放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2013年度 第51号

「大阪市長選関連報道への申立て」に関する委員会決定

2013年10月1日 放送局:朝日放送株式会社

勧告:放送倫理上重大な問題あり
本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』で放送した「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードで始まるニュースについて、労働組合側が事実と異なる放送によって名誉や信用を毀損されたと訴えたもの。
放送人権委員会は審理の結果、10月1日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

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2013年10月1日 第51号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第51号

申立人
大阪交通労働組合
A
被申立人
朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『ABCニュース』(月~金 午前11時35分~42分)
放送日時
2012年2月6日(月)の上記番組内の1分37秒のニュース

【決定の概要】

1.朝日放送は、2012年2月6日の『ABCニュース』で、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードのニュースを「スクープ」として放送した。ニュースでは、「朝日放送が独自に入手した紹介カードの回収リスト」を映像で示し、内部告発者が、「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」と匿名映像で語っている。
2.本件の申立人は、大阪交通労働組合という団体である。このため、委員会は、個人による申立てを原則とする本委員会運営規則に照らし、審理入りの是非について検討した。その結果、労働組合が個々の労働者の権利・利益の確保を主眼とする、各労働者の集合としての性格が強い団体であること、また、本件放送は、組合及び組合員個人らの信用や名誉・名誉感情等の権利利益に対して深刻な影響を及ぼすおそれがある内容を含むものであることから、当委員会の過去の判断をふまえ、本件申立てについては救済を検討する必要性が高く、委員会において権利侵害や放送倫理上の問題の有無について審理することが相当であると判断した。
3.本件放送による権利侵害の有無について、委員会は次のように判断した。
本件放送の内容について、朝日放送は、申立人が選挙への協力を強要したとの「疑惑」あるいはこの疑惑を追及する市議会議員の活動を報じるものであると主張する。
しかし、協力を強要する文章が書かれた「回収リスト」について断定的に報じ、放送冒頭で「朝日放送のスクープです」と強調するなど、一般的な視聴者からすれば、本件報道は、申立人が非協力的な組合員を威圧し、選挙への協力を強要し、内部告発者が発した「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」とのコメントを伝えるものと受け止めよう。
本件放送は、申立人の社会的信用・評価を低下させるものである。本件放送には、公共性、公益性は認められるが、主要な部分において真実ではなく、また、放送の時点で真実であると考えたことについて相当の理由も認められない。すなわち、本件放送で報じられた「非協力的な組合員がいた場合は、今後、不利益になることを本人に伝える」との指示が書かれた回収リストは、ねつ造されたものであった。また、報道にあたって申立人に対する取材を行っておらず、取材を行わなかったことの理由も薄弱である。
その一方、回収リストの真偽については、朝日放送もその後の報道においてねつ造であることを報じている。本件放送によってもたらされた申立人の社会的評価の低下は、一定程度、回復されているとみることもできる。
4.しかしながら、本件放送には、放送倫理上の重大な問題がある。本件放送は、「スクープ」として疑惑を真実であるかのように断定的に報じ、さらに「やくざ」という強い表現で論評を行ったものである。そして、すでに述べたように、それは申立人への取材もないままに行われた。本件放送は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とうたう放送倫理基本綱領(NHK・民放連)に違背し、正確・公正な報道を求める「日本民間放送連盟 報道指針」の「2 報道姿勢」に反するものである。
委員会は、朝日放送に対し、本決定の主旨を放送するとともに、スクープ報道における取材や表現のあり方、主要な事実が真実に反すると判明した場合の対応について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件申立てについて
  • 2.本件放送は何を報じたか
  • 3.本件放送により、申立人の社会的信用ないし評価が低下したか
  • 4.本件放送に公共性、公益性、真実性・真実相当性が認められるか
  • 5.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2013年10月1日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は10月1日に、上記事案についての「委員会決定」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上重大な問題がある」として、朝日放送に再発防止を「勧告」した。
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2013年12月24日 朝日放送「放送人権委員会決定後の取り組みについて」

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2014年2月21日 報告に対する放送人権委員会の「意見」

放送人権委員会は、今回、上記の朝日放送の報告に対して「意見」を述べました。

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