクシーに乗せて、容疑者の自宅に連れ込んだ。意識がもうろうとしていたAさんの服を脱がせて、写真を撮影した。そして、Aさんは、朝、目が覚めて、裸であることに気づいて、1か月ほどした後に、第三者から知らされて、容疑者が自分の裸のデータを持っていることを知ったと。そして警察に相談した。こういう道筋の話をしています。今の説明というのは、広報連絡に書いてあったことよりも、その周りの前後の事実も含めて、詳しく説明がなされています。そして、広報連絡と警察の広報の担当者の説明と合わせて考えた時に、被疑者は何を事実と認めているのか。先ほど、容疑を認めているということでしたけれども、その認めている内容というのは何なのかということですが、先ほどの事案の概要、骨組みの部分だけなのか、この広報担当が述べた、知人であったAさんと飲酒した後、Aさんを自宅に連れ込んだ。それから、意識がもうろうとしていたAさんの服を脱がせて、写真を撮影した。ここも含むのかというところが問題になります。この点について考えてみると、取材ではこれ以上突っ込んで聞いていません。
じゃあ、この範囲でどう考えるべきかということですが、まず、わいせつ目的で、Aさんが同意のないまま自宅に連れ込んだ。それから、Aさんの服を、意に反して脱がせたということは、この抗拒不能の状態で裸であったこととは、事実としては別のことです。しかも、事実、この事実というのは、非常に事件の悪質性に大きく関与するんですが、広報連絡には書いてない。そうすると、この今の上の点について、申立人が認めているというふうには、明言はしてないだろうということになります。それから、通常逮捕が10時で、その2時間後の説明。おそらく弁録が終わったばかりの状態です。道行きの部分、その後の部分も含めて、すべて理解した上で、弁録で事実に間違いありませんと言っているのか。この点も疑問です。それから、Aさんは申立人の知人であった。そして、翌朝に目が覚めて裸であったことを認識していたということも、説明されている。そういったことを考えると、果たしてどこからどこまでがAさんの意に反することだったのかということは、疑問が出てきます。
これに対して、放送が示している事実というのは、ここは放送内容を細かく区分けして書いてあるところですが、意識がもうろうとしていた知人女性を自宅に連れ込んで、という部分、これは先ほどの、次段の概要、ここに書いてあったことの前の段階の部分ですけれども、この部分を書いてある。それで、ABCと書いてあって、Dのところで容疑を認めているということになっています。で、その後、EとFで、事件当日の自宅マンションに連れ込んだということです。それから、女性の服を脱がせ、犯行に及んだということです、という、こういう説明になっています。で、語尾を見て頂くと分かるんですが、良くある、「ことです」というのは、事件報道の中で、警察がこういう調べをして、こういう見立てをしているようです、というような形で、良く、こういう語尾を使いますが、今回は、この間に、この容疑を認めているということです、というのが入って、その前後が、基本的に同じような語尾でつながっていて、見ている側とすると、この、容疑を認めているということです、ということが、前後すべてにかかってくるのだろうなと一般の視聴者は、見るのではないかなと我々は考えました。そうすると、容疑を認めていると放送していること。犯行の経緯の部分や対応と、直接の逮捕容疑となった被疑事実を、明確に区別せずに放送しているので、このストーリーに含めたすべてを、事実を申立人が認めて、したがってストーリー全体が真実であろうという印象を、視聴者に与えているというふうに考えました。そうなると、社会的評価を下げる。その上で名誉毀損にあたるかどう、真実性の証明を考える。もちろん真実性の証明は、逮捕段階ですので、明確な真実性の証明というのは難しい。では、相当性があるかどうかですが、相当性については、あるというふうに、委員会としては考えました。というのは、取材経緯と副署長の説明の不明確さということと、判例でも2つの考え方があって、平成2年の判決ですが、警察の捜査結果に基づいた発表に基づいての報道であれば、相当な理由があると考えるという判決。それからもう一つは、少しグラデーションが違って、被疑事実ではなく、客観的真実であるかのように報道したことによって、他人の名誉を毀損した時には、相当な理由があったとして、過失の責任を逃れることは出来ないということで、この辺りの広報の捉え方、それを信じたことによる相当性の有無というのは、グラデーションがあるということで、我々としても、名誉毀損の相当性がない、名誉毀損の要件としての相当性がないというところまで、ここで判断するべきではないだろうと考えて、名誉毀損の相当性はないとは言えないという形で考えました。
ただ、放送倫理上の考え方としては、これは大学のクラブでの犯罪事件、容疑に関する事案での放送倫理上の考え方、当委員会の考え方(放送人権委員会決定第6号から第10号)ですが、こういった考え方もある。それから、民間放送連盟の、これは裁判員制度が始まった時の、予断を拝し、その時の事実のまま伝えるという、こういう考え方(「裁判員制度下における事件報道について」)もある。それからもう一つ、新聞協会の、これは比較的、この段階のものに当てはまりますが、供述が多くの場合、変遷を重ねて、する場合もある。それから情報提供者の立場によって、力点の置き方、ニュアンスが異なる。そういったことを考えて、すべてがそのまま真実であるという印象を与えないようにすべきだという、こういう考え方を述べています。そう考えた時に、この広報担当者の説明部分の内、どの部分まで申立人は事実と認めていることなのか。そうではない警察の見立てのレベルのことが含まれるのか、ということについて、疑問を持って、その点について丁寧に吟味し、広報担当にさらに質問すべきじゃなかったかと。つまり、具体的に、どこからどこを、彼は認めているのか。容疑事実、広報連絡に書いてあった事実なのか。それ以外の部分の、警察の見立てについても認めているということであるのか。この点、もう少しきちんと吟味して、聞くべきではなかったのかということ。
仮にそこまでは困難であったとすれば、この段階での警察の担当者の説明が、真実そのまま反映しているとは限らない。留保なしに、容疑者が容疑を認めているとして、ストーリー全体が真実だというふうに認められる放送の仕方をするのではなくて、少なくとも、先ほどの、連れ込んだ、とか、裸にして、ということについて、疑いや可能性に留まることを、より適切に表現するように努める必要があったであろうと、こういうふうに考えたわけです。薬物使用の疑いについては、追及する、疑いもあると見て、容疑者を追及する方針です、というふうにしておりますので、何らかの嫌疑をかけるに足りる、具体的な事実、事情が存在しているように、印象を与えるという点で、放送倫理上の問題を指摘しております。肖像権プライバシー侵害の点については、この区役所の外観を放送して、部署等について、主事との役職を示したということですが、一般論として、公務員の刑事事件であるからといって、役職や部署に関わらず、一律にこういったことを放送することが、正当化されるとは言えない。やはり事案の重大性、公務員の役職、仕事の内容に応じて、放送の適用を判断するべきだろうというふうに、一般的な基準としては考えました。ただし、本件は準強制わいせつという重い法定刑ですし、区民課の窓口で一般市民とも接触する立場にある。そういう意味で、そういった事情などを考えて、許されない場合とは言えないだろうと考えております。それから、フェイスブックから取得した写真と、独自取得した写真2枚を使用しています。で、冒頭で1回出て、またアナウンサーのところでもう1回出てきて、それから最後のところでもう1回登場します。そのフェイスブックの写真は、カメラを持って、ちょっと微笑んだような感じの写真で、こういった写真をくり返し使っているとことが、申立人にとってみれば、非常にさらし者にされたという感覚を、持ったのかもしれないと思います。本件では、あともう一つ、フェイスブックからの写真を無断で使われた、というようなニュアンスのことを言っていますが、我々としては、フェイスブックでは不特定多数の者が写真を閲覧出来る扱いにはなっていますが、そうであっても、犯罪報道の中で被疑者を示すために使用されることまで予期しているとは言えず、報道目的から見て、相当な範囲を逸脱している時には、肖像権との関係が問題になる、との考え方もあり得るというふうには考えました。ただ、本件では、不必要に申立人を非難する印象を与えるような用い方とも言えず、報道目的から見て相当な範囲を逸脱しているとは言えない、というふうに結論付けました。ただ、曽我部委員の少数意見では、顔写真はともかく、マンション前のレポートとか、そういった点がやや行き過ぎではないか。ふさわしい取材がなされたと言えるのかという、こういう問題提起はされています。
あと、フェイスブックからの写真の使用については、この事案ではフェイスブックの彼のページの中に、ご親族の小さいお子さんの写真も、別のところに入っていて、フェイスブックに行くと、その家族とか親族の写真も紐付けされて、見られる状態だったということがありました。それで、その親族の方からの、テレビ局への連絡もあって、ネット上の放送からは、比較的短時間でニュースが削除された経緯もあったと聞いています。そういう意味で、フェイスブックというのは、そういう特殊な側面があるということには、留意する必要があると考えました。
次に64号ですが、64号も基本的に63号に近いですが、放送が示す事実のところです。放送についてはここに書いてあるように、ABCDという道行きの部分、それから実際の、連れていき、という道行きの部分と、女性の服を脱がせ、それから撮影した。そして、そういったものを全部受けて、調べに対して容疑者は、間違いありませんと容疑を認めているということです、ということで、これは非常に端的にというか、AからBの事実すべてを、被疑者が認めているというふうに印象づける。放送している側も、そういう認識で放送していたようです。
先ほどのテレビ熊本は、それに対して、少し間に容疑を認めているということです、ということがあってから、女性を裸にし、ということを説明しているということで、少し切り分けている部分があるんです。担当者に後で話を聞いたところでは、テレビ熊本の方は、事案の概要に書いてあった事実と、それ以外の部分というのを、少し意識して書いたと言う方がいました。県民テレビは、全部、これは事実だという前提で、全部認めているという前提で、放送されているんだなというふうに思います。だからちょっとそこら辺が、微妙に違うところがあるんですが、結果的には、すべてが事実というふうに捉えられるということで、すべての、一つのストーリーを認めている。この一つのストーリー性を与えたことによって、事案のイメージは非常に大きく変わってしまっているというのが、本件の特徴かなと思います。放送倫理上の問題としては同じということです。ただ、あと、薬物の使用については、テレビ熊本までは行かないということで、の書き方までは、グラデーション強くないということで、問題なしというふうに考えました。

