放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第20回

第20回 – 2008年12月

歴史上の人物の扱いに問題があった深夜のバラエティー番組

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティー番組 …など

第20回放送倫理検証委員会は12月12日に開催され、まずヒトラーを偉人として扱ったバラエティー番組について討議した。他愛ない深夜のミニ番組といえども、制作・放送には十分な注意を払うべきだとの認識で一致した。
続いて、保育園の土地が行政代執行されたことを伝えた放送に事実誤認があり、後日、訂正放送が行われたニュースバラエティー番組については、当該局に出した質問書の回答をもとに2回目の検討を行った。
以上2つの事案は、第17回の委員会で出した方針に従い、バラエティー番組の質あるいは制作のあり方の問題として、事例が集まった段階でまとめて議論する対象に加えるべきであるとの結論になった。
次に7年前に放送された戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組について、4回目の討議が行われたが、結論は次回以降に持ち越された。

議事の詳細

日時
2008(平成20) 年12 月12 日(金) 午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

歴史上の人物の扱いに問題があった深夜のバラエティー番組

女性アイドルタレントが世界の「偉人」について、学校形式で簡単な紹介をした後に、似顔絵や物真似を披露する深夜の短いバラエティー番組。若いタレントによる軽いタッチの番組とはいえ、偉人としてヒトラーを取り上げたことは一般常識に照らしても問題がある。また、制作会社や当該局側のチェック体制が機能していなかった。しかし、ミスを認めて自主的にお詫び放送をしているので、個別には取り上げないことにした。

委員の主な意見は次の通り

  • タレントは台本通りに演じただけということで許されるのか。多額の出演料がタレント会社に流れているのだから、責任の一端があるのではないか。
  • タレントが台本を見て「私にはできません」と拒否することは現実的には難しい。
  • 相当な人数が番組制作にかかわっているのに、ヒトラーをあのように表現して誰も何も言わないことが怖い。
  • この放送は確かに問題であるが、ただし、強引に封じ込めると逆に思想を統制する危険を感じる。
  • 思想ではなく無知の問題。思想以前の問題だ。
  • 外国から、日本にはタレントはいるがアーティストはいないといわれてしまう。文化の質として低い。
  • 外部からの問題指摘ばかりで、局内から「おかしいよ」という声が上がらない。パッケージ番組をそのまま放送する体制に問題がある。

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティー番組

保育園が園児用のイモ畑に使用している土地に対して、道路建設用地としての買収に応じなかったので、強制収用の行政代執行が行われたことを伝えた番組について前回に続いて討議した。
この事案についてはいくつかの疑問点があったため、前回の討議の後、委員会が当該局に対して質問書を送り、回答を得て再度討議した。

<委員会から当該局への質問(骨子)>

  • 放送の冒頭で、当該番組のジャーナリストと称する人物が、高速道路を背景に、「高速道路建設をめぐってある騒動が巻き起こりました」と述べる映像がありますが、背景となっている高速道路は、全く別な場所の高速道路の映像であるとお聞きしております。
    視聴者はその現場の映像であると認識して視聴するものと思われますが、問題はないとお考えになったのでしょうか。なぜ、全く別の高速道路を背景とした映像を放送したのか、その理由をお聞かせ下さい。
  • 10月19日の放送で、保護者と思われる人々と行政代執行を行う人々がもみ合う映像の後、「騒動となったのは保育園の野菜畑」というナレーションとともに、園児たちが畑の中に並んで立っている映像が使用されています。
    その後の場面で園児が泣いている映像が使用されており、視聴者は、行政代執行の日に園児たちが畑に並び、園児たちの見ている中で行政代執行が行われたかのように認識するのではないかと思われます。また、保育園が園児たちをことさらに行政代執行の現場に連れて行ったかのような誤解を生じさせる可能性も否定できません。
    実際にスタジオでのトークは、そうした誤解に基づいて進められています。貴局が、このようなつなぎ方をした理由、またその結果、上記のような誤解を生じさせたと思われることについてのご意見をお聞かせ下さい。
  • 2に関連して、貴局は、訂正放送で、「保育園側が園児たちを現場に連れて行き並ばせたかのような表現がありましたが、そのような事実はありませんでした。」と訂正をされています。この訂正放送により、保育園が園児を現場に連れて行っていないという事実は明らかになったということになるかもしれませんが、園児たちが畑に並んでいた映像はいつの映像で、なぜ代執行の現場の映像と関連づけられて放送されたのか、スタジオのコメンテーター達の発言については訂正の必要がないのかは明らかにされておりません。
    これらの点について、訂正放送で詳しく説明されなかったのは、どのような理由によるものでしょうか。
  • 行政代執行が実施された経緯として、収用委員会が今年3月に収用裁決をしたことに対し、テロップで、保育園側が収用取消しを求め裁判を起こしたが、地裁で棄却されたため控訴し、今月末に高裁で予定されている決定を待つことなく、行政側が行政代執行を実施したなどの説明がなされ、同様のナレーションが流されています。一方、このVTRを受けてスタジオでは、法律家のコメンテーターが、保育園は行政代執行を止めるための仮処分をしていたが、地裁で棄却される決定が出たため即時抗告をしていること、即時抗告には執行停止を止める効力はないことなどをコメントしています。
    強制収用の裁決の取消しを求める裁判(取消訴訟)と土地の明渡しの執行停止を求める裁判(執行停止の申立)とは、別の裁判であり、手続きも全く異なります。番組制作者には、これら2つの裁判についての混同ないし誤解があるように思われます。なぜこのような混同が生じる結果となったのでしょうか。
  • 4と関連しますが、地裁の判断と高裁の判決予定について、訂正放送をするような誤りが生じた理由、訂正放送をするに至った経緯についてご説明下さい。
    また、訂正放送では、「強制収用の取消しを求めた裁判が地裁で棄却されたとお伝えしましたが、収用裁決の取消しの裁判に関しては、まだ裁判所の判断が下されていません」というだけの訂正がなされています。なぜ2週間後に高裁の判決が予定されていると放送したのか、この収用裁決に関する法的な争いは正しくはどのように進められているのかについて、視聴者に与えた誤解はこれだけの訂正放送で解消したとお考えなのでしょうか。ご意見をお聞かせ下さい。

