放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第191回

第191回 – 2012年12月

無許可スナック摘発報道事案の通知・公表の報告
審理要請案件:「大津いじめ事件報道に対する申立て」~審理入り決定…など

11月27日に行われた「無許可スナック摘発報道への申立て」事案にかかる「委員会決定」の通知・公表について、事務局から報告した。審理要請案件「大津いじめ事件報道に対する申立て」について、審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2012年12月4日(火) 午後4時~6時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、小山委員、田中委員、林委員、山田委員

「無許可スナック摘発報道への申立て」事案の通知・公表の報告

11月27日に行われた本事案にかかる「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるテレビ神奈川が決定について報じた当日の番組同録DVDを視聴した。
これに先立ち、通知は27日午後1時30分から千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。三宅委員長、起草主査の奥委員長代行、起草委員の小山委員の3人が出席し、申立人は女性経営者と家族の2人、被申立人は取締役報道局長ら4人が同席して行われた。
三宅委員長は決定文のポイントを読み上げる形で委員会の判断を通知し、「本放送によるプライバシー等に関する明確な権利侵害は認められないものの、放送倫理上重大な問題があった」として、人権への配慮を徹底するようテレビ神奈川に勧告した。
委員長はこの中で「事案が風営法違反の中でも悪質性の比較的軽微な『無許可営業』(罰金50万円の略式命令)であることからすれば、本件放送は、繰り返し女性経営者の映像を流した結果、この女性に対する過剰な制裁的・懲罰的効果が生じ、本人とその家族に精神的苦痛を与えた」と述べた。また、「同社のサイトにテレビニュ―スがそのまま掲載され、同社運営のfacebook等を通じ長期間閲覧可能な状態で放置されていた点、サイトの管理に問題があった」と指摘し、適切な管理を求めた。
通知を受けて申立人は「本当にありがとうございました。納得しています」と感想を述べた。
被申立人は「決定を真摯に受け止め、報道現場に持ち帰りたい。今後の報道活動の重要な分岐点になるかもしれないと思います」と述べた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定内容を公表した。記者会見には23社49人が取材に訪れ、テレビカメラ6台が入った。
初めに三宅委員長が決定の主要部分を紹介し、続いて奥代行と小山委員がそれぞれの「補足意見」について述べ、さらに委員長から林委員の書いた「意見」について説明した。また、本年5月に修正された「委員会の判断のグラデーション」を適用した初の事案となったことから、決定と合わせて「委員長談話」を出したが、これについても説明が行われた。
記者との質疑応答では、「勧告・放送倫理上重大な問題あり」となった理由について質問が出た。
三宅委員長は「無許可営業という比較的軽微な犯罪からすれば、申立人の映像が繰り返し使用され、また周囲をぼかした結果、逆に本人が強調されるなど申立人への過剰な制裁的・懲罰的効果が生じた。結果として申立人と家族が大きなダメージを受け、お子さんが学校に行けない状態になっている。放送界が事件報道について積み上げてきた議論を踏まえた形跡がないし、地域メディアとしての影響力についても自覚すべきだった。もう一つサイト上の問題もあり、それと合わせて『勧告・重大な問題あり』という判断になった」等と答えた。
「勧告」と「見解」の線引きとなる基準についての質問には、奥委員長代行が「一定の基準があるということではなく、具体的な個別事案の中でどう判断していくかが重要だ。報道現場でもその都度、節度や品性を持った感覚で判断していくしかないと思う。今回は映像の使い方がちょっと酷過ぎるというケースだった」と答えた。
ネット上に流れる動画について委員会の審理の対象としているのかという質問には、三宅委員長が「2008年12月の第38号決定『広島県知事選裏金疑惑報道』事案で取り上げ、放送と同一の動画・音声を伴うものの配信については、放送と同一とみなすという判断をしている。かつ今回は、テレビ神奈川のホームページだけでなく、同社の運営するfacebook、twitterからアクセスできる状態が続いていた。サイト管理上の手落ちの指摘は委員会の守備範囲として判断した」と答えた。ただ、「付言」としたことで、放送そのものとは違うというニュアンスを込めたと述べた

審理要請案件:「大津いじめ事件報道に対する申立て」 審理入り決定

上記申立てについて審理入りが決まった。
番組は、フジテレビが本年7月5日と6日に放送した『スーパーニュース』。大津市の中学生いじめ事件で自殺した中学生の両親が、加害者とされる少年とその両親、及び大津市を相手に起こした損害賠償請求訴訟に触れ、2回目の口頭弁論を前に原告側準備書面の内容について報道した。その際、加害者とされる少年の実名部分にモザイク処理のされていない映像が放送され、少年の名前を読み取れる静止画がインターネット上に流出する事態となった。放送翌日、フジテレビは流出の事実を把握し、同日夕方の上記番組において「人権上の配慮に欠けた映像を使用した」とお詫びした。そして番組担当者らが少年と母親の代理人弁護士を訪ね、書面をもとに事実経過を説明するとともに謝罪した。しかし弁護士は世間の大きな注目を集める裁判の原告側準備書面であることや口頭弁論前の放送であったこと等を理由に、システムへの入力ミスから起きたとの説明には納得できず謝罪は受け入れられないと答えた。
その後、少年と母親を申立人とし放送によるプライバシーの侵害を訴える申立書が委員会に提出された。申立書提出後も双方の間でやり取りが交わされたが話し合いはまとまらず、11月9日、申立人は改めて委員会での審理に委ねたいと文書で要請した。これを受けてフジテレビは局の見解をまとめた書面と番組同録DVD等を提出した。
この日の委員会では、双方から提出された文書、資料、番組同録DVD等をもとに審理入りするかどうかについて検討した。この結果、本件申立ては委員会運営規則第5条((苦情の取り扱い基準)に照らし、審理の要件を満たしているとして審理入りすることを決めた。次回委員会より実質審理に入る。
放送によるプライバシーの侵害という申立人の主張に対して、フジテレビは局の見解書面で、「人権への配慮に欠けた映像使用だった」としつつも、「氏名が放送された時間は極めて短時間であり、且つ、通常の方法では判読は不可能で、少年は特定されず、本件各放送はプライバシーの侵害には該当しない」と主張している。
また、放送を録画した画像がネット上に流出したことで少年の実名が広まり誹謗中傷を加速させたという申立人の主張に対しては、「当社と全く関係のない第三者の行為の結果については、当該第三者が責任を負うべきと考える」としている。

「国家試験の元試験委員からの申立て」事案の審理

本事案は、TBSが今年2月25日に放送した『報道特集~国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた一冊の書籍』で、国家資格である社会福祉士の試験委員だった大学教授において、試験委員就任前に執筆しその後も改訂を続けていた著作物が過去問題の解説集に該当する等、試験委員としてふさわしくない行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申立てたもの。
この日の委員会では、前回の委員会で検討した本事案の論点とヒアリングにおける質問項目について確認を行った。
次回委員会で申立人、被申立人の双方に対するヒアリングを行う。

その他

次回の委員会は12月18日(火)に開かれることとなった。

以上