●奥委員長
私がなぜ少数意見を書いたかと言うと、容疑者は拘束されている。通常逮捕されたわけです。弁護人も選任されていない。事案の性質上、性犯罪ですから被害者への取材も出来ない。こうした場合、報道機関は警察当局の責任ある担当者の発表、説明に基づいて、事件の第一報を書くことになる。警察取材されている方は良く分かるでしょうけど、基本的に副署長が説明するということになるわけですね。本事案について警察当局は、逮捕に至るまでの捜査資料を把握した上で、直接調べに当たっている捜査官から得た情報によって、説明したはずです。通常逮捕してからは、2時間ぐらいしかないですけれど、その前にもいろいろ捜査しているはずで、実際に呼んできたのは、事件があってからずいぶん後ですからね。被害者から訴えがあってからもずいぶん経っているわけで、どこで酒を飲んだとか、当然、警察は、捜査しているだろうと考えるのが普通の警察担当記者の常識であろうと、私は思うのです。警察当局が個人的な憶測を語ったと推測する根拠はない。副署長さんが、記者の質問に答えて、いろいろ説明している。そういう場面は想定出来るわけです。決定文は、警察の見立てと、申立人が認めた容疑事実との区分けが不十分だということを指摘しています。副署長さんが捜査官にいろいろ聞いて、こういうことだよっていうことを説明したわけですね。取材する側からすれば、抗拒不能の女性の裸の写真を撮ったよと言われても、じゃあどうしてそうなったか、どうやって撮ったのかということを当然聞きますね。それに対して警察当局も、答える資料がなきゃいけないわけですから、それは当然そこで実際に調べた捜査官に、どうなっているのって、副署長さんは聞いているわけです。で、それを説明しているというふうに、私は考えたわけです。そういうことで、「警察からの広報連絡をもとに、警察当局に補充の取材を行い、その結果を本件放送とした。本件放送は容疑者の逮捕を受けた直後に事件報道の流れとして、一般的に見られるものである。内容的にも警察当局の発表、説明を逸脱した部分はない。私は本件放送に、放送倫理上、特段の問題があったとは考えない」。こういう少数意見を書いたんです。具体的にこの事件の新聞報道を参照してみると、少しずつちょっとニュアンスの違い、書き方は違うところはありますが、基本的にどの記事もこの放送と同じことを書いているんです。ということは、副署長さんは、多分、そんなに曖昧に説明したわけではなくて、ある程度ちゃんと流れを分かるように説明したんだろうと思うんです。そこでそれを聞いた記者たちは、おかしいなと、特段思わなかったと。そうすると、ああいうニュースになりますよということなんです。ということで、少数意見を書いた。ただし、少数意見には、もう一人、曽我部先生が書いているものがあって、これは重要な見解です。放送倫理上特段の問題があったとは言えないけれども、だからと言って、良質な報道だったとは言えないというものです。十分な取材があったかどうかは、分からない。ただし、一線の取材記者が、第一報の段階で、準強制わいせつと強制わいせつとの違いは何だとか、そういうことについて正確な法律的な知識を持つことを要求するのも、なかなか難しいだろうから、ああいうニュースにならざるを得なかったのは、認められる。ただし、あれでいいっていうわけじゃないと、少し釘を刺しています。私も事件報道は難問で、今回の報道が正解だというふうには思ってはいませんが、とりあえず、現在、いろんなところで行われている、事件報道のレベルから考えて、あれを放送倫理上、何かすごい問題があったと、特段の問題があったというふうにするのはまずかろうと、そういう少数意見であります。

