放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第10回

第10回 – 2008年2月

光市事件を巡る裁判報道について

事件報道・裁判報道シンポジウムについて …など

光市事件を巡る裁判報道について

小委員会で洗い出した問題点をベースに、東京キー局全てと大阪・広島の局を合わせて8局に対し質問状を送ったこと、また回答を受けてヒアリングを行う予定であることが報告された。

質問内容は、刑事裁判手続き、刑事弁護人の役割についての理解、番組の作り方、演出、遺族会見・弁護人会見の取り扱いなど17項目。

  • BPOが何をするか、基本的スタンスの問題だが、「たとえ間違った見解でも発表すること自体は自由である」という基本原則に触れるような処理の仕方をすると大問題である。現在の司法制度のあり方、弁護士のあり方などオーソドックスにはこうであるというのと、あり方そのものも批判されるべきであるというジャーナリズムの立場がある。批判の目を摘むべきではない。
  • 「間違った発言を禁止するべきだ」とはBPOとしてはいうべきでない。ただ明らかに間違ったコメント、誤解に基づくコメントが一方的になされている状況について、もっとバランスがとれないかと思う。
  • 論評は自由だ。何が問題かというとコメンテーターは(テレビ局が制作した)映像を見てコメントするが、その映像自体が正確に伝えていない、そこが問題の本質ではないか。現場の方に勘違いや理解の浅さがあるからなのか。
  • どの局も申し合わせたように被害者側に立って、例外なく弁護団を袋だたきにしている。メディアが一定の方向に向いてしまう。それが裁判員制度に多大な影響を与える、危惧すべき一例だ。しかし一方で、テレビは世論に対し臆病であり、一定の方向を向いているとすれば、それは世の中全体がそう見ていると理解しないと、世論を批判するのかということになる。
  • 何が真実かわからないなかで、法廷の再現という手法を取る。見る人はそれが事実のように思ってしまう。その怖さ、世論は誘導できるということ。局側は視聴者に分かりやすい映像というが、それは視聴者を馬鹿にしていないか。
  • やるなとは言えないが、もう少し反対の立場も提示できないのか。
  • バランスというより正確であって欲しい。情報が断片的であり、荒唐無稽なところしか分からない。

各局への質問に対する回答が一般論でしか返ってこないことも考え合わせ、小委員会を拡大することも併せて、具体的に各局現場レベルからのヒアリングを行うこととした。

事件報道・裁判報道シンポジウムについて

事務局よりシンポジウムを開くにあたり、目的、対象、委員会の立場、規模など討議材料としてのメモを配付。

これを受けて委員より以下の提案があった。

「BPOが各局を呼びつけて聴くようなイメージは良くない。事件報道の問題は、裁判員制度もあり、放送だけではなく活字を含めた報道全体の問題になっている。東京大学大学院情報学環では、メディア研究者とメディアの現場が意見を闘わせる場を検討していることもあり、東大情報学環とBPOの共催でやったら有意義になるのではないか」

これに対し各委員からは、「テレビだけでなく、活字の世界に広げていくのも面白いのではないか」「日弁連や最高裁といったところを考えてもいいのでは」といった意見が出され、共催のため事務局が東大側と折衝することとなった。

報告事項

先月の委員会以降に出された2件の委員会決定と、新聞報道された番組について報告、議論が行われた。

  • フジテレビ「27時間テレビ『ハッピー筋斗雲』」
    1月21日フジテレビに対し通知。フジテレビ側からは、3ヵ月以内に改善策を報告したい旨の表明があった。その後、記者会見を行った。
  • テレビ朝日「報道ステーション『マクドナルド元従業員制服証言』」
    2月4日テレビ朝日に対し通知。決定文を記者クラブに配付した。
    テレビ朝日は当日の『報道ステーション』でこの件をニュースとして流した。(録画を視聴)
  • 昨年7月、中国で「段ボール入り肉まん」が作られていたと現地テレビ局が捏造していた問題で、その店の肉まんを食べていたという客の証言を独自の取材でインタビューしニュースで報じた局が、捏造発覚後に訂正していないと一部新聞・週刊誌で記事となった件。事務局から、「現地テレビ局が捏造を認め謝罪したことをニュースで報じたことで、事実関係の訂正は行われており、街頭インタビューのみあらためて訂正する必要はない」とする当該局の見解を説明した。これに対して、委員から問題だとの意見があり、録画を視聴後、議論を行った。

(問題点)

  • 現地テレビ局が捏造だったと謝罪した後、当該証言の信憑性の検証が必要ではなかったか。
  • 訂正がなされなければ、実際にはこうした段ボール肉まんがあったのだと視聴者に思い込ませてしまうのではないか。
  • 訂正もせず、沈黙する事は証言そのものが捏造であった事を認めることにならないか。

(議論)

  • 証言者は「まずくて吐きそうだった」と言っているだけで、段ボールが入っていたとは言っていない。
  • 放送時点では、証言を放送した局は、段ボール肉まんはあると思ったし、食べたと言う貴重な証言が得られたので放送する価値はあった。
  • その人が本当に信じてそう言ったのかもしれない。その場合は訂正の対象にならないのではないか。証言者は間違った思い込みで言ったようですとわざわざ言う必要がないように思う。
  • 街頭インタビューで事実と違うことを言った人がいた場合、いちいち訂正せよとは言えない。
  • ヤラセでない限り問題はないと思う。

以上を受けて、委員会としては、討議内容を議事録にとどめることとした。

視聴者意見の検討

1月中にBPOに寄せられた視聴者の意見のうち、2つの番組について視聴するとともに議論を行った。

1.香川・坂出市の事件に関連し、加害者の子供(成人)が被害者の家を訪れ、謝罪するシーンを密着取材し放送した番組
視聴者からは、「被害者には気の毒な事件だったが、子供たちには何の罪もない。脅迫めいた怒りをぶつけられ、ただ黙っているしかない子供を撮り、放送するのは人権無視だ」という意見。

  • なんでこんなことをやるのか?
  • 子供たちが自発的に被害者の家に行ったにせよ、放送することはどうなのか。デスクはやめようと言わなかったのか?
  • 被害者家族がテレビ撮影を許可したため、謝りに行った子供たちが渋々了解するしかなかったとしたら極めて問題だ。
  • キャスターが最後に言った「事件を起こせばこういうことになる」というコメントは気になる。見せしめ的な言い方で後味が悪い。
  • 事件当初は、被害者家族を悪者に仕立て上げるような作り方をしておいて、今度はその人の心情に寄りかかって作っている。
  • おかしいのは、子供が謝るのが当たり前だという作りをしていること。
  • 事件報道をどう考えるかにもつながる。取材する立場なら、どんなものでも撮ると言うだろうし、そこに倫理的なものを持ち込むのは難しい。

2.目隠しをした芸人に、憧れの女性アナウンサーと握手させるとだまして、実は全裸になった男の性器を触らせる番組。

  • いくら深夜の番組とは言え、下劣過ぎる。修正を入れれば何でもありなのか。
  • 制作者の意見ではなく、局の審議会がどう思うか聞いてみたい。

以上の討議を経て、上記2つの番組については、それぞれの局が自主的・自律的に対応するべき問題であり、番組審議会で審議していただくよう要望することとした。

以上