放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第27回

第27回 – 2009年7月

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』

戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』 …など

第27回放送倫理検証委員会は7月10日に開催され、まず、日本テレビ『バンキシャ』について5回目の審理を行った。担当委員による委員会決定文の修正案が提出され、審理の結果、初めての「勧告」を出すこととなった。決定の具体的表現については委員長および担当委員に一任とし、速やかに当該局への通知と公表を行うこととした。
NHK『ETV2001』については、前回の委員会で発行することをきめたブックレットについて、掲載する文書等の詰めの討議が行われた。二重行政をテーマに大阪府の道路清掃を取り上げた『ニュースキャスター』事案は審議入りしないことをきめた。その理由を「委員長談話」として明文化し、委員会からの質問に対するTBSの回答とあわせて公表することにした。
バラエティー番組の問題点に関する討議は、担当委員により提出された原案について各委員の意見交換を行い、方向性を確認した。7月17日に臨時委員会を開いて集中的に議論することにした。
ホームレスの男性の生活を報道した『スーパーJチャンネル』に対して、取材を受けた男性がヤラセがあったなどと抗議している事案については、当該男性とテレビ朝日との間の話し合いを当面見守ることにした。
北朝鮮の金正日総書記の三男の写真の誤報問題は、テレビ朝日が速やかに誤りに気付き、翌日の放送でお詫びがなされたので、取り上げないこととした。

議事の詳細

日時
2009年 7月10日(金)午後5時~8時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組『真相報道バンキシャ!』

岐阜県が発注した土木工事で、裏金作りが行われているという建設会社役員の証言を報じた日本テレビの報道番組『バンキシャ!』(2008年11月23日放送)について、担当委員が作成した決定文の修正案をもとに審理した。 委員会は審理の結果、検証番組の制作を求めることなど、複数の問題点について具体的な「勧告」を行うことで一致した。 なお、「再発防止計画」については、検証番組の中に盛り込むことを求めることとし、文書での提出は求めないことにした。

<主な委員の意見>

  • この事案を社会的に捉えれば、事実に反する報道であることが明白である点でも、刑事事件の手段となり実害をもたらした点からも『あるある大事典』よりも重いといえるだろう。
  • 番組を制作していく過程で、分業化は進んでいるが、それをつないでゆく司令塔の役割が機能していない。事が起こる前にコミュニケーションを深め、指示を仰ぐことが危機管理の本質だ。
  • この事案は情報提供者の異常さに原因があるが、10年に1度くらいはこういう問題が起きるので、局は対応能力を持った人物を育て、配置すべきだ。
  • 日本テレビへのヒアリングでは異口同音に、税金を不正に使うことは良くないという答えが返ってきた。会計検査院の調査とこの告発とを、「裏金」という同一の言葉を使って、同質のものとして報じた原因は、税金の不正使用を責める報道をすれば視聴者が納得してくれるだろう、という安易な考えがあったからではないか。
  • 放送法に則った訂正放送といいながら、何を訂正し、お詫びしたのか全然分からない。意味不明かつ中途半端であったことが問題だ。

日本テレビへの通知と記者発表は7月30日に行うことにした。(委員会決定本文はこちら)

戦時性暴力を扱ったNHKの『ETV2001』

前回の委員会で、この事案の委員会決定に関して、より広く、深い議論をしてもらいたいという趣旨で、ブックレットを発行することにした。ブックレットには、委員会の「意見」および添付資料(「NHKへの質問と回答」および「業務命令と制作者の自由をめぐる論点の整理」)、委員会の「意見」に対してNHKが出した見解―を収録することにした。なお、NHKが出した見解に対しては、ブックレットの前文の委員長コメントのなかで委員会の考え方を表明するとともに、この問題についての議論が行われたNHK経営委員会の議事録のURLを掲載することにした。