【意見交換】

(C局)
現在、大阪府警を担当している現場の記者です。警察の広報連絡・広報メモは、毎日何枚も配られますが、概要がすごく短く、電話なり所轄に行くなりして、聞き取りをしっかりしなければ、通常のストレートニュースすら書けないような情報しか書いていない中で、この事案のようなことは、私が普段取材している中でも往々に起こりうるというか、私も多分、この事件を取材していれば、同じような原稿を、恐らく書いたと思います。その中で、逮捕容疑が何なのか。そして容疑者が自認しているのであれば、その逮捕容疑に限り自認しているっていうところまでを、明確に聞き取る意識が今自分にあるかと言ったら、正直言って、ありません。原稿の一番最後に、容疑者は容疑を認めているということです、というふうに締めることも、本当に良くあります。この事案が、放送倫理上問題あるということになるのであれば、新聞記事とかで良く最近目にする、冒頭に逮捕容疑はこういうことですと、もう明確に逮捕容疑はこれですっていうのを書いて、で、容疑者は逮捕容疑を認めています。尚、こうこうこういうこともあると見て、警察は捜査を進めていますというような、ここからここまでが逮捕容疑で、容疑者はここまでを認めていて、っていうのを、放送原稿においても、明確に区切ることが、テレビの放送において、これは必要だと考えていらっしゃるのか。今回のこれが倫理上問題あるのであるとすれば、そういうことをしなければ、恐らくあまり解決にはならないのかなというふうに思うんですけど、どのようにお考えですか。

●市川代行
なかなか一般論として、最後におっしゃったような書き方を全部すべきかどうか、言いにくいと思いますが、こと本件に関して言えば、抗拒不能の状態の女性の裸の写真を撮りましたということと、その女性を部屋に連れ込んで、その衣服を脱がせたということが加わった時の、その印象というのは、かなり違うと思います。それを警察のストーリーが、そういうふうに言っているから、そのまま流しますよと。で、それが、すべて認めているというふうになったものは、それは表現上、やむを得ないのではないかとは、やはり、言えないだろうなと思います。工夫としては、いろんな工夫はあり得るし、私どもがこういうふうにすべきだと、言う立場ではないですけれども、一つは容疑事実をきちんと区切る。警察の見立てとか、警察の調べではとか、警察の調べではこういう疑いを持っていますとか、こういう説明の仕方もありますよね。ですから、そこは短い文章、短い放送の中ではありますが、やはり切り分けるべきではなかったのかなと思います。容疑事実とそれ以外のことについては、裁判例なんかでも、意外と厳しく、ここはきれいに仕分けしていて、犯罪事実として逮捕された事実と、たとえば窃盗犯が誰々の家で物を盗んだという時に、忍び込んで、という住居侵入の事実を加えたことによって、これは名誉毀損が成立する。容疑事実に入っていないと指摘している判例もあるぐらいです。それは一つの判例に過ぎませんけれども、そこはやはり厳しく見て、違いがあるんだということは、理解して頂いた方がいいと考えます。

