放送倫理検証委員会

2003年度声明

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

2003年12月11日

BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長 飽 戸  弘
放送と青少年に関する委員会委員長 原  寿 雄
放送番組委員会委員長 木村 尚三郎

日本テレビで起きた視聴率操作事件は、放送の自律と放送文化の質の向上を目指す「放送倫理・番組向上機構」[BPO]にとっても、重大な問題を提起した。テレビ局のプロデューサーが担当番組の視聴率を上げるために、制作費を使って視聴率調査対象者に金品を贈るようなことは、放送・広告関係者だけでなく、視聴者や社会を欺く背信行為と言わなければならない。

BPOは三つの委員会が視聴者と放送界の透明な回路となり、苦情や批判に対応してきたが、視聴率競争の現状については、かねて疑問視する声が強かった。限定的に利用されるべき視聴率の数字が広告料金の重要な基準として独り歩きし、放送人の良識を疑わせるような過激な視聴率競争をもたらしていることは否定できない。

性、暴力の過剰表現などによる”低俗番組”の横行も、報道やワイドショーなどで起きる人権侵害事件も、視聴率競争から生み出されているものが少なくない。「低視聴率でもよいから良質の番組を出したい」という広告主の要望に対して「局全体の視聴率が低くなるから」などと言って断わることがあるような現状には、広告主の中からも厳しい批判が表明されている。

たしかに視聴率は、視聴の量を測る指標としては、現在入手可能な唯一の客観的データである。しかし、番組の質の評価基準としては不十分であり、また、量の指標としても600サンプルでは±2~3%の誤差を伴っているのに1%の差で一喜一憂するなどは、適切な視聴率の使い方とは言えない。にもかかわらず、現実には視聴率至上主義に走り、番組制作を左右していると言っても過言ではない。今回の事件はその実態の反映と見ることができよう。

事件は、世論のメディア不信と公権力による法的規制が進む情勢のなかで起きている。放送の自由と放送文化の向上を願う放送人は、この機に自律を強め、視聴率問題の歪みを正して世論の信頼を取り戻さなければならない。同時に、放送の社会的使命を再確認し、生き生きとした創造活動によってテレビの可能性を追求し、社会の期待に応えてほしい。

この観点から当面、次の点について提言し、関係者の積極的な論議と具体的な対応を要望する。

  • 過大な視聴率依存を改めるためには、番組の質を測定する視聴質調査も併用して総合的に評価すべきである。NHKと民放各社がこれまで個別に進めてきた視聴質研究を発展させながら、放送界全体としての新たな番組評価基準づくりに向けた対策機関の設置が必要と考える。視聴率制度の再検討は放送の根幹に触れる構造改革と言えるものなので、この対策機関には、広告界、制作会社や専門家、視聴者・市民なども参加することが望ましい。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的な協力を望みたい。広告主・広告会社もまた、放送文化の質に大きな社会的責任を持ち、それを果たすことによって、視聴者・消費者の信頼を得ることができる。
  • 放送人の自律を強める倫理研修などの必要性も改めて強調したい。日本テレビの調査報告書によれば、当のプロデューサーは「視聴率さえ上げれば何をやってもいい、という感覚があった」と述べている。視聴率至上主義は放送現場の倫理観をここまで麻痺させている。また、制作会社との関係のなかでキックバックを生むような土壌があるという批判にどう応えるか。現状を放置したままでは制作現場の倫理強化は望めない。
  • 視聴者・市民には、番組に対する積極的な発言を期待したい。番組を批判、要望、激励することで、視聴者もテレビ改革に参加できる。視聴者も放送文化の担い手であることを訴えたい。
  • 新聞、雑誌の関係者には番組批評を強めてほしい。また、「視聴率ベスト10」などの報道は、視聴率至上主義を増幅する面のあることに留意し、現状の再検討を望みたい。

BPOからの提言・声明・見解

2003年12月11日

「三委員長の見解と提言」 を出すにあたって

BPO[放送倫理・番組向上機構]理事長  清 水 英 夫

BPOは今年7月の発足以来、三委員会(BRC、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)の独自性と独立性を尊重してきた。同時に、それら委員会に共通する問題や、そのどこにも該当しない問題等の処理に関して、検討を続けてきた。

今回の視聴率問題に関する三委員長の見解と提言は、BPOのあり方に関する一つの方向を示したものと言えるであろう。この提言がまとめられる過程として、各委員会において活発な意見交換が行われた。そして、それら有識者の意見を基に、三委員長による検討がなされ、まとめられたのが今回の見解と提言である。

