放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2017年1月26日

TBS系列の九州・沖縄地区各局と意見交換会

TBS系列の九州・沖縄地区7局と放送倫理検証委員会との意見交換会が、1月26日福岡市内で開催された。意見交換会には放送局側から21人が参加し、委員会からは升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、鈴木嘉一委員が出席した。放送倫理検証委員会が設立されて今年で10年になるが、TBS系列局との意見交換会の開催は初めてで、参加した7局すべてがラジオ・テレビ兼営局であった。九州地区では、昨年4月に「熊本・大分地震」が発生して、現在も地元局を中心に取材が行われていることから、議論のテーマを「災害報道」に絞り込んで意見交換を行った。
冒頭、地元局の熊本放送と大分放送から現場報告が行われた。
熊本放送からは「阪神大震災や東日本大震災など過去の大災害と比べてSNSがかなり普及したことから、デマや誤報のリスクが高まったのではないかと感じた」と問題提起があった。具体的には「『熊本市の動植物園からライオンが逃げ出した』『井戸に毒が投げ込まれた』『大型ショッピングモールで火災』『熊本市民病院が傾く』など、発災直後に不確かな情報が飛び交い、放送してしまった他局もあった」という。熊本放送では、「裏取りができていない情報は放送しないことを決めて災害報道に当たった。テレビでは誤報はなかったが、ラジオで『熊本城の櫓が見えない。崩壊したかも』と発生直後に放送してしまった」との報告があった。また、取材スタッフの二次災害を防ぐため、家屋の危険度判定で「赤判定(倒壊の危険)」の家屋には立ち入らないことをルール化して徹底したという。
大分放送のケースでは「熊本と比べると被害の程度は大きくなかったが、県内には海外からの留学生が多数住んでいて、アパートの外で一晩過ごした学生がかなりいた。外国人の避難誘導に課題が残った。素材伝送の地理的条件から、温泉で有名な由布市湯布院町にSNG中継車が集中した。その結果、由布院温泉の放送頻度が高まり、別府市民や別府市から被災地を公平に報道すべきと苦情が寄せられた」との報告が印象的だった。

地元局からの報告を受けて岸本委員は、「現場の葛藤はよくわかった。災害報道には(1)全国各地に被災地の実情を伝える(2)被災者に情報を伝えるという二つの役割があると思う。被災地への情報の伝え方は改善しやすいが、被災地以外の視聴者への情報の伝え方は難しく、方法にかなり工夫が必要だと思う。行きやすい避難所に取材が集中していないか、番組がバッシングされる背景には何があるのかなど、常に考えていなければならない。視聴者の支持が最終的には災害報道を支え、放送を支える。視聴者との信頼関係の構築に取り組んでほしい」と指摘した。
そして鈴木委員から「TBS系列各局報道の共同制作番組『3・11大震災 記者たちの眼差し』シリーズは、今後の災害報道のあり方を考える上で参考になる。この内『シリーズI』(2011年6月5日TBSテレビ放送)と『シリーズII』(2011年9月10日TBSテレビ放送)の中のIBC岩手放送と青森テレビが制作したミニドキュメントが示唆に富んでいる」と紹介があり、参加者全員で視聴した。
視聴した参加者からは「災害報道にスクープはないと思っている。系列間合戦の様相を呈してきていることに懸念を抱いている。また、インターネットとも競争するようになって、本当かデマかの裏取りがおろそかになりはしないかと心配だ」「被災地のマスコミに心のケアをしていますと冊子が送られてきた。よく調べたら新興宗教団体で、宣伝活動に利用されるところだった。裏を取ることは重要だ」「いま何が起きているかを伝えるためライブ映像は有効だ。被災地の地元局は葛藤もあるだろうが取材・記録することが大切だ」などと活発に意見交換が行われた。
会場の意見を受けて鈴木委員は「被災者にも、伝えてほしいという思いがあるのではないか。取材に大人数で行くと拒否されたりするが、来てくれることを待っている被災者もいるはず。番組も放送時間のワイド化が進み5~8分程度のミニドキュメンタリーは放送が可能だろう。被災者と一個人として向き合い一人称の視点で伝える努力をすることが、今後の災害報道にとって有効ではないかと考えている。その積み重ねが30分や1時間のドキュメンタリー制作につながるのではないか」と問いかけた。
 
また、升味委員長代行は「報道とは事実を伝えること。プライドを持って取材に当たってほしい。あらかじめ想定したストーリーに合わせたような安易な番組作りは報道の仕事ではないと常々思っている」と現場を激励した。

このほか、昨年12月6日に出されたTBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見について、「意見書を読んで、あまりにも多くのスタッフがかかわっていることに驚いた。ローカル局の制作番組でも、インタビューなど編集段階でカットすることはあるが、放送前に事前に連絡するなど丁寧に対応している。番組に協力してくれた人との向き合い方が信じられない」との意見があった。これに対して担当委員からは「人物を消すことそのものは演出の範囲内だろうが、委員会は、出演者に対する敬意や配慮を欠いたと判断した」「人と人の関係が大切。こんなことをすれば制作者の財産にもならない」などと意見書の背景について説明があった。

最後に升味委員長代行から、「放送倫理検証委員会は、今年、設立10周年を迎える。常に放送局の応援団でいたいと思っている。みなさんが、自由に番組制作ができるお手伝いをしたいと考えている。自律的規範を守り自由に番組作りができるフィールドを一緒に守っていきましょう」との発言があり、意見交換会は閉会した。

今回の系列の地域単位の意見交換会について、参加者から以下のような感想が寄せられた。

  • 「『懲らしめられても仕方ないよね』と視聴者から思われないように…視聴者が味方についてくれるかどうかが重要」。岸本委員のこの言葉が、今回の意見交換会の中で特に印象に残った言葉です。これは、いま私たちが直面しているSNSや投稿動画サイトなどメディアを取り巻く環境において一番大切なことではないかと改めて感じさせられました。私たちは、時として伝えることに傲慢になりがちです。それは権力のチェック機関としての役割を果たさなければならない時でも俗に言う「第三の権力」を振りかざしてしまうこともあります。謙虚な心で取材現場と向き合い、功名心に走らないことが"視聴者からの信頼"を積み重ねていくことに繋がると思っています。
  • 系列局間の研修会は、顔が分かる関係者同士の集まりということもあり、非常に有益な意見交換ができたと思います。
    今回の議論の柱の1つだった「災害報道」は、同じ現場に足を運んだ系列同士ということもあり、前提条件として「上手くいったこと」「失敗したこと」が皆、分かっているので、手探りではなく、最初から突っ込んだ議論ができたのではないかと思います。
    そのことで、"机上の議論的"な、かしこまったやり取りではなく、各局の実情も良く分かる会合になったのではないでしょうか。
    今後も、同種の勉強会等を開く機会があるのなら、今回のスキームで開催していただきたいとも思います。
  • 『記者たちの眼差し』の視聴を通しても、私自身反省すべき点があった。日頃、ニュースデスクとしての立場で「こんな感じで、こういう内容のインタビューを取ってきてほしい…」と、取材に出かける記者にイメージを伝えてしまい、取材現場の真実とかけ離れたニュースを出してしまったことはないか?その場その場で、真実を追求すること。また、現場をもっともよく知る取材記者やカメラマンとの地道な意思疎通をしていくよう肝に銘じたい。

以上