放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第235回

第235回 – 2016年5月

STAP細胞報道事案のヒアリングと審理…など

STAP細胞報道事案のヒアリングを行うため臨時委員会を開催し、被申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2016年5月31日(火)午後4時30分~10時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
熊本地震の報道対応のため延期していた被申立人のヒアリングを行うため、この日、臨時委員会を開催した。なお、申立人のヒアリングは4月26日に臨時開催された第233回委員会で行われた。(申立人のヒアリングについては第233回委員会の「議事概要」参照
ヒアリングには、被申立人のNHKからSTAP細胞問題を取材してきた科学担当記者や番組担当者ら7人が出席した。
まず、番組の制作意図としてNHKは、「当時はSTAP細胞の存在や、その正体がES細胞なのかどうかも確定していなかった。STAP問題は真相が明らかにならないまま、幕引きが図られる恐れがあった。こうした状況の中、この問題をしっかり検証し再発防止への一助となっていくことがジャーナリズムの重要な役割と考えた」と述べた。
さらに「調査報道なので、1歩1歩、1つ1つ事実を掘り起こして、あの時点で私たちが事実としてつかみ、そして客観的にも紹介できると思ったもので、これはやはり提示しておくべきではないかと判断したものについて番組の中で触れた」「当時は、まだ、それが、いわゆるオフィシャルな形で事実だと言われていない中での取材でありながら、今となってみれば、実際のところ蓋を開けてみると事実だったことは、たくさんある。それだからこそ、最大限の注意を払って制作した」と説明した。
番組が若山教授の言い分に偏っていて公平ではないと申立人が主張していることについては、「様々な疑問を申立人と若山教授のいずれにも向けて取材を続けてきた。常に若山教授が述べていることに矛盾はないか、どこまで客観的に証明できるかを念頭に置いて取材を進めた。ES細胞の混入の可能性について、申立人、若山教授、いずれの考えもそれぞれきちんと伝えている」と述べた。
申立人がマウスの取り違えの可能性に触れずにES細胞混入を指摘したと主張する点については、「番組では若山教授が語った『僕の方に何か間違いがあったのか』というコメントを紹介している。これは若山教授がマウスを渡し間違えたか、と言っているわけだ」「若山教授の歯切れの悪い様子もそのまま伝えており、どちらとも断定していない番組にきちんとなっている」と述べた。
申立人が、視聴者に伝わったのは申立人によるES細胞の窃盗疑惑である、と主張している点については、「盗んだかどうかはわからないが、ファクトとして留学生のES細胞がそこにあったことを伝えた」「番組では、アクロシンが入ったES細胞の話はいったん終わって次の新たな事実について述べるとコメントし、新たな話を始めるとの意図をもって映像も理研の外観を出した」「この部分は時間としてはつながっているが、科学的な側面と管理状況の側面を並立させて見せている」と主張した。
実験ノートの番組での使用について申立人が著作権侵害だと訴えている点についてNHKは、「実験ノートは報道のための利用であり、著作権侵害には当たらない」「多くの人間が閲覧して吟味することを目的として作成されているものなので、本来、著作者人格権の公表権の行使が予定されている著作物ではない」などと主張した。
笹井教授とのメールの公開については「当該のメールは理研の調査委員会に提出された公の資料で、笹井教授本人が実験における自らのかかわりを説明するために提出したものだ。一連のSTAP細胞の件では、発表されたことが二転三転することも多々あり、その中で我々が重要と考えたのはとにかく事実を提示することだった。メールのやり取りは笹井教授が論文作成に確かに関わっていた明確な証拠だ」と述べた。
番組で専門家として紹介した人たちが論文の疑義を指摘した点について、「明らかに科学的におかしいとわかるところをどうやってピックアップするかについて長時間ディスカッションした」「集まってもらった専門家は、それぞれ学会の中での役を務めているような人たちで、ひとつひとつの図について点数のようなものを付けて、その上での最終的な結果が番組で紹介したものだ」と説明した。
申立人が、NHKの強引な取材によって怪我をさせられたと訴えている点については、「怪我をさせた、させないに関わらず、迷惑をかけたという認識は変わっていない。しかしながら、申立人の主張には事実と異なる部分がいくつもあり、その点については複数の映像や取材スタッフの証言をもとに再度確認して説明した」など、詳しく考えを述べた。

2.その他

  • 4月の定例委員会で審理入りが決まった「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)と同(熊本県民テレビ)に関連して、熊本地震の被害状況等について事務局から報告し、6月の委員会で実質審理入りすることが決まった。

  • 次回は6月21日に定例委員会を開催する。

以上