●曽我部委員
いくつか違うレベルの話をしたいのですが、まず、今の市川代行の説明した委員会の立場を補足すると、多分、本件の特殊性というのがあって、今回の逮捕容疑は、裸の写真を撮影したという逮捕容疑だったわけですけども、普通に考えると、写真を撮るよりも、脱がせるとかいう方が、常識的に見て重い、悪質な行為ですけども、何であえて、その写真を撮ったというのが、逮捕容疑として切り取られているのかというところに、疑問が持てれば、何かこの事案は、普通と違うんではないかというような意識が出てきたのではないかといった指摘も、含んでいると思います。ただ、私の少数意見にもあるように、こういったことは刑事弁護の詳しい弁護士とかであればともかく、記者一般に要求するのは、なかなか厳しいのではないかというのが、私の意見です。ただ、たとえばこれが名誉毀損事件として訴訟になった時に、判断するのは、裁判官ですので、当然法律家ですから、弁護士的な見方をする可能性も十分にある。つまり、委員会の決定にあるような区別をした上で、今回はちゃんとその辺の切り分けが甘いということで、名誉毀損だというふうに判断する可能性も、十分あることを、認識頂きたいと思います。記者の方も、法学部のご出身が少ないと思いますが、やっぱりそれなりに刑事手続きについて勉強して頂くことが求められるのではないかと思います。もう一つは、刑事事件報道というのは、もう構造的に、問題を含んでいます。つまり、普通、報道というのは、両者対立していればですね、両方の言い分を聞くというのが、報道の基本だと思うんですけど、こと事件報道は、警察の言い分しか聞けないですよね、通常。そういう中で、報道せざるを得ないので、やっぱり根本的に、構造的に、危うさ、リスクを含んでいるわけです。そこを認識しないと、いろんな行き過ぎなりが起きてしまう。たとえば諸外国では、捜査段階であんまり報道せずに、裁判の段階になって初めて本格的に報道するというような国も、あると思いますが、日本でそうしろというのは、非現実的なのは、承知していますが、捜査段階で詳細な報道をするということは、普通の取材の原則である、当事者双方から聞くということが出来ないという、構造的な問題があることを、ご認識頂いた上で、いろんな個別の配慮や工夫をして頂くことが、求められていると思います。

(D局)
多くのラジオ番組で、特に、朝のワイド番組とかですと、新聞をもとにパーソナリティがそれを紹介しつつ、その後で自分の主観みたいなことを話すものが、スタイルとして良くあります。いろんなネタを取り上げますが、前もって、その取り上げるネタを調べたり、確認していないケースも、多々ありますので、その日に新聞を読んで、その中から話をしてしまうケースもあって、あくまでも何々新聞によりますと、みたいな紹介の仕方にしています。その後で、何かコメントを述べる場合でも、私の考えでは、みたいな形の注釈を入れたり、最後に皆さんはどうでしょうか、どのように考えますか、みたいな形で少し逃げと言いますか、少し入れていますが、ちょっと踏み込んでしまうケースもあります。そういう場合、どこまでそのタレントさんに規制と言うか、発言を抑えて頂くようにご案内したらいいのか、ちょっと難しいと感じることが、良くあります。

●城戸委員
ラジオ番組の場合、やはりパーソナリティの個人的な意見を聞きたいと思って、その番組を聴く方が多いと思います。朝の番組でそういう新聞を見ながら、その方がコメントをするといった時に、杓子定規なコメントだったら、別にリスナーは聴きたいと思わない。あの人がこの事件をどういうふうに言うのかなということを、求めているというか、そういう考え方を聴きたいと思っているんだと思うんですね。そう考えると、あまり規制するような方向ではない方が、私は健全なような気がしていて、皆さんはどうお考えですかっていうことを付けるというアイディアも、非常に私は有効だと思いますし、あと、局のアナウンサーがいる番組であれば、そういう方が多少行き過ぎているなと感じた時は、何かフォローするとか、そういった役割を、担われるというのも、一つの方法ではないかと思います。報道番組ではない、朝の番組のような番組では、ある程度そういう許容範囲がないと、番組として面白くないし、放送する意味も、ちょっとなくなってくるのではないかなと考えます。

●水野委員
城戸委員に同感です。あんまり考え過ぎちゃうとつまんなくなるし、そうなっちゃうことって、BPOの本意ではなくて、皆さんがプロとして積み上げてきた嗅覚というのかな、勘と言うのかな、が、基本的には、僕は信頼出来るものだと思っているので、出来るだけ事実に基づき、多少留保を付けるとか、自分の考えでは、とか、もしこの新聞報道が事実であるならば、という、ちょっとこう、前提を付けるだけでも、ずいぶん印象も変わるのではないかなと考えます。

●奥委員長
テレビのニュース原稿の中で、新聞原稿のような書き方は、なかなかしにくいと私も思うんですね。ただし、これからはやはりそういう工夫に挑戦していかないと、だめだと思います。そういうふうに、やはり人権問題は、つまり進化しているのです。それに応じた報道の在り方を考えていかないといけないだろうと思います。

●白波瀬委員
我々の委員会は、申し立てがあって、それに対して判断をしていくプロセスですから、あの状況では、非常に公務員バッシングと言うか、公務員の不祥事があった背景もありました。そこでの事件報道で、申し立てた方に対して、事実というのを、出来るだけ切り分ける形で判断に至ったということで、少数意見が出たということは、かなり委員会の中で、議論が交わされたということでもあります。やっぱり時間的に余裕がないという現実と、事件報道という構造的なリスクっていう点については、常に考えて頂けるといいかなと思います。

●二関委員
テレビ熊本の表現というのは、もう少し考えてやれば、うまく説明やれたのかなと。ある意味では、技術的な表現の問題だったのかなと思います。そういう意味で教訓としてちょっと考えていただければということ。もうひとつは、警察発表に対して、確信部分で、容疑事実しか書くなとか、そういうこと全然申し上げるつもりはなくて、もっとぐいぐい食い下がって、いろんな事実を引き出して、それを放送に繋げていくことは、非常に大事なことだろうと思います。ただその一方で、今回は市の職員の不祥事が、非常にエポックになりやすかった背景があるなかで、イケイケで行かないようにしなければいけないという、1回ブレーキをかけて、警察の発表ほんとにこれで大丈夫かなっていう、チェックするという視点も、やっぱり必要なんじゃないかと思います。

