放送人権委員会

放送人権委員会

2009年 12月

九州・沖縄地区各社との意見交換会(開催地:福岡)

12月2日 、福岡市内のホテルにおいて、「放送と人権・放送倫理」をテーマに、放送人権委員会の全委員が出席して、九州・沖縄地区の放送局との意見交換会を行った。
委員会は年に1度、地方ブロック単位で意見交換会を実施しているが、九州ブロックの開催は2002年以来7年ぶり2回目。各局からは、これまでの意見交換会参加者を大幅に上回る31 局 86人が集まった。

局とBPOは”辛口の友人”で

意見交換会では、はじめに堀野紀委員長が基調講演した。
この中で委員長は、「報道・情報番組は真実に切り込む勇気と気概を持って欲しい、また同時に正しい意味での緊張感を持って制作して欲しい。委員会にあがってくる問題を見ると、報道が病気にかかっているのではないかと思う。そうでなくても、放送局が “未病 “、健康でない状況にあると感じる。 報道が病気にかかると国家が介入しようと出てくる ことになる。表現の自由を守り、政治の介入を招かないことが大事であり、番組の正確性と人権に関しては厳しい自覚を持って制作して欲しい。
BPOは局に対し厳しい意見を言うこともあるが、これについてはどんどん局も発言して欲しい。お互いが”辛口の友人”の関係でありたいと思う」と語った。
続いてこの1年間に出された5件の「委員会決定」について事務局からその概要を説明し、「決定」を起草した委員を中心に、そのポイントや問題点などを具体的に紹介した。その中で、この1年間はとくに事案が多く寄せられ、すでに5件の委員会決定が出されたが、 「勧告」という厳しい決定が相次いでおり、放送局側が真剣な対応を迫られているとの説明があった。この後は、現在の放送の抱える問題から、「裏付け取材の必要性」「訂正放送のあり方」「匿名映像の多用」にテーマを絞って、委員と参加者の間で活発な意見交換を行った。

「裏付け取材」=複数の確認を

まず「裏付け取材の必要性」では、今年7月30日、放送倫理検証委員会が勧告を出した、日本テレビ『真相報道バンキシャ!』を例にあげた。勧告では裏付け取材に関して、「募集サイトであれ、電話やメールや手紙によるものであれ、本来視聴者からの情報は、取材調査の入り口に過ぎない。そこをきっかけに、当事者や関係者を直接取材し、裏付けを取り、可能な限り確実な事実を描いて行くことが、制作スタッフの仕事であろう」と厳しく指摘している。
これについては参加局から、「『バンキシャ!』のような取材の し かたは考えられない」「複数人の確認が基本だ」「裏付けのとれないものを報道することへの”怖さ”を大事にすべき」といった声が出された。
また、裏付け取材の不足による問題として、「隣人トラブル」などの放送について事務局から報告した。とかく被害・迷惑を受けたという人からの情報に偏り、相手の話を聞かないまま放送し、その人から「一方的な放送だ」と訴えられるケースが多く、放送人権委員会の33件の事案の内5件もが、こうしたケースだったと説明された。これに対し委員から、「ある問題についての解釈とか評価を行うと、当然のことながら、それとは異なった物の見方、あるいは解釈があり得るはずだ。そのことは局の中でオンエアする前に、 十分議論していただきたい」との注文があった。

「訂正放送」も番組の一部

続いて、『バンキシャ!』やTBS『サンジャポ!』の「保育園事案」でも大きなテーマになった「訂正放送のあり方」について話が移った。両番組とも、誤った内容を報道された当事者から求められて訂正放送を行ったが、「何を誤ったのか、正しくは何だったのか」がよく分からず、「お詫び」としても不足で、結果的に当事者を納得させられていない。
こうしたことから「保育園事案」の決定では「訂正放送の趣旨」として、以下の4条件をあげた。

