放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第230回

第230回 – 2016年2月

自転車事故企画事案のヒアリングと審理、
ストーカー事件再現ドラマ、ストーカー事件映像両事案の通知・公表の報告、
謝罪会見報道事案の対応報告、STAP細胞報道事案、世田谷一家殺害事件特番事案の審理…など

自転車事故企画事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。ストーカー事件再現ドラマとストーカー事件映像の2事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。謝罪会見報道事案でTBSテレビから提出された対応報告を了承した。STAP細胞報道事案、世田谷一家殺害事件特番事案を審理した。

議事の詳細

日時
2016年2月16日(火)午後3時~9時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「自転車事故企画に対する申立て」事案のヒアリングと審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
この放送について申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
今月の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビからヒアリングを行った。
申立人は代理人の弁護士とともに出席し、「自転車事故の被害の深刻さを訴えたいという説明を受けて出演したが、茶化す番組の冒頭に使われ、たいへん悔しく思っている。番組で母が当たり屋だと明確に言われたわけではないが、私のブログにはお金をもらっているだろうみたいな、罵詈雑言のような形のコメントが来たりして嫌な思いをした。事前に当たり屋のドラマだという一言の説明もなく、お笑いで終わるような番組とは一切聞いていなかった。聞いていれば、もちろん取材はお断りした。ドラマの内容は荒唐無稽としか言いようがない」等と述べた。
フジテレビからは制作担当者ら6人が出席し、「申立人のお母様の事故とドラマの事故の内容は明らかに異なり、番組上も分断されているので、視聴者が申立人は高額な賠償金目当ての当たり屋同様の存在であるという印象を持つことはなく、名誉を毀損したとは考えていない。申立人のインタビューは自転車事故の悲惨さを訴えるために取材したもので、ドラマとは別の部分で使用することから、ドラマに当たり屋が登場することは説明していない。ドラマの内容は取材や資料をもとに蓋然性が高いと判断して再構成したもので、申立人が主張するような虚偽放送ではない」等と述べた。
ヒアリング後の審理で、次回委員会に向けて担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の通知・公表の報告

3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の通知・公表の報告

両事案に関する「委員会決定」の通知・公表が2月15日に行われ、その概要を事務局から報告し、当該局のフジテレビが決定の内容を伝える番組の同録DVDを視聴した。

4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の対応報告

2015年11月17日に通知・公表された本件「委員会決定」に対し、TBSテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年2月15日付で提出され、委員会はこの報告を了承した。
なお、本件の委員会勧告に基づいて局が行った放送対応に関し、当該番組でエンドロールの後一旦CMが放送されてからアナウンサーによるコメントの読み上げがなされた点について、多数の委員から、放送対応のタイミングについてより工夫がなされることが好ましかったとの意見が述べられた。
また、2月1日にTBSテレビにおいて本決定に関して坂井委員長と担当の曽我部、林の両委員が出席して研修会が開かれたことを事務局が報告した。当日は140人余が出席し、2時間15分にわたって質疑応答や意見交換が行われた。

5.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、改めて起草担当委員が提出した論点・質問項目案に沿って各委員が意見を述べた。次回委員会ではさらに審理を進める予定。

6.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
前回委員会で審理入りが決まったのを受けて、テレビ朝日から申立書に対する答弁書が提出された。今回の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を配付して説明した。

7.その他

  • 2月3日に福岡で開かれた地区別意見交換会(九州・沖縄地区)について、事務局から概要を報告し、その模様を伝える地元局の番組の同録DVDを視聴した。意見交換会には、同地区29局、83人が出席し、約3時間30分にわたって活発な意見交換が行われた。
  • 次回委員会は年3月15日に開かれる。

以上