【近畿での刑事事件2件について】

(1) 民泊女性死体遺棄事件

(E局)
警察発表も実名であり、当初、実名で報道していましたが、いろいろと取材していくなかで、続報を出す際に、どこまで実名でやるか、顔写真を使うかと、非常に悩んだケースです。取材指揮を取ったニュースデスクの話を聞くと、この続報については、実名1回だけで、その後は女性という言い方で実名を出さないとか、1回だけ使うとか、全く実名出さないとか。3回目以降にいくと、もう完全に匿名で続報を出していくとか、いろいろとケースバスケースで、判断をしました。非常に悩んだのと、あと、この事件でちょっと異例だったのは、裁判自体が匿名になりました。公判での審理も。それは非常に特殊なケースだと思っていまして、うちも裁判になってから、全部匿名でやっています。

●廣田委員
家族からの要望が増えているというのは、そのとおりだと思います。先ほど奥委員長から、人権問題は、進化しているというお話がありましたが、これはまさにそういうものの1つだと思います。犯罪被害者の権利というのが、スポットライトが当てられて、今まで刑事手続きの中で、隅に置かれてきた犯罪被害者の人権というのを、弁護士会の中でも、それを扱う委員会とかも出来て、犯罪被害者の意見とかを吸い上げて、いろんなことに反映していくようになっています。この犯罪被害者の実名匿名の問題については、やまゆり苑の事件と、あと座間の事件で、それは全部実名で報道されたのですけれども、弁護士会の中で、すごい論争が起きました。まず被害者委員会のほうから、これは警察発表の時に、遺族が弁護士を通じて、匿名にしてくださいとお願いをしていたということで、なぜ遺族が匿名だと言っているのに、報道機関が実名にするのかと、非常に強い抗議がありました。それで結局、座間事件に関して、日弁連も含めて8つか9つの弁護士会が、会長声明なり談話を出す事態となりました。声明は、大体同じ論調ですけれども、事件の内容と、犯罪の被害者の遺族が、出してくれるなと言っているんだから、配慮してほしいと。一方、実名で報道することによる意義。事件を深堀り出来るとか、歴史に残るとか、そういう意義があるのは、確かだろうけれども、遺族が匿名にしてくれと言っているんだから、配慮してくださいという、結構強い論調だったんです。それに関して、日ごろ表現の自由と人権を扱っている委員会などのほうが、かなり強い違和感を表明しました。遺族の意見、要望というのは、尊重しなければならないけれども、実名か匿名で報道するのかというのは、決めるのは、あくまでも報道機関側ではないかと。それを遺族がダメだから、ダメだって言いのは、なんか違うのではないかと、相当強く弁護士会の中で言ったんですけれども、なかなか、遺族がダメだからダメなんだという意見が大きくて、それは私たちが驚くぐらい大きかったんですね。それって、何か違うのではないかと、みんなで話したんですけれども、そこで出たのが、あくまでも判断するのは、報道の方であろうと。ただ実名で報道することに、みんなが疑問を持つような事件。自殺願望があって、もしかしたら性的な犯罪の被害も、受けているかもしれなかったり、凄惨な殺され方をされていたり、そういう事件で実名を出すのであれば、なぜ自分たちは、実名で報道したのか。なぜこの事件を実名で報道する意味があるのかっていうことを、一言言ってほしい。座間事件の時に、新聞では、すごく自分たちは悩んで、こういう理由で実名にしたというのを、書いていた新聞があって、テレビは新聞と違って、いちいちこういう理由で実名で報道しますというのは、難しいかと思いますが、判断するのは、報道機関の方だと個人的には、思っていて、その時になぜ自分たちは、実名なのか、匿名なのかということを報道して、伝えていただくのが、重要なのではないでしょうか。

●紙谷委員
今会場から、最初は実名で、それから追っていくたびに、匿名に変えていった。一時議論として、一度出ちゃったんだからという話も、いろいろなされていましたが、むしろやはり事件の内容が、もっとよく分かるにつれ、判断が的確になっていく可能性が高いという意味で、変わっていくということは、決して間違っているわけではないと思います。必要に応じて的確な判断をする。そのために常に検証していくということが、とても重要なんだという。大変良い例であるというふうに思います。いろいろな形で、被害者、加害者の実名について、周りの方からいろいろ要望が出てきているというのは、事実だと思いますし、多くの人たちが、そういうことを言っていいんだ、今まで出てしょうがないとか、例えばうちの兄が悪いことしたんだから、ずっと自分たちも、後ろ指指されるんだみたいな思いを持っていた人たちが、いややっぱり一蓮托生的なそういうのと違って、私たちの生活もあると思うようになった、そうした社会的な変化、人々の認識の違いが、すごくあるのだと思います。それに対して、じゃあなぜこれを実名にしなければいけないのか。実名にしなければいけない理由のトップは、公人の行動ですよね。あれは隠してはいけない。それに対して私人である場合には、名前が明らかになることによって、より問題が明らかになるようなことであれば、やっぱり出したほうがいい。けれどもそうではない。こういう類型があって、こういうことに気を付けなければいけないということであれば、2回目、3回目から、実名じゃなくても、こういうタイプの事件について、みんな気を付けなければいけないみたいな判断が、働くというところが、生きている報道になるのだと思います。性犯罪にかかるような場合には、やはり被害者に対する敬意を考えれば、匿名になっていいのかもしれないという判断はあると思います。名前や顔写真だけではなくて、犯罪現場などについての情報も、同じようなことが言えるのではないかと思います。