道路清掃をめぐる二重行政を取り上げたTBS『情報7daysニュースキャスター』

二重行政の例として、大阪府道と国道との交差点において、府の清掃車が国道を横切るときに清掃用のブラシを上げ、国道は清掃しないで通行する映像がTBSの『情報7daysニュースキャスター』(4月11日)で放送された。通常はブラシを上げていないので、TBSは、これが誤解を招く放送であったことを認め、お詫び放送を行い、更に、委員会の質問に対し、再発防止策を盛り込んだ回答書を提出した。委員会では、問題の小ささと、局が既に自主的・自律的に誤りを十分に正していることから審議入りはしないこととしたが、委員会の決定について誤解を生まないよう、その理由を「委員長談話」として明示し、「委員会が出した質問書とTBSの回答書」と共に公表することにした。
なお、「委員長談話」では、委員会がこの事案を討議中であるのに、総務省がその結果を待たずにTBSに対して「厳重注意」を行ったことについての委員会の考え方も表明することとした。(委員長談話などはこちらを参照)

バラエティー番組の問題点について

バラエティー番組全体に見られる放送倫理上の問題点を議論するために、担当委員が方向性について絞り込むメモを作成して討議を行った。前回の委員会で委員から出された提案どおり、次回の委員会で集中的に議論することとなった。

<主な委員の意見>

  • 放送法の精神、番組編集準則、番組基準の設定、これらは報道だけではなく、バラエティーにも当てはまる。性表現に関する放送基準は、報道はもちろんバラエティー番組の基準でもある。何かバラエティーだけが特殊なものとして捉えられてしまうことに、危惧をいだく。
  • テレビの中に、何でもありの、底なし沼みたいなものがある。そういうテレビが生み出したブラックホールを、どう扱っていくべきなのか。
  • バラエティーとは、論じようが論じまいが、自然発生的に出てきた分野であるし、これからも変化して行くと思う。変に、原理主義的に捉えるのは、高みからものを言っているように見える。ブラックホールもあっての宇宙だから、作る側の自由も尊重すべきだ。
  • 抽象的な議論よりも、問題点を抱えたバラエティー番組が、どんどんあふれてくるという現象は、一体どこに原因があるのかということにポイントを絞るべきだ。
  • 質が低く、世間的に守る価値がないと思われているような言論をいかに守るかというのが、アメリカの言論の自由に関する判例だ。この議論も、問題の立て方を誤ると、バラエティー番組は守る必要がないという方向に行く危険性を感じる。
  • ただ、アメリカでは、性的な表現などのテレビ放送が許容される基準は日本以上に厳しい。その理由は、地上波という有限でどこにでも届く媒体を使った放送の守るべき公共性とか、社会的責任にあり、そこが普通の出版活動とは絶対に違う。

この事案は、7月17日に臨時委員会を開いて集中的に議論することになった。

取材されたホームレスの男性から抗議があったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』

今年の1月20日に、札幌市のホームレスの男性を取りあげ、日常どのような生活をしているかを詳しく放送した。その男性がテレビ朝日に対して、取材の際、ヤラセなどがあったと抗議していることが週刊誌で報じられた。双方の言い分が食い違う上、テレビ朝日の対応も継続しているので、当面、両者間のやり取りを見守ることとした。

金正日総書記の三男の写真を誤報したテレビ朝日の『ワイドスクランブル』

テレビ朝日が、韓国在住の金正日総書記の「そっくりさん」として有名な男性の写真を、三男の近影として報道した事案。テレビ朝日は、6月10日昼前の『ワイドスクランブル』で「これが三男の写真だ」と放送した。しかし、夕方の報道番組で同様の放送をしたあと、その番組のエンド部分で「三男かどうかを確認中」とコメントし、新聞のラテ欄で予告していた夜の『報道ステーション』では、お断りのコメントだけで放送しなかった。そして、翌日の各番組で誤報だったことをお詫びした。誤報の原因が裏づけ取材の不足だったことを速やかに確認し、お詫び放送もくり返ししているので、委員会としては取り上げないこととした。

以上