放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第236回

第236回 – 2016年6月

世田谷一家殺害事件特番事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、審理要請案件の取下げ報告…など

世田谷一家殺害事件特番事案の「委員会決定」案を検討し、STAP細胞報道事案を引き続き審理した。また、在熊本の民放2局を対象にした事件報道に対する地方公務員からの申立てについて実質審理に入った。前回委員会で審理要請案件として検討した生活保護ビジネス企画に対する申立てについて、取下げ書が提出されたため事務局から報告した。

議事の詳細

日時
2016年6月21日(火)午後4時~8時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、6月6日の第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案を審理した。その結果、第2回起草委員会を開催して、次回委員会でさらに検討を続けることになった。

2.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
前回委員会で行った被申立人のヒアリングを受けて、委員会から送った追加質問に対する回答書等がNHKから提出された。今回の委員会では、この回答書も含めた双方のヒアリングの結果を踏まえ、各委員が意見を述べた。次回委員会までに起草担当委員が集まって議論を整理し、次回委員会で引き続き審理することになった。

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

4.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ)事案の審理

対象となったのは、テレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日に放送したニュース番組で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕された事件についてそれぞれ報道した。この放送に対し、同公務員が委員会に申立書を提出、放送は事実と異なる内容であり、フェイスブックの写真を無断使用され、初期報道における「極悪人のような報道内容」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出などを求めた。
これに対しテレビ熊本は、「現職の公務員による事案であり、社会的影響は極めて大きいと考え、取材を重ね事実のみを報道した」として、また、熊本県民テレビは、「報道は正当な方法によって得た取材結果に基づき客観的な立場からなされたもの」として、それぞれ人権侵害はなかったと反論している。
委員会は4月の定例委員会で2局に対する申立てについて審理入りを決定したが、熊本県を中心に起きた地震被害への対応等に配慮しつつ審理することにしていた。その後両局から答弁書、申立人から反論書が提出されたのを受けて今回委員会から実質審理に入った。委員会では、事務局が申立人と被申立人2局それぞれの主張を整理して説明し、委員から意見が示された。今後、両局の再答弁書の提出を待って論点整理を行う方針を確認した。

5.審理要請案件:「生活保護ビジネス企画に対する申立て」 ~取下げ~

5月の定例委員会で審理要請案件として検討したが、その後、事務局の斡旋で申立人と被申立人が改めて話し合いを行った。その結果、双方が合意に達し、申立人から6月15日付で取下げ書が提出された。委員会では、事務局から一連の経緯について報告した。

6.その他

  • 委員会が秋に予定している県単位意見交換会について、事務局が概要を説明し、今後詳細を詰めるとになった。

  • 次回委員会は7月19日に開かれる。

以上