(F局)
今日的な問題として、ことが起きると、どこまでが真実か分からないようなことが、インターネット上で流布している状況があります。警察がこの方の名前を発表する前の段階から出ていて、それに対して、遺族の方が、非常に心痛めていました。各社でそれぞれ判断はあったと思いますが、私どもは、匿名報道を求めるという趣旨は分かりますが、その一方で、ご遺族側とマスコミ各社とが一生懸命コミュニケーションを取らなければいけないということを、非常に意識しました。結果としてご遺族、弁護士側から、どうしても使う場合は、ネット上で流布されているような写真ではなくて、彼女らしい表情の写真があるので、それを使ってほしいと。一見すると、非常に矛盾した状況なわけです。つまり匿名を求めつつ、写真は出してくるという状況があって、やっぱりそこは、しっかりコミュニケーション取っていかないと、ほんとに遺族側が求めていることというのは、分からないなと感じました。我々の方針としてはですね、当然、名前を使う頻度は、落としていくんですけれども、例えば逮捕とか、節目ごとには、しっかり実名を出して放送を出す判断をしました。当初裁判についても、初公判などは、実名でいくだろうと想像していましたが、取材を進めるなかで、裁判そのものが匿名になったこととか、犯行の状況が、だんだん分かってきましたので、そういう趣旨であれば、裁判については、今回は匿名にしようと判断を変えたところでありました。
あともう1点、申し上げたいのは、各社見ていると、紙面とウェブを書き分けている。新聞協会なども、よく議論になるそうですが、そこはどうなのかなと思っています。やっぱり実名出す意味合いっていうことを、先ほど委員の先生からも、ご指摘あったと思いますが、実名で出す以上は、我々は今のところの考え方は、ウェブも放送も、基本的には実名。ただ、要するに知らしめるという目的であれば、どのぐらい掲載しているかとか、そのへんは、都度、都度判断をしていく必要は、あるとは思いますが、そこで匿名実名の軸が、ぶれるようなことは本来あってはならないと考えています。そこは出す以上は、実名で貫くというような対応を、通常は取っています。

●曽我部代行
今のウェブとの使い分けという話ですけども、細かい話で恐縮ですけど、局によっては、映像出されて割と1週間なりで消しますよね。だけど新聞だと、もうちょっと長く出しているとか、そういう関係もあるのかなと思ったのが1つ。あと遺族とのコミュニケーションというのは、最近、被害者保護についての意識なり、支援の仕組みなんかも、大変進んできており、遺族に弁護士が付くというケースも増え、かつ弁護士のほうも、その種の事件について、経験を積まれた方も、だんだん増えてきている。とりわけ関西など都市部であれば、そういう傾向がある。代理人が付かれている場合と、全く何もない場合では、やっぱりやり方も、相当違うのだろうなと思います。今回はかなり、代理人の方も非常に優秀で1つのモデルケースなのかなと思いました。

(2) 寝屋川男女中学生殺害事件

(G局)
今大阪の裁判所の担当をしています。去年の11月から、裁判が始って、11回公判があり、各社毎回その内容を報道してきました。被害者が深夜徘徊をしていたこと、これは事件のきっかけというか、スタート地点になるので、報道せざるをえないと思っています。ただ、中学1年生2人が、深夜を徘徊していたという事実を触れるだけで、その2人が、被害者なのに悪く見えてしまう印象を与えかねないなと思っていて、事件発生当時にも、それを散々触れているので、裁判の段階で伏せることによって、どこまで影響力を抑えることが出来るのかという疑問もありました。まずそこを、深夜に2人が徘徊していたというところを出すべきかどうかっていうのを、伺いたい。もう1つ、一番大きく悩んだところが、被告人質問の内容を、どこまで忠実に出すかということです。この事件、そもそも直接証拠が、一切なく、要は被告が、この2人を殺害したかどうかも、その時点でよく分からない。殺害経緯も一切黙秘して、全く明らかになっていない状況だったので、この公判で被告が何を語るかが、一番注目ポイントでした。もちろん被告は否認をしていて、被告人質問で、かなり事件のことを詳細に語りましたが、果たしてそれが、事実かどうかが、こちらでは判断出来ない。被告が公判で話す内容としては、事実ですけれども、それが実際2015年の段階で、行われていたことなのかどうかというのが、分からない。淡々と話してくれたら良かったんですけれども、殺された被害者との具体的な会話の内容も法廷で話した。その発言自体が真実かどうかが分からない。でも公判の中では、述べられている。それを裁判のニュースを出すうえで、非常に悩みました。結局弊社としては、そのカギカッコは出さずに概要だけ、あまり細かく説明は、しませんでした。新聞報道とかでは、そのカギカッコが、そのまま出ていました。結局、裁判の判決では、被告は、嘘をつきやすい性格傾向にあり、公判で述べた供述内容は、虚偽だったという認定をされていますが、被告人質問の段階では、そういう判断もない。さらに遺族からのコメントも、その日に聞けないような状況で、それを出していいんだろうかと、非常に悩みました。

●二関委員
今の点、確かに被告人質問で出てきた話というのは、基本、人というのは自分がかわいいですから、自分をかばった話をする傾向は、あると思いますので、そこで初めて詳細な事実が、出てきたということ自体、ある意味ニュース価値があると思う一方、やはりそれが、被害者の方の名誉にかかわるような、亡くなってる方ではありますけども、遺族が当然いるなかでのお話ですので、そこは慎重な表現ぶりに変えられたというのは、そういう選択肢は、妥当だったのかなというふうに思いました。前のほうの、深夜の商店街、徘徊していたという点ですけども、そのあたりはある意味、先ほど出ていた被害者の実名報道についての、取り上げ方の時の考慮すべき点と共通するところが、あるようなところだと思います。要は当人なり、遺族等の方にとっても、不名誉な内容なものにあたる場合には、やはりそれなりの配慮が、あっても良いんじゃないかということだと思います。それはやはり個々ケースごとに、いろいろ考えたうえで決めることに、どうしてもなるんだろうと思いますが、本件、特に徘徊的な部分について言えば、二次被害を防止するというか、今後似たようなところでの防止という考慮も、一方であると思いますし、事件に確かに端緒として、かかわってるということからすれば、取り上げたこと自体が、それはそういう選択肢はあって、しかるべきかなと思いました。一方で描写する時に、例えば深夜だったのを早朝と言い換えるとかですね、それは事実を逆に曲げている感じがするので、むしろ端的に何時とか、客観的な表現で使うとか、それは別にそうしろという話ではなくて、そういう選択肢とかも、あったのかなと。事実を曲げる必要は、ないんじゃないかなと。あと徘徊っていう言葉は、ある意味ネガティブであるとすれば、別の表現というのはあると思いますし、いろいろ工夫のしようは、あるという感想を持ちました。