ただちにわかることは、今回の視聴率問題に関する三委員長の見解が極めて厳しいことである。その背景には、各委員会における委員各位のさまざまな厳しい意見が存在している。そして、それらの意見に共通しているのは、今回の事件が偶発的でもなく、また当該プロデューサー個人の問題でもないという認識である。

放送による人権侵害、低俗番組の横行、青少年に与える番組の悪影響など、BPOの主な関心事の背景には、視聴率至上主義や視聴率即メディア通貨と捉えがちな業界体質の存在があるのではないかと、多くの有識者委員は考えている。その事実を放送界は重く受けとめてほしい。

有識者委員の多くも、放送局経営における視聴率調査の存在理由や、視聴率を番組評価の一手段とすることには否定的ではない。しかし、視聴率を巡る業界の現状は、市民の常識に反し、あまりにも常軌を逸していたと考えざるを得ない。その意味で、今回の事件は放送のあり方を再考するうえで重要な契機にしなければならない。

三委員長は、次のような重要な提言を行っている。

  • 量的な視聴率調査だけでなく、番組の質を測定する視聴質調査の導入も検討すること。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的に協力してほしいこと。
  • 放送人のモラルを高め、自律を強める倫理研修の必要性。
  • 視聴者(市民)の番組に対する積極的な発言を期待する。
  • 新聞や雑誌が視聴率至上主義の増幅に加担しないでほしいこと。

放送を担う人々がこれらの提言の真意を理解され、健全な放送文化の実現と発展のため、総力をあげて取り組まれることを切に希望する。

BPOも、第三者機関としての役割を再認識し、視聴者の声に耳を傾けながら、放送の自律と放送文化の向上のために努力していく所存である。

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

視聴率問題についての中学生アンケート結果

この問題を知っていましたか?(48人中)

事件の第一印象

  • なんでこんな事をしたのかなと思いました。こんな事をしてはいけないと思わなかったのか不思議です。
  • お金を払って視聴率を上げても、心から満足できないだろうなと思った。
  • なんでこんなことで騒ぐのだろうと思った。今までも普通にあった(不正操作が)と無意識のうちに思っていたから。
  • よく意味がわからなかった。ずるい人だと思った。
  • ひきょう。残念な気持ち。
  • 第一印象へぇーっ。視聴率が低かったらつまらないと思ってあきらめてほしい。
  • 日テレ=悪い会社というイメージが沸いた。
  • なぜお金を使ってまで視聴率をあげたいのかわからない。
  • 最悪!今まで結構視聴率を気にして見る番組を選んできたのでがっかりした。
  • そんなことまでして視聴率を気にするものなのかと思った。
  • 「視聴率さえ上がれば何をしてもいい」という考えがあるのが悲しかった。それよりも、いい番組を作って皆に支持してもらえばいいのに。
  • バカなプロデューサーがいると思った。これから、信用できなくなる。
  • 何も感じなかった。
  • 視聴率がTV局の利益につながるのだから、こういう事が起こるのは驚くようなことでもない。
  • テレビを作る人は、視聴者のことをまったく考えていないのだと思った。
  • スポンサーに対する詐欺だ。
  • こんなことをやる暇があるなら、おもしろい番組をつくれ!
  • 操作するのでは視聴率を測る意味がない。
  • そんなに視聴率を上げたいなら、ずるをしないで実力で勝負すればいいのに。

なぜこのような事が起きたと思いますか?

  • 会社とスポンサーの問題。「視聴率ランキング」の番組とかをやっているのを見て、いつかこういうこと(不正操作)が起きると思っていた。
  • スポンサーとの関係でいろいろあったのかなと思った。
  • 自分の番組をたくさんの人に見てもらいたくてこのような事件が起きたのではないかと思った。でも、これからはあまり見てもらえなくなるのでは。
  • 視聴率重視という会社の方針が、プロデューサーの重荷になったから。
  • 視聴率を測る機械を所有している家庭の数が限られているから。
  • 大人気ない人が増えたから。
  • お金がほしかったから。少しの数字でも莫大な額の違いが出るから。
  • 他の局との競争が激しいから。同じ局の中でも、よりたくさんの給料をもらうため。
  • プロデューサーの意思の問題。操作するためにお金を使うなら、その分を自分の番組につぎこんで、みんなが見てくれるような番組を作ればいいのに。