<当該局の回答(骨子)>

  • 当該番組では、問題となった菜園の状況が既に収まっていたことなどから現場の取材は行なわず、VTRの冒頭に問題の象徴として高速道路を背景とした番組リポーターの導入コメントを都内で撮影し紹介しました。
  • また、園児が多数並んでいる映像は前日の映像と認識した上で当日の映像と組み合わせて経緯を紹介しました。いずれも初めて見る人には誤解を招く余地があり、映像の収録場所や日時の字幕表示をより詳しくすべきだったと考えています。
  • また、土地の収容をめぐる2つの裁判を原稿作成者が不注意にも混同してしまったことは事実で、これをチェックすべき番組デスクやプロデューサーも見逃してしまったことについては深く反省しています。
  • 訂正放送については保育園側との話し合いに沿って行ったものですが、貴委員会から指摘されたように、一般の視聴者にとっては説明不足の感は否めず、特に2つの裁判はそれぞれの進行状況を区別して紹介した方がより良かったと考えています。それらも含め、訂正放送の在り方については、今後社内であらためて検討することにいたしました。
  • 今回の事案は今後各部局が研修事例として共有し、会社全体で再発防止と意識の啓発に努めてまいります。

<委員の主な意見は以下の通り>

  • ある新聞報道では当該局の経営者は他の局に比べるとバラエティーについて真剣に考えているように伝えられている。にもかかわらず、回答書には番組の出演者を守るという意識があると感じた。それがある限り議論し難い。
  • テレビ界全体が制作費カットの中で、主体的な取材ではない映像や情報を2時間のワイド番組の中で何度も使い、コメンテーターが面白おかしく見せるカタチで制作費を安く上げる傾向がある。これからはどんどん起きてくる問題だ。
  • 今から考えればこうすべきだった、と回答しているのでそこで議論が止まってしまうが、訂正の仕方がおざなりすぎることが気になる。本当に認識しているのか疑問を感じる。
  • 問題が起きたときの局の対応がマニュアル化し、BPOを意識して直ぐにお詫び放送をし、回答書はこう書けば大体スルーされるだろうというパターンができつつあるのではないか。そうすると本質的な問題がいつも置き去りにされてしまうことになる。
  • 子供たちが並んでいるカットは意図的ではないのか。回答書には、なぜこういうつなぎ方をしたのか、何を狙ったかの肝心な説明がない。
  • 情報バラエティー番組でニュース素材を扱う場合は、報道の人とは別のマインドで制作するのだろうから、正確性において報道局とは意識の上で差が生じるのではないか。
  • キャッチーなものを優先するのは、この番組特有のことではなくもっと根本的なこと。それを否定的に捉えて、キャッチをとることを仕事にしている制作現場の人たちに対して意見を求めてもかみ合わない。BPOとの距離感を広げるだけになる。
  • 取材して直ぐに放送するのではなく、そのプロセスに慎重さがあればどれも防げる問題なのに、慎重さを発揮できないのは個々人の能力を越えた何かがベースにあるからではないか。その結果として言い訳的な回答書になってしまう。

討議の結果、事実誤認については不十分ながらも訂正放送がされており、委員会の質問に対して制作現場にヒアリングをした上で回答し、改善の方向がみられるので、個別の事案としては取り上げないこととした。
ただし、継続議題としているバラエティー番組に関する事例のひとつとして蓄積し、改めて議論する対象にすることとした。

戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組

戦争と裁判をメインテーマに、戦時下における性暴力を扱った7年前に放送されたノンフィクション番組について4回目の討議が行われた。制作過程において政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案。 主に、委員会の役割や権限との関係でどういう形で取上げられるかについて検討した。担当委員が合議のうえ作成した原案が出され、かなり議論は具体化してきたが、委員間の考え方の温度差を埋めるにはまだ不十分であったので次回に持ち越すことにした。

以上