●曽我部代行
今のやり取り、私は非常に違和感があって、基本的に事件報道、ニュースは、真実を伝えるものであるわけですので、いろんな都合で、大きなポイントであるにもかかわらず、触れなかったりするのは、基本的に望ましくないと思います。とりわけ徘徊、言い方、判断のついた言い方をするのは、どうかという点は、そのとおりだと思うんですけど、徘徊というかどうかはともかく、その事実であること。あるいは法廷での発言。被告人質問での発言を、報道しないとか、そういうことは、基本的に望ましくないと思います。被告人質問でのことは、発言というのは、別にそのこと自体、事実かどうかは、あまり重要ではなくて、被告人がこういうことを言ったということがニュースなはずで、そのことについて真実かどうかは、二次的な問題というか、むしろ無意味なわけで、なので真実かどうか確認出来ないという理由で控えるというのは、あんまり筋ではないと思います。ただそうは言っても、裁判にあまり視聴者が慣れてないということであって、言ったこと、報道したこと全部、真実受け取れる恐れがあるということであれば、注意を喚起するようなことを言うとか、あるいはそのまま言うのは、あまりにも生々しすぎるということであれば、要約とか、そういう工夫はあると思いますが、事実かどうか確認出来ないという理由で、報道しないというのは、率直に言っておかしいと思います。日本では、あいまいですけれども、これまた外国の例では、法定で述べられたことを、そのまま報道する部分については、名誉毀損等の責任は、免責されるという法理が、確立しているところもあり、日本でも本来そういうものは、認められるべきだと。これは個人的な意見に過ぎませんけれども、いうことですので、そのへんは、あまり事実でないから、確認出来ないからと、何か控えるようなことは、望ましくないと思いました。

(G局)
ちょっとニュアンスが、違うように捉えられたように思ったので、少し補足しておきたいのですが、今曽我部委員がおっしゃったことで、私は全然異論はなくて、要は言い回し等の工夫は、ありえたんじゃないかというところです。

【その他事件報道について】

(1) 虐待事件での不起訴となるケースについて

(H局)
特に2年前ぐらいから、警察が積極的に虐待に関しては、摘発していこうということで、逮捕したものの、その後不起訴となるものが、うちで調べただけでも10数件中、起訴したのが4割ぐらいもあり、原則弊社の基準、内規として、虐待で死亡していない事犯については、逮捕しても起訴するまでの間は、匿名としています。もちろん個別の案件で、直接取材が出来ているもの。あるいは容疑を認めている。さらにその中でも、警察の取材の中で、真実相当性が見つかるとか、そういうものでない限りは、基本は匿名にして、起訴時に実名にしようという考えで続けています。ただ、せっかく容疑者に直接取材が出来ていて、映像が撮れているのに、逮捕時他社が出しても、うちは使わないという判断というのは、なかなか難しい点もありまして、どうしていこうか、常に悩んでいます。実質逮捕時点で実名報道して、その後不起訴になって、その当人から、名誉毀損を訴えられた場合、どうなるのかということについて伺いたい。

●市川代行
確かに、密室の中でとか、家の中での起きる事件というのは、不起訴になる確率は、結構あると思います。そういう意味で、警察発表は、そのまま疑いなく真実であるかのように書いてしまうと、後々問題になることは、十分ありうるとは思います。ただ起訴されるまでは、書かないでいいと、一律決める必要は、ないと思います。やはり容疑の度合いであるとかもある程度考えて放送すれば、それはそれで問題はないと思います。後々不起訴になったからといって、その理由もいろいろありますし、逮捕された時点で、もちろんそれは、社会的な評価は、下げる事実ですから、形式的には、名誉毀損になるわけですが、先ほど申し上げたように、真実性があり、真実と信じたことについて相当性があれば、名誉毀損にはならないわけですので、その疑いのレベルが、どれぐらいなのか。疑いという程度においては、それは満たされているのであれば、これは放送するという判断は間違いではないと思います。

●廣田委員
やはりその時その時に、流動的に変わっていくものだと思いますので、その時々に判断するしかなくて、不起訴になったからといって、最初に報道したものが、すべて名誉毀損になるわけではないので、やはり1つ1つの事件で、報道の必要性と、どこまで言うのかを判断されて、密室の中なんかですとどこまでがどうなのか分かりにくいのは、そういうものも意識されて、報道をしていただければと思います。

●奥委員長
今お話を聞いていたら、内規を作っていらっしゃるという。いくつかの段階で、どう判断するかということについて。大変素晴らしい。そういうことが、つまり報道の自主性というものだと思います。死亡の事案だったらば書くんだとか、いろいろグラデーションがあって、そういうなかで自主的に判断するという、それは非常に良いことだと思います。

(H局)
ありがとうございます。そう言われると非常に助かるんですけども、実際現場で取材している者にとっては、せっかく容疑者を割り出して、じかあたりを撮ったのに、放送されないのかと、モチベーションが下がるような問題も、現実としてはあるので、個別の判断で考えながら、出来る限り実名原則で、不起訴の可能性について、いろいろ考えていきたいと思います。

(2) 街頭での撮影について

(I局)
正月の初売りとか町ネタをよく取材に行きます。人がうわあっと集まるような。その中で、ほんの画面の隅にちらっと映っただけでも、後からクレームが来たり、「何勝手に撮っとんねん」みたいなクレームを受けることが多々あります。テレビ取材でその現場にいる方の許可を得るのは、当然なんですが、正直どこまで気を付けて、取材をすべきなのでしょう。

