放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2017年5月30日

在京局と意見交換会

放送倫理検証委員会が2月に公表した決定第25号「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」に関連して、委員会と在京局との意見交換会が、5月30日に東京・千代田放送会館で開催された。民放6局とNHKの計7局とオブザーバー参加の民放連から合わせて20人、委員会側からは川端和治委員長、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員、藤田真文委員が出席した。
概要は以下のとおり。

冒頭、川端委員長が、「選挙に関する報道と評論を放送するのは、有権者に投票する際の判断材料を提供するためだ。正しい情報に基づいた選択が行われなければ、民主主義は正しく機能しない。量的な公平性を守っているだけでは、有権者は必要な情報を得られず、投票率も下がってしまう。法律では、虚偽でない限り、そして選挙運動にならない限り、選挙に関する報道と評論の自由が保障されているのだから、候補者や政党の主張を単に横並びに伝えるのではなく、ファクトチェックをして、有権者に有用な情報を伝えるのはメディアの重要な役割であり、そこで働くジャーナリストの使命だ」と、意見書を公表した目的について総括的に解説した。続いて斎藤委員が、「去年の参議院選挙の放送では、何が争点なのかを提示する放送局の機能が弱くなっているように思った。政党が言っていることをそのまま流すならば、放送局側に能力は必要ない。選挙のあと、『改憲勢力が3分の2になった』と各局が報じたのに、選挙前・中は『争点は改憲勢力の議席数だ』という放送はほとんど見られなかったように思う」と述べたうえで、「こういう時こそ原点に戻って、表現の自由は何のためにあるのか自問自答しながら仕事を進めていくべきだと、自戒を込めて考えている」と、同じジャーナリストとして参加者へのメッセージを伝えた。渋谷委員は「放送局は政治に関する多様な情報を市民に伝えるべきなのに、萎縮と忖度によって先細りになっているのではないか」と、視聴者としての感想を述べたうえで、専門の憲法学の立場から、去年の参議員選挙と東京都知事選挙の放送の具体例に触れながら「政見・経歴放送に量的公平性は求められているが、それ以外の選挙に関する報道と評論は自由なのだから、その自由を最大限にいかして、国民に必要だと放送局が考える情報を自律的かつ重点的に放送すべきだ」と話した。藤田委員は「公職選挙法は151条の5で選挙運動放送を禁止しているが、それ以外の放送は禁止していない。それなのに放送局は公職選挙法を『べからず集』だと誤解しているのではないか」と指摘した。そして、「候補者が実現できない政策を掲げて立候補した場合、『それは不可能だ』と放送局が指摘することは許される。都知事選挙の際に各放送局に方針を尋ねたところ、自主的にそれぞれの考え方に基づいて放送していることがわかったので、その方向で豊富な情報を提供することが重要だ」と、政治学の研究に触れながら述べた。

続いて意見交換に移り、放送局側から「議席数に応じて紹介する時間に差をつけると、苦情に対処しやすいという面はあるが、工夫して伝えないと視聴者に見てもらえないと感じている」「この意見書の趣旨を踏まえて、勇気をもって作るマインドが社内に出てきた」といった意見が出された。さらに『質的公平性』とは具体的に何なのかという点に関して、質問や議論が続いた。この中で川端委員長は「質的公平性とは定義できるものではなく、いろいろな事例が出てくるたびに放送局が考えなくてはいけない。これは伝えるべきだと放送局が判断したときは、それを積極的に伝えてもらっていい。それが質的公平性を害することにはならない」と、また藤田委員は「同じ基準で各政党や候補者に聞くことが質的公平性であり、その規準はそれぞれの放送局が考えるべきことだ」と答えた。また複数の候補者がスタジオで討論する形式の番組は公職選挙法に抵触しないかという質問に対して、川端委員長は「司会者が論点を設定して議論をしっかりコントロールするのであれば、抵触しない」と述べた。かつて政権交代選挙で子ども手当が話題になった際に、その実現可能性を十分に伝えられなかったという放送局側の自戒に対しては、川端委員長は「夢のような政策が実現できないと確信を持って言えるのであれば伝えるべきだった」と、また渋谷委員は「政策の実現可能性については、事実に基づいてぜひ問題点を指摘してほしい。国民にとって何が大切な情報か、各局が判断して伝えることが大切だ」と答えた。斎藤委員は「この意見書で励まされたという放送局の感想があったが、それだけで意見書を出した意味はあったと思う」と述べ、藤田委員は目前に迫った都議会議員選挙について「意見書でも指摘したが、公平性に配慮するあまり、放送量が減ることが一番いけない」と指摘した。このあと、今起きている築地市場の移転や加計学園の問題、さらにかつての郵政選挙の報道のあり方などについても質疑が交わされ、最後に川端委員長が「放送局はその都度、自主的・自律的に考えて、メディアの持つ表現の自由の権利を国民のために使うという決意で臨んでほしい」と述べて、意見交換会を締めくくった。

終了後、参加者からは、「放送局の能力とスタンスが問われると感じた」「選挙報道は日々の報道の延長であるとの思いを新たにした」「BPOの委員がどのような温度感で発言しているのか、直接確認しながら会話をする機会があったことは貴重だった」などの感想とともに、「質的公平性の定義、基準が示されなかったのは残念で、多くの事例を挙げてほしかった」「『候補者討論会』についてBPOの委員の方々の意見はよくわかったが、放送局としては、公職選挙法違反と言われかねないことはリスクが高いと感じている」といった意見も寄せられた。

以上