(1) 視聴者一般に対し、放送の誤りを知らせ、正しい事実を伝える。
(2) 視聴者一般に対し、誤報があったことをお詫びする。

そして、その放送によって被害を受けた者がある場合には、

(3) これらを通じ、当事者に対し、お詫びの気持ちを伝える。
(4) 同時に、当事者が受けた被害(例えば名誉毀損や名誉感情の侵害等)について社会的に回復する効果を生む。

これについて、放送局側に「(3)(4)を条件とされると、当事者とのやりとりがたいへん難しくなる」と心配する声があることから、この決定を起草した委員は、「その当事者に対し、放送外も含め何らかの補償をするとか、直接会いに行ってお詫びをするとか、いろんなことをされるだろう。その中の1つとして、訂正放送を通じて、その当事者の気持ちの回復が図られればよりプラスになる。訂正放送の際には、基本の2条件にプラスして、(3)(4)により、当事者に放送を通じてお詫びの気持ちが伝わり、名誉感情が回復されるならばベストだろうと思う。このことをもう一度局内で話し合って欲しい」と語った。
また、現状の訂正放送のやり方について複数の委員から、「往々にして、番組終了直前に局アナの顔出しだけで放送されることが多い。フリップやVTRなども使って、普通の番組と同じように工夫して出してはどうか」「訂正放送の価値を積極的に捉えるような姿勢も必要」といった提案もあった。

「匿名映像」の多用にブレーキを

最後に、最近インタビューなどの際に 使われている「匿名映像」( 顔無し、モザイクなど)の問題が話し合われた。
過去の「委員会決定」では、「匿名やモザイクの使用は、重要な証人や、重大な事件現場で、被害が及ぶ危険がある時や、関係者の名誉、プライバシー等を著しく侵害する恐れがある場合などでは、必要な方法の1つである」ということを言っている。しかし、「取材不足を補う便法として、これを安易に用いることは、調査報道の本質に反し、ジャーナリズムとしての姿勢が疑問視されかねない」などとも指摘している。
この「匿名映像」が増えている現状についてある委員は、「たとえば公園で子どもがいて、かわいいから撮ろうと思っても、どこかからお母さんが飛んで来て、”撮らないでください!”と言われること をよく経験する。取材される人が顔を出すことを拒否することが多く、モザイクも首なしも、当たり前という現状になっている。これは行くところまで行って、『これじゃあ伝わらない』と皆が気づき、 はじめてやめようということになるのではないか」との認識を語った。
これに対し局側からは、「現場には、何とか説得して顔出しでインタビューをとるよう指示しているが、一般の人の意識も変わって来ていて、なかなか歯止めが効かない」
「『取材対象者との対話・説得には絶対手を抜くな』 というのを 持っておかないといけない」といった声 があった。
さらに委員からは、「放送は公益的なもの、公共的なものである。そういう放送に協力することで、ある種の社会的使命を果たすという認識を被取材者が共有すれば、状況は変わ る 。それが共有されていない現実があること を、作り手側はある程度問題意識として持たなくてはいけない 」「よほど合理的な理由がない限り、個人の名前と顔は、きちんと表に出してメッセージを発すべきものだという理解を、国民的なレベルで持つことが大事で、それを強調するのが、テレビの役目ではないだろうか」といった声が出された。
また「名誉毀損することは普通は違法だが、名誉を毀損する事実を報道しても、その報道に価値があれば許されることが、憲法的価値として認められている。せっかく認められているのに、メディアの側が安易にモザイクや首なしの映像にすることは、事実を事実として流さなくても良いと言っていることにもつながる。だから、『目撃証言では顔を出してもらわないと価値がない』と被取材者に一生懸命説得して欲しい。安易に首なしやモザイクにしたら、『 別に出さなくていいですね』と裁判所も思うことになる。そう なると 永遠に後退する から、 メディアの方にがんばっていただきたい」などと、局に対する激励の言葉が続いた。