放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第222回

第222回 – 2015年7月

佐村河内氏事案2件の審理
出家詐欺事案、ストーカー事件2事案の審理…など

佐村河内守氏が申し立てた2事案の「委員会決定」案を検討し、出家詐欺事案を審理。また同じ番組を対象にしたストーカー事件再現ドラマとストーカー事件映像の2事案を審理した。

議事の詳細

日時
2015年7月21日(火)午後4時~10時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
前回の委員会後、「委員会決定」文の起草委員会が開かれ、今月の委員会に決定案が示された。委員会では担当委員の説明をもとに判断と結論の部分を中心に検討が行われ、さらに審理を継続することになった。

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
前回の委員会後、「委員会決定」文の起草委員会が開かれ、今月の委員会に決定案が示された。委員会では担当委員の説明をもとに記述等を検討し、さらに審理を重ねることになった。

3.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
前回の委員会後、申立人から「反論書」、被申立人から「再答弁書」が提出された。この日の委員会では、事務局が双方の主張を取りまとめた資料を基に説明し、ヒアリングに向けて起草委員が作成した論点と質問事項案について検討した。その結果、次回委員会で申立人、被申立人双方にヒアリングを実施することになった。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
今月の委員会では、申立人から新たに提出された「反論書」と、フジテレビから提出された「再答弁書」を基に、事務局が双方の主張を改めて説明、そのうえで論点の整理に向けて各委員からさまざまな意見が述べられた。

5.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは前事案と同じ、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが、会社の駐車場であることが会社の人間が見れば分かると思われ、また車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる内容だった。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴える申立書を委員会に提出。また、「番組の放送前に、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、関係会社にばれてしまったので、会社には置いておけないということで退職せざるを得なくなった」と主張した。
これを受けてフジテレビは「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会から審理に入り、事務局が双方の主張を整理して説明、各委員から、論点整理に向けてさまざまな意見が述べられた。

6.その他

  • 県単位意見交換会を10月5日に山形で開催することになり、事務局から概要を説明した。
  • 系列単位意見交換会を11月下旬にTBS系列の北陸信越4局を対象に開催することになり、事務局から概要を説明した。
  • 7月14日に開かれた第10回「BPO事例研究会」について、参加者のアンケート結果などを基に事務局から報告した。
  • 次回委員会は8月18日に開かれる。

以上