放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第82回

第82回–2014年5月

"全聾の作曲家"と紹介されていた佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題について討議…など

第82回放送倫理検証委員会は5月9日に開催された。
委員会が2月に通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、各局から新たに提出された6本の番組の報告書を中心に討議を継続した。その結果、委員会として何らかの形で考えを示すためには、更なる検討や調査が必要であるとして、討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2014年5月9日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見への対応報告書を了承

2月10日に委員会が通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見(委員会決定第18号)に対する対応報告書が、5月初旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、再発防止に向けて「ディレクターとカメラマンがそれぞれの上司に異なる様式の"取材後報告書"を提出し、双方の上司が報告書を相互確認していること」「社員や社外スタッフへの教育・研修を継続的に実施する"放送人育成プロジェクト"がスタートし、多様な内容の研修会などを毎月開催していること」「再発防止策の中核を担う"番組推進室"を、3月1日付の組織改編で設置したこと」などの具体的な取り組みが盛り込まれている。
委員会は、この対応報告書を了承し、公表することにした。

2.「全聾の作曲家」と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について討議

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、取材・制作過程で真相を見抜けないまま放送したことや、発覚後の対応などに問題が無かったか、どうすれば再び同じ過ちを犯さないようにできるのかなどについて、討議を継続した。各局からは、新たに6本の番組についての詳細な報告書が提出され、あわせて7本の番組を対象にして、前回までの議論を踏まえた意見交換が行われた。
その結果、自伝に安易に依存した一連の放送が佐村河内氏の創り上げた「物語」を相互に補強し増幅させてしまったこと、佐村河内氏が「全聾の天才作曲家」であるという虚像がますます動かしがたい「真実」として通用するようになり、それを信じて放送に協力した人々、特に身体障害を持った子供や被災して母を失った子供の心に傷を残す結果になったことについて、委員会として何らかの形で考えを示すべきである、という基本方針を改めて確認した。
委員会は、そのためには更なる検討や調査が必要であるとして、各委員が佐村河内氏の自伝に目をとおし、取材の進め方や番組構成とのかかわりについても検討を加えたうえで、次の委員会で討議を続けることになった。

[委員の主な意見]

  • ほとんどの放送局の報告が「だまされてしまい申し訳なかった」で終わっているのが、とても気になる。放送のプロとしてそれでいいのか。不審な点を感じて、検証してみるような機会はなかったのだろうか。視聴者への説明も、ほとんどの局ではきちんと行われていないように感じられる。

  • それぞれの番組の演出や編集内容に類似部分が多かったのは、各局とも佐村河内氏の自伝に依存して制作していたからではないのか。独自取材は、どの程度行われていたのだろうか。

  • なぜこうした事態になってしまったのかと考えたとき、各局の報告書をきちんと分析して、各局を横断する問題点を指摘し、放送局が再び「共犯者」にならないような前向きな提言をすることが、この委員会の役割なのではないだろうか。

以上