●二関委員
いわゆる映り込みとかいう表現をしますけど。そういった領域のものであれば、基本的に問題ないというか、何か言ってきたところで、ディフェンスは、可能なのかなと思っています。例えばことさらその人に何か焦点を当てて、フォーカスして、かつ長い時間流したとか、不必要な、相当の範囲を超えたような流し方をすれば、それは問題になることも、あるかもしれませんけれども、基本的に催事といいますか、催し物とかを撮っている過程で、入ってしまったということであれば、特に法的に何か問題になるような話ではないのかなと。簡単に申し上げるとそんな感じです。海外のテレビ局とか、映画会社なんかは、看板を用意したりして、ここで撮影していますので、この前にいる方とかは、撮影に同意したものとみなしますみたいなサインを用意しているようなケースもあるようです。

●水野委員
画面も鮮明になってきているし、そういった影響もあるんでしょうかね。むしろ僕は、逆に質問したくて、そういう場合って、工夫されているんですか?これ撮っているよって、脚立に乗って、いかにも撮影してるっていうふうなアピールをすれば、基本的に映りたくない人は、どいてくれるっていう、そういった暗黙の了解みたいな。

(I局)
混雑している時は、逆に危ないんで、脚立使えないんですけども、でかいカメラだと、テレビカメラがいるのは丸分かりなんで、気づかれると思うんですが、混雑する場だと、極力カメラは小さくしてくれと。大きいカメラは危険なので、割と小型カメラで撮っている場合もあるので、逆に気づかれにくい。技術の進歩と共に気づかれにくくなっているのは、あるかもしれません。

●水野委員
あくまで一般論かもしれませんが、クレームにも気に掛けるべきクレームと、ほっといてもいいクレームがあると思います。それを適宜ケースバイケースで、プロとして判断されれば、大方問題はないんじゃないかなと思っています。

●奥委員長
BPO人権委員会として、三宅委員長時代の2014年6月9日、「顔なしインタビュー等についての要望」という委員長談話を出しています。参照していただければ幸いです。私個人としては、一言で言えば、つまり基本的に公共の場なわけですから、そこにいた人間が映っているだけなら、何の問題はないのではないかと考えています。

どうも長時間にわたって、活発なご意見いただき、我々も日ごろ考えていることが、報道現場の中で、どういうふうに受け止められているのか、受け止められていないのかとか、いろいろなことがよく分かりました。
ありがとうございました。

以上

第272回放送と人権等権利に関する委員会

第272回 – 2019年8月

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理…など

議事の詳細

日時
2019年8月20日(火)午後3時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、水野委員

1.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案

今年1月21日に秋田県内で放送された『NHKニュースこまち845』が対象。情報公開請求等によって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ「訓告の処分を受けた」と報じた。この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「不正確な情報を、あたかも実際に起きたかのように間違って報道された」と主張し、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求めBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「情報公開請求で開示された内容を、各大学で改めて取材を行い、内容に誤りや変更がないことを確認した上で概要を説明した」と反論したうえで、「処分をされた教員は、いずれも匿名で、役職や年齢に触れていないなど、個人が特定できないよう、十分配慮している」と説明している。
第269回委員会において審理入りを決定し、今委員会では申立人とNHKに対してヒアリングを行った。申立人は、「在籍している大学のハラスメントを強調して伝えたことによって、特定の人間が割り出されてしまうという問題が生じた」と主張し、「学生との信頼関係が取れなくなっている」と述べた。
一方、被申立人のNHKは、秋田放送局の幹部らが出席し、「今回の報道は、県内の国公立大学のハラスメントの全体像を伝えることを主眼としたもので、個別案件を強調する意図はない」と主張するとともに、今回行った情報公開に基づく調査取材の過程を述べた。
ヒアリング終了後、本件事案の論点を踏まえて審理を行い、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。その中で、アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した。申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部が加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「顔にボカシを入れ、氏名の公表もしておらず、必要かつ十分な配慮を行った」としている。
委員会は、第271回委員会で、運営規則の要件を満たしているとして審理入りを決定した。今委員会では、これまでに両者から提出されている書面をもとに論点などについて意見を交わした。

3. 審理要請案件「訴訟報道に関する元市議からの申立て」

テレビ埼玉は、2019年4月11日午後の『News545』内で、元市議が提訴した損害賠償訴訟のニュースを放送した。放送は、「元市議セクハラ訴訟 被害女性職員 請求棄却求める」とタイトルスーパーを表示し、経緯の説明の中で「(議会)第三者委員会が調査をした結果、5つの行為がセクハラやパワハラにあたると認定され、元市議は去年10月に議員を辞職しました」と伝えた。
申立人は、ハラスメントそのものを「身に覚えのないこと」と主張したうえで、「申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え名誉を損なわれた」と訴えた。また、経緯の説明の中で、実際には第三者委員会の認定前に辞職しているのに、「第三者委員会にパワハラを認定されたことから議員を辞職した印象を与え、視聴者に誤解を与えた」などと主張した。そのうえで申立人は、「元市議セクハラ訴訟」という名称をやめることや誤解を与える放送をしたことについて訂正と謝罪等を求めて申し立てた。
これに対してテレビ埼玉は、放送では「被害を訴えた職員を相手取った裁判」と明記していることや、申立人代理人が報道各社に配布した訴状から「セクハラの有無が裁判の争点となると判断した」ことを挙げ、「名誉を損なうとか、放送倫理に反するとは考えていない」と反論している。また、テレビ埼玉は、「言葉の順番が違うことで誤解を招きかねない懸念が残る」と判断し、当該放送のあった日の午後9時半のニュースで修正した内容で放送したほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
20日に開かれたBPO放送人権委員会は、運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

4. その他

  • 申立ての状況について事務局より報告があり、関連して委員の間で意見交換が行われた。

  • 次回委員会は9月17日に